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「米韓同盟消滅」にようやく気づいた韓国人

2019年07月20日 18時19分54秒 | Weblog

文在寅は米国に「縁切り」を言わせたい

鈴置 高史

2018年12月7日

 

全6227文字
20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせ、11月30日に開催された米韓首脳会談は「非公式」に格下げされた(写真:White House/ZUMA Press/アフロ)

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 駐韓米国大使が「米韓同盟はいつまであるか分からない」と語った。

米大使が警告

鈴置:韓国に駐在するハリス(Harry Harris Jr.)米国大使が「米韓同盟がいつまでもあると思うな」と韓国に警告しました。文在寅(ムン・ジェイン)政権が制裁緩和を唱えるばかりで、北朝鮮の非核化に不熱心――はっきり言えば非核化を妨害しているからです。

 ハリス大使は「2018年統一貢献大賞」を受賞。11月26日にソウル市内で開いた授賞式での発言でした。

 朝鮮日報社の発行する月刊朝鮮が独自ダネ「ハリー・ハリス駐韓米大使、『米韓同盟を当然視してはいけない』」(韓国語、11月27日)で報じました。大使の発言を記事から拾います。式の参加者が同誌に伝えたものです。

  • (米朝首脳会談により)北朝鮮に肯定的な変化が生まれる可能性が無限にあると考えている。しかしこれは金正恩(キム・ジョンウン)委員長が非核化に関する自身の約束を守る時にのみ可能になる。
  • 北朝鮮が非核化に関する具体的な措置をとるまで、現在の制裁が維持されるということだ。文大統領が語ったように、南北対話は非核化の進展と必ず連携されることだろう。

 「南北対話は非核化の進展と必ず連携される」とは外交的な修辞です。「北朝鮮が非核化しない限り、米国は制裁緩和を認めない」と韓国にクギを刺したのです。

金正恩の使い走り

 9月下旬に訪米した際、文在寅大統領はあちこちで「北朝鮮は平和に向け動き出した」「金正恩委員長は信頼できる」などと強調しました。

 このため米メディアが「文在寅は金正恩の首席報道官」と揶揄するなど「韓国は北朝鮮の別働隊」との見方が広がったのです(「『北朝鮮の使い走り』と米国で見切られた文在寅」参照)。

 10月10日、トランプ(Donald Trump)大統領はホワイトハウスで「韓国は米国の承認なしに何もできない」と3度も繰り返し語りました。韓国が対北援助の再開に動くことに関し、記者から聞かれての答えです。

 もちろん「勝手に動くな」と叱責したのです(「『言うことを聞け』と文在寅を叱ったトランプ」参照)。

 それでも文在寅政権はめげませんでした。10月中旬の欧州歴訪では、仏、英、独の首脳と会談し対北制裁をやめさせようと画策しました。

 ローマ法王まで利用する徹底ぶりでした。欧州を味方に付け、米国を孤立させようとしたのです。もちろん、そんな試みは失敗しました(「北朝鮮と心中する韓国」参照)。

 

同盟を当然と思うな

露骨になる一方の「韓国の裏切り」。それに対しハリス大使は警告したのですね。

鈴置:その通りです。そうした文脈の中で「米韓同盟消滅」に言及したのです。記事からその部分を引用します。

  • 最後に一言申し上げたい。我々の同盟は確固として維持されているが、我々はこれを当然視してはいけない。

 韓国がこんなに同盟をないがしろにするのなら、打ち切ってもいいのだぞ――と匂わせたのです。月刊朝鮮も前文で、以下のように解説しました。

  • 非核化もしないのに韓国政府が南北対話や対北制裁解除を推進する場合、同盟が揺れることもあり得ると暗示した。

 私の記憶する限り、米政府高官が公開の席で「同盟破棄」に言及して韓国を脅したのは初めてです。韓国の親米保守は驚愕しました。

フィリピンを思い出せ

 朝鮮日報の元・主筆の柳根一(ユ・グンイル)氏がこの発言に直ちに反応し、保守系サイトの趙甲済(チョ・カプチェ)ドットコムに記事を載せました。

ハリス米大使『韓米同盟を当然視するな』」(11月28日、韓国語)です。柳根一氏はまず「米国は韓国を見捨てない」との思い込みに警告を発しました。

  • ハリス大使の発言は韓国に対する米国の断固とした警告に聞こえる。米国は卑屈に同盟を求める国ではない。
  • 一部の人は言う。米国は自分の利益のために韓国に軍隊を置いているのであって、韓国のためではないと。バカも休み休み言うべきだ。
  • 在韓米軍基地がたとえ、米国の戦略的な利益のために必要であったとしても、韓国人たちが望まなければいつでも離れる用意があると見なければならない。
  • フィリピンの政治家たちが「民族主義」を掲げて米軍撤収を言いだすと、米国はピナツボ火山噴火を口実にクラーク基地をある朝に捨て、去った。米軍が離れるや否や、比海域には中国海軍が忍び寄った。

 韓国では左派に限らず普通の人も、そして多くの保守派までも「米国は自分の利益のために軍を韓国に駐屯させている」「だから少々我がまま言っても同盟は打ち切られない」と信じています。

 柳根一氏はハリス大使の発言を聞いて「単なる脅しではなく本気で韓国を捨てるハラを固めたな」と焦った。そしてこの記事を書くことで韓国人に、状況が大きく変わった。幻想を捨てよ、と訴えたのです。

 

左派の陰謀

「状況が変わった」とは?

鈴置:次のくだりを読むと分かります。ポイントを翻訳します。

  • 韓国の運動圏(左派)は内心、米国が韓国に愛想を尽かして自ら離れて行くことを望んでいるのかもしれない。だから米国が愛想尽かしするようなことばかり選ぶ手法をとっているとも言える。
  • 「我々がいつ、出て行けと言ったか。我々はただ、自主的であろうとしただけなのに、あなたたちが公然と怒って出て行ったのだ」というわけだ。
  • この方式はすでにある程度、実行に移されている。米国は今や十分に怒っている。少し前、韓国外交部を担当する記者らがワシントンに行った時、あるシンクタンクの研究員が米国の官僚らが韓国のやり方に猛烈に怒っていると伝えたのではなかったか?
  • そうなのだ。韓国人は韓米同盟を当然視してはいけない。いったいどの国が、自尊心を傷付けられてまで同盟という見せかけに縛られると言うのか?

 文在寅政権は米国から「縁切り」を言わせたい。そこで米国が怒るよう仕向けている。「そんな卑怯なやり方をすれば、米国は本当に怒って出て行くぞ」と、柳根一氏は「左派が演出した危い状況」に警鐘を鳴らしたのです。

その見方は正しいのですか?

鈴置:私もそう見ます。文在寅大統領はじめ、政権中枢の運動圏出身者は、米韓同盟こそが民族を分断する諸悪の根源と考えているからです(「『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。

 ただ、文在寅政権が同盟破棄を言い出せば、韓国の保守や普通の人、あるいは左派の一部も反対するでしょう。米国を分断の元凶となじる韓国人にも、米国に守ってもらいたい人が多い。

 だから文在寅政権は米国から同盟破棄を言わせるよう仕向けているのです(「『言うだけ番長』文在寅の仮面を剥がせ」)。

なぜイライラさせるのか

米国もそれに気付いているのでしょうか。

鈴置:もちろんです。米国人は韓国人が考えるほどバカではありません。文在寅大統領の9月の訪米で、韓国が北朝鮮の使い走りに堕ちたことは天下に知れ渡りました。当然、米国は韓国の裏切りを監視する体制を強化しました。

 米政府は日本にも安保・外交専門家を送り込み、「文在寅政権は何を考えているのか」を聞いて回りました。10月、そんな1人からヒアリングを受けました。何と、最初の質問が「韓国はなぜ、我々をイライラさせるのか」でした。

どう答えたのですか?

