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障害のある人の権利に関する条約 仮訳  川島聡=長瀬修仮訳(2008年5月30日付)

2012年03月21日 01時49分30秒 | Weblog

障害のある人の権利に関する条約

前文

 この条約の締約国は、

(a) 世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものとして、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び価値並びに平等のかつ奪い得ない権利を認める国際連合憲章において宣明された原則を想起し、

(b) 国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての者はいかなる区別もなしに同宣言及び同規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し及び合意したことを認め、

(c) すべての人権及び基本的自由の普遍性、不可分性、相互依存性及び相互関連性、並びに障害のある人に対してすべての人権及び基本的自由の差別のない完全な享有を保障する必要性を再確認し、

(d) 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女性に対するあ らゆる形態の差別の撤廃に関する条約、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約、子どもの権利に関する条約並びにす べての移住労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約を想起し、

(e) 障害〔ディスアビリティ〕が形成途上にある〔徐々に発展している〕概念であること、また、障害が機能障害〔インペアメント〕のある人と態度及び環境に関す る障壁との相互作用であって、機能障害のある人が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものから生ずることを認め、

(f) 障害者に関する世界行動計画及び障害のある人の機会均等化に関する基準規則に規定する原則及び政策指針が、障害のある人の機会を一層均等化するための国内 的、地域的及び国際的な政策、立案、計画及び行動の促進、形成及び評価に影響を及ぼすに当たり重要であることを認め、

(g) 持続可能な開発の関連戦略の不可分の一部として障害問題の主流化が重要であることを強調し、

(h) また、いかなる者に対しても障害に基づく差別が人間の固有の尊厳及び価値を侵害するものであることを認め、

(i) 更に、障害のある人の多様性を認め、

(j) 障害のあるすべての人(一層多くの支援を必要とする障害のある人を含む。)の人権を促進し及び保護する必要性を認め、

(k) これらの種々の文書及び約束にもかかわらず、障害のある人が、世界のすべての地域において、社会の平等な構成員としての参加を妨げる障壁及び人権侵害に依然として直面していることを憂慮し、

(l) あらゆる国、特に開発途上国における障害のある人の生活状況を改善するために国際協力が重要であることを認め、

(m) 障害のある人が、地域社会の全般的な福利及び多様性に対して既に又は潜在的に貴重な貢献をしていることを認め、また、障害のある人による人権及び基本的自 由の完全な享有並びに完全な参加を促進することにより、障害のある人の帰属意識が高められること並びに社会の人間的、社会的及び経済的開発並びに貧困の根 絶に大きな前進がもたらされることを認め、

(n) 障害のある人にとって、その個人の自律及び自立(自ら選択する自由を含む。)が重要であることを認め、

(o) 障害のある人が、政策及び計画(障害のある人に直接関連のある政策及び計画を含む。)に係る意思決定過程に積極的に関与する機会を有すべきであることを考慮し、

(p) 人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、民族的、先住的若しくは社会的出身、財産、出生、年齢又は他の地位に基づく複合的又は加重的な形態の差別を受けている障害のある人の置かれた困難な状況を憂慮し、

(q) 障害のある女性及び少女が、家庭の内外で暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取を受ける一層大きな危険にしばしばさらされていることを認め、

(r) 障害のある子どもが、他の子どもとの平等を基礎として、すべての人権及び基本的自由を完全に享有すべきであることを認め、また、このため、子どもの権利に関する条約の締約国が負う義務を想起し、

(s) 障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有を促進するためのあらゆる努力にジェンダーの視点を組み込む必要があることを強調し、

(t) 障害のある人の大多数が貧困の状況下で生活している事実を強調し、また、これに関しては、障害のある人に及ぼす貧困の悪影響に取り組むことが緊要であることを認め、

(u) 国際連合憲章に規定する目的及び原則の完全な尊重並びに適用のある人権文書の遵守に基づく平和及び安全の状況が、障害のある人、特に武力紛争下及び外国の占領下の障害のある人の完全な保護に不可欠であることに留意し、

(v) 障害のある人がすべての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするに当たり、物理的、社会的、経済的及び文化的環境、保健〔健康〕及び教育並びに情報通信についてのアクセシビリティが重要であることを認め、

(w) 個人が、他人に対し及びその属する地域社会に対して義務を負うこと、並びに国際人権章典において認められる権利の促進及び遵守のために努力する責任を有することを認識し、

(x) 家族が、社会の自然かつ基礎的な単位であり、かつ、社会及び国による保護を受ける権利を有することを確信し、また、障害のある人及びその家族の構成員が、 障害のある人の権利の完全かつ平等な享有に家族が貢献することを可能とするために必要な保護及び援助を受けるべきであることを確信し、

(y) 障害のある人の権利及び尊厳を促進し及び保護するための包括的かつ総合的な国際条約が、開発途上国及び先進国の双方において、障害のある人の社会的に著し く不利な立場を是正することに重要な貢献を行うこと、並びに市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的分野への障害のある人の平等な機会を伴う参加を促進 することを確信して、

次のとおり協定した。

第1条 目的
 この条約は、障害のあるすべての人によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し及び確保すること、並びに障害のある人の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。
障害〔ディスアビリティ〕のある人には、長期の身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害〔インペアメント〕のある人を含む。これらの機能障害は、種々の 障壁と相互に作用することにより、機能障害のある人が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げることがある。

第2条 定義

 この条約の適用上、

「コミュニケーション〔意思伝達・通信〕」とは、筆記〔文字言語〕、音声装置、平易な言葉、口頭朗読その他の拡大代替〔補助代替〕コミュニケーションの形 態、手段及び様式(アクセシブルな情報通信技術〔情報通信機器〕を含む。)とともに、言語、文字表示〔文字表記〕、点字、触覚による意思伝達、拡大文字及 びアクセシブルなマルチメディア等をいう。
「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語等をいう。
「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、 他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう。障害に基 づく差別には、合理的配慮を行わないことを含むあらゆる形態の差別を含む。
「合理的配慮」とは、障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう。
「ユニバーサルデザイン」とは、調整又は特別な設計を必要とすることなしに、可能な最大限の範囲内で、すべての人が使用することのできる製品、環境、計画 及びサービスの設計をいう。「ユニバーサルデザイン」は、特定の範囲の障害のある人向けの機能を備えた補装具〔補助器具〕が必要とされる場合には、これを 排除するものではない。

第3条 一般原則
 この条約の原則は、次のとおりとする。

(a) 固有の尊厳、個人の自律(自ら選択する自由を含む。)及び人の自立に対する尊重

(b) 非差別〔無差別〕

(c) 社会への完全かつ効果的な参加及びインクルージョン

(d) 差異の尊重、並びに人間の多様性の一環及び人類の一員としての障害のある人の受容

(e) 機会の平等〔均等〕

(f) アクセシビリティ

(g) 男女の平等

(h) 障害のある子どもの発達しつつある能力の尊重、及び障害のある子どもがそのアイデンティティを保持する権利の尊重

第4条 一般的義務
1 締約国は、障害に基づくいかなる種類の差別もない、障害のあるすべての人のすべての人権及び基本的自由の完全な実現を確保し及び促進することを約束する。このため、締約国は、次のことを約束する。

(a) この条約において認められる権利を実施するため、すべての適切な立法措置、行政措置その他の措置をとること。

(b) 障害のある人に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適切な措置(立法措置を含む。)をとること。

(c) すべての政策及び計画において、障害のある人の人権の保護及び促進を考慮に入れること。

(d) この条約に合致しないいかなる行為又は慣行をも差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの条約に従い行動することを確保すること。

(e) いかなる個人、団体又は民間企業による障害に基づく差別をも撤廃するためのすべての適切な措置をとること。

(f) 第2条に定めるユニバーサルデザインを用いた物品〔製品〕、サービス、備品〔設備〕及び施設についての研究及び開発を開始し又は促進すること。この場合に おいて、これらの物品〔製品〕、サービス、備品〔設備〕及び施設は、障害のある個人に特有の必要〔ニーズ〕を満たすため、それらの供給及び使用を促進する ため並びに基準及び指針の策定の際のユニバーサルデザインの採用を促進するため、可能な限り最小の調整及び最小の費用を要するものとすべきである。

(g) 負担可能な費用の技術〔機器〕を優先して、障害のある人に適した新たな技術〔機器〕(情報通信技術〔情報通信機器〕、移動補助具、補装具〔補助器具〕及び 支援技術〔支援機器〕を含む。)についての研究及び開発を開始し又は促進すること、並びにそのような新たな技術〔機器〕の供給及び使用を促進すること。

