だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

上海デジタル旅情

2019-06-28 17:13:43 | Weblog

 国際会議の帰りに乗り継ぎ地の上海で途中下車して、私の元教え子で上海に暮らすKさんに案内してもらって最先端の上海を見せてもらった。

 空港に迎えに来てもらってからホテルに向かうタクシーでさっそく中国でのデジタル生活についてレクチャーを受けた。買い物はすべてスマホ決済。決済アプリのアリペイでなんでもできる。タクシーはアリペイの中にディディタクシーというアプリが入っていて、タクシーを拾いたい場所からアプリを開けて目的地を入力して待っていると、迎えに来るタクシーの情報が車の写真付きで表示される。料金の概算も示される。タクシーが来れば乗り込んで目的地に。そしてそのまま降りる。え?支払いは?と聞くと、アプリにドライバーから料金の連絡が来て、それを決済すれば完了とのこと。配車から支払いまですべてスマホの中で完結する。

 そうやってタクシーを呼ぶと、普通の白い乗用車がやってきた。日本で言う白タクである。こちらではディディタクシーの審査を受けて登録すれば誰でも営業できるのだ。乗っていると、突然、KさんのスマホにKさんのダンナさんから電話が。何でもそのタクシーはわざと遠いルートを通っているという忠告だった。ドライバーに聞くと、そちらは混んでるから違うルートを通ってるんだという説明。ダンナさんは納得しないらしく、ディディタクシーの窓口にクレームをつけているらしい。なぜ同行していないダンナさんがKさんの乗るタクシーの経路を知っているのか?このアプリではタクシーに乗った時に、家族など指定された人のスマホにその情報が連絡されるのだという。乗客がドライバーに暴行を受け殺害されるという事件があったらしく、そういう事件を防止するための機能として追加されたのだという。登録ドライバーは星の数で評価がつき、お客からのクレームが多ければ続けられないという仕組みである。

 夕食をレストランでとる。もちろんスマホですべてOK。飲食関係はまた別の専用アプリがあるらしく、検索、予約、アリペイでの支払いまで「ワンストップ」でできるらしい。上海の旧市街が一望できる飲茶のお店で新作中華を堪能した。

 Kさんはここでスマホの充電。お店に充電用バッテリの貸し出し機があり、機械の前面に出ているQRコードをアリペイで読み取って支払うとバッテリが取り出せるというものである。生活のすべてをスマホでやるので、電池が切れてしまうと何もできず身動きも取れなくなる。それで各所にこの機械が置いてある。

 食事後は上海の街を一望できる遊覧船に乗った。これもスマホで予約し料金を支払う。窓口でチケットをもらうのだが、窓口の係員はお客のスマホを手にとり、そこに表示されている予約情報を確認して発券していた。もちろんその場でのお金の授受はない。

 Kさんは財布を持っていない。わずかにコインを2、3枚入れる小銭入れを持っているだけだ。スーパーでカートを使うのにコインのデポジットで使うために持っているのだという。我々のように大きな財布に現金も入っていれば各種カードがずらりと刺さっているという状況は中国にはもはや存在しないのである。

 5,6年前に訪問した時からさらに上海の街は発展していた。新市街では当時はまだ工事中だった上海タワーが完成しており、高さ600mを超える最上部は雲の中だった。周囲の高層ビルはビル全体が画面の巨大なディスプレイとなって、競うように鮮やかに輝いている。新市街が新たな上海の中心となって、おしゃれなお店が並ぶショッピングセンターは多くの人で賑わっていた。一方の旧市街は暖かな色の光でライトアップされて、新市街のややもすればけばけばしいイルミネーションとは対照的に、歴史を感じさせる街並みがこれも存在感充分である。その間を流れる黄浦江には、これも鮮やかにイルミネーションされた遊覧船が溢れんばかりの乗客を乗せて行き交っている。川岸の遊歩道はまっすぐ歩けないくらいの人出であるが、Kさんによればこれでもすいている方だという。メインは中国国内からの観光客である。経済発展の象徴を一目見ようと全国から観光客が押し寄せている。そういえば日本も高度経済成長の頃は東京見物が最高のエンターテインメントだった。上海の新旧市街を一望できるこの場所は、確かに一度は見ておく価値があると思う。