鈴置:「米国側から同盟解消を言わせたいのだろう。もし文在寅政権が先に言い出せば、青瓦台(大統領府)は保守派のデモで取り囲まれるであろうから」と答えました。

 すると相手は大きくうなずいてメモを取りました。新しい知見に感動して、というよりも「日本の専門家もそう見ているのか」といった感じでした。

 米政府も、同盟廃棄に向けた韓国のやり口はすっかり見抜いています。ヒアリングの対象になったのは、10月に『米韓同盟消滅』というタイトルの本を出したこともあったようです。

 

「韓国疲れ」とこぼす米高官

 『米韓同盟消滅』の第1章「離婚する米韓」で説いたように、トランプ大統領は北朝鮮の非核化が実現するなら、米韓同盟を廃棄してもいいと考えている。

 注目すべきは、米政府や米軍の高官たちもそう考え始めたことです。日本のカウンターパートに対し「韓国疲れ(Korea fatigue)」とこぼす軍出身の高官が増えたそうです。大統領と同様に、非核化と同盟廃棄の取引を進めるハラを米軍も固めた可能性があります。

 12月に実施予定だった米韓空軍の合同演習「ヴィジラント・エース(Vigilant Ace)」が10月に中止が決まりましたが、米国側の発案でした。

 ハンギョレの「韓米ビジラントエース演習の猶予は米国から先に提案した」(10月21日、日本語版)など、韓国各紙が一斉に報じました。

 CNNは「国防総省、米韓軍事演習の中止を発表 米朝交渉に配慮」(10月21日、日本語版)で「トランプ大統領が高額の出費を強いられる演習を嫌う」「米朝関係に配慮した」などの理由を挙げました。

 ただ、日本の専門家によると米軍の現場からは「韓国軍と肩を並べて戦うことはもうない。である以上、合同演習などは無駄だ」との声が漏れてくるそうです。

 米軍内にも「米韓同盟は長くは持たない」との意識が広がった。米海軍大将で、太平洋軍司令官だったハリス大使が「米韓同盟を当然視するな」と韓国人に警告したのも別段、不思議ではないのです。

 

日韓関係も破壊

韓国が日本を「イライラさせる」のも……。

鈴置:米韓同盟破棄の伏線を敷いているつもりでしょう。10月30日、戦時の朝鮮人労働者に賠償するよう、韓国大法院(最高裁判所)が新日鉄住金に命じました(「新日鉄住金が敗訴、韓国で戦時中の徴用工裁判」参照)。

 日韓国交正常化の際に取り交わした請求権協定を完全に否定する判決でした。これにより日韓両国は国交の基本的あり方を確認した条約を失いました。無条約時代とも言うべき状況に突入したのです(「文在寅政権は『現状を打ち壊す』革命政府だ」)。

 11月21日には韓国政府は、従軍慰安婦問題に関する「和解・癒やし財団」――いわゆる「慰安婦財団」の解散を発表しました 。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した2015年末の日韓合意を踏みにじりました。

 日本を怒らせ日韓関係を破壊すれば、米韓同盟にもヒビが入ります。日本では「韓国防衛のために日本が戦争に巻き込まれる危険性を冒すべきではない」との主張が高まり、朝鮮半島有事の際の在日米軍基地の使用が難しくなるのは間違いありません。

 在韓米軍は日本という強力な兵站基地があって十分に機能します。米国はますます在韓米軍を維持する意欲を失うでしょう。

日米からのけ者にされた

 11月30日、12月1日の両日にアルゼンチンの首都、ブエノスアイレスで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議が象徴的でした。この場を利用し、各国は相次いで2国間の首脳会談を持ちました。

 最高裁判決などで無茶苦茶なことをして来る韓国に怒った日本は、いつもなら開く日韓首脳会談を実施しませんでした。

 トランプ大統領は11月30日に文在寅大統領と会いましたが、ホワイトハウスはわざわざ「会談はpull asideである」と断りました。「pull aside」とはイベント会場の片隅で実施する立ち話のような、非公式の会談を意味するのだそうです。米国は韓国をはっきりと「格下げ」して見せたのです。

 「米国と日本から見捨てられた」と、もっと大きなショックを韓国人に与えたのが、日米がインドを安全保障上のパートナーに引きこもうと開いた初の3カ国首脳会談(11月30日)でした。

 中央日報の金玄基(キム・ヒョンギ)ワシントン総局長は「『外交だけ質問せよ』は自信感、ですよね?」(12月5日、韓国語版)で以下のように書きました。

  • インドのモディ首相は「日本(Japan)、米国(America)、インド(India)の頭文字を足した「JAI」なる新語を創り出し「民主主義の価値を象徴するJAIが平和と繁栄を共に創ろう」と語った。すると安倍首相が待っていたかのように相槌を打った。「自由で開放されたインド太平洋に向けこの3カ国で進もう」。
  • 昨年7月のG20首脳会議と9月の国連総会では韓米日の3カ国首脳会談が行われた。だがそれ以降途絶えた。北朝鮮にオールインし、米中間でどちらにつこうかとうろうろする韓国は除かれ、代わりにインドが入ったのだ。

 

保守に期待できるか

米国はどうするつもりでしょうか?

鈴置:保守派に期待しているフシがあります。彼らをして、文在寅政権の対北支援を阻止させたいと考えているようです。米国の専門家からのヒアリングでも「保守派に期待できるか」との質問がありました。

何と答えたのですか?

鈴置:「保守勢力は分裂しており力がない。左派の対北傾斜をどこまで防げるかは不透明だ、と韓国の友人は言っている」と答えました。ついでに「ご質問が『クーデターは可能か』ということなら、それは不可能と見られている」と言っておきましたが。

「クーデターに期待できない」米国はどう出ますか?

鈴置:過去、韓国が逆らった時は「通貨」で脅しました。1997年の通貨危機も米韓関係が悪化した状況下で起きました。

米韓同盟消滅』の第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」で、米国の手口を詳しく説明しています。

 現在、韓国は資本逃避が起きやすい状況に陥っています。米国の今後予想される利上げで米韓金利差が広がるというのに、韓国は個人負債の膨張のため金利を上げにくい。半導体市況の低迷で貿易黒字も減ると見込まれています。いずれも通貨危機の危険信号です。

日米共同で対韓制裁?

 「通貨」で韓国を脅すやり方には大きな副作用があります。韓国の反米感情を育てるからです。1997年の通貨危機は米韓関係悪化の大きな引き金となりました。

 ただ、同盟を長く続けるつもりがないのなら、米国は反米感情に神経を払う必要はなくなる。それは日本も同じです。韓国が米国の同盟国から外れるのなら、これまでのように遠慮しなくてよいのです。

 ちょうど今、日本も韓国に対し経済制裁を検討し始めたところです。朝鮮人労働者の判決の是正を求めているのに、韓国政府は馬耳東風。このまま放っておけば、韓国の無法を認めることになります。日本は何らかの形で韓国に対抗措置を取らざるを得ません。

 一方、米国も北朝鮮の核武装を助ける韓国をここで叩いておきたい。日米が一緒になって韓国の弱点たる「金融」を攻める可能性が出てきました。

次回に続く)

【著者最新刊】『米韓同盟消滅』

 米朝首脳会談だけでなく、南北朝鮮の首脳が会談を重ねるなど、東アジア情勢は現在、大きく動きつつある。著者はこうした動きの本質を、「米韓同盟が破棄され、朝鮮半島全体が中立化することによって実質的に中国の属国へと『回帰』していく過程」と読み解く。韓国が中国の属国へと回帰すれば、日本は日清戦争以前の「大陸と直接対峙する」国際環境に身を置くことになる。朝鮮半島情勢「先読みのプロ」が描き出す冷徹な現実。

第1章 離婚する米韓
第2章 「外交自爆」は朴槿恵政権から始まった
第3章 中二病にかかった韓国人
第4章 「妄想外交」は止まらない

2018年10月17日発売 新潮社刊

 


2019年 M&A大予測 電力会社の再編が始まる M&A業界インタビュー

2019年07月20日 18時11分00秒 | Weblog
他 1名
日経ビジネス記者

2019年1月21日

 

 日経ビジネスの1月21日号特集「2019年M&A大予測」では、独自の取材に基づき、大型M&Aを巡る様々なシナリオを紹介した。業界関係者へのインタビューでは「電力会社の再編が始まる」「アクティビストは沈静化する」など、激変の2019年を予想するコメントが相次いだ。M&A助言、レコフの稲田洋一社長、さわかみ投信の澤上篤人会長、東京理科大学大学院の橘川武郎教授、シティグループ証券の江沢厚太マネジングディレクターの4氏へのインタビューを掲載する。

中小型M&Aの隆盛続く レコフ・稲田洋一社長

稲田洋一(いなだ・よういち) 1959年生まれ。84年東京大学法学部卒、93年米ダートマス大学経営学修士(MBA)取得。山一證券株式会社を経て94年にレコフ入社。国内流通、総合商社、外食・フードサービス業界を担当し、2016年より現職。(写真:北山 宏一)

 2019年の国内M&A市場は一層活性化し、今後10年で最盛期を迎えるはずだ。70歳前後を迎えた団塊の世代の経営者が引退を考える時期に入っている。一方、後継者不足は深刻だ。同業や関連企業による事業承継をテーマにした買収が顕著に増えてきている。財務省のデータによると、再編や廃業などを通じて、15年末~25年末までに国内企業が83万社減るという予測もある。

 最近では、赤字企業だけでなく黒字経営の中小企業も買収の対象となってきている。業種別で多いのは建設関連。足元では、20年の東京オリンピック・パラリンピックや首都圏でのオフィスビル建設などで建設需要が旺盛だ。技術者不足が深刻となっており、人材確保を目的とした買収が多い。

