だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

持続可能な地域デザインのための地域調査法メモ(1)

2009-07-22 01:43:40 | Weblog
 私たちは、ある地域に着目してその地域の課題=持続不可能性を把握し、これを持続可能なように作り替えていくにはどうすればよいか、という問題意識で地域をとらえようとする。そのために地域の歴史と現状を把握する必要があり、そのための地域調査が必要である。いわゆる地域調査というのは、文科系では地理学、社会学や民俗学、理科系では地質学、生態学、林学などさまざまな分野で行われてきた。私はもともとの専門の地球科学的な調査以外にも、それぞれの専門家の方にいっしょに歩いてもらいながら、門前の小僧的にさまざまな分野の地域調査法を学んできた。そしてそこで痛感するのは、それらの方法がすぐには役に立たないということである。

 これまでの学問は、研究者自身が地域の現状を把握することが目的であり、目標であった。しかし、私たちの課題は、将来の地域をどうすればよいか地元のみなさんとヨソモノの私たちとがいっしょに考えることである。もともとの目的・目標が違っていてはそのままでは役に立たない。そこで、学問的な手法を受け継ぎつつも、新たな方法論を構築する必要に迫られている。そのタネとなるような断片的な考察をメモとして残していきたい。
 私がこれまで学生達といっしょに地域調査を行ったのは、愛知県豊根村、長野県根羽村である。また現在とりかかっているのは、岐阜県中津川市加子母地区、愛知県豊田市足助地区、長野県阿智村である。手探りですすめてきたこれらの経験を整理してみたい。

1)まず地域リーダーを捜す。というか、そういう人との人脈がないところには入っていけない。ここでいう地域リーダーとは、地域の課題を自覚し、これを解決することをミッションとして日々活動している人である。志のある自治体職員やNPOをやっている人が多い。志のある農家や林家、地域経済を支える企業の経営者の場合もある。

2)彼らのネットワークを把握する。どういう人がどういう立ち位置で地域活動に貢献しているか。内部のネットワークとともに、外部の応援団とのネットワークを把握する。

3)そして私たち自身が外部の応援団ネットワークの一員に加えてもらえるように努力する。そのためには、私たちができることは何でも貢献する気持ちが必要だ。フットワーク軽く、呼ばれればすぐに駆けつけることができなくてはならない。何度かそうやって通ううちに地域リーダーとの信頼関係が構築されてくる。

4)土地勘をつかむ。その地域をぐるっと案内してもらって、地域の特徴をつかむ。どこにどういう集落があるか、どういう自然があるか。景観をよくよく観察する。注意深く観察すれば景観だけからでもその土地の歴史と現在の暮らし向き、課題が見えてくる。それらは私たちにとっては第1近似の仮説ということになる。(加子母をはじめて訪問したときの例

5)統計データから描くことのできる姿がその検証であるとともに、第2近似の仮説ということになる。
 まず人口。国勢調査のデータは1955年からは市町村別・男女別・年齢階級別の数字が手に入る。コーホート法というやり方で、過去の人口変化の要因を探る。それで得られたコーホート比という数値が地域の人口変化の特徴を示すことになる。これを用いると、ある年にその地域で生まれた人が年齢を重ねるとどれだけの割合の人が地域内に残っているか、を表す生残率あるいは在村率を求めることができる。いなかの場合はたいてい、高校・大学への進学で減少し、その後回復する地域としない地域がある。またその数値を使って将来の人口シミュレーションを行う。

 次に最も豊富な自然資源について把握する。山間地域では森林である。森林の統計データは県が市町村ごとのデータを把握している。ただ、県にもらいに行くよりは市町村役場に行った方が早く手に入る。森林資源構成表というのは、樹種ごと(スギ、ヒノキ等の針葉樹および広葉樹)に林齢ごとの面積や材積を示した表であり、森林版国勢調査データのようなものである。これに樹木の生長モデルを入れ、また伐採シナリオを入れると、将来の森林資源構成表(つまり樹種ごとの林齢構成)が計算できる。これが森林のシミュレーションである。(根羽村における例
 必要であれば、面的な把握を行う。森林計画図というのがあり、森林の最小単位である地番ごとに地図上に境界が示され、番号がふられている。森林簿というのはその地番ごとにどのような樹種が生えているか、その林齢や面積、材積が記載されている。これをGISを使って表現すれば、地域の森林のようすがデジタル地図で表現できる。(根羽村における例)どちらも市町村役場にあるが、森林簿の方は地主の個人情報が記載されているので、閲覧のみということろもある。その場合はその場でコンピュータに打ち込む。

6)次に地域の人からいろいろな話を聞く。暮らしぶりや集落の歴史、今関心があること、困っていることなど、雑多な情報や思いを聞き出す。これにはある程度経験が必要だ。あらかじめ質問項目を決めることはしない。自然なおしゃべりをする中で、相手の話したいことを自由に話してもらう。確か宮本常一の言葉だったと思うが、「聞きたいことは相手が話したいことの中にある」のである。第1近似、第2近似の情報があれば、話に水を向けることができ、おしゃべりがはずむ。
 私はよほど求められない限り、こちらのコメントや見解を話すことはしない。ただ対話を深めるために必要であれば、「別のこういうところではこういう取り組みをしている」というような事例紹介をすることがある。
 私は話を聞いている間にレコーダーで記録したりメモをとったりしない。自然なおしゃべりの雰囲気をこわしたくないからだ。できれば後から聞き書き風にメモをまとめることができればよい。
 地域リーダーをはじめとして、だいたい20人くらい、いろんな世代や立場の人とおしゃべりをすると、その地域の状況についてある程度イメージがわいてくる。そのラフなイメージが第3近似の仮説ということになろうか。ここでメモをつくって自分なりに情報を整理する。(加子母におけるメモの例

つづく
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