(h) 移動補助具、補装具〔補助器具〕及び支援技術〔支援機器〕(新たな技術〔機器〕を含む。)に関する並びに他の形態の援助、支援サービス及び施設〔設備〕に関するアクセシブルな情報を障害のある人に提供すること。

(i) この条約において認められる権利により保障される支援及びサービスを一層効果的に提供するため、障害のある人と共に行動する専門家及び職員に対する当該権利に関する訓練を促進すること。

2 各締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、これらの権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段〔資源〕の最大限の 範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で措置をとることを約束する。ただし、この規定は、この条約に含まれる義務であって国際法に基づいて即時的 に適用可能なものに影響を及ぼすものではない。

3 締約国は、この条約を実施するための法令及び政策を策定し及び実施するに当たり、並びに障害のある人と関連する問題についての他の意思決定過程において、 障害のある人(障害のある子どもを含む。)を代表する団体を通じて、障害のある人と緊密に協議し、かつ、障害のある人を積極的に関与させる。

4 この条約のいかなる規定も、締約国の法律又は締約国について効力を有する国際法に含まれる規定であって、障害のある人の権利の実現に一層貢献するものに影 響を及ぼすものではない。この条約のいずれかの締約国において法律、条約、規則又は慣習によって認められ又は存する人権及び基本的自由については、この条 約がそれらの権利若しくは自由を認めていないこと又はその認める範囲がより狭いことを理由として、それらの権利及び自由を制限し又は逸脱してはならない。

5 この条約は、いかなる制限又は例外もなしに、連邦国家のすべての地域について適用する。

第5条 平等及び非差別〔無差別〕
1 締約国は、すべての者が、法律の前及び下において平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等な保護及び利益を受ける権利を有することを認める。

2 締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な法的保護を障害のある人に保障する。

3 締約国は、平等を促進し及び差別を撤廃するため、合理的配慮が行われることを確保するためのすべての適切な措置をとる。

4 障害のある人の事実上の平等を促進し又は達成するために必要な特定の措置は、この条約に定める差別と解してはならない。

第6条 障害のある女性
1 締約国は、障害のある女性及び少女が複合的な差別を受けていることを認識し、また、これに関しては、障害のある女性及び少女がすべての人権及び基本的自由を完全かつ平等に享有することを確保するための措置をとる。

2 締約国は、この条約に定める人権及び基本的自由の行使及び享有を女性に保障することを目的として、女性の完全な発展、地位の向上及びエンパワーメントを確保するためのすべての適切な措置をとる。

第7条 障害のある子ども
1 締約国は、障害のある子どもが、他の子どもとの平等を基礎として、すべての人権及び基本的自由を完全に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる。

2 障害のある子どもに関するあらゆる決定において、子どもの最善の利益が主として考慮されるものとする。

3 締約国は、障害のある子どもが、自己に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を有することを確保する。この場合において、障害 のある子どもの意見は、他の子どもとの平等を基礎として、その年齢及び成熟度に応じて十分に考慮されるものとする。締約国は、また、障害のある子どもが、 当該権利を実現〔行使〕するための障害及び年齢に適した支援を提供される権利を有することを確保する。

第8条 意識向上
1 締約国は、次のための即時的、効果的かつ適切な措置をとることを約束する。

(a) 障害のある人の置かれた状況に対する社会全体(家族を含む。)の意識の向上、並びに障害のある人の権利及び尊厳に対する尊重の促進

(b) あらゆる生活領域における障害のある人に対する固定観念、偏見及び有害慣行(性及び年齢を理由とするものを含む。)との闘い

(c) 障害のある人の能力及び貢献に対する意識の促進

2 このため、締約国が講ずる措置には、次のことを含む。
(a) 次のために、効果的な公衆啓発活動を開始し及び維持すること。

 (i) 障害のある人の権利を受容する態度の育成

 (ii) 障害のある人に対する肯定的認識及び一層高い社会的意識の促進

 (iii) 障害のある人の技能、功績及び能力並びに職場及び労働市場への貢献に対する認識の促進

(b) すべての段階の教育制度、特に幼年期からのすべての子どもの教育制度において、障害のある人の権利を尊重する態度を促進すること。

(c) すべての媒体〔メディア〕機関が、この条約の目的に合致するように障害のある人を描写するよう奨励すること。

(d) 障害のある人及びその権利に対する意識を向上させるための訓練計画を促進すること。

第9条 アクセシビリティ
1 締約国は、障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にするため、障害のある人が、他の者との平等を基礎とし て、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術〔情報通信機器〕及び情報通信システムを含む。)、並びに公衆に開かれ又 は提供される他の施設〔設備〕及びサービスにアクセスすることを確保するための適切な措置をとる。このような措置は、アクセシビリティにとっての妨害物及 び障壁を明らかにし及び撤廃することを含むものとし、特に次の事項について適用する。

(a) 建物、道路、輸送機関その他の屋内外の施設〔設備〕(学校、住居、医療施設〔医療設備〕及び職場を含む。

(b) 情報サービス、通信サービスその他のサービス(電子サービス及び緊急時サービスを含む。)

2 締約国は、また、次のことのための適切な措置をとる。

(a) 公衆に開かれ又は提供される施設〔設備〕及びサービスのアクセシビリティに関する最低基準及び指針を策定し及び公表すること、並びにこれらの最低基準及び指針の実施を監視〔モニター〕すること。

(b) 公衆に開かれ又は提供される施設〔設備〕及びサービスを提供する民間主体が、障害のある人にとってのアクセシビリティのあらゆる側面を考慮に入れることを確保すること。

(c) 障害のある人が直面するアクセシビリティに係る問題についての訓練をすべての関係者に提供すること。

(d) 公衆に開かれた建物その他の施設〔設備〕において、点字表示及び読みやすく理解しやすい形式の表示を提供すること。

(e) 公衆に開かれた建物その他の施設〔設備〕のアクセシビリティを容易にするためのライブ・アシスタンス〔人又は動物による支援〕及び媒介者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳者を含む。)のサービスを提供すること。

(f) 障害のある人が情報にアクセスすることを確保するため、障害のある人に対する他の適切な形態の援助及び支援を促進すること。

(g) 障害のある人が新たな情報通信技術〔情報通信機器〕及び情報通信システム(インターネットを含む。)にアクセスすることを促進すること。

(h) 早い段階において、アクセシブルな情報通信技術〔情報通信機器〕及び情報通信システムに関する設計、開発、生産及び分配を、それらを最小の費用でアクセシブルにするようにして促進すること。

第10条 生命に対する権利
 締約国は、すべての人間が生命に対する固有の権利を有することを再確認し、また、障害のある人が他の者との平等を基礎として当該権利を効果的に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる。

第11条 危険のある状況及び人道上の緊急事態
 締約国は、国際法、特に国際人道法及び国際人権法に基づく義務に従い、危険のある状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)における障害のある人の保護及び安全を確保するためのすべての必要な措置をとる。

第12条 法律の前における平等な承認
1 締約国は、障害のある人が、すべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する。

2 締約国は、障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。

3 締約国は、障害のある人がその法的能力の行使に当たり必要とする支援にアクセスすることができるようにするための適切な措置をとる。

4 締約国は、国際人権法に従い、法的能力の行使に関連するすべての措置には濫用を防止するための適切かつ効果的な保護が含まれることを確保する。当該保護 は、法的能力の行使に関連する措置が、障害のある人の権利、意思及び選好を尊重すること、利益相反及び不当な影響を生じさせないこと、障害のある人の状況 に対応し及び適合すること、可能な限り最も短い期間に適用すること、並びに権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関による定期的な審査に服する ことを確保するものとする。当該保護は、当該措置が障害のある人の権利及び利益に及ぼす影響の程度に対応したものとする。

5 締約国は、この条の規定に従うことを条件として、財産の所有又は相続についての、自己の財務管理についての並びに銀行貸付、抵当その他の形態の金融上の信 用への平等なアクセスについての障害のある人の平等な権利を確保するためのすべての適切かつ効果的な措置をとる。締約国は、また、障害のある人がその財産 を恣意的に奪われないことを確保する。

第13条 司法へのアクセス
1 締約国は、障害のある人がすべての法的手続(調査〔捜査〕段階その他の予備段階のものを含む。)において直接及び間接の参加者(証人を含む。)として効果 的な役割を果たすことを容易にするため、手続上の配慮及び年齢に適した配慮を行うこと等により、障害のある人が他の者との平等を基礎として司法に効果的に アクセスすることを確保する。

2 締約国は、障害のある人が司法に効果的にアクセスすることを確保することに役立てるため、司法に係る分野に携わる者(警察官及び刑務官を含む。)に対する適切な訓練を促進する。

