かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『阿波宇宙の蛙』一首鑑 2

2022-01-30 12:35:31 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究2の1(2017年6月実施)『泡宇宙の蛙』(1999年)
    【無限振動体】P9~
     参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放


2 倒木を埋めつくしたるうごめきのイヌセンボンタケ食毒不明

      (レポート)
 食毒不明ゆえにイヌセンボンタケは茸狩りからまぬかれ、あたりの倒木を埋め尽くすまで広がる。食毒不明なものが増殖してゆく不気味さをこめて「うごめき」という捉え方をする。(慧子)


       (当日発言)
★たぶん倒木を埋めつくして蠢いている無数のイヌセンボンタケのイメージが1番の「森のかぜ茶
 いろのながれ光るなか無限振動体なるきのこ」にも投影していると思うのですが、読者には1番
 を読んだ段階では分からないですね。ところで、レポートに不気味とありますが、私はそうは思
 いません。増殖していくことに対しても気味悪がっているわけではない。むしろありのままを言
 っていて、それはどちらかといえば小気味よいのかなと思います。イヌセンボンタケは小さくて
 白から灰色に変わっていくと辞書にありますが、千本というくらいだから群生するんですね。食
 中毒の記録はないけど、まあ食べない方がいいでしょうと茸図鑑には書いてありましたが。
    (鹿取)
★食べる食べないは関係なく、ものすごい数の茸が無限のように蠢いているって想像するだけで楽
 しいですね。森の光りの中で茸が揺れている、その風景だけで素晴らしい。(A・Y)
★景だけで楽しいという今みたいな鑑賞は作者は嬉しいんじゃないかな。それだけで圧倒的な風景
 ですよね。(鹿取)
★歌集の始まりの歌なので無限振動体というのは自分にダブらせたのかなと思いました。何者にも
こころを揺れ動かしている自分です。2首目は食毒不明だけどおどろおどろしくはないキノコを
 出してくる。小説でもそうだけど、何だろう何だろうと読者を引き込んでゆく。そういう面白い
 組み立てになっていると、そういう巧みさを思いました。(真帆)
★私は茸は茸と思っていますが、いろんな読みがあってもいいと思います。(鹿取)


        (後日意見)
 この一連を通して作者は茸にはシンパシーを持っている。余談だが、松男特集号で「地に立てる吹き出物なりにんげんはヒメベニテングタケのむくむく」について、渡辺松男は「人間のたとえに使ってしまい、ヒメベニテングタケには申しわけないことをしたと思っています」と発言している。(鹿取)


       (後日意見)2019年5月追加
 倒木を埋めつくすイヌセンボンタケ。食べられるか否かは問題外。ただひたすらに渡辺松男は森の生命的起源を確認したいのである。(鶴岡善久)
 「森、または透視と脱臼」(「かりん」2000年2月号) 


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