かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 280

2024-06-23 11:28:29 | 短歌の鑑賞
     2024年度版 渡辺松男研究34(16年1月)
       【バランスシート】『寒気氾濫』(1997年)115頁~
        参加者:S・I、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
        レポーター:渡部 慧子  司会と記録:鹿取 未放
   

280 設備投資の算段をして秋の暮小規模工場に情報遅し

      (レポート)
 小規模工場の経営主であろう。設備投資の算段をして腹を据えて何かを待っている。おりしも秋の暮れだという。晩秋なのか、秋の日の暮れ方なのか。情報も待つものにつるべ落としの秋の日をかさねてみた。小さく何かを営むものに必要な情報がまだ届かないというあるさびさびとした状況を表すのに第3句が効果的に置かれていよう。(慧子)


      (当日意見)
★「情報遅し」というのはすごく実感としてわかりますね。どんな時代にあっても大工
 場に比べて中小の企業には情報が遅い。例えばマンションの偽装の問題もそうです
 ね。(S・I)
★大企業からの声を聞いて行政は計画を立てますからね、中小企業から聞くことはまあ
 ない。こういった詠み方って土屋文明などがしてますかね。(鈴木)
★土屋文明はもう少し外からの視点で詠んでいるのではないですか。(鹿取)
★外からですけど、そういった経済について土屋文明ってけっこうこういう視点があ
 る。松男さんと同じ群馬県の人ですけど、こういった詠み方を昔している。つっこみ
 方はもちろん違いますが。(鈴木)
★松男さんの歌にはこういうリアルな、あるいはリアルに見える歌は少ないですけど、
 子供の頃から父親の工場主としての苦しみを見てきたことが反映しているのでしょう
 ね。実際工場主かどうかは知りませんけど、この歌集の冒頭の連に「土屋文明さえも
 知らざる大方のひとりなる父鉄工に生く」がありますし、父の口癖が「われわれ庶
 民」だという歌もある。CNC旋盤などすごく高価なものだと思いますが、もっと設
 備投資をしようと算段しても、情報が遅いばっかりに、たとえば補助金がもらえなか
 ったりとみすみす損をして苦しめられる、そういうことですよね。次の歌「黒という
 ふしぎないろのかがよいに税理士も黒きクルマで来たる」にも繋がっていく思いで
 す。(鹿取)



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