第14条 身体の自由及び安全
1 締約国は、次のことを確保する。

(a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、身体の自由及び安全についての権利を享有すること。

(b) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、自由を不法に又は恣意的に奪われないこと、いかなる自由の剥奪も法律に従い行われること、及びいかなる場合においても自由の剥奪が障害の存在により正当化されないこと。

2 締約国は、障害のある人が、いずれの手続を通じても自由を奪われた場合には、他の者との平等を基礎として国際人権法による保障を受ける権利を有すること、並びにこの条約の趣旨及び原則に従い取り扱われること(合理的配慮を行うことによるものを含む。)を確保する。

第15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
1 いかなる者も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。特に、いかなる者も、その自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない。

2 締約国は、障害のある人が拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けることを、他の者との平等を基礎として防止するため、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。

第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
1 締約国は、家庭の内外におけるあらゆる形態の搾取、暴力及び虐待(これらのジェンダーを理由とする状況を含む。)から障害のある人を保護するためのすべての適切な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる。

2 締約国は、また、搾取、暴力及び虐待の事案を防止し、認識し及び報告する方法に関する情報及び教育を提供すること等を通じて、特に、障害のある人並びにそ の家族及び介助者に対してジェンダー及び年齢を考慮した適切な形態の援助及び支援を行うことを確保することにより、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待を防 止するためのすべての適切な措置をとる。締約国は、保護サービスが年齢、ジェンダー及び障害を考慮したものであることを確保する。

3 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待の発生を防止するため、障害のある人向けのすべての施設〔機関・設備〕及び計画が、独立した当局により効果的に監視〔モニター〕されることを確保する。

4 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待の被害者となる障害のある人の身体的、認知的及び心理的な回復、リハビリテーション並びに社会復帰〔社会的再 統合〕を促進するためのすべての適切な措置(保護サービスの提供によるものを含む。)をとる。このような回復及び復帰は、障害のある人の健康、福祉、自尊 心、尊厳及び自律を促進する環境において行われるものとし、ジェンダー及び年齢に特有の必要〔ニーズ〕を考慮に入れる。

5 締約国は、障害のある人に対する搾取、暴力及び虐待の事案が明らかにされ、調査〔捜査〕され、かつ、適切な場合には訴追されることを確保するための効果的な法令及び政策(女性及び子どもに重点を置いた法令及び政策を含む。)を策定する。

第17条 個人のインテグリティ〔不可侵性〕の保護
 障害のあるすべての人は、他の者との平等を基礎として、その身体的及び精神的なインテグリティ〔不可侵性〕を尊重される権利を有する。

第18条 移動の自由及び国籍
1 締約国は、障害のある人に対し、他の者との平等を基礎として、移動の自由、居所を選択する自由及び国籍についての権利を認めるものとし、特に次のことを確保する。

(a) 障害のある人が、国籍を取得し及び変更する権利を有すること、並びにその国籍を恣意的に又は障害を理由として奪われないこと。

(b) 障害のある人が、国籍に係る文書若しくは身元に係る他の文書を入手し、所有し及び利用する法的資格、又は移動の自由についての権利の行使を容易にするために必要とされることのある関連手続(出入国手続等)を行う法的資格を、障害を理由として奪われないこと。

(c) 障害のある人が、いずれの国(自国を含む。)からも離れる自由を有すること。

(d) 障害のある人が、自国に入国する権利を恣意的に又は障害を理由として奪われないこと。

2 障害のある子どもは、出生の後直ちに登録されるものとする。障害のある子どもは、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、可能な限りその親を知りかつその親によって養育される権利を有する。

第19条 自立した生活〔生活の自律〕及び地域社会へのインクルージョン
 この条約の締約国は、障害のあるすべての人に対し、他の者と平等の選択の自由をもって地域社会で生活する平等の権利を認める。締約国は、障害のある人に よるこの権利の完全な享有並びに地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加を容易にするための効果的かつ適切な措置をとるものとし、特に 次のことを確保する。

(a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること、並びに特定の生活様式で生活するよう義務づけられないこと。

(b) 障害のある人が、地域社会における生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む。)にアクセスすること。

(c) 一般住民向けの地域社会サービス及び施設〔設備〕が、障害のある人にとって他の者との平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害のある人の必要〔ニーズ〕に応ずること。

第20条 個人の移動性
 締約国は、障害のある人が可能な限り自立〔自律〕して移動することを確保するための効果的な措置をとるものとし、特に次のことを行う。

(a) 障害のある人が、自ら選択する方法で、自ら選択する時に、かつ、負担可能な費用で移動することを容易にすること。

(b) 障害のある人が、質の高い移動補助具、補装具〔補助器具〕、支援技術〔支援機器〕、ライブ・アシスタンス〔人又は動物による支援〕及び媒介者のサービスにアクセスすることを、特に、これらを負担可能な費用で利用可能なものとすることにより容易にすること。

(c) 障害のある人に対し及び障害のある人と共に行動する専門職員に対し、移動技能の訓練を提供すること。

(d) 移動補助具、補装具〔補助器具〕及び支援技術〔支援機器〕を生産する主体が、障害のある人の移動のあらゆる側面を考慮に入れるよう奨励すること。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報へのアクセス
 締約国は、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、第2条に定めるあらゆる形態のコミュニケーションであって自ら選択するものにより、表現及び意 見の自由(情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。)についての権利を行使することができることを確保するためのすべての適切な措置をとる。この ため、締約国は、特に次のことを行う。

(a) 障害のある人に対し、適時にかつ追加の費用の負担なしに、様々な種類の障害に適応したアクセシブルな様式及び技術〔機器〕により、一般公衆向けの情報を提供すること。

(b) 障害のある人が、その公的な活動において、手話、点字、拡大代替〔補助代替〕コミュニケーション並びに自ら選択する他のすべてのアクセシブルなコミュニケーションの手段、形態及び様式を用いることを受け入れ及び容易にすること。

(c) 一般公衆にサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間主体が、情報及びサービスを障害のある人にとってアクセシブルかつ使用可能な様式で提供するよう勧奨すること。

(d) 大衆媒体〔マス・メディア〕(インターネットで情報を提供する主体を含む。)が、そのサービスを障害のある人にとってアクセシブルなものとするよう奨励すること。

(e) 手話の使用を承認し及び促進すること。

第22条 プライバシーの尊重
1 障害のあるいかなる人も、居住地又は生活様式のいかんを問わず、そのプライバシー、家族、家庭又は通信その他の形態のコミュニケーションを恣意的に若しく は不法に干渉され、又は名誉及び信用を不法に攻撃されることはない。障害のある人は、このような干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。

2 締約国は、他の者との平等を基礎として、障害のある人の個人情報、健康に関連する情報及びリハビリテーションに関連する情報についてのプライバシー〔秘密性〕を保護する。

第23条 家庭及び家族の尊重
1 締約国は、他の者との平等を基礎として、婚姻、家族、親子関係及び親族関係に係るすべての事項に関し、障害のある人に対する差別を撤廃するための効果的かつ適切な措置をとるものとし、次のことを確保する。

(a) 婚姻をすることのできる年齢にある障害のあるすべての人が、両当事者の自由かつ完全な合意に基づいて婚姻をし及び家族を形成する権利を認めること。

(b) 障害のある人が、子どもの数及び出産間隔を自由にかつ責任をもって決定する権利、並びにその年齢に適した方法で生殖・出産及び家族計画に関する情報及び教 育にアクセスする権利を認めること。また、障害のある人がこれらの権利を行使することを可能とするために必要な手段を提供すること。

(c) 障害のある人(障害のある子どもを含む。)が他の者との平等を基礎として生殖能力を保持すること。

2 締約国は、子どもの後見、監督、管財、養子縁組又は国内法令にこれらに類する制度が存在する場合にはその制度についての障害のある人の権利及び責任を確保 する。あらゆる場合において、子どもの最善の利益は至上である。締約国は、障害のある人が子どもの養育についての責任を遂行するに当たり、その者に対して 適切な援助を与える。

3 締約国は、障害のある子どもが家族生活について平等の権利を有することを確保する。締約国は、この権利を実現するため並びに障害のある子どもの隠匿、遺 棄、放置及び隔離を防止するため、障害のある子ども及びその家族に対し、包括的な情報、サービス及び支援を早期に提供することを約束する。

4 締約国は、子どもがその親の意思に反してその親から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が、司法の審査に従うことを条件として、適用のあ る法律及び手続に従い、その分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。いかなる場合にも、子どもは、その子どもの障 害又は一方若しくは両方の親の障害を理由として親から分離されない。

5 締約国は、最も近い関係にある家族〔親及び兄弟姉妹〕が障害のある子どもを監護〔ケア〕することができない場合には、より広い範囲の家族の中で代替的な監 護〔ケア〕を提供し、また、これが不可能なときは、地域社会の中の家庭的な環境で代替的な監護〔ケア〕を提供するためのすべての努力を行うことを約束す る。

