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世界初、原発の見えなかったコストを解明する 日本のエネルギー政策、ゼロから出発するための第一歩

2012年02月03日 20時43分12秒 | Weblog

2012年2月2日 木曜日
伊原 智人


 2011年10月3日、古川元久・国家戦略担当大臣を議長とするエネルギー・環境会議は、「コスト等検証委員会」を設置することを決定した。これは、東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故を踏まえて、ゼロから見直すことになったエネルギー環境戦略を検討するための第一歩であった。特に、従来、安いとされてきた原発のコストなどを徹底的に検証することは、聖域なき検証の大前提になるという認識に基づくものであった。

 これから、5回にわたり、このコスト等検証委員会が、2011年12月19日にまとめた報告書のポイントについて、当該委員会の事務局メンバーが解説する。但し、解説の内容については、各執筆者個人の文責によるものである。

 第1回は、原子力発電のコストについてである。

 原子力発電については、原発事故の前から、国家が何らかのサポートをしないと成り立たないと言われていた。すなわち、電気料金には表れていないが、国家の負担として、国民が別の形(例えば税金)で負担している「隠れたコスト」があるのではないかという指摘である。

 今回の委員会の委員の一人である大島堅一・立命館大学教授は、原発の発電コストを考える際に、国が負担している原発の立地自治体に支払われる立地法交付金なども入れるべきとの主張を展開していた。しかし、これまでの政府や国際機関が行ってきた原発の発電コストの試算において、こうした「社会的なコスト」といわれるコストを勘案した例は、世界的にみても見当たらない。

過去の試算より5割以上高い

 今回の委員会の報告書では、こうした社会的なコストも含めて試算している。具体的には、原発のコストとしては、(1)原発の建設費用などの資本費、(2)ウラン燃料などの燃料費、(3)人件費などの運転管理費といった一般的に発電原価といわれるコストに加えて、(4)事故リスクのコスト、(5)政策経費も含めて試算した。

 その結果は、下限が約9円/キロワット時(注1)であり、上限については示せないということであった。2004年、電気事業連合会が経済産業省の総合エネルギー調査会・電気事業分科会に提出した試算などに基づき、これまでよく言われていた5~6円/キロワット時程度という水準から考えると、下限でも5割以上は高いという試算結果である。

 なぜ、このような結果になったのか。図1をご覧いただきたい。


 2004年の試算と比べて、今回の試算で、どのようなコストが上乗せされているかが示されている。まず、建設費や人件費などの上昇で資本費や運転管理費などが増加した分と、東日本大震災後に示された追加的な安全対策のための費用を勘案して1.4円/キロワット時が増額となる。これに、政策経費ということで、電力会社ではなく、国が支払っている原発関連の費用も、国民が負担しているという意味では発電コストとして計上して、年間3200億円で、1.1円/キロワット時と算出された。
(注1)今回の試算は、それぞれの電源ごとに、2010年に稼働を開始したと想定したモデルプラントを前提に、そのモデルプラントが一定の条件で稼働した場合の発電コストを試算。そのため、稼動年数、設備利用率、割引率などの条件により、発電コストは異なる。原発では、稼動年数40年、設備利用率70%、割引率3%の場合、下限が8.9円/キロワット時。

 さらに、もう1つの社会的コストとして、議論となったのが、事故リスクのコストである。事故リスクのコストとは、今回の事故を受けて、原発について、いったん事故が起こると損害賠償や追加的な廃炉費用など、膨大なコストが発生する。この発生するかもしれないコストについて、何らかの対応を予め取っておく必要があるが、そのためのコストはいくらなのかという問題である。

 この事故リスクのコストについては、委員会においても、特に活発な議論があった議題であった。この事故リスクのコストを試算するにあたり、事故が起きた後の廃炉の費用や、損害賠償費用を算出する前提となる原発事故の影響などについては、技術的な知見が必要であろうという判断で、原子力委員会に協力を依頼することとした。具体的には、原子力委員会で、いったん試算していただいたものをコスト等検証委員会にご報告いただき、コスト等検証委員会でそれらを検証させていただくということとした。