 中小規模の病院や診療所の案件も増えている。最新の医療機器は性能が優れているが非常に高額で、多くの病院では設備投資が経営の負担となっている。医師や看護師はしっかり労務管理をしないと他の病院へ簡単に移ってしまう。難しい経営の舵取りを負担と感じる院長は多く、他の医療グループなどに事業を譲るケースが増えてきた。

 地域別では、九州での案件がより活発化するとみている。九州新幹線の開業に伴い、地域内でも交通アクセスが格段に向上し、鹿児島と熊本や、佐賀と長崎など、県をまたいだM&Aが増えている。昨年九州で開催したグループのセミナーでは3000人が集まった。新幹線の整備は今後も続き、更なる越境案件が増えると見ている。

 

「アクティビスト」が沈静化する さわかみ投信・澤上篤人会長

澤上篤人(さわかみ・あつと) 1947年、愛知県名古屋市生まれ。ピクテジャパン(現・ピクテ投信)代表取締役を務めた後、96年にさわかみ投資顧問(現 さわかみ投信)を設立し、99年には「さわかみファンド」を設定。同ファンドの純資産総額は約3000億円。(写真:北山 宏一)

 金融市場では、凄まじい変化が今まさに始まりつつある。リーマンショックへの応急対処として始まった史上空前の金融緩和が金余りバブルをもたらし、世界中の株価や不動産価格の上昇を引き起こした。だが、米国の利上げなどを通じて、先進国を中心に逆転現象が始まりつつある。金融市場は既に不安定化しだしているが、2019年はこの流れがより明確化する一年となるだろう。

 M&A関連では、物言う株主「アクティビスト」の発言力が低下すると予想する。これまで低金利による運用難を背景に、世界中の年金基金などが、少しでも運用リターンを引き上げようとアクティビストファンドに資金を振り向けてきた。おかげでファンドは、豊富な資金を元に積極的に企業の株を買い集め、経営に注文をつけることができた。

 アクティビストは利益を回収するために、短期的な株価上昇につながるM&Aや、企業の成長率に見合わない配当の拡大などを要求してきた。しかし、金融市場での金余りは終焉を迎え始めている。アクティビストファンドへ流れていた資金がすっと引く可能性は高い。市場が正常化すると言ったほうが良いかも知れない。

 先進国で利上げが進むと、銀行からの巨額借り入れを通じた超大型M&Aも鳴りを潜めるだろう。一方、企業のコア事業を成長させるためのM&Aは、国内外で引き続き活発に行われると見ている。

 

電力会社は6社になる 東京理科大学大学院・橘川武郎教授

橘川武郎(きつかわ・たけお) 国のエネルギー政策の基本方針である「エネルギー基本計画」を議論する「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」の委員などを歴任(写真:的野 弘路)

 電力会社の再編の起点は2つ。西日本は中国電力が台風の目だ。関西電力、四国電力、九州電力に囲まれている。この3社の共通点は原発問題が大体片付いたこと。中国電は石炭火力に強い。石炭に弱い関電は、大飯原発(福井県おおい町)が再稼働してキャッシュが回り出した今、発電ポートフォリオを充実させたいと考える。原発と石炭をそろえれば盤石という観点から、石炭に強い中国電を狙うのは自然だろう。四国電、九電も同様だ。

 中国電にとって石炭に強いのは弱点でもある。電力会社は2030年度までにkWhあたりの二酸化炭素排出量を0.37kgにしないといけないからだ。島根原発(松江市)を動かしても達成できない。だからこそ、上関原発(山口県上関町)の新設にこだわるわけだが、新規立地は誰が考えても無理だ。中国電から見ても合併しかない。関電に飲み込まれるのが嫌ならば、自社より小さい四国電と一緒になる可能性がある。中国と四国が一緒になれば九電が乗ってくるかもしれない。

 北陸電力も石炭が強い。だが、北陸電は関電に飲み込まれるのを食い止めてきた歴史があるので関電と一緒になることは考えづらい。中部電に頼る可能性はある。中部電は原発に弱いので、志賀第二原発(石川県志賀町)が動けば中部電にとって北陸電は魅力的だ。

 原発については、日本原子力発電を中心とした原発運営企業ができる可能性がある。東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原発は改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)で、設備が優れている。6、7号機は動かすべきだと思う。だが、持ち主が東電のままでは動かない。福島の復興費は必ず国民負担になるから、東電が優良な原発である柏崎刈羽を持ち、動かすのは世論が許さない。柏崎刈羽は売却すべきという議論になる。

 買い手の候補として新潟がおひざ元である東北電力があがるだろうが、キャッシュがないので、国は日本原子力発電を使うと思われる。原電は(直下に活断層があるとされる)敦賀原発も、東海第二も稼働は難しい。原発なき原電が生き残る道は、オペレーションの会社という道だけだ。

 10年先になるかもしれないが、東京電力と東北電力が一緒になる可能性はある。北海道は地理的にそのままだろう。東北・東京、中部・北陸、中国・四国・九州という組み合わせが考えられる。関電、北海道、沖縄で計6電力になる。競争を突き詰めるとこうなると予測している。

 

電機業界、売却続く可能性 シティグループ証券・江沢厚太マネジングディレクター

江沢厚太(えざわ・こうた) 電機業界の証券アナリストを17年間務める(写真:竹井 俊晴)

 電機業界の全体像をみると、多くの企業が企業買収をする計画や予算を持っている。2019年、20年もM&Aが起きる可能性はかつてないほど高い状態が続くと思う。

 蓋然性や論理的には可能性があるという前提で考えると、買収に積極的と考えられるのは、まずNECだ。海外事業を拡大させる計画があるので、監視カメラやサイバーセキュリティ関連で何かが出てくると思う。パナソニックは、(BtoB事業の)コネクティッドソリューションズと、自動車分野は買収する可能性がある。どちらもソフトウエア会社が考えられる。

 東芝は上場連結子会社を完全子会社化する可能性がある。東芝テック、東芝プラントシステム、ニューフレアテクノロジーと西芝電機があるが、このうちいくつかを完全子会社にする可能性があると思う。

 東芝はメモリ事業を売却し、キャッシュはあるが業績の水準が低い。最終損益で安定して黒字を維持することを担保できない状況だ。連結子会社の少数株主持ち分を買い取ることで当期利益の増加が期待できる。

 売却側は結構たくさん候補がある。日立製作所はABBの送配電事業を買収するが、連結上場子会社をまだ持っている。親会社のコントロールがきかないので、最終的には長く続いた親子上場は完全な解消に向かうと思っている。

 ソニーはスマホ事業のうち海外の事業を売却する可能性がある。国内は黒字で海外は赤字だ。ソニーは通信の技術開発は社内で継続したい考えとみられ、一部の事業は残しておいた方が研究開発費を吸収してくれるのでメリットがあると考える。残すなら国内事業だろう。


キレる、スネる、自己中「モンスター部下」の猛威

2019年07月20日 17時39分33秒 | Weblog
河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学
健康社会学者(Ph.D.)
2019年7月16日
 
 

 知人が、またウツになった。これで3人目。いずれも40代後半の管理職の男性である。

 1990年代以降、管理職の死亡率が急増している実態は先日書いたが(「中間管理職がヤバい!死亡率急増と身代わり残業」)、40代のメンタル不全者は2010年以降、急増している(日本生産性本部の企業アンケート調査)。

 長時間労働、睡眠不足に加え、仕事の要求度の高さ、さらには時間切迫度などで、ストレスの雨にびしょぬれになってしまうのだ。

 が、今回のケースは、それ以外のストレス雲が豪雨を降らせた。
「ここまで自尊心が低下したのは初めて」と語る知人を苦しめたのは、部下。

 いわゆる“モンスター部下”だ。

 2014年12月に50代の静岡市職員の男性が自殺したのも、モンスター部下が原因の1つだった。

 男性は14年4月に市の外部機関に異動となり、計6人の部下を持ったが、部下から業務の指示を巡り「いいかげんにしろ」「うそを言わないでください」などと強い口調で叱責されていたと複数の職場関係者が証言している。

これまで職場のストレスのもとは上司だったが

 本人の手帳には「部下から逆パワハラを受けている。バトウやシッセキがあり、席にいてもおちついていられない」と書き残され、異動から約8カ月後の12月24日、職場で自殺するというショッキングな事態となってしまったのだ。

 遺族は「長時間労働と部下からのパワーハラスメント(逆パワハラ)」が原因として15年5月に、公務災害認定を申請。男性は1カ月で最長約82時間の時間外勤務をしており、「異常ともいえる職場環境で繰り返し叱責・罵倒され、精神疾患を発症させる強度の精神的負荷だった」と判断。19年6月、地方公務員災害補償基金静岡市支部は自殺を公務災害に認定したという。