第24条 教育
第25条 健康
第26条 ハビリテーション及びリハビリテーション
第27条 労働及び雇用
第28条 適切〔十分〕な生活水準及び社会保護
第29条 政治的及び公的活動への参加
第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
第31条 統計及びデータ収集
第32条 国際協力
第33条 国内的な実施及び監視〔モニタリング〕
第34条 障害のある人の権利に関する委員会
第35条 締約国の報告
第36条 報告の検討
第37条 締約国と委員会との協力
第38条 委員会と他の機関との関係
第39条 委員会の報告
第40条 締約国会議
第41条 寄託先
第42条 署名
第43条 拘束されることについての同意
第44条 地域的な統合のための機関
第45条 効力発生
第46条 留保
第47条 改正
第48条 廃棄
第49条 アクセシブルな様式
第50条 正文


http://www.normanet.ne.jp/~jdf/shiryo/convention/30May2008CRPDtranslation_into_Japanese.html



Convention on the Rights of Persons with Disabilities

http://www.un.org/esa/socdev/enable/plenaryofga06.htm,

visited 19 February 2007


「障害者の権利に関する条約」の日本政府仮訳

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/shomei_32.pdf,

visited 11 October 2007


電力改革決戦、春の陣 日経ビジネス オンライン

2012年03月17日 15時15分39秒 | Weblog

                              ※ (図クリックで拡大)

 

 「46都道府県に使用済み核燃料を分散して保管する」 福島第一原発4号機建屋に入った唯一の国会議員、馬淵澄夫・元国交相との対話(上)

2012年3月16日 金曜日
山岡 淳一郎


 前回「『枝野VS東電』『原発再稼働』ではない問題の本質」で、錯綜する電力改革論議の論点を整理し、その本質が根本的なエネルギー政策の練り直しであることを示す見取り図を提示した。そこで浮き彫りになったのは核燃料サイクル問題の重要性。明確な意思表示をする政治家が少ない中で、馬淵澄夫・元国交相は「原子力バックエンド問題勉強会」を立ち上げ、「技術的、経済的に核燃料サイクルはフィクション」と問題提起を投げかける。馬淵氏にノンフィクション作家の山岡淳一郎氏が真意を聞いた。

山岡:現在、エネルギー政策の新方針「革新的エネルギー・環境戦略」の策定(夏)に向けて政府内でさまざまな議論が進んでいます。東電の国有化や原発再稼働など派手な話題に世間の耳目は集まりがちですが、電力改革の本丸は、むしろ総合資源エネルギー調査会の基本問題委員会で議論されているエネルギーの「ベストミックス選択肢」。ここで原発をどう減らすか、他の電源とどう組み合わせるかが論じられています。

 そしてベストミックスと非常に密接に関連しているのが原子力委員会で検討中の「原子力政策大綱」の練り直し。とくに「核燃料サイクルの選択肢」をつくること。原発を減らせば、必然的に核燃料サイクルは先細る。原発がゼロになれば、使用済み燃料を再処理して軍事転用できるプルトニウムを抽出し、MOX燃料をつくって原発でリサイクルする意味はなくなります。ベストミックスと核燃料サイクルは、電力改革で極めて重要なテーマですね。

馬淵:そうです。電力改革論議のメインストリームです。

山岡:馬淵さんは原発の推進派、反対派、立地選出議員など民主党内73名の議員で「原子力バックエンド問題勉強会」を組織され、先ごろ「第一次提言」をまとめられました。そもそも使用済み燃料の処理問題に突っ込もうと思われたきっかけは何だったのですか。
「押しつぶされそうな恐怖を感じました」

馬淵:理由は二つあります。第一に菅総理から原発対応の首相補佐官に任命され、国会議員でただ一人、福島第一原発4号機の建屋内に入ったことです。補佐官となって、すぐに陸海空で漏れ出る放射性物質の封じ込めと4号機の耐震補強工事を命じました。大きな余震で、4号機の核燃料プールが崩れたら、再臨界もありうる。恐るべき状況でした。他の工事は無線でリモート化できたけど、4号機燃料プールの耐震補強は、高線量下の有人作業が避けられませんでした。これには判断に、もの凄く苦しみました。でも、やんなきゃいけない。要員確保も難しい短サイクルタイムでの作業にゴーを出した。そして工事の現認のため昨年6月11日、4号機建屋に入ったんです。

山岡:6月じゃ、通電していないから、真っ暗ですよね。

馬淵:ええ、押しつぶされそうな恐怖を感じました。完全防護で、許された時間は20分間。頭上は真っ暗闇で、厚さ1.5メートルの床版、コンクリートの塊が覆いかぶさってくる。それが崩れるかもしれない状態で耐震補強でしょ。床版の上には使用済み燃料が1590本も入っている。使用中のものまで混じってね。補強はコンクリート打設の余裕なんてないから、鋼製支柱を床版の梁に林立させて、組むわけです。人力で必死に組んでね、しっかりプールを支えていましたよ。

 作業員には、ほんとに頭が下がりました。と同時に、被災して故郷を奪われ、家族バラバラになっている方々のことを思うと、胸が張り裂けそうだった。この責任は、いったい誰が取れるんだ、と。しかも全国54基に全部燃料プールはあると言うんだからね。いや、とんでもない。そこが出発点でした。
「中断していた原子力政策大綱の見直しが、突然、動き出した」

山岡:昨夏の民主党代表選挙に立候補されて、脱原発依存、バックエンド問題の解決を訴えましたね。

馬淵:代表選でバックエンド問題を言ったのは僕だけでした。だけど泡沫候補扱いされて、24票で敗れました。それが8月29日。で、翌日、中断していた原子力政策大綱の見直しが、突然、動き出した。うわっ、と思った。これは、見ていたわけでしょう。

山岡:……原子力まわりの政治のようすを、ね。ムラの人たちが(笑)。

馬淵:調べたら、原子力政策は大綱見直しだけで動く話じゃなかった。野田政権は、資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会で基本計画を見直して「ベストミックス」をつくるところからやる、とわかった。こっちは需要から組み立てる。でも産業に必要な電力供給の話になれば、原発見直しの機運なんて高まりません。

 ならば、やっぱり大綱のバックエンド。人類の存亡がかかるリスクを抱えて、目を背けることができない課題で、一番重い。これしかないな。ここに焦点を絞って突破して、ベストミックス、発送電分離、東電国有化、原発再稼働の再考などへ戦線を広げていこうと決めました。これが二つ目の理由です。

山岡:核燃料サイクルの一点突破、エネルギー政策への全面展開ですね。だけど、勉強会の立ち上げは簡単じゃなかったでしょう。国会議員の皆さんは、地元で電力会社のお世話になっていますからね。地域随一の企業の方針に逆らうかもしれないのだから。

馬淵:一人ずつお願いしました。イデオロギー的な流れで、反原発の人ばかり集まってもしょうがない。推進派、原発立地選挙区の人にも入ってもらって、地元の合意をとるプロセスを踏んでいかなきゃいけない。そこは大前提でした。とにかく虚心坦懐にバックエンド問題と向き合って、立場を超えて勉強し、議論しようと呼びかけました。
「責任保管の概念が鍵ですね」

山岡:なるほど。14回の勉強会と、茨城県東海村大洗の研究所、青森県六ヶ所村の再処理施設、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」を視察して、一次提言をまとめましたね。検証の基本原則に「受益と負担の公平性」「公的関与の強化」「科学的知見の蓄積」そして「モラトリアム」を掲げています。

 そして「責任保管」の概念を提示した。これが鍵ですね。従来の「中間貯蔵」ではなく、国が中心になって責任保管体制を整備した上で、六ヶ所村の再処理施設は稼動を当面中断、MOX燃料を軽水炉で燃やすプルサーマルも当面中断する、と。責任保管って何ですか。
「核燃料サイクルはフィクションです」

馬淵:一次提言は、結論を書いてはいません。あくまでも問題提起ですが、技術的にも、経済的にも核燃料サイクルはフィクションです。基本的に「立ち止まって考えるべき」だと思う。その時間を確保することが大切です。国際競争の観点からも、複数の政策を可能にする時間が必要です。なので、将来的なメドが立つまで、放射性廃棄物を、50~100年間くらい、責任をもって保管する体制に転換していきます。具体的には、使用済み核燃料については、その需要者(電力会社)と負担者(自治体)の公平性が保てる状況を築きながら、「ドライキャスク(乾式貯蔵容器)」で保管する。