 11月15日、原子力委員会の鈴木達治郎委員長代理(原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会座長)から、原子力委員会での試算結果をご報告いただいたが、その際には、大きく2つの方法が示された。1つは、損害想定額に事故の発生確率を掛けた「期待損害値」といわれるものであり、もう1つが、損害想定額を、原発事業者全員で準備するという「相互扶助方式」といわれるものである。

 まず、前者について、議論がなされたが、コスト等検証委員会では、4人の委員がそろって、前者の期待損害値については、不十分であるとの指摘した。その際の趣旨は、以下の通りである。

原発事故の保険料は算定できない

 本来、事故リスクに備えるためには保険が一般的であり、そのための保険料をコストとして見込むのが適当である。その保険料を算出する際、とても低い確率だが、極めて大きな損害が発生するような場合は、期待損害値だけではなく、追加的なコスト(リスクプレミアム)を見込むべきである。

 さらに、今回の福島原発事故のような原発のシビアアクシデントのように、よりまれで深刻な被害が発生する場合は、リスクプレミアムを計上することも困難ということで、このような観点から保険料を算出できないという結論になり、そうであれば、期待損害値を事故リスクコストとすることはミスリーディングになりかねないということで、採用しないこととなった。

 そこで、もう一方の「相互扶助方式」を検討した。相互扶助方式は、シビアアクシデントが生じた場合の損害を、原発事業者全員で負担しようという考え方によったものであり、損害想定額を、一定の期間で積み立てると仮定した場合の積立金を、事故リスクコストとしてカウントしてはどうかという考え方である。議論の結果、疑似的な保険制度として、このような考え方で、事故リスクコストを出すことはありうるということになり、この委員会では、損害想定額を40年間で積み立てるという場合の費用を事故リスクコストとすることになった。

 なお、損害想定額については、図2をご覧いただきたい。原発のシビアアクシデントの際の損害想定額を算出するにあたり、過去の例としては、世界でも、スリーマイル島、チェルノブイリ、福島しかなく、今回の試算にあたっては、福島を参考に算出することとした。
 原子力委員会では、東京電力に関する財務・経営調査委員会が推計した追加的な廃炉費用と損害賠償額を基に試算した(図2の紫色部分)。コスト等検証委員会では、それに加えて、行政経費、除染費用の一部、損害賠償の基準の変更による増額分などを追加して算出した。

 しかしながら、ここで、(1)含まれていない費用があること(図2のオレンジ色部分)、(2)今回の相互扶助方式を一種の保険として捉えた場合、事業者は十分な余裕をもって事故リスクに備えるべきとの考え方から、これはあくまでも下限値であるとされた。


上記の議論の結果、原発の事故リスクのコストは、割引率3%、設備利用率70%、稼動年数40年の場合、0.5円/キロワット時が下限であり、上限は示せないこととなった。

使用済み核燃料の再処理コストは?

 原発のコストについては、しばしば、バックエンドの費用はどうなっているのかという質問を受ける。原発のバックエンド費用とは、発電した後に出てくる使用済みの核燃料の処理にかかる費用のことである。

 日本では、バックエンドについては、核燃料サイクルということで、再処理という工程を経て、MOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料という形にして、原発でまた使うという前提で試算されてきた。今回は、この点についても、事故リスクのコストと一緒に、原子力委員会に協力を依頼したが、その際に、様々な方策の試算をお願いした。

 その結果として、原子力委員会からは、大きくわけて3つの方策を前提とした試算結果が提出された。1つが使用済み核燃料全てをすぐに再処理して、それでできたMOX燃料をまた発電に使うというサイクルを前提とした「再処理モデル」(図3)、もう1つが、「直接処分モデル」といわれる方策で、使用済核燃料全てを地層処分という形で、一定期間、地上で冷却した上で、地下深くにそのまま埋設するという方法である(図4)。3つ目は、半分は20年貯蔵後、再処理し、残りの半分は50年貯蔵後、再処理をするという「現状モデル」である(図5)。