 これまで職場のストレスを考える上で「最大のリスクは上司」だった。それを象徴するようにキャリア研究や職場組織研究は「上司との関係性」をフォーカスし、上司=パワーある存在としてあの手この手で上司の問題を扱ってきた歴史がある。

 が、今や組織内でパワーは上司にあっても、社会的にパワーを持つのは部下だ。
時代は以前にも増して「部下オリエンテッド」。飲み会に誘うだけでパワハラと言われ、その是非がSNSで飛び交うご時世である。

 

 厚生労働省が実施した2016年度パワハラ調査でも、「上司から部下」によるパワハラが76.9%と最も多いものの、「部下から上司」によるパワハラも1.4%報告されている。

 たった1.4%と思われるかもしれないが、実態はこれ以上に存在しているのではあるまいか。

 実際、冒頭の知人は「会社には部下のことは話していない」そうだ。

 現在彼は3カ月の休養を得て、「完全復帰とは言えないけど普通に仕事ができている」状態まで回復した。そこで今回は、彼がメンタル不全に至るまでの経緯を話してくれた内容から「モンスター部下」についてあれこれ考えてみようと思う。

 「海外展開の部署に異動になって出張も多かったし、月100時間残業当たり前になっていたのが、かなり疲弊していたことは確かです。

 でも、部下のことが一番しんどかった。もうね、いちいちムカつくんです」

自己中心的でビジネスマナーに欠ける部下

 お客さんにシワシワの資料を平気で出す。注意すると突然、幽体離脱したみたいに無表情になって聞こえないふりをする。自信家さんで自分の意見が通らないと感情的になる。社内評論家のように、偉そうなことばかり言う。

 自分がやりたくないことは絶対にやらない。どんなに突然の仕事が入って、周りが残業していても視界に入らないのか見向きもしないで、とっとと帰る。地味な仕事は「それ、なんの意味があるんですか?」とやたらと聞いてくる。

 そのくせ結構ナイーブで、すぐに自信喪失する。そのたびに周りが慰め、褒めなきゃならない。それをしないと貝になり、誰かに優しく声を掛けてもらえるまでスネ続ける」

 

「1つひとつのことは、大きな問題じゃないし、余裕があれば対処できることなのかもしれない。でも、毎日毎日こうしたミニ事件が起こるわけです。ついこっちもカッとなる。でも、そこで大きな声でも出そうもんなら、パワハラになってしまうから我慢するしかない。

 すると、次第に自分を責めるようになるんです。自分に能力がないんじゃないかって。消えてくれればいいのに、とか思うようになってしまってね。

 家でもストレスを引きずっていたみたいで、妻からあるとき病院に行った方がいいって言われたんです。自分でもなんか俺おかしいって自覚もあったから、妻のアドバイスを素直に聞くことができたし、医者にすぐに会社を休まないと、取り返しのつかないことになるって診断されたときは『これであいつらから逃れられる』ってホッとしました。

 でも、心身が回復していくのと並行して、自尊心が著しく低下するんです。部下を教育できない自分が嫌で嫌で。この先、部下を持つのが怖いというか、二度と持ちたくないのが本音です」

ストレスにはライフイベントとデイリーハッスルの2種類

 おそらくここまで読んだ人の中には、「これってただ単に、知人くんの方に部下マネジメントの能力がないのだよ」だの、「メンタル低下したのは長時間労働が問題であって、モンスター部下は関係ないんじゃない」だのと思われた人もいるかもしれない。

 だが、人間の感情は複雑に交差し、感情は割れる。だからこそしんどい。第三者の目には「大したことじゃない」と映っても、当事者にとっては土砂降りのストレス豪雨となったりもする。

 私たちが感じるストレスは、ライフイベントとデイリーハッスルという、2つのシーンに分けられ、前者は人生上で起こる節目の出来事で、転勤や異動、転職、結婚、離婚、あるいは大切な人の死などが相当する。想定していなかった突然の出来事であればあるほど衝撃が強く、誰にとってもストレスフルで、ダメージも大きい。そのため周りからの共感も得られやすい。

 一方、デイリーハッスルは、日常的に遭遇するイライラ事で、人間関係のもつれや悩み、仕事上の失敗、忙しさからくる不満や怒りなど、誰もが普通に生活していれば遭遇するストレスである。

 が、何がデイリーハッスルになるかは個人により異なり、ストレス対処力の高い人は、そもそもストレスに感じない、あるいはストレスと感じてもうまく対処できるので、個人の性格の問題や能力の問題にされがちなのだ。

 

 ストレス研究の専門家の中にも、「日常イライラしたり、悩んだりするのは、この世の中に生きていれば当たり前だ」として、デイリーハッスルをストレッサー(ストレスの原因)として扱わない人も少なくない。

 とはいえ、リアルの世界は学問じゃ語りきれない問題だらけで、デイリーハッスルの慢性化ほど、つらいことはないのである。

 とりわけ上司と部下の関係のように毎日顔を合わさなくてはならない、相手を避けることも逃げることもできない状況では、地獄の苦しみとなる。上司がリスクなら「そうそうその通り!」と満場一致の賛成票を集められても、部下の場合はそうはいかない。知人が言うように自責の念も強まるため、余計にタチが悪い。

 私は講演会などで大抵質疑応答の時間を設けるのだが、最近のトレンドはもっぱら「ゆとりモンスター部下」だ。

「ゆとり‥‥という言葉は禁句らしいのですが‥‥」
「ゆとり‥‥と呼ぶこと自体、パワハラらしいのですが‥‥」
「自分たちの時代もそうだったのかもしれないけど、やはりゆとりは‥‥」

 といった具合に相当に気遣った前置きをした上で、心情を吐露する。

少子化がコミュニケーション下手を助長した

 ゆとり世代=モンスター部下では決してなく、モンスター部下にゆとり世代が多いと感じられているだけなのだが(と、ここでも気を遣わなきゃならないわけでして)、仕事のアドバイスをすれば「上から目線」と批判され、ちょっとでも厳しく指導すると「パワハラ」って騒がれてしまう上司たちは、「新しきが良きこと」という極めて短絡的な価値観を最優先し、「評価されない」とまるで子供のように機嫌をそこねる「ゆとりモンスター」に手を焼いているのである。

 いったいなぜ、モンスター部下なんて言葉が生まれるような時代になってしまったのか?

 個人的には少子化、SNSによるコミュニケーションスタイルの違い、大学のキャリア教育が影響していると考えている。

 今の若者たちの多くは「一人っ子」だ。1970年代前後から30年以上、兄弟の数は2.2人前後で安定していたが、2005年で2.09人に減少し、2010年には1.96人とついに2人を割り込んだ。

 そういった少子化に加え「子供の個性を伸ばせ!」だの、「褒めて育てろ!」だのといった“英才教育本”が普及し、親たちの「子への期待」は加熱。昭和時代はお父さんの指定席だった家庭の“主役”を子供が取って代わり、親からチヤホヤされて育ったのが平成生まれの若者である。

 彼らは「今日、学校はどうだった?」「勉強は?」「お友達は?」などと常に、親が先回りし、気持ちを察してあれこれ言ってくれるから、ゼロから話を組み立てる必要がない。いつも「自分」を気にしてくれるオトナがいれば、「はい」「いいえ」だけでコミュニケーションは成立するし、「今日はこんなことがあって、誰々ちゃんがこんなことをやって、僕はあれをやって」とひたすら言いたいことを発信すれば、伝わったとか、わかったかな?とか案じる必要はゼロ。

 

 その結果、相手に伝えるための言葉を持たない、伝わったかどうかも気にならない子供が量産される。それは「受け止める力」の弱い子供が量産されることでもある。

 自分の伝えたいことを必死で伝える努力を経験して初めて、相手の言わんとしているメッセージを「受け止める力」が育まれるため、その経験がない若者には、そもそも上司の言っていることが伝わりづらい。

 さらに、SNSがメインのコミュニケーションツールとなり、顔と顔を突き合わせてのぶつかり合いが激減した。それはコミュニケーションの神髄が身体に染み込む経験の喪失である。

 Twitter、facebook、Instagram、YouTubeなどでは、いいねの数やツイートの数、フォロワーの数など他者評価が溢れるため他人の評価にも過敏になる。

 親にチヤホヤされて育ったのに、会社にチヤホヤしてくれる上司はいない。そのため余計に他者評価への関心が過剰になり、ささいなことで自信過剰になったり、自信喪失してしまったり。時には「本当の自分はこんなもんじゃない」という気持ちが、モンスターの芽になってしまうのだ。

