かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の144

2019-03-04 20:03:53 | 短歌の鑑賞
  ブログ用渡辺松男研究2の19(2019年2月実施)
     Ⅲ〈錬金術師〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P96~
     参加者:泉真帆、M・I、岡東和子、A・K、T・S、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子   司会と記録:鹿取未放


144 赤翡翠(あかしょうびん)きょろろと宙へ消え去りて哭きたきはわれ垢穢を濃くせり

        (レポート)
 一首中のまずは「きょろろ」に目がとまった。鳥たちの動き、目のまるさ、鳴き声など簡潔な生のすべてが「きょろろ」に込められていよう。そして飛びながら「宙へ消え去りて」のような状態を目にすると作者のみならず哭きたくなるような感情におそわれることを読者も経験していよう。しかしそこから作者の思いはどう広がったのか。
 鳥たちは常に身を軽く生きていて垢穢(あかとよごれ)のようなものさえ身につけない。振り返って私たちは身体に精神に「垢穢を濃くせり」なのだ。赤翡翠が目にとまって宙に消え去ってゆくまで作者のこころに去来したものは、それぞれの命や生であり、そこに人間の負う傲慢、垢穢というようなものを鳥に比べて思ったのだろう。
     (慧子)


      (当日意見)
★私はこれを「垢穢(くえ)」って読んだんですけど。(A・K)
★そうですね。レポーターは「宙」を「そら」、「垢穢」を「こうあい」と読まれましたが、普通
 に読めばそれぞれ「ちゅう」「くえ」ですね。特別の読みを指定したい場合は風邪(ふうじゃ)
 のようにルビが振られていますから。(鹿取)
★でも、「垢穢(こうあい)」とも読みますね。(慧子)
★読むかもしれないけど、それだと結句が9音になって間延びします。ここは簡潔な漢音「くえ」
 じゃなくては駄目で、垢穢(くえ)の語が響きも美しいし、歌を引き締めています。(鹿取)
★漢語の垢穢(くえ)をもってこられたところがすばらしいです。(電子辞書で声を聞かせて)は
 い、赤翡翠はこんな鳴き声です。「カワセミの一種。大きさはツグミぐらい。背は朱色、腰は瑠
 璃色、背面は黄褐色、嘴は長くて赤色。渓流の近くの広葉樹林にすみ、蛙・昆虫・小魚などを好
 んで食う…」と広辞苑に出ています。(A・K)
★すごく正統派の歌ですね。声調も美しいし、景を出してから自分の心を述べて、アララギに出し
 ても高評価されそう。(鹿取)
★はい、上の句で景を、下の句で心象を述べていますね。赤翡翠という鳥を持ってきた所もいいで
 すね。(A・K)
★松男さん、野鳥に関係するような仕事もされていたようですね。日本野鳥の会にも入っていらし
 たようで。プライベートでも双眼鏡を持ってよく山歩きをされている。(鹿取)
★慟哭の「哭」で「哭きたきはわれ」というのも上手いと思いました。(慧子)
★ちょっと話がそれますが、以前私が「かりん」に「アンチ朔太郎」という渡辺松男論を書いたら、
 松男さんからアンチというほど朔太郎が嫌いではありませんというメールが来ました。それでい 
 ろいろやりとりしたんですが、朔太郎の中では「大渡橋」(郷土望景詩の中にある)などの調べ 
 の張った韻文詩が好きみたいでした。現在、朔太郎の詩にうたわれた風景がどんなふうに変貌し 
 たかの話もそのときに松男さんから聞きました。私も朔太郎の前衛的なひらがな感覚の歌よりも 
 ちょっと古風で悲壮な韻文調の歌が高校時代は好きでしたね。「大渡橋」の他にも「小出新道」 
 とか。この歌の「垢穢を濃くせり」の声調からそんなことを思い出しました。それから「哭きた
 きはわれ垢穢を濃くせり」をレポーターは人間一般のこと、私たちと複数でとらえていますが、
 ここで「哭きたき」と思っているのはあくまでも作中主体の〈われ〉だと思います。赤翡翠がき
 ょろろと啼いて宙へ消え去ったのを見て、反射的に「哭きたきはわれ垢穢を濃くせり」という気
 分になったのですから。その一瞬をとらえたところが大切だと思います。また、慟哭の「哭」で
 泣くという歌は宇宙の果てで星が哭くとか松男さんに何首かありましたね。(鹿取)


      (後日意見)
 鹿取の当日発言中の萩原朔太郎の「大渡橋」の出だし3行を挙げる。
ここに長き橋の架したるは
かのさびしき惣社の村より 直(ちよく)として前橋の町に通ずるならん。
われここを渡りて荒寥たる情緒の過ぐるを知れり
 また、宇宙の果てで星が哭く歌は、例えば次の歌。(鹿取)
斧振りし父はるかなりクエーサー激しく宙のさいはてに哭く『歩く仏像』



コメント
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