 それぞれのコストを比較した結論としては、再処理モデルは、直接処分モデルよりも、約1円/キロワット時高く、現状モデルはその中間的に位置するというものであった。ただし、この試算は、モデルプラントの試算であり、かつ、現在の日本の実態に必ずしも合致していない前提の部分もあることから、今後、日本におけるバックエンドの選択肢の議論がなされる場合には、我が国の現在の状況を前提とした具体的なシナリオをもとに試算がなされるものと考えられる。




今回、原発のコストについて、世界的にも前例がない事故リスクのコストや政策経費という社会的コストを加味した形で試算をしてみて、他の電源と比べても、やはりその試算の難しさを認識せざるを得なかった。特に事故リスクのコストは上限が示せなかったように不確定要素が多い。ただし、少なくとも、試算のフレームワークを示せたことは意味があり、今後、さらなる検証を可能にしたことは評価されるべきものと考えている。

(次回に続く)
このコラムについて
フクシマ後の電力コスト

 東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故で、日本のエネルギー環境戦略はゼロから見直すことを迫られた。政府はその第一歩としてエネルギー・環境会議に「コスト等検証委員会」を設け、従来、安いとされてきた原発のコストなどの徹底検証を進めてきた。同委員会が、2011年12月19日にまとめた報告書のポイントについて、事務局メンバーが解説する。但し、解説の内容については各執筆者個人の文責によるものである。

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著者プロフィール
伊原 智人(いはら・ともひと)


フクシマ後の電力コスト


風力と地熱は、原発や火力と同じくらい安くなりうる
日本初、再生可能エネルギーの発電コストを体系的に試算する

                       2012年2月9日 木曜日
田中 良典

コスト等検証委員会が昨年12月に取りまとめた報告書のポイントの解説の第2回目に当たる今回は、将来の主要電源として期待が高まる再生可能エネルギーの発電コストと普及ポテンシャルに焦点を当てて紹介したい。

 2011年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故を契機に、政府は昨年夏、原発への依存を低減すると同時に、省エネルギーを進め、再生可能エネルギーの比率を高め、化石燃料をクリーン化する、という新たなエネルギー戦略の基本理念を示した。

 この基本理念を具体化するための中長期的な戦略・計画を夏までに策定するに当たり、原発が果たしてきた電力供給の穴埋めを再生可能エネルギーは、いつ頃までに、どの程度まで果たすことができるのだろうか。この問題を考える上で初めに直面した疑問が、以下の2点であった。

 (1)他の電源と条件をそろえて比べた場合、再生可能エネルギーの発電コストは、どのレベルにあり、いつ頃までにどの程度まで下げられるのだろうか?

 (2)地域の特性に左右されがちな再生可能エネルギーは、日本において、どの程度まで普及するポテンシャルがあるのだろうか?

 (1)の発電コストについて見ると、これまで、原発や火力発電とコスト比較ができるように試算条件を揃えた上で、再生可能エネルギー設備が新設された場合の、現在及び将来のコスト試算を体系的に行った例は過去に見られなかった。

 (2)の普及ポテンシャルについて見ると、関係省庁がそれぞれ行った調査の定義や前提条件の異なる数字が、それらの違いを十分に認識されないままで他の電源の発電電力量との比較に用いられて、議論がかみ合わない事態がしばしば見られた。

 こうした背景を受けて、コスト等検証委員会では、再生可能エネルギーについても(1)や(2)の検証を行うことにより、今年の春に向けて検討する新しいエネルギーミックスや地球温暖化対策の選択肢提示に必要な基礎的材料を提供することとなった。

燃料費と社会的費用はかからない

 前回の解説でも触れたとおり、コスト等検証委員会では、2010年、2020年、2030年に新たに運転を開始するモデルプラントを想定し、それらの稼働年数にわたって発生する(1)資本費、(2)燃料費、(3)運転管理費、(4)社会的費用(環境対策費+事故リスク対応費用+政策経費)の合計額を、稼働年数期間中に想定される発電電力量で割るという計算式に基づき、発電単価(円/キロワット時)を試算した。

