かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 178

2024-01-09 11:06:46 | 短歌の鑑賞
 2024年版 渡辺松男研究22(2014年12月)
      【非常口】『寒気氾濫』(1997年)75頁~
      参加者:S・I、泉真帆、崎尾廣子、鈴木良明、
          曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       レポーター:S・I   司会と記録:鹿取 未放


178 6月の水たっぷりの樹影濃しひとりのおみなみもごりていん

      (レポート)
 6月は水の季節である。水の恵みをたっぷりと受けた樹の影は、どっしりと存在感を示すように濃い。水は植物ばかりではなく、あらゆる生命の源である。おみながみごもって、羊水の中で胎児が健やかに成長しているのだろうか。(S・I)


    (当日意見)
★下の句は妊婦さんが別にいるのではなく樹の中に生命を持つおみなが身ごもっている
 のかと思いました。あと、「たっぷり」が全体に効いていて羊水まで感じさせてしま
 う巧みさがある。(真帆)
★ひとりのおみなはこの樹によって身籠もったように感じました。(慧子)
★女性の身体は月の運行や宇宙の動きなどと関連しているので、ここもそういう感じ。
 三木成夫(しげお)という人が『内臓のはたらきと子どものこころ』(1982年発
 行築地書館)の中で「内臓系は植物と対応している」というようなことを書いていま
 す。加藤典洋の『人類が永遠に続くのではないとしたら』の中でも紹介されていま
 す。もっとも三木の言葉を援用しなくても、この歌そのまま実感として感じ取れる。
   (鈴木)
★6月の豊かな水を受けて樹液たっぷり、生き生きとした樹が影を濃くしている。どこ
 かでこのように豊かに身ごもっている女性もいるだろう、というのですが、生命の躍
 動を感じとっている歌ですね。真帆さんのように樹の中に身ごもっているおみながい
 るととっても面白いですね。「ひとりの」と限定しているところがちょっと気になっ
 たのですが、樹=おみなとかんがえればすんなり受け取れますね。(鹿取)

コメント
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