 極め付きは大学のキャリア教育だ。ただ、この件については長くなるので簡単に要点だけを書くことにする。

 つまるところ、私はキャリア教育の必要性と重要性は重んじているが「自分に合った仕事を見つけましょう!」「自分の能力を発揮できるやりがいのある仕事を見つけましょう!」的教育は大反対。そういった誤ったキャリア教育が「自分のやりたいことしかやらない若者」を量産し、彼らの伸びしろを狭めているのではあるまいか。

モンスター化を防ぐには組織で腰を据えた教育を

 と、あれこれモンスター化の原因を書いてきたけど、モンスター部下を量産しないためには、彼らの教育には手間がかかるという共通理解のもと、彼らの力を生かす方法をとるしかない。

 具体的には、部下にチャレンジする機会を与え、役立つ情報をきちんと伝達し、彼らができている点、できていない点を客観的にフィードバックし、彼らの心を周りが支える仕組みが必要不可欠。「上司1人=点」に任せるのではなく、「組織=面」で彼らを教育する。

 繰り返すが、それはとてもとても手間がかかる作業だ。

 だが、いつの時代もそうであるように、上司や先輩の真摯な気持ちは必ずや部下の心に響く。時には上司や先輩が若いときの失敗した経験を話してあげれば、部下たちは「自分と同じなんだ」という気持ちになり安堵する。上司への共感が、部下たちのモンスター化を防ぎ、そのエネルギーを成長に転嫁させるのだ。

 学生や20代の社員と話をすると、彼らが本質的には私たちの若い頃となんら変わらないと感じたりもする。むしろ今の若い世代は、私たちが若い頃になかったような優しさを持っている。ボランティアに参加する腰の軽さ、人に役立ちたいという気持ち。さらには様々なITスキルや新しい世代ならではの価値観は「私」の学びにもなると思うのだ。

 そして、どうか会社は、モンスターが部下であるが故に、その苦しみを打ち明けられない上司たちを救う仕組みもきっちりと検討してほしい。

■変更履歴
記事掲載当初、本文中の表記に誤りがありました。本文は修正済みです [2019/07/16 10:25]

 

『他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)


権力者による不祥事、職場にあふれるメンタル問題、 日本男性の孤独――すべては「会社員という病」が 原因だった? “ジジイの壁”第2弾。
・なぜ、優秀な若者が組織で活躍できないのか?
・なぜ、他国に比べて生産性が上がらないのか?
・なぜ、心根のゲスな権力者が多いのか?
そこに潜むのは、会社員の組織への過剰適応だった。 “ジジイ化”の元凶「会社員という病」をひもとく。

 

 

キレる中高年に従業員が潰される!増えるカスハラ問題

 「カスハラ」問題が深刻化している。

 カスハラとは、カスタマーハラスメント。明確な定義はないが、「顧客や取引先からの自己中心的で理不尽かつ悪質なクレームや要求」のことで、先週ILO(国際労働機関)の定時総会で採択された「ハラスメント禁止条約」でも対象になっている。

 で、いつもどおり“遅ればせながら”ではあるが、厚労省もガイドラインの作成に乗り出す方針だそうだ。

 そんな中、民間の調査で「カスハラが最近3年間で増えた」と感じる人が6割近くいて、約7割がカスハラを経験していることがわかった。

 「カスハラの対応で、どんな影響があるか?」との問いには(複数回答)、「ストレスが増加」93.1%、「仕事の意欲が低下」82.1%、「体調不良」73.2% 、「退職」59.6%「休職」54.2"など、カスハラに対応した人に過剰な負担がかかることも明らかになっている。

 「せっかく大卒を積極的に採用して1年間コストをかけて育成しても、お客に潰されるんです。職業差別がひどくなってませんかね」

  つい先日タクシーに乗ったときも、運転手の方がこう嘆いていた。

 どう考えても「このコースしかないでしょ」というときでさえ、「ご希望のコースはございますか?」だの、「●●通りから△△に入る道でよろしいですか?」と聞いたり、「お話してもいいですか?」と断ってから雑談を始めたりするるのも、運転手さんによればすべてカスハラ対策だという。

若い社員が早々に辞める一因にも

 というわけで今回は、「カスハラ」についてアレコレ考えてみようと思う。

 「私も40年くらい運転手やってますけど、“普通のお客さん”に怒られるようになるなんて想像したこともなかったですよ。つい先日もね、『さっき確かめた金額と違う!』って怒りだしちゃって。

 こちらの都合で指定の場所を過ぎたときは、メーターを止めます。ほら、交差点とかで止められなかったり、危なかったりするときがあるでしょ。でも、その時は私が止まろうとしたら『もっと先まで行け!』って言われたんです。参りますよね。

 ホントね、大人しそうに見える人が突然怒りだすから、怖いですよ。
 まぁ、私くらいになれば、言われてもなんとか対処したり、あまりにひどいことを言われたら車止めて『会社に電話しますので』とか言ったりできるけど、若い人はそんなことはできない。

 だから、メンタルやられて辞めちゃうんです。会社はタクシー業界のイメージをよくしようと賃金上げたり、福利厚生充実させたり、いろいろやってるのに。お客さんに潰されちゃうんだもん。やってられないよね」

 

「え? どんなこと言われるのかって? まぁ、いろいろありますよ。

 ‥‥そうね、ほとんどは言葉の暴力だけど、あれは結構、あとからこたえるんですよね。トラウマっていうのかな。アホだの、ボケだの、すごい怒鳴り方されて。今の若い子たちはそんなに怒られた経験がないし、年上と話すのも下手。1回でもやられるとお客さんとコミュニケーション取れなくなって、完全に悪循環ですわ。

 特にね、理不尽なこと言うのは年配の男性に多いんです。命令口調でね。自分の運転手だと勘違いするんですかね。殴られたら、警察呼べばいいけど、言葉の暴力じゃあ通報もできませんから。いやな世の中になってしまいましたね」

 ‥‥せっかく育てた社員が辞めてしまうほど怒鳴り散らすとは。事態は想像以上に深刻である。しかも、年配の男性。ふむ、確かに。

 コンビニでアルバイトをしている学生が、意味不明の横暴な態度を取るのは、決まってダーク系のスーツをきちんと着たビジネスマンとぼやいていたことがあった。社会的に強い立場にいる人たちの特権意識が高まっている傾向は確かにあるのだと思う。

 だが、女性であれ、おばさんであれ、若者であれ、カスハラ加害者はいるし、今回は「どんな人が加害者になりやすい」ということがテーマではないので、「あくまでもこういう話を私が聞いた」というレベルにとどめておいていただきたい。

カスハラは心に深く長く傷を残す

 昨今のカスハラはエスカレートの一途をたどっていて、暴言や恫喝だけではなく、土下座を強要したり、SNSで広めるぞと脅しをかけたり、数時間にもわたりクレームを言い続けたり、賠償金を求めるケースも存在する。

 カスハラは介護の現場でも横行している。「介護職員への暴行、杖(つえ)を股に当てるセクハラも」に書いたとおり、利用者の家族からの迷惑行為も「カスハラ」である(以下、抜粋)。

・“挨拶ができていない”、“太っているナースは来るな”など、訪問する度に暴言をはく
・“おまえなんかクビにしてやる!”と激高。杖を振り回してたたこうとした
・料金請求時“カネカネばっかり言いやがって”“ボランティアって気持ちがないのか”と言われた。

 カスハラを受けた人が「10年以上前のことだが、思い出すだけで涙が出る」「言われるだけで何もできなかった」と告白しているように、心が引き裂かれるほどの深い傷を負うことになる。

 被害者の心情を慮れば「ガイドラインを作成する」などと悠長なことを言っている場合じゃない。早急になんらかの防止策に乗り出して欲しい。というか、これこそ「働き方改革」だと思うのだが・・・。

 

 いずれにせよ、運転手さんが“普通のお客さん”と表現したように、ひと昔前であれば、堅気の人はやらないようなクレームを、ごくごく普通の人が「お客様」の立場を利用して、従業員を追い詰めているというのだから困ったものである。

 が、これは裏を返せば、なんらかのスイッチが入った途端、誰もが「カスハラ加害者」になる可能性があるとも言える。人のふり見てわがふり直せ、ではないけど、自分や家族が加害者にならないよう気をつけねばならない。

 そもそも、この数年社会にまん延している「カネさえ払えば何をやっても許される」「客の要求を満足させるのは当然」という歪んだ“お客様”意識はどこから生まれたのか。
 個人的には大きく2つの要因が引き金になっていると考えている。

 まず、1つ目は「お客様第一主義」という理念の下、モノを作ることに専念してきたメーカーまでもが、「モノ」の付加価値を高めるために顧客サービスを強化し、競争に打ち勝とうとしたことである。