 再生可能エネルギーの試算に当たっては、(2)燃料費がバイオマス発電など一部を除き、かからないこと、(4)社会的費用については、温室効果ガスを排出しないこと、事故リスク対応費用を上乗せする必要がないこと、技術開発予算などの政策経費を直近のわずかな電力量で割った値をコストに上乗せするのは適当でないこと、などの理由から、基本的には、(1)資本費と(3)運転管理費を発電電力量で割るという計算式を用いることとした。

 その上で、割引率、稼働年数、建設費(補助金実績や事業者ヒアリングなどを踏まえ、上限値と下限値を幅で設定)、将来の価格見通しのシナリオのパターンに応じて、複数の試算を行った。この結果、例えば2010年の新設プラントの発電単価を見ると、住宅用太陽光で48パターン、地熱では120パターンとなった。その全てをここで紹介することはできないが、概観を紹介すると次のページの通りである。


風力は量産効果、技術革新で価格が下がりうる

<風力> 風力(陸上)については、立地条件によって建設コストが異なるが、系統強化・安定化のための追加投資もなく、建設コストが安いなどの条件が揃えば、2010年のモデルプラントで9.9円/キロワット時と試算された。

 2030年モデルプラントで見ても、量産効果・技術改善・ウィンドファームの大規模化などによるコスト低下を見込んだ「国際エネルギー機関(IEA)のシナリオ」の低減率を用いて試算すると8.8円/キロワット時となり、社会的費用を上乗せした原子力や石炭、LNGと同等のコストになりうると試算された。

 一方で、立地条件により建設コストが高い場合や、欧米と比べて立地制約・輸送制約などの高い日本の特殊性を勘案し、価格低下が見られない場合には、2010年や2030年のモデルプラントにおいて17.3円/キロワット時で高止まる、との試算も示した。

 風力(洋上)については、着床式を想定し、資本費を陸上風力の1.5~2倍と見込み、2010年モデルプラントで9.4~23.1円/キロワット時、2030年モデルプラントで8.6~23.1円/キロワット時と見込んだ。

<地熱> 地熱については、稼働年数も長く、安定的な発電が可能という特徴があり、発電コストは2010年や2030年のモデルプランともに10円/キロワット時前後と試算され、コスト的には社会的費用を上乗せした原子力や石炭と同レベルとなった。

 ただし、この試算には地熱資源量の調査費用が含まれていないこと、規制区域外から規制区域内の熱源に向けて斜め掘りして水平距離が長いと、コストが増え、掘り当てる確率が下がることに留意する必要がある。

<太陽光> 太陽光については、2010年モデルシステムは、近年の補助実績や関連事業者へのインタビューに基づき試算したところ、30円/キロワット時以上と、他の電源と比べても高い水準となった。

 この点については、ここ2~3年の足元の急速な価格低下を反映していないとの指摘も見られたが、[1]他の電源とデータ収集方法を揃えるという理由や、[2]世界的な需給ギャップを受けて、海外企業の倒産を招くような無理な価格低下が適切な生産価格を反映していると言えるのか、という理由から、上記のとおり試算を行うこととなった。

 しかし、将来については、欧州太陽光電池工業会(EPIA)の累積生産量見通しを用いて、生産量が増えることにより価格が低下するという学習効果や、耐久性の向上などの技術進展を前提とした試算を行ったところ、2030年には大幅な価格低下が期待され、現在の2分の1から3分の1となり、石油火力よりも安くなる可能性が示された。

系統安定化費用や電源線費用を試算に含めなかった理由

 再生可能エネルギーのコスト試算に当たり、大きな議論になったのが、「系統安定化費用」を試算コストに上乗せするか否かであった。

 電力システムは、瞬時瞬時の需要と供給を一致させる必要があるが、発電量が気象条件に依存し、出力の調整が難しい太陽光や風力などの導入が拡大していくと、そのための系統安定化対策(発電側への出力抑制装置の取り付け、蓄電池や揚水による需給調整、電圧変動対策など)が必要となる可能性があることが、その理由である。

 しかし、全体の電源構成によって、必要な系統のあり方や対策は異なるため、エネルギーミックスの検討結果から導かれる日本全体の再生可能エネルギーのマクロ的な導入量に応じて、最適な系統安定化対策を検討した上で、トータルな対策コストを考えるべきとの理由から、今回の個別の電源の発電コストには系統安定化費用は上乗せしないこととなった。