 案1では、沖縄を除く各都道府県に一か所ずつ、この責任保管場所を設置することを原則としました。ただし、自治体間で合意があれば、ある自治体が他の自治体の保管すべき使用済み核燃料を引き受けることも認める、としています。
「46都道府県で使用済み燃料の保管負担をシェアする」

山岡:要するに46都道府県で使用済み燃料の保管負担をシェアするわけだ。原発の電力を使っている大都市圏の受益者も、それに応じて負担をしなさい、と。原則論としては明解ですが、各都道府県の現場は紛糾するでしょうね。政治がどうコミットできるのか。

馬淵:これは激論が交わされたところですが、実際にやるとなれば、大騒ぎになります。しかし避けては通れない議論です。自治体間取引も認めるとしていますから、お金で解決もアリなんですね。じゃあ、どういう権限で国が公的範囲の関わりを強化しながら、自治体間で、その取り決めしてもらうか。これは大変なことになります。案1というのはある意味、問題提起のど真ん中なんですね。

 それで、案2で、9電力会社の管内で保管する例もあげました。ただ、これは僕自身、書いていてちょっと否定的だったんです。それを認めると9電力体制の是認になりますからね。でも例示としては必要だろう。案3は、国が全国のバランスを考えて、いくつかの国有地を選択し、そこに責任保管場所を設置するというもの。これも実際には難しい。やはり、案1を中心にどう折り合いをつけていくか。

山岡:「3.11」以降、取材で福島県に通っていますが、除染で出た放射能を帯びた廃棄物の「仮置き場」ですら地元では猛烈な反発が起きて、なかなか決まらない。厄介なモノを排除したい欲求と、皆で負担しなくては泥船が沈む現実。これに折り合いをつけるには政治の力が求められますが、やはり説得材料は、お金ですか。

馬淵:もちろん、いずれの場合でも責任保管場所から半径三〇キロ圏内の自治体あるいは住民に対する財政措置は必要でしょう。財源としては、原子力発電を行っている電力会社の顧客への賦課金の創設や、電源三法の見直しなど、いろいろお金の出し方はある。そこは考えなきゃいかん。ただね、大事なのは、どのような原則で、何から議論するかという順番だと思います。まずは、使用済み核燃料の処理は、電力を使う自分たちの問題なのだという原則を、全国で負担を分け合う議論から始めることで確認しなくては。

山岡:実際には、ドライキャスクにせよ、保管先が全国に散らばれば、セキュリティ上の問題なども生じますね。

馬淵:安全保障の観点からは、集約化した方がいいわけです。警備の点から見ても。じゃあ、集約化するには何処がいいかとなると、またすぐに、青森の六ヶ所村があるじゃないかという人が出てくる。でも集約化するから青森では、何の見直しにもならない。そういう話にした瞬間、受益と負担の公平性の大前提が崩れるわけです。

山岡:青森県は、核燃料サイクルの国策に沿って、再処理施設を造ってきました。国と青森県の間には「最終処分場にはしない」という約束があるから、核燃料サイクルをやめるとなった瞬間、預かっている放射性廃棄物が「原発のごみ」となり、各原発に送り返される可能性もある。それはかなわん、青森県さん預かって、という県も出てくるかも。

馬淵:青森県が、じゃあ代わりに保管しようと言う可能はゼロではないかもしれない。案としては自治体間取引も認めています。自治体間取引が現実になる可能性は否定しません。ただし議論の出発点、プロセスが重要です。立地自治体と受益者である自治体が、本当に自らの問題として考えた結果として自治体間で取引されるならいいでしょう。
「受益と負担の公平は大原則」

 しかし、いままでの原子力政策は、そういう原則を決めず、なし崩し的にお金で解決しようとやってきた。その結果が、このありさまです。最初から狭い選択肢で決め打ちするのではなく、広い視野で絞り込んでいくプロセスが必要。悩ましいけれど、受益と負担の公平は大原則だと思う。

山岡:今回の提言は「人」と「組織」の問題にも踏みこんでいる点が目を引きます。実質的に研究開発が凍結中の高速増殖炉「もんじゅ」の関係者は2千人いるといわれます。

馬淵:一直線の核燃料サイクル路線から撤退するとはいえ、科学的知見の蓄積は求められます。今後、廃炉などの技術の確立も欠かせません。もんじゅの研究者は、研究修了というか、いわゆる卒業論文を書かないといかんわけですよ。卒業論文を書いて、卒業証書をもらう段階です。だからと言って、40パーセントの出力実験を認めて、目いっぱいやっていいよという話ではない。それは認められない。

山岡:原子力研究開発機構(JAEA)の改組にも触れていますね。

馬淵:はい。バックエンドの研究と対応の機構を設立し、そこに核燃料の処理の研究や福島第一原発や既存原発の廃炉処理を担当させる。その際、核融合研究など新エネルギーに関連する部分は、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)へ、J-PARC(大強度陽子加速器施設)などの基礎研究部門は理化学研究所などと新たに統合改変される研究開発型法人に、安全研究については、4月に発足する原子力規制庁へとそれぞれ移管していけばいい。

山岡:旧核燃料サイクル機構と旧原子力研究所が合体したJAEAは、組織を維持するのは難しいですか。

馬淵:どう考えても、JAEAはいまのままでは無理ですね。もともと現場に近い核燃料サイクル系と、研究畑の原研では組織間の文化や考え方がかなり違います。連携もよろしくない。だから現場に近い核燃料サイクル系の人たちは、福島第一の廃炉技術開発とバックエンドの研究・対応を合わせた新機構を設けて、そこに集約する。現場と関わった方が、彼らの力も生きるでしょう。原研系の研究グループは、研究テーマに沿って他の組織と統合していく。そう考えました。
「廃炉とバックエンドの開発機構は、新たにつくる」

山岡:廃炉とバックエンドの開発機構は、新たにつくるわけですか。

馬淵:そうです。われわれの議論のなかで、行政改革の流れを重視して、原子力規制庁に統一しろという意見もありましたが、あえてバックエンドの機構を設けようということを提言しています。それほど直面する課題が大きいから。でも、もちろん行革は重要ですから、自分たちの案に固執しているわけではありません。組織の統廃合は不可欠です。

山岡:再処理を中断すれば、事業者の日本原燃は経営に行きづまりますね。

馬淵:再処理が止まれば、原燃の債務超過が発生します。だから、原燃に関しては、提言で、その「会社のあり方・国の関与のあり方を含め、ゼロベースで検討する」と記しています。原燃は、電気事業連合会と日本原子力発電の出資でスタートしましたが、実質的には東京電力の子会社です。東電が原子力損害賠償支援機構の資本注入で国有化されれば、当然、原燃も国有化の道をたどる。そのとき、国の関与のあり方は、公的資金の注入を含めて、どうするか。議論を組み込まなくてはいけません。

山岡:ムラの人たちの抵抗は、激しいでしょうね。

馬淵:福島の教訓を得たわれわれが、少なくとも今後、果たすべき役割は、科学的知見の蓄積とイノベーションで放射性物質の除去、廃炉、核燃サイクルを止める方向にあるでしょう。原子力の平和利用というなかで、平和的収束に取り組まなくちゃ。

山岡:原発の看取りをするわけですね。原発を看取って、一方で、新たなエネルギー源を生み、育てなければいけない時期にきている。
「韓国は、最近、しきりにアメリカに再処理をやらせてくれ、と申しこんでいる」

馬淵:結果的にはね。すぐゼロにできないことはわかっています。ただ、核燃料サイクルは、やっぱり提言でも結論づけましたが、フィクションです。フィクションを永遠に回すわけにはいかない。一次提言を踏まえて、次の課題が見つかりました。その論点整理に、そろそろ入ります。

山岡:次の課題とは?