 その結果、本来であれば顧客サービスとは無縁の職業についた従業員にまで、顧客サービスが課せられ、それが従業員の資質の問題として処理されるようになった。

顧客の声とカスハラを明確に区別する企業は少ない

 例えば、システムエンジニア(SE)だ。
 数年前に行ったヒアリングでは(河合らの研究グループ)、多くのSEさんたちが顧客のところに出向いて要求を聞きながら作業を進める“サービス”を課せられていた。もともと「人と接するのが苦手だから、プログラマーの道を選んだ」という人が少なくないにもかかわらず、だ。

 システムの不具合の原因が顧客の側にある場合でも、途方もない要求を突きつけられる。「顧客が不機嫌というだけで、怒鳴られたり罵倒されたりした」と語る人たちもいた。

 企業側からすれば、現場で社員が耳にする「お客様のクレーム」は商品改善の大切な声かもしれない。だが、「大切な声」と「カスハラ」を明確に区別する企業は少ない。

 ただただ「お客様を満足させよう!」を合言葉に、ときにゲキを飛ばし、従業員たちに丸投げする。銃も防護服も身につけずに、丸裸で従業員は“危険なサバンナ”に放り出されているのだ。

 

 実際、冒頭で紹介した調査では、顧客対応マニュアルを作成している会社は31.4%だった。そのうち、カスハラに対応していないマニュアルが約4割で、全体の半数以上は「作成予定もない」という。

 で、ここからが2つ目の要因になるのだが、そもそもサービスとは“感情”を提供することであり、サービスを提供する労働は「感情労働(emotional labor)」と呼ばれ、それなりのスキルなくしてできるものではない。

 つまり、本来であれば従業員のサービスの教育や感情コントロールの訓練を行ったり、感情労働分の賃金を上乗せしたりするなど、お客様を満足させるためのコストが必要不可欠。付加価値を高めるためのサービスは、タダじゃないのだ。そんな認識もないままに、対人サービスを当たり前としていることが問題なのだ。

 2012年にスカイマークが、[スカイマーク・サービスコンセプト]という冊子を座席のシートポケットに入れ、顧客からのクレームで回収するという事態に至ったことがあった。

「感情労働」を切り分けてみせたスカイマーク

・荷物の収容はしない
・従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けていない
・安全管理のために時には厳しい口調で注意をすることもある
・メイクやヘアスタイルやネイルアート等に関しては「自由」
・服装については会社支給のポロシャツまたはウインドブレーカーの着用だけで、それ以外は「自由」
・客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なもの
・幼児の泣き声等に関する苦情は一切受け付けません
・地上係員の説明と異なる内容をお願いする際は、客室乗務員の指示に従うこと
・機内での苦情は一切受け付けません
・ご理解いただけないお客様には定時運航順守のため退出いただきます
・ご不満のあるお客様は「スカイマークお客様相談センター」あるいは「消費生活センター」等に連絡されますようお願いいたします

 私はこの問題が発覚し、大バッシングが起きた時に、スカイマークを褒めた。「オ~、よくぞここまで言い切った!」と。このサービスコンセプトこそが搭乗料金の値下げにつながっているというロジックが成立するからである。

 [スカイマーク・サービスコンセプト]は、「我が社の飛行機に乗っているのは、客室乗務員ではなく、保安員です。ですから、他の航空会社さんとは違うのです」というお客さんへのメッセージであると同時に、「我が社はあなたたちに、乗客を感情的に満足させることを求めていない。あなたたちは、安全に乗客を届ける仕事に専念してください」という社員へのメッセージでもある。

 

 誤解のないように言っておくが、社会人の当たり前の振る舞いとして、お客さんに感謝したり、仕事をスムーズに進めるためにお客さんとコミュニケーションを取ったり、自分がお客さんを喜ばせたくてサービスすることと、「何が何でもお客さんを満足させる!」ことは別。

 お客様を「大切」に思って丁重に接することと、感情を売り払ってまでお客様を満足させることは、決して同じではないのである。

 「感情労働」は働く人の資質でも自主性に任せる問題でもない。「企業がコストを払う労働」である。「顧客を満足させるのは、タダじゃない」という当たり前を、一体どれだけの企業が理解しているのだろうか。

 企業は本当に「サービス」が最後の切り札なのか?を、きちんと考えた方がいい。

 その上で「『お客様を満足させる』ために我が社が従業員に求めるものは何か?」をとことん突き詰めてほしい。“顧客を満足させる”ことに疲弊しきって、しまいには金属疲労のように心がポキリと折れることがないように働く人を守ってほしい。

 これ以上、お客さんのモンスター化が進行しないためにも。

『他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)


権力者による不祥事、職場にあふれるメンタル問題、
日本男性の孤独――すべては「会社員という病」が
原因だった?“ジジイの壁”第2弾。
・なぜ、優秀な若者が組織で活躍できないのか?
・なぜ、他国に比べて生産性が上がらないのか?
・なぜ、心根のゲスな権力者が多いのか?
そこに潜むのは、会社員の組織への過剰適応だった。
“ジジイ化”の元凶「会社員という病」をひもとく。

 

 


自民党本部が配布した「トンデモ野党」冊子を作成した黒幕は誰か

2019年07月20日 16時11分28秒 | Weblog

まぐまぐニュース!

2019.07.12 by

arata20190711

自民党本部が先月、所属議員に配布した冊子の内容が話題となっています。安倍首相を礼賛し自党に批判的なメディアや野党をひたすら叩く同冊子、ネットサイト「テラスプレス」掲載の記事をまとめたものとされますが、肝心のそのサイトの作成者が不明とあって、様々な憶測を呼ぶ事態に。元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、映画『新聞記者』にも登場する内閣情報調査室が関係している可能性を指摘し、その根拠を記しています。

 

自民党本部が配布した冊子は何者が作成したのか

東都新聞の女性記者のもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた…安倍政権を思わせる疑惑を描いた政治サスペンス映画『新聞記者』が上映中だ。

映画の原案になったのは東京新聞社会部望月衣塑子記者の同名著書新聞記者』である。モリ・カケ問題が世間をにぎわしていたころ、社会部記者ながら菅官房長官の定例記者会見に乗り込み、“シャンシャン会見”の空気を破って、何度もしつこく菅長官に質問をぶつけていた望月記者について、当メルマガでも二度ほど取り上げた。思い出していただくために2017年6月15日の記事「怪文書はホンモノだった。強行採決後の出来すぎたタイミングで発表」のなかのワンシーンを再掲する。

加計学園の獣医学部新設をめぐる「総理のご意向文書の有無について、「確認できない」と言い張っていた松野文科大臣が、前川喜平前事務次官や現役官僚からの証言を受け「追加調査すると姿勢を転換した後の官房長官記者会見

 

望月記者 「公文書管理についての告発が相次いでいます。前川さんだけでなく複数の方の告発が出ています。もう一度真摯にお考えになって文書の公開、あるいは第三者による調査をお考えになりませんか」

 

菅官房長官 「わが国は法治国家ですから法律に基づいて適切に対応している」

 

望月記者 「匿名で出所がハッキリしない文書は調べないということですが、公益通報者保護法のガイドラインに匿名の通報についても可能な限り同様な取り扱いを行うとなっています。法治国家であればこのガイドラインに沿って文書があるかないかを真摯に政府の方で調べるべきではないですか」

 

望月記者は司会者の「同じ質問を繰り返さないで」「質問は簡潔に」という声にもひるまず続けた。官房長官の記者会見では異例なことだ。窮すると菅官房長官は同じ答えを繰り返す。

映画『新聞記者』や望月記者の著書に触発されたのか、米国でも菅官房長官のメディア対応を批判する声が出始めた。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は5日、菅義偉官房長官が記者会見で東京新聞記者の質問に対する回答を拒むなど、そのメディア対応を指摘したうえで、「日本は憲法で報道の自由が記された現代的民主国家だ。それでも日本政府はときに独裁政権をほうふつとさせる振る舞いをしている」と批判した。
(朝日新聞デジタル2019年7月6日)

独裁政権をほうふつとさせる振る舞い」は、枚挙にいとまがない。気に入らない官僚には容赦なく人事で報復し、官僚はそれを恐れて官邸の意向に忍従する。政権に批判的なコメンテーターはテレビ番組から降板させるよう圧力をかける。秘密保護法や共謀罪の創設で自由、人権を脅かす…。

望月記者の著書は、真実を隠そうとする菅官房長官との記者会見でのせめぎ合いに重点がおかれているが、映画でクローズアップされているのは「内閣情報調査室」(内調)の存在だ。

内調は、公安警察、公安調査庁などと並ぶ情報機関だが、ありていに言えば、官邸内のスパイ組織”である。そのトップ、北村滋・内閣情報官は、かれこれ7年半もそのポストに在任し、何かと安倍首相に頼りにされている。