 また、再生可能エネルギーだけでなく、原子力も火力も同様であるが、発電所から電力系統へ連系する「電源線の費用」も、今回のコスト試算に計上すべきではないかとの議論も行われた。しかしながら、電源線は、電源の出力規模や距離に応じて、電力系統へ連系する電圧階級や線種が異なり、また、その長さや通過する地形により、コストが異なり、一概に特定の電源の発電コストとして計上するのは難しいことから、今回の個別の電源の発電コストには上乗せしないこととなった。

再生可能エネルギーの導入ポテンシャルを検証する

 再生可能エネルギーの普及のポテンシャルについては、省庁や電源の違いにより、少なくとも6つの政府系の調査があったことから、共同事務局(内閣官房、経済産業省、環境省、農林水産省)においては、まずこれらの調査に含まれる様々な数字の違いが、どのような定義の違い(例:賦存量、導入ポテンシャル、導入可能量)、対象区分の違い、前提条件の違いを要因とするのかを突合させて、整理した資料を作成し、報告書の参考資料3として示すこととした。

 その上で、系統制約や制度的制約、経済性の確保などは勘案していないが、現在の技術水準の下で、自然条件などにより現状では事実上開発が不可能な地域を除いた再生可能エネルギーの導入量という、一つの客観的データであり、エネルギーミックスの選択肢を検討するのに参考となる指標である「導入ポテンシャル」に着目して、複数ある各省の数値を電源別に統一して示すこととした。

 具体的には、陸上風力、地熱、太陽光の導入ポテンシャルを示した図2~4をご覧いただきたい。それぞれ、導入ポテンシャルの数字を、規制地域の内外(図2、3)、発電コストに直結する資源の特性(図3)、立地条件(図4:屋根、壁面、耕作放棄地)といったカテゴリーごとに分類(緑の○)して示すことにした。

 また、参考情報として、2007年度実績(ピンクの○)、現行のエネルギー基本計画の2030年推計値(紫の○)、電源の設備利用率の特性から比較対象となる大規模集中電源の2007年実績(青の○)を示すことにした。

 さらに、コスト等検証委員会の委員からは、(1)導入ポテンシャルの数字は経済性(事業採算性)を加味しておらず、コスト試算に用いた諸元データのもとになった施設の立地条件と、導入ポテンシャルがあるとされた区域の発電単価は必ずしも一致しないことから、導入ポテンシャルの数字が実現するためには経済制約や制度制約などを克服する不断の努力が必要であることを読者に誤解のないよう図示すべきとのご指摘を受けた。

 また(2)どのような区域・場所の発電単価がどうなっているのかが分かるように図示すべき、などのご指摘も受けた。しかし、(2)については、すぐに答えを出せる作業ではないことから、苦肉の策として、発電単価の「イメージ」を、色にグラディエーションを付けて図示することにした。

 以下が、導入ポテンシャルを検証した結果である。

陸上風力は系統及び系統間連系の強化が課題

 陸上風力の導入ポテンシャルは、保安林外・国有林外・自然公園外で約2,700億キロワット時あり、風況がより良い場所では、ベース的な電源としての役割の一部を担う可能性が示された。

 ただし、北海道北部、東北北部などの風況の良い場所では、受け入れる余裕のある電力会社の現状の系統から遠く離れていることが多く、震災前には、従来の系統接続可能量を考慮すると、約170億キロワット時程度が風力の導入可能量ではないか、との推計も見られた。このことから、このポテンシャル量が実際に開発されるためには、系統及び系統間連系の抜本強化や、さらなる制度的な制約が解消されることが喫緊の課題であることが示された。



地熱は立地上の制約を克服する必要あり

 地熱発電の導入ポテンシャルは、国立・国定公園の特別保護地区・特別地域外の制約が少なく、かつ、150℃以上の熱水資源が利用できる場所で約260億キロワット時ある。地熱の出力安定性も勘案すると、条件の劣る場所も活用することにより、ベース電源の一定の部分を担うことが期待される。