馬淵:やはり「エネルギー安全保障」に関する部分です。再処理は、とくにそこにかかわってくる。韓国は、最近、しきりにアメリカに再処理をやらせてくれ、と申しこんでいる。北朝鮮の問題があるから。もちろんアメリカは首をタテには振りませんけどね。

(次回に続く)
■変更履歴
本文中「太陽度陽子加速器施設」は「大強度陽子加速器施設」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。[2012/03/16 16:16]
このコラムについて
電力改革決戦、春の陣

 福島第一原発事故の大波乱で始まった電力改革。東電の経営問題や発送電分離、原発再稼働や電力供給体制の見直しは、いわば「局地戦」だ。主戦場は、原子力依存の低減と再エネや火力、水力との電源の組み合わせ=「ベストミックス」という根本策の立案をめぐって形成されている。
 政府内で並行的に進められる電力改革議論を整理し、主戦場と局地戦場、それぞれでどのような価値観がぶつかりあっているかを読み解き、いかなる選択肢が国民に示されるのかを見届ける。

馬淵澄夫・元国交相
横浜国立大学工学部卒業後、上場企業役員を経て政界へ。2003年衆議院議員初当選。2010年国土交通大臣・内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策)、2011年民主党広報委員長などを歴任。東日本大震災発生を受け、同年3月内閣総理大臣補佐官(東北地方太平洋沖地震及び原子力発電所事故対応担当)就任、同年6月退任。現在民主党奈良県第1区総支部長




「枝野VS東電」「原発再稼働」ではない問題の本質
エネルギー百年の大計、乱戦の全貌

2012年3月9日 金曜日
山岡 淳一郎


 情報の濁流のなかで、私たちは、しばしば本質論を見失いがちになる。目の前に差し迫った課題と、中長期的な国をあげて議論し、決断しなくてはならない根本方針が一緒くたに情報化され、どこに判断の「重心」を置けばいいか、わからなくなるのだ。つい目の前のイシューに引きずられ、メインストリームを忘れてしまう……。

 その典型が、電力改革をめぐる政府内の同時並行的な議論ではないだろうか。

 メディアは、しきりに東京電力の経営問題を報じる。経営危機に陥った東電は、原子力損害賠償支援機構を通じて1兆円規模の公的資金を受けるために「総合特別事業計画」を月内に経済産業大臣へ提出しなくてはならない。その事業計画を見極めて、公費注入が決まるわけだが、枝野幸男経産相は「国の十分な議決権が伴わない計画が提出されても、認定するつもりはまったくない」と東電側に通告している。

 枝野大臣は、東電株の3分の2以上の議決権を国が持ち、経営を掌握する姿勢を崩さない。「国有化」が念頭にある。経営権を握ったうえで、東電の抵抗が強かった「発送電分離」へと踏み込む構えだ。

 これに対して、東電は、国有化での政府負担増を嫌う財務省や、経団連の加勢を得て、猛烈な巻き返しを図っている。枝野氏が「十分な議決権」を確保できるか否かに彼の政治生命はかかっているともいわれており、そのバトルに世間の耳目は集まる。

 新聞各紙は、東電の特別事業計画の概要は固まった、と伝えている。

 特別事業計画には「早ければ7月から家庭向け料金10%程度値上げ」「2014年3月末までに新潟・柏崎刈羽原発の再稼働」「社内カンパニー制(燃料調達・火力発電、配送電、小売)」「共同調達による燃料の安い買い付け」「LNG基地やパイプラインをガス会社と共用」などが含まれるとみられる。いずれも市民生活、産業界のエネルギー調達を左右する内容で、社会的な関心の的だ。

 東電という大企業の身の処し方は、発送電分離による電力自由化、再生可能エネルギーの導入や4月末に定期検査ですべてが停止する原発の再稼働に直結しており、メディアが追いかけるのは当然といえるだろう。
電力改革を巡る本当の主戦場

 が、しかし、あえていえば、福島第一原発事故の大波乱で始まった電力改革の「主戦場」は、そこではない。東電の経営問題や発送電分離、原発再稼働や電力供給体制の見直しは、いわば「局地戦」だ。主戦場は、原子力依存の低減と再エネや火力、水力との電源の組み合わせ=「ベストミックス」という根本策の立案をめぐって形成されている。

 原子力を何年後にゼロにするのか、あるいは一定程度維持するのか。大もとが定まらなければ具体的な各論は絵に描いた餅になる。その根本策を議論している場こそ、主戦場だ。

 経産省の外局である資源エネルギー庁の「総合資源エネルギー調査会」、内閣府の「エネルギー・環境会議」と「原子力委員会」が、それに当たる。

 この連載では、政府内で並行的に進められる電力改革議論を整理し、主戦場と局地戦場、それぞれでどのような価値観がぶつかりあっているかを読み解き、いかなる選択肢が国民に示されるのかを見届けていきたい。

 そのための見取り図を次ページに用意した。注目していただきたいのは、各議論が並行的に進行しながらも、今夏には最終的にひとつの戦略に収斂されることだ。

          ( ※ 下記図はページ上部図クリックで拡大 )



 8月頃、ベストミックスを絞り込んだ『革新的エネルギー・戦略』が発表される。とりまとめの担当は、古川元久戦略相。これが電力改革決戦のゴールと位置づけられており、総合資源エネルギー調査会や原子力委員会、温暖化関連の議論が集約される。その前には「国民的議論の展開」という大きな山場が待ち構えている。

 遡って、春頃、3月から5月にかけて、東電の特別事業計画や総合資源エネルギー調査会の「ベストミックス選択肢」、原子力政策の根幹をなす「核燃料サイクルの選択肢」などが提示され、地方議会では原発再稼働が議論される。再稼働については自治体の承認を得たうえで、4大臣会議(総理、官房長官、経産大臣、原発大臣)で決めるとされている。昨年の電力使用制限令を出したタイミング(6月末)からすると、6月の地方議会に議論を先送りすることはできないだろう。4月には「原子力規制庁」が発足し、原発の安全基準や防災計画などの見直しが本格化する。再稼働は規制庁の動きともリンクしている。

 こう眺めてみると、今春は、日本の電力システム全体の命運をかけた論戦が一斉に活発化する。夏の決戦本番に向けての「春の陣」といえそうだ。
改革のキーパーソンは「枝野、細野、仙谷、馬淵」

 連載初回は、まず主戦場でのエネルギーのベストミックス論議に焦点を当てよう。

 「政治家で、電力改革に影響力を持っているのは、枝野経産大臣、細野豪志原発大臣、そして民主党政調会長代行の仙谷由人さん。発送電分離を検討する『電力改革及び東京電力に関する関係閣僚会合』は、藤村修官房長官が座長だけど、枝野さんが切り盛りしています。その枝野さんに知恵を授けて、東電対応の窓口になっているのが仙谷さんですね」

 と、経産省のキャリア官僚は言う。さらに「いまは閣外だけど、馬淵澄夫・元国交大臣も『核燃料サイクル』に焦点を絞って積極的に発言している」とつけ加えた。

 電力改革のゴールで『革新的エネルギー・戦略』を担う古川戦略相については「うーむ……」と黙り込む。古川氏の影が薄いのは、国家戦略室の軽さだけでなく、今回の電力改革が原発事故に端を発しているからでもあろう。

 電力改革の根幹は、東電の処遇ではなく、この国のエネルギー政策の大方針「エネルギー基本計画」の練り直しである。

 政府は、2010年6月の閣議で、エネルギー基本計画を閣議決定した。この計画では、温暖化対策、CO2削減が最大の眼目とされ、原発を2020年までに9基増設。設備利用率を、60%程度から85%に上げると明示する。原発の発電割合をじつに50%ちかくまで高める計画だった。

 ところが事故で福島第一原発の4基は閉鎖される。福島県は福島第二を含めた10基の閉鎖を主張する。新潟県の泉田裕彦知事や、静岡県の川勝平太知事も再稼働には消極的だ。各地で原発の閉鎖、縮小運動が起きている。

 原発に頼り切ったエネルギー基本計画は、原発の爆発で安全神話とともに砕け散った。菅直人前首相は「脱原発」を掲げる。後任の野田佳彦首相は「脱原発依存」とややトーンダウンしたけれど、54基の維持は難しい。新造は諦めるしかない。原発事故という厳しい現実によって、エネルギー基本計画は根本から見直さざるをえなくなったのである。

 そこで、政治主導色がほしい民主党政権は、計画立案の組織構成を変えた。従来のエネルギー政策は経産省だけでまとめていたが、総理直属の国家戦略室に「エネルギー・環境会議」を設け、閣僚級メンバーを集める。ここを中心に新計画をつくる筋道をこしらえた。エネルギー・環境会議の『革新的エネルギー・環境戦略』を最上位に位置づけたのだ。
電力改革の最前線は「基本問題委員会」

 とはいえ、国家戦略室にエネルギーのベストミックスを考える技量はなく、実際の計画づくりは、経産省の総合資源エネルギー調査会の「基本問題委員会」に委ねられる。

 この基本問題委員会こそ、目下、電力改革の最前線だ。新日鉄会長の三村明夫氏が委員長を務める基本問題委員会は、3月末(ずれ込んだとしても数日単位か)にはエネルギーのベストミックス選択肢を「複数」、エネルギー・環境会議に提示するとみられる。

 基本問題委員会の委員は、別表のとおりだ。

 数的には「原子力ムラ」に籍を置く人や原発推進派が多いが、脱原発、発送電分離、電力自由化の論客も顔をそろえている。3月8日現在で14回の会議が開かれており、その模様はニコニコ動画で見られる。次回14日には、いよいよ各委員のベストミックス案が提示され、本格的な見直し論議に入っていく。