たとえば、“アベ友”ジャーナリストとして名をはせた山口敬之氏が、準強姦容疑で警察に逮捕されかけたさい、もみ消しの相談を引き受けていたのが北村氏だとされている。

安倍首相の親友が経営する加計学園の獣医学部新設疑惑をめぐり、重要な証言者、前川喜平氏が出会い系バーに出入りしていたと報じた読売新聞のネタモトは、前川氏の行動を以前からチェックしていた内調のリークであるらしいこともわかっている。

 

映画『新聞記者』では、職員たちがパソコンに向かう内閣情報調査室の場面がたびたび出てくる。政権の都合のいい情報を書き込み情報操作に励んでいるシーンだ。

 

こういうのを見ると、安倍政権の応援サイトのなかには内調がからんでいるものもあるのではないかと、つい想像してしまう。

 

昨今話題の「テラスプレス」もそうだ。このサイトに掲載されている記事をまとめた冊子が自民党本部から党所属国会議員の事務所に大量に配られている

冊子の標題は『フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識』。選挙演説用の参考書としての利用を勧めているらしい。

中身はというと、「トンデモ野党のご乱心」「フェイクこそが本流のメディア」「安倍政権の真実は?」の三章からなり、立憲民主党や共産党朝日新聞や東京新聞をこっぴどく叩く一方で安倍政権のやることなすことすべてを持ち上げている

 

記事はテラスプレスのものとほぼ同じであり、野党党首をバカにしたような顔漫画をそえて、一冊にまとめている。

TBS「ニュース23」の党首討論でこの冊子の件が取り上げられ、キャスターが「立憲民主枝野代表の無責任を嗤う」と書かれていることを示して考えを求めた時、安倍首相は「党本部でいろいろな冊子を配っていますが、いちいち見ていない」と断ったうえでこう言った。

無責任といえば無責任だと思いますよ。統一候補を選んでいるにもかかわらず、共産党は自衛隊違憲だと言い、立憲の枝野さんは合憲だといっている」。

いつもの話のすり替えだが、安倍首相のこの言いぶりから、冊子が配られていることはもちろん野党批判の中身についても知っていることがうかがえる。

ところで、「テラスプレス」なるサイトが奇妙なのは、その名で検索してもページが出てこないことだ。つまり運営者はアクセス数にまったく興味がないようなのである。その点では、映画に描かれたようなネットによる情報操作とは多少趣が異なる

運営主体や執筆者は不明だが、昨年7月以来150本近くも記事が投稿されており、内容は安倍応援団そのものであっても、文章は分かりやすい。いわば新聞記者が書いたような感じである。

他に、はっきりしていることがある。同じ自民党なのに、石破茂氏には敵対的なのだ。

このサイトへの投稿が始まったのは昨年7月13日ごろだが、8月6日の記事では、総裁選への出馬意向を固めた石破氏について、加計学園問題とからめ「獣医師の既得権益を守るために動いたと批判している。

総裁選を安倍氏が有利に戦えるように意図した記事であるのは明白だ。だから、口が裂けても自民党本部がからんでいるとは言えないだろう。

あえて運営主体をわからないようにし、当然、連絡もとれないようにしている。この奇怪なサイトの正体は何者なのか。

その点、総裁選で内閣情報調査室が安倍氏のために活動していたという情報があるのは、気になるところだ。

総裁選から遡ること5ヶ月前、内調スパイたちは石破氏に関する情報収集に動き出していた。
(今井良著『内閣情報調査室』より)

 

サイトの実質的運営者が誰であれ、官邸か党の安倍側近が何らかの形で関与していたと考えるほうが自然だ。スタート段階ではURLを知る特定の仲間内で情報を共有するためのサイトだったかもしれないが、記事が時系列的に増えるにつれ、選挙演説の参考資料としてうってつけになってきたのは確かだろう。

 

メディアの問い合わせに対し、自民党本部は「テラスプレスの許可を得て、参考資料として配布した」と説明している。テラスプレスとの関係については、次のように書面で回答したという。

 

「テラスプレスは、1年ほど前から広く一般にネット上で閲覧されており…説得力のある内容であることから、これらの記事をまとめた冊子があるということで、通常の政治活動の一環として、参考資料として配布したものであり、テラスプレスの運営等には関与しておりません」(ハフポスト日本版より)

そうだとすると、テラスプレスが冊子にして発行したものを、自民党が買い取ったか、無償でもらったことになる。党所属の国会議員の事務所に各20冊以上配っているらしいから、相当な部数だ。

だが結局、テラスプレスの運営、執筆者などについてはいっさい語らない。おかしな話だ。自民党のような大政党がまったく知らないところから選挙にかかわる大事な資料を受け取るはずがないではないか。

 

あくまで政権とは無関係の外部ネットメディアが存在する形にしその内容が自民党の主張に沿っているから使わせてもらったのだという装いに仕立てたとしか思えない。

ニュースサイト「BUZZAP!」によると、このアカウントの位置情報から、皇居国会議事堂首相官邸霞ヶ関官庁街自民党本部の周辺に発信源があるらしい。

万が一、政府機関である内調が、特定の政党の選挙対策に一役買っているとすれば大問題である。

前川喜平氏のスキャンダルでっち上げや山口敬之氏の事件もみ消しに動き、さながら安倍首相の私的秘密工作機関に成り下がっているように見える現況からは、残念ながら、その疑いを拭いきれないのではないか。

内調には情報操作世論工作部門があるとされている。新聞、出版、テレビ、ネットなどのメディアごとに分かれてマスコミ担当の特命班が存在するとも聞く。

職務の性質上、われわれ一般人がその活動内容を知ることはできず、すべては推測の域を出ないが、逆に言うなら、内調が何をやっていても不思議ではないということになる。

公私の別をわきまえない不心得な政治権力者と、その忖度に余念のない側近たちが、年に何億円もの調査費を使う秘密機関を、思うがままに操ることができるなら、これほど恐ろしいことはない。

この件について、官邸は何も語るはずがない。冊子を配布した自民党本部が唯一の手がかりだ。

 

自民党本部は、疑惑を晴らすためにも、「テラスプレス」の実体を明らかにするべきである。

image by: 安倍晋三 - Home | Facebook

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。

 

 

 

東京新聞 TOKYO Web

<参院選 くらしデモクラシー> 自民、物議醸す 演説参考資料

自民党が議員に配布した冊子

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 7月の参院選を前に、自民党本部が党所属の全国会議員に政治活動の「参考資料」として配布した冊子が物議を醸している。野党やメディアを厳しく非難するネット上のニュースサイトのコラムをまとめたものだが、サイトの運営組織や執筆者は不明。出どころ不明の無責任な言説に政権与党がお墨付きを与えている格好で、党内からもいぶかる声が出ている。 (小倉貞俊、宮尾幹成)

冊子に掲載された野党党首のイラスト

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 「フェイク情報が蝕(むしば)むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識」と題した冊子はA5判百四十二ページ。編集・発行は「テラスプレス」とあり、前書きによると、同名のインターネットサイトにアップした記事を掲載した。

 関係者によると、党本部が十一日、「報道では語られていない真実を伝える内容。参院選に向けた演説用資料として活用下さい」と記した文書とともに、各議員事務所に二十五部ずつ配った。十部ほどの事務所もあった。

 その直後から話題になり、同党の武井俊輔衆院議員もツイッターで「妙な本(中略)ひいきの引き倒しもいいところです。扱いに困ります」とコメント。

 党職員が事務所に直接届けに来たという自民党の若手議員の一人も「こんな荒唐無稽なもの、選挙には使えないよね」と戸惑いの表情。ページをめくりながら「ほとんど読んでない。このまま捨てるつもり」と話した。

 波紋を広げている内容は「トンデモ野党のご乱心」と題した野党批判、「フェイクこそが本流のメディア」とした新聞批判に、安倍政権をたたえる三部構成。野党党首らを下品に描いたイラストを添え、立憲民主党と国民民主党を「さもしい政党」、共産党を「壮大な虚偽」、社民党を「オワコン(終わったコンテンツ)」と攻撃。安倍政権に批判的な新聞は「事実をねじ曲げた報道」、沖縄・辺野古の米軍新基地建設を問う沖縄の地元紙も「視野狭窄(きょうさく)」などとおとしめる一方、「安倍首相に代わる政治家がいるとは思えない」などと首相を礼賛するコラムを列挙している。

 版元とするテラスプレスのサイトには運営者や所在地などの情報がなく、これらのコラムは誰が何のために発信しているかはまったく明かされていない。

安倍首相のイラスト=いずれも冊子より

写真
 

◆党内からも疑問「荒唐無稽、使えない」

 自民党本部は取材に、サイトの運営には「関与していない」と回答。「(サイトは)一年ほど前から、すでに広くネット上で閲覧されている。時々の時局テーマを分かりやすく具体的に数字を示しながら解説し、説得力のある内容」「これらの記事をまとめた冊子があるということで、通常の政治活動の一環として、参考資料として配布した」と説明した。冊子の入手の経緯や、費用などについては「答えられない」とした。

<沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)の話> 素性の分からないネット上の発信者の言説であり、いわば怪文書の類い。それに価値を見いだし、平然とお墨付きを与えるなど、政権与党として嘆かわしい。政党の通常の活動として度を越している。出所不明の言説を国民が受け入れると考えているのなら、問題だ。

<NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」副理事長でジャーナリストの立岩陽一郎さんの話> 政権への批判をフェイクニュースと決めつける姿勢は、米国トランプ大統領の手法さながらで問題。メディアへの信頼を失わせようとの態度が先鋭化している。メディアの役割が弱まれば、民主主義が危うくなる。

 
 

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2010年に東北大学の出澤真理教授のグループによってはじめて発見・報告されたミューズ細胞

2019年07月02日 11時46分19秒 | Weblog

 

http://www.stemcells.med.tohoku.ac.jp/common/files/dezawa_publication_201904.pdf

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20180306_01web.pdf

http://www.lsii.co.jp/pdf/20180903-1.pdf

細胞組織学分野 研究概要

生体に内在する新しいタイプの多能性幹細胞:Muse細胞

私たちの研究室では成人ヒトの間葉系組織に多様な細胞に分化する能力を有する新たなタイプの多能性幹細胞 Multilineage-differentiateing Stress Enduring (Muse)細胞を発見しました(Kuroda et al., 2010, PNAS;Wakao et al., 2011, PNAS; Kuroda et al., Nature Protocol, 2013)。
この細胞は

  • 骨髄、皮膚、脂肪などの間葉系組織にメインに存在し、また様々な臓器の結合組織にも内在する。市販の間葉系の培養細胞からも得られ、アクセスしやすい。
  • 1細胞から体中の様々なタイプの細胞に分化可能。自己複製能も有する。
  • そもそも体内に自然に存在する細胞であり、腫瘍化の危険が極めて低い。
  • すでに施行されている骨髄移植 (0.03%)や間葉系幹細胞移植 (~1%)の一部の細胞に相当し、安全性の実績がある。
  • 線維芽細胞と同程度の増殖力を持つ。

などの特徴を有します。

一般に体性幹細胞(組織幹細胞とも言う)は、その幹細胞の存在する組織を構成する細胞群を分化させることの出来る細胞と考えられております。例えば神経幹細胞であれば神経とグリアが、造血幹細胞では血球系の細胞が作られるのがその例です。しかし間葉系幹細胞では骨、軟骨、脂肪などの間葉系細胞の他に、神経(外胚葉)、肝細胞(内胚葉)など胚葉を超えた分化が報告されてきました。このことから間葉系幹細胞には多能性の細胞が内在するのではないかと議論されてきましたが、間葉系幹細胞はもともと均質な細胞によって構成されているわけではなく、複数種の接着性細胞の集団ですので、仮に多能性幹細胞が存在するとして、その実態はどのような細胞なのか、ということが長らく議論となっていました。

当教室では成人ヒトの皮膚や骨髄などの間葉系組織から多能性幹細胞を同定することに成功し、この細胞をMuse細胞と命名しました(Kuroda et al., 2010, PNAS)。Muse細胞は1細胞から3胚葉性の細胞に分化可能で、またストレス耐性能、多能性幹細胞マーカーの発現、自己複製能などを有します。そもそも生体に存在することからも腫瘍性増殖を示さないという大きな利点があります。間葉系幹細胞と多能性幹細胞の両方の特徴を備えており、間葉系マーカーCD105とヒトES細胞マーカーSSEA-3の二重陽性細胞として組織や間葉系の培養細胞から単離可能です。

多能性を備えながら腫瘍性が無いので再生医療への応用が期待されているわけですが、Muse細胞の持つ最大の利点は

  • 誘導もせずそのまま血中に投与するだけで組織修復をもたらす。

ということです。すなわち

  • 腫瘍を作らないという安全面だけでなく、分化誘導もせずにそのまま生体内に投与するだけで組織修復細胞として働く簡便性にある。

ということです。例えばES細胞やiPS細胞を再生医療に用いる場合には、目的とする細胞に分化誘導し、さらに腫瘍化の危険を持つ未分化な細胞を除去するという2つの要件が前提となります。しかしMuse細胞の場合、採取してきて体内に投与すれば障害部位を認識し、そこに生着して組織に応じた細胞に自発的に分化します。ですからCell Processing Center (CPC)での分化誘導などの操作を必ずしも前提とはしません。さらにMuse細胞の母集団となる間葉系幹細胞は現在世界中で数多くの臨床試験が展開されており安全性が担保されています。従ってMuse細胞以外の間葉系細胞が残存したとしても腫瘍化の危険は極めて低く、再生医療への応用が現実的であると考えられます。

現在、我々の研究室では

  • Muse細胞の発生学的な起源
  • 生体内での機能とMuse細胞動態の制御因子の開発
  • microRNA発現系の制御
  • Muse細胞の増殖能の制御因子
  • 組織間Muse細胞の比較検討

などの基礎的研究だけでなく、心筋梗塞、肝疾患、脳梗塞、神経損傷、糖尿病、感覚器障害などの多様な疾患をターゲットとした再生医療への応用に向けて国内外で研究を展開しております。

Muse細胞由来のクラスター/ES細胞由来の胚葉体

中枢神経系に存在する神経前駆細胞の探索

中枢神経系には多種の神経前駆細胞が存在すると考えられています。代表的な例が神経幹細胞ですが、神経幹細胞以外の前駆細胞の生体内での動態はあまり研究がされていません。こうした観点から、神経幹細胞の存在が同定されている脳室下帯や海馬以外の部位に注目し研究を行い、脈絡叢および第3脳室、脊髄中心管周囲の上衣細胞が、神経前駆細胞としての活性を有することを明らかとしてきました。現在、それら前駆細胞の正常および損傷時における性質や動態について解析を行い、発生・再生過程における動態の分子機構の解明を目指し研究を進めています。これらの知見を集積し、真の目的である内在性神経前駆細胞の賦活化による神経疾患治療法の開発につなげたいと考えています。

研究に関する詳細は下記までお問合せください。
〒980-8575 仙台市青葉区星陵町2-1
東北大学大学院医学系研究科細胞組織学分野
教授 出澤真理
FAX:022-717-8030
 
 
メールアドレスは「*」を「@」に変換してください。
出澤 真理

出澤 真理

細胞組織学分野
教授
mdezawa*med.tohoku.ac.jp
若尾 昌平

若尾 昌平

細胞組織学分野
講師
wakao*med.tohoku.ac.jp
串田 良祐

串田 良祐

細胞組織学分野
助教
y-kushida*med.tohoku.ac.jp
黒田 康勝

黒田 康勝

細胞組織学分野
助教
y-kuroda*med.tohoku.ac.jp
廣原 ゆかり

廣原 ゆかり

細胞組織学分野
研究員
y-hirohara*med.tohoku.ac.jp
李 根

李 根

細胞組織学分野
大学院生 D4
li.gen.t6*dc.tohoku.ac.jp
山口 理奈

山口 理奈

細胞組織学分野
大学院生 D3
r-yamaguchi*med.tohoku.ac.jp
アダム マテヨビッチ

アダム マテヨビッチ

細胞組織学分野
大学院生 D2
a.matejovic*gmail.com
ハーリド ハタビー

ハーリド ハタビー

細胞組織学分野
大学院生 D1
hatabi.khaled.s4*dc.tohoku.ac.jp
大川 香奈

大川 香奈

細胞組織学分野
大学院生 M1
kokawa*med.tohoku.ac.jp
菖野 佳浩

菖野 佳浩

大学院生(先進外科学分野 D4)
shono*med.tohoku.ac.jp
鷹谷 紘樹

鷹谷 紘樹

大学院生(心臓血管外科 D4)
takaya*med.tohoku.ac.jp
海野 裕一郎

海野 裕一郎

大学院生(肝胆膵外科 D3)
yumino68*surg.med.tohoku.ac.jp
高橋 誠

高橋 誠

大学院生(心臓血管外科 D3)
makoto.t*med.tohoku.ac.jp
南方 邦彦

南方 邦彦

特別研究学生(和歌山県医大)
kunihikominakata1178*gmail.com
梶原 千絵

梶原 千絵

細胞組織学分野
技術補佐員
c-kajiwara*med.tohoku.ac.jp
佐藤 美菜香

佐藤 美菜香

細胞組織学分野
技術補佐員
m.sato*med.tohoku.ac.jp
佐々木百合香

佐々木 百合香

細胞組織学分野
技術補佐員
yurika.sasaki.d8*tohoku.ac.jp
屋代智恵

屋代 智恵

細胞組織学分野
技術補佐員
t-yashiro*med.tohoku.ac.jp