 地熱の導入可能量拡大には、国立・国定公園内への立地に必要な許可要件の明確化や、地元温泉関係者などとの共生強化などの政策的課題を解決し、また、導入可能量拡大を進めやすくするような技術開発・実証研究などを進めていく必要性が示された。



太陽光は設置可能な場所の有効活用を

 太陽光の導入ポテンシャルは、屋根などの比較的条件が良いと考えられる場所で約930億キロワット時ある。こうした場所をフルに活用することができれば、ピーク、ミドル電源としても用いる火力発電の炊き減らしに資する電源として期待される。

 ただし、930億キロワット時は、日本の一戸建ての家で設置可能なほぼ全ての屋根、及び、現在普及の遅れているマンションや公共施設・工場などでパネルが設置可能なほぼ全ての屋根へのパネルの設置に成功した場合の数値である。

 太陽光発電の普及には、低コスト化に向けてさらなる技術開発を進めていくとともに、耕作放棄地や、マンション、工場などの壁面などで設置を進めていくための制度改革、それらに採算性を持たせるノウハウの開発が不可欠であることが示された。



今回、原子力や火力などの電源と比較可能な形で、再生可能エネルギーの現在と将来のコスト試算を行えたことは、大きな前進ではあった。しかし、技術進歩や、ビジネス環境の変化が激しい再生可能エネルギーについては、不断にコスト試算を更新していく必要性が高いと考えている。

 また、普及ポテンシャルの分析の改良を進め、誤解を招かないよう数字の持つ意味を十分に説明することにより、幅広い関係者が、優先順位を付けて政策課題を「選択」し、その克服に優先順位を付けて「集中」して努力するための出発点となり、制度改革・政策支援・ビジネスを加速させる可能性があると考えている。

 (次回の「節電コスト」に続く)

 

「原発依存度低下」「再エネ比率向上」は実現できる

日本のエネルギー・ミックスを考える    

2012年3月1日(木)

伊原 智人

前回から読む)

 この「フクシマ後の電力コスト」のシリーズも最終回となった。これまでの4回は、今回のコスト等検証委員会の報告が、これまでの発電コスト試算と比べて有する特徴的な点を中心に紹介してきた。今回は、それらの個別の電源の検証結果を踏まえて、全ての電源のコスト比較の結果をまとめつつ、今後の展開を紹介したい。

 まず、今回、検証した個別の電源のコストの結果をまとめながら、比較していきたい。グラフ1をご覧いただきたい。なお、このグラフでは、2010年と2030年のモデルプラントの両方の検証結果を示しているが、ここでは、主に2030年のモデルプラントにおけるコストを前提に議論をしていきたいと思う。

[画像のクリックで拡大表示]

 各電源の発電コストの試算結果は、それぞれ下記のように要約できる。

○原子力のコストについては、原発が立地している地方自治体に国の予算から支払われている立地交付金などの政策経費や重大事故のリスクをカバーするためのコストなど、いわゆる「社会的費用」を勘案すると、下限でも1キロワット時あたり約9円となり、従来言われていた1キロワット時あたり5~6円という水準よりも5割以上高くなった。さらに、原子力については、上限を示すことが困難ということとなった。

○石炭火力やガス火力については、2004年のコストの水準と比べると、燃料費の上昇や二酸化炭素(CO2)対策によって、コストは上がっており、1キロワット時あたり10~11円となった。しかしながら、その水準は、原子力の下限の数字と比べても、さほど大きな差異はなく、競争力があるといえる。

○風力については、幅はあるものの、下限の場合(比較的安いコストで建設が可能な場合)は、原子力の下限と比べても、遜色ないレベルといえるであろう。しかしながら、それなりのコストで設置できる場所に制約があったり、送電線系統の増強や出力安定のための対策が必要という追加的なコストがかかったりする場合がある。

○地熱については、出力も安定しており、ベース電源としての役割も期待できる上、コストも1キロワット時あたり10円前後と、原子力や石炭と対抗しうるレベルにある。但し、その導入ポテンシャルの制約などがあるといった課題もある。