 昨年10月に委員会がスタートしてから2カ月ほどは委員のプレゼンテーションと質疑が延々と続くばかりで、議論の入口にも立たなかった。それが、年末に経産省の事務局による「論点整理」がいきなり出され、「望ましいエネルギーミックス」の基本的方向性として、下記の四つが示される。
(1) 需要家の行動様式や社会インフラの変革をも視野に入れ、省エネルギー・節電対策を抜本的に強化すること。
(2) 再生可能エネルギーの開発・利用を最大限加速化させること。
(3) 天然ガスシフトを始め、環境負荷に最大限配慮しながら、化石燃料を有効活用すること(化石燃料のクリーン利用)。
(4) 原子力発電への依存度をできる限り低減させること。

 さらに、事務局は原子力発電への依存度の低減や中長期的な位置付けについては、「反原発」と「原発推進」の二項対立を乗り越えた「国民的議論」の展開を強調し、次のように論点を整理した。

 「まず、我が国が直面する地震や津波のリスク、事故が起きた時の甚大なコストや苦しみ、地域経済の崩壊や環境への被害、不十分な安全管理技術や老朽化によるリスク、国民の暮らしの安心と安全、未解決で後世に負担を先送りかねない放射性廃棄物の処分問題、国民の多くの声などを踏まえ、できるだけ早期に(原子力発電から)撤退すべきとの意見が少なくなかった。
浮かび上がるキーワードは「エネルギー安全保障」

 一方で、原子力政策は抜本的見直しが必要であるものの、エネルギー安全保障の観点並びに原子力平和利用国としての国際的責任を果たすための技術基盤と専門人材の維持、さらには技術とともに進化してきた人類としての文明史的自覚の観点から、我が国の安全にも直結する他国での原子力発電の安全性確保に貢献するためにもやはり戦略的判断として一定比重維持すべきという意見も少なからず出された。資源小国の日本としてエネルギーの選択肢を安易に放棄してよいのかという問題提起もあった」

 この記述から、重要なキーワードが浮上してくる。

 「エネルギー安全保障」である。

 原発への依存度合をどこまで減らすのか。ゼロにするか、一定程度維持するかという議論の争点は、化石燃料や鉱物資源が乏しい日本がエネルギー源をどう安定的に確保するかという問題に集約されていく。安全保障(セキュリティ)の概念は「国防」とも絡む。

 論点整理では、使用済み燃料の再処理(=軍事転用可能なプルトニウムの抽出)が不可欠な核燃料サイクルについても「度重なるトラブルや計画変更、コスト拡大、未だに決まっていない高レベル放射性廃棄物の最終処分地といった実態を直視し、サイクル路線は放棄すべきとの意見が出た一方で、ウラン資源の有効活用、廃棄物の削減効果、世界の技術や核セキュリティ等への貢献の観点から、核燃料サイクルは推進すべきとの意見も出た」と記している。

 エネルギー安全保障とは、「国民生活、経済・社会活動、国防等に必要な『量』のエネルギーを、受容可能な『価格』で確保できること」(2010年版『エネルギー白書』)と定義されている。エネルギー安全保障を強化するには、まずは「自給率の向上」、次に「リスクを減らすこと」が基本となる。

 自給率の面で、原子力発電は「発電コストに占める燃料費の割合が小さい」「潜在的備蓄効果が高い」「燃料の再利用が可能」といった理由から「準国産」エネルギーに位置づけられてきた。その増設で自給率も高まる、という理屈で推進路線が敷かれた。
原発事故が突きつけた「エネルギー安全保障」の意味

 だが、原発事故の発生で12万人もの人びとが避難を強いられ、生活を破壊された。避難の大混乱のなかで高齢者を中心に亡くなった方も多数いる。住民の命と財産、生活を守れず、何が安全保障か、という本質的な問い返しを基本問題委員会は突きつけられている。自給率の向上を優先するなら、再生可能エネルギーは100%国産との見方もある。

 エネルギー供給を脅かすリスクには、戦争や内戦、資源の禁輸といった国際情勢の変化や資源の枯渇、価格高騰などがあげられる。実際に1970年代の石油危機、90年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争や05年メキシコ湾ハリケーンなどで資源供給が途絶えている。日本政府は、こうしたリスクを減らすために「多様な電源の確保」「資源供給源の多角化」などで対応してきた、とされている。

 3.11後も、アラブ、中東の国際情勢の緊迫化や、資源価格の高騰は続いている。こうしたリスクへの対応は、地下資源の乏しい日本にとって「宿命」といえよう。ベストミックスを検討する上での重大な論議の的となる。

 じつは、2月14日の基本問題委員会で、エネルギー安全保障にやや踏み込んだ意見が交換されている。(財)日本総合研究所理事長の寺島実郎氏は「総合エネルギー調査会への意見書No2」を提出している。

 そのなかで、次のように指摘した。

・国連五大国がすべて軍事利用としての「核」と平和利用としての原発を保有・推進しているのに対し、日本は平和利用だけに徹して原子力への技術基盤を蓄積してきたユニークな立場にある―――非核国で唯一、核燃料サイクルを国際社会から許容された国としての責任と役割

・日本のような技術を持った先進国、しかもエネルギーの外部依存の高い国は、技術基盤を生かしたバランスのとれた多様なエネルギー政策をとるべし――――IAEAの潜在期待(世界全体のエネルギー配分への配慮)

・日本が原発を放棄しても、二〇三〇年には東アジアに一〇〇基以上の原発が林立(とくに中国は80基以上の原発保有を計画)――――原子力への専門的技術基盤の蓄積なしに「非核政策」の推進さえも不可能

・『脱・原発』は『非武装中立論』に似ている。理論的に選択不能ではないが、これを長期に貫き通すには途方もない外交力と指導者の持続的ガバナンス不可欠

 そして、「電源供給における原子力の比重を2割と想定」という試案を出している。
「国防のための原発」という論点

 一方、富士通総研経済研究所主席研究員の高橋洋氏は、「エネルギー政策における安全保障の論点」という資料を提出する。

 核燃料サイクルの行きづまりや原発事故後の処理能力の低さから、原子力発電ははたして「準国産」といえるのか、再生可能エネルギーこそ輸入不要で、枯渇も高騰もなく、コスト等検証委員会報告書からも十分なポテンシャルが示されており、「準国産」と主張した。

 さらに「国防のための原発」との論点について、「日本が原発を持っていることが抑止力になっているという意見があったが、その一方で、北朝鮮やイランは原発という事業はやっていないにも関わらず、核抑止力を行使している。日本が今脱原発を決めたとしても、廃炉等々で50年あるいはそれ以上の期間、原発事業を続けるという時、国の役割はどうなるのか。国策国営でやるべきという意見があったが、国防のために原発をやるのだ、ということになった場合に国は原発とどう関わるべきか」(議事要旨より)と、問題提起をしている。

 このエネルギー安全保障をめぐる攻防が、今後の日本の針路を決すると思われる。各委員のベストミックス案を議論する3月14日の委員会でも、この問題に時間が割かれると考えられる。本来は経産省の一委員会で議論するテーマではなく、外交や国防も巻き込んだ、国民的議論が求められるものではあるが……。

 エネルギー安全保障論は、原子力委員会の「核燃料サイクルの選択肢」とも密接に関連している。軍事転用可能なプルトニウムを生む再処理は極めてデリケートな問題を含む。核燃料サイクル問題は、メディアに採りあげられる回数は少なくても、電力改革の主戦場のど真ん中に位置している。
電力改革の主戦場でど真ん中に位置する核燃料サイクル問題

 しかし、原発や再処理施設の地元選出の国会議員(推進派)を除けば、核燃料サイクルについて明確な意思表示をしている政治家は極めて少ない。降りかかる火の粉を怖れるからだろうか。そのなかで、元国土交通大臣の馬淵澄夫氏は、「原子力バックエンド問題勉強会」(顧問:鳩山由紀夫衆議院議員、鉢呂吉雄衆議院議員ほか73名参加)を組織し、昨年来、ひんぱんに会合を開いて、「第一次提案」を出した。そこには六ヶ所再処理施設の当面の中断や、核燃料サイクル方針の当面の凍結なども含まれている。

 次回は、その馬淵氏にインタビューし、「核燃料サイクルの選択肢」について語り合ってみたい。





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著者プロフィール

山岡 淳一郎
(やまおか・じゅんいちろう)
1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマとして、政治、経済、近現代史、医療、建築など幅広く執筆。福島県を中心に被災地と永田町、霞ヶ関を対比的に取材。4月初旬、『放射能を背負って―南相馬市長桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)を刊行予定。『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄 封じられた資源戦略』『国民皆保険が危ない』『原発と権力 戦後から辿る支配者の系譜』ほか著書多数。ブログはこちら。(写真:GOH FUJIMAKI)