○太陽光は、一定の規模以上の導入が進んだ場合、電力システム全体としての系統安定化などの課題があるものの、世界市場の拡大に伴う量産効果によるコスト低減が見込める。その場合、コストは、現在の2分の1あるいは3分の1となる可能性も見えている。

○小水力やバイオマスについては、コストは高めであるが、地域資源の有効活用という側面もあり、地域によっては、新しいエネルギーミックスの一翼を担いうる。

○コジェネレーションシステム(コジェネ)は、コストを発電電力量だけで割ると、ガスコジェネの場合、1キロワット時あたり20円前後となっているが、同時に生成される熱の価値を勘案し、その分を発電コストから引くと、1キロワット時あたり11円前後となる。この水準は、大規模集中電源と比べても、十分に競争力を有しているといえる。

○省エネについては、本シリーズの第3回で「節電所」として紹介したとおり、家庭でのLED照明導入に代表されるように、一部の省エネ製品については非常にコストが安く、発電以上に効率的な選択肢となりうることが明らかになった。

 以上を総括して、今回の試算結果から何が分かったのか?

 全ての電源に長所、短所がある

 昨年7月29日に、エネルギー・環境会議がまとめた『「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理』という報告書がある。その中で、示されている、
・原子力依存度の低下
・再生可能エネルギーの比率の向上
・省エネによるエネルギー需要構造の抜本的改革
・化石燃料のクリーン化、効率化の進展
といった新たなエネルギー・ミックス実現に向けたシナリオが、コスト面から考えた場合に、決して無理なものではないことは示されたといえるだろう。

 他方、少なくとも、現時点で、いずれかの電源が、他の電源と比べて、圧倒的にコストが安く、その電源で決まりというようなことはないことも明らかになった。また、全ての電源に長所短所があるということも明らかになった。

 つまり、どのようなタイムスケジュールで、どの電源を、どのように組み合わせていくのかということを考えることが、新たなエネルギー・ミックス実現に向けたシナリオを考えるということになる。

 なお、図1のグラフについては、あくまでも、今回、コスト等検証委員会で試算した結果のうち、それぞれの電源について、ある一定の条件のもののみを並べており、一部の方から、批判をいただいている。事務局としても、悩んだ点ではあるが、ただ単に全ての試算結果を並列的に並べるだけでは、この委員会の目的を果たすことができないと考えた。できる限り、実態に近い数字を用いて比較することで、電源のコスト比較が可能と考えて、このグラフを作成した。もちろん、検証する目的や観点によっては、別の条件を使って比較した方が適切な場合もあるかもしれない。今後、公開しているシートを活用し、より深い分析がなされることがあるかもしれない。

 実際に、第4回で紹介したCall for evidenceに対して、2月20日の締切日までに、海外も含めた様々な方々や組織から、合計16の提案をいただいた。今後、それらのご提案を整理し、本報告のさらなる進化につなげたいと考えている。

欧州も共通の課題に直面している

 最近、欧州に出張をした際、「Energy Roadmap 2050」に関するディスカッションなどを持つ機会があった。

 「Energy Roadmap 2050」とは、欧州委員会が、昨年12月に発表した2050年に向けたエネルギー政策の選択肢を示し、7つのシナリオを提示した報告書である。

[画像のクリックで拡大表示]

<表1>「Energy Roadmap 2050」の各シナリオの特徴
【現行トレンドシナリオ】

【現行トレンドシナリオ】
 参照シナリオ 2010年3月までに採択された政策に基づくシナリオ
現行政策主導シナリオ 参照シナリオに欧州委が既に提案済の政策も加味したシナリオ
【低炭素シナリオ】2050年温室効果ガス80%~95%削減
 高省エネシナリオ 2050年に2005年比41%の省エネを実現するシナリオ
供給技術多様化シナリオ 特定の支援策を講じない炭素価格に基づく市場ベースの技術導入シナリオ
高再生可能エネルギー
資源シナリオ
強力な再エネ支援により、2050年に再エネの割合を最終エネルギー総消費の75%、電気消費の97%にするシナリオ
CCS遅延シナリオ CCSが遅れ、炭素価格を通じて原子力のシェアがより高いシナリオ
低原子力シナリオ 現在建設中の原子炉を除き、原発の新設を見込まない一方、発電の32%にCCSを導入するシナリオ