澤敏雄弁護士が所属する麻生総合法律事務所で2010年3月25日に行われた40周年祝賀会への出席者

2012年03月07日 22時05分26秒 | Weblog
検察審査会で『起訴相当』とされた小沢幹事長

 日本においては、事件について裁判所へ公訴を提起(起訴)する権限は、原則として検察官が独占している(起訴独占主義)。 したがって、犯罪被害者等が特定の事件について、告訴を行うなど裁判がなされることを希望しても、検察官の判断により、不起訴・起訴猶予処分等になり公訴が提起されないことがある。

 不起訴・起訴猶予処分は警察官が犯罪を犯した場合に頻繁に行われる。 その典型的な例は、2001年7月20日に明石市大蔵海岸にて明石市民夏まつり花火大会が行われたさい群衆雪崩が発生、死者11名(10歳未満9名・70歳以上2名)と重軽傷者247名を出す大惨事となった。

 警備の責任者であった明石署の署長・副署長について書類送検されながら不起訴になった。 この処分を不服とした市民が神戸検察審査会に申し立て、3度起訴相当と議決をしたが、神戸地検は3回とも不起訴とした。

 2009年5月施行の改正検察審査会法により、「同一の事件について起訴相当と2回議決された場合には、起訴議決として必ず起訴される」こととなり、2010年1月27日に改正検察審査会法に基づき、検察審査会が副署長に対する起訴議決を行い、起訴されることが決定した。

 検察にとって警察は身内であり、痴漢、強姦、酒酔い運転、横領などで検挙されてもほとんどの事件で不起訴・起訴猶予処分となり、頻繁に起こる警察官の犯罪の温床になっている。

 このように、検察官の不起訴判断を不服とする者の求めに応じ、判断の妥当性を審査するのが、検察審査会の役割である。 検察審査会の議決は、検察官の恣意的な判断によって、被疑者が免罪され、犯罪被害者が泣き寝入りする事態を防ぐという役割を有する。

 司法に一般国民の常識を反映させるという目的で、検察審査会法により、各検察審査会管轄地域の衆議院議員の選挙権を有する国民の中から、くじで無作為に選ばれた11名で構成され、任期は6か月で、そのうち半数が3か月ごとに改選される。

 ほとんど法律の知識のない一般から選ばれるため、専門家として弁護士を審査補助員に委嘱して、審査を行なわなければならない、と決められている。 「起訴相当」と判断をした場合は、検察官に検察審査会議に出席して意見を述べる機会を与えたうえで、今度は8人以上の多数で「起訴をすべき議決」(起訴議決)がされる。

 ここから本題に入ります。

 今回小沢幹事長の審査に当たり裁判所が選んだ弁護士は米澤敏雄(73)と言う何とも胡散臭い者が選ばれており、裁判所も中立でない事を証明したような人選だった。 この米澤敏雄弁護士が所属する麻生総合法律事務所で2010年3月25日に行われた法律事務所40周年祝賀会への出席者を見ると、谷垣禎一、野田毅、中井洽、みのもんた(本名 御法川法男)などの名前が見える(http://www.aso-law.jp/topics.html)。 みのもんた以外の3人には偶然だろうが共通点がある。 3人とも国家公安委員長の経験者だと言う事だ。 野田は1999年小渕内閣で、谷垣は2002年小泉内閣で、そして中井は現職だ。 その上、米澤敏雄弁護士と谷垣が懇意である事実が分っている。

 この米澤敏雄弁護士が一般市民をダシに使い、導き出した結論は「起訴相当」だった。 しかしその「議決の要旨」の中に悪意に満ちた文章がちりばめられている。 例えば・・・

 (4) 絶対権力者である被疑者に無断で、A・B・Cらが本件のような資金の流れの隠蔽工作等をする必要も理由もない。
 これらを総合すれば、被疑者とA・B・Cらとの共謀を認定することは可能である。

 「議決の要旨」全文はこちらでご覧下さい。

 テレビのコメンテーターが言うような『絶対権力者』などと言う言い方を一般市民が言うだろうか。 これは明らかに弁護士が誘導したと言わざるを得ない。

 そして、小沢が不起訴の時に問題になった4億円の収入を収支報告書に書かなかったというところが含むまれてないのはどうしてか。 議決書に書かれている被疑事実というんのは、土地の代金の支払いの時期がズレていたということ、そして、土地の取得の時期がズレていた、というそれだけだ。

 現在問題となっているのは「政治とカネ」の問題に関連して、検察の捜査・処分のあり方がいろいろ取りざたされているが、そこには根本的に検察の組織において、「検察の正義」というものだけを中心に考えてしまう考え方の問題というのが根底にある。 また一方の政党に属するような弁護士はこのような審査補助員として選任すべきではない。

 審査員11名全員で『起訴相当』と判断された際の大マスコミのはしゃぎ様は尋常ではなかった。 まるで判決が下って有罪が確定したかのような報道で、野党議員に集中的にコメントを求め、『辞職すべきだ』と言うような意見が連日垂れ流されていた。 このような異常な現象は『三宝会』のページをご覧頂くとその理由がいとも簡単に理解できる。

 補助弁護士の意見が審査員の判断に大きな影響を与えるのは言うまでもない。 弁護士の米澤敏雄はかなり偏った政治思考があるのがこの議決文を読んで充分理解できる。 今後米澤が再任されるのか、新たな弁護士が就くのかによって、審査員の判断が大きく変わる可能性がある。

 マスコミが米澤を探しているが肝心の当人は4月下旬の議決以降、都内の事務所に一度も姿を見せず雲隠れてしまった。 米澤が引き続き補助弁護士を引き受けるのかどうかは現在のところ不明だ。 小沢幹事長を『絶対権力者』などと感情を前面に出した議決文を作成した事は、法曹界からも異論が出ていると言う。 そんな声を気にして、米澤弁護士が降りて新しい弁護士に代われば、微罪の容疑からいって起訴議決にならずに終わるのではないか」とみられている。

 更に、石川議員が逮捕された折に東京地検特捜部の吉田正喜副部長が、「小沢はここで不起訴になっても、検察審査会で裁かれる可能性が高い。 その議決は参議院選挙前に出る。」と言ったと言う。 何ともいただけないお話です。

 興味深いのは小沢幹事長が不起訴とされた日、東京検察審査会へ不起訴処分を不服とする申し立てを行ったのが「在日特権を許さない市民の会」だとウィキペディアの在特会のページの沿革の欄に書かれている。 民主党が画策している在日外国人の参政権を認める事が断じて許せない、と言う事なんでしょう。 小沢サイドは、とんでもない所に思わぬ敵が現れて大いに困惑している事と想像する。 特に朝鮮人への参政権など認めない方が国民感情だと思うが、賢明なる諸君はどう考えるでしょう。

米澤敏雄弁護士の略歴
1958年3月 早稲田大学第一法学部卒業・司法試験合格
1961年4月 検事任官(大阪・小樽・水戸・東京)
1966年10月 検事から裁判官に転官(東京・岡山・横浜・宮崎・浦和・東京地裁判事)その間、油絵同好会にて美術にも親しむ
1982年4月 司法研修所刑事裁判教官、司法試験委員(憲法)3年
1992年12月 岐阜地裁・家裁所長
1996年8月 静岡地裁所長
1997年9月 東京高等裁判所部総括判事
2001年4月 早稲田大学法学部客員教授
2004年4月 大東文化大学法科大学院教授(法曹倫理・刑事訴訟実務・模擬裁判等担当)
2009年4月 麻生総合法律事務所勤務


おしまい


http://www.kyudan.com/opinion/ozawa07.htm


代表弁護士  麻生 利勝 (アソウ トシカツ)
                                      (弁護士登録番号11305/第二東京弁護士会)

 心身修養に強い関心を持つ素朴な人間で,海をこよなく愛し,大学院や学部で教鞭をとり,理論と実務との融合を図っている弁護士です。


【経歴】
1966年10月 慶應義塾大学法学部在学中に司法試験合格
1969年 4月 第二東京弁護士会弁護士・海事補佐人各登録
1994年 4月 大東文化大学法学部非常勤講師(不法行為法・環境法講座担当)
1995年 4月 中華民国・私立東海大学法律系法学研究所(大学院)招聘教授(PL法)
1998年10月 学位取得(慶應義塾大学法学博士)
1999年 4月 慶應義塾大学法学部大学院非常勤講師(環境法講座担当)
2004年 4月 大東文化大学法科大学院教授(企業法務・環境法・民事総合法務担当)
2007年 4月 慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(司法制度論担当)

http://www.aso-law.jp/staff.html