 そこで、改めて感じたことは、今後のエネルギー政策、特に今後のエネルギーミックスをどうしていくかについては、どの国にとっても、大きなチャレンジであるということである。もちろん、国によって、自国が持っている資源、近隣諸国との関係、自然条件、これまでの経緯などに応じて、異なる状況ではあるが、原子力については使用済み核燃料をどう処理するかというバックエンドの問題も含めた不安感、火力については燃料調達と温暖化の問題、そして、再生可能エネルギーに対する期待は高いものの、その不安定な出力や高コストという課題を克服しようとしている状況という意味では、共通しているのではないかと感じた。これらの意識は、「Energy Roadmap 2050」に分析されている7つのシナリオを見てもわかるであろう。

  個人的な見解であるが、エネルギーは、水や食料と並んで、国民生活の基盤であり、産業の競争力にも直結しているという意味で、国力を左右する要素であり、国家として、これらの安定的な確保は至上命題といえるだろう。だからこそ、世界中の国が必死に考えているのである。

 こうした中で、3.11を経験した我が国が、現在の状況をどう克服し、どのようなエネルギーの選択を行うかについては、多くの国が関心を持っている。

今夏、日本のエネルギー・環境戦略が決まる

 さて、我が国のエネルギー選択に向けた今後の展開はどうなるのか?

 第1回で申し上げた通り、このコスト等検証委員会の報告書は、ゼロから見直すことになったエネルギー・環境戦略を検討するための第一歩である。そして、その二歩目、三歩目として、今、総合資源エネルギー調査会、原子力委員会、中央環境審議会で、激論が交わされている。これらの議論の結果を踏まえて、それぞれの会議体において、エネルギーミックス、核燃料サイクル政策、温暖化対策の選択肢の原案が、今春に示される予定である。

 これらの選択肢は密接な関係を有する。核燃料サイクル政策は、原子力発電のシナリオと無関係でないことは明らかであり、温暖化対策は、エネルギー政策と表裏一体といえる。従って、これらの選択肢をバラバラに議論して、選択肢を絞っても、その絞られた選択肢同士が整合的でなければ実現性のないものとなってしまう。

 従って、今春にそれぞれの選択肢の原案が示された時点で、エネルギー・環境会議において、それらを整合的に組み合わせた今後の日本のエネルギー・環境戦略の選択肢を作り、国民的な議論を行うことになる。そして、この夏には、その選択肢の中から、我が国の今後のエネルギー・環境戦略を決定することになる。そこまでの道のりは決して短いものではないと考えられるが、決して歩みを止めることは許されないであろう。

 最後に、今回のコスト等検証委員会の報告書についての個人的な評価を書かせていただきたい。

 この報告書については、昨年末の発表以降、新聞や雑誌でも、いろいろと評価・検証いただいている。勝手な思い込みかもしれないが、政府が出した報告書という意味では、比較的ポジティブな評価を多くいただいていると認識している。ただ、私としては、本報告書の取りまとめ以後に、委員の方々からいただいたコメントが深く印象に残っている。

「本委員会では、議論を戦わせることが出来たことが爽快であり、相当、言いたいことが言えた」

「経済界などの要請を受けて報告書の説明をしたが、非常によくできた報告書で、数字も非常に客観的で納得感が高いという評価を受けている」

「自分が全く知らない外部の方から、本委員会は大変な成功であり、委員間の満足度も極めて高いでしょうと言われることが、大変うれしい」

「一番の成果は、社会的費用を発電コストに盛り込むという、世界最先端の枠組みの報告書を政府としてとりまとめたこと」

 ある意味では、内輪でのほめ合いのようなものであるかもしれないが、これらのコメントが、本報告書の特長を言い表しているのではないかと思う。

 こうした特長を有する報告書の作成に携われたことに感謝するとともに、この難しいミッションを短時間で成し遂げた委員の皆様には本当に敬意を表したい。

Nikkei Business

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120130/226648/




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