 今回、中国に来てホテルに着くとすぐwifiが使えるかを確認し、パソコンがネットに接続できることを確認した。無事につなげることができたのだが、Google, Facebook, Instagram, Youtubeという日頃お世話になっているサイトにはつながらない。スマホのLineもアウトである。話には聞いていたが、まるで仕事にならない事態に直面して、初めてことの次第に気がついた。メールは使えず検索もできない。これではネットに繋がっている意味がない。

 中国ではこれらのアメリカの巨大サイトに代わるものがすべて国内で開発され運用されている。インターネットは世界をつなぐと思っていたが、中国は独自のネット世界を作って世界から切り離されていたのだ。13億人もいる国ではそれも成立するということだ。

 Googleやfacebookへの接続を許さないということは、これらの企業活動の国内への侵入を防ぎ、国内のICT産業を育て振興する「非関税障壁」ともなっている。ウイチャット、アリペイ、アリババなどの巨大ICT企業が誕生した。インターネットはアメリカ製だが、この上に乗って人々の暮らしの奥深くまで浸透するビジネスを展開するのは中国が先んじたと言えるだろう。

 これをさらに中国国外に展開するのが一帯一路である。ネットの世界でもアメリカ主導のグローバリゼーションに対して、中国が主導するグローバリゼーションが戦いを挑むという構図である。その火蓋はすでに切られているわけである。

 日本はというと、アメリカのグローバリゼーションの良き顧客であり(良いカモとも言えるかも)、今回私もいかにGoogleやfacebookに依存しているか改めて思い知った。一方、中国人観光客の増加によって日本国内でウイチャットやアリペイで決済できるお店が急激に増えている。日本でのスマホ決済は中国式になるだろう。日本はまさにアメリカと中国のそれぞれが主導するグローバリゼーションのせめぎ合いの最前線になっているのである。

 Kさんもダンナさんもそれぞれ従業員10人程度のベンチャー企業に勤めている。KさんはCOE付きのアシスタントということで、会社の経営方針に直接関わる仕事をしている。上海にはこのようなベンチャー企業が無数にあり、また日々立ち上がっているのだろう。新市街のショッピングセンターの一角といえば上海の一等地であるが、ここにもコワーキングスペースが作られていた。Kさんは、コネとワイロでことが進む中国社会の中にあって、上海は中国で唯一、ルールでことが動く場所だと話してくれた。つまり法律を守りルールに従いさえすれば、誰にでもチャンスが開かれているということだ。まさに中国発のグローバリゼーションは上海からである。

 こうして発展する上海であるが、その一方で格差も広がっている。新市街のマンションは賃貸料が一ヶ月2,000万円というような相場である。購入するとしたら数十億円。そういう不動産物件情報は検索するとKさんのスマホにすぐに出てきた。つまりこういう金額で買ったり借りたりする人がいるということだ。とんでもないお金持ちが、立ち並ぶマンションの部屋が完売するくらいの数いるということで、めまいがするような感覚になる。Kさんは上海では絶対マイホームは購入できないと話していた。それでもKさんは世界の最先端の空気を吸って、生き生きとしているようだった。元指導教員としては頼もしい限りである。

 私自身は日本の田舎の地域再生にたずさわっており、つまりアンチ・グローバリズム=ローカリズムを主眼としている。アンチであるためには相手の実態をよくよく知っておく必要がある。その光の鮮やかさ、魅力の巨大さを知りつつ、それに対抗するという高等戦術が求められる。今回上海で過ごした短い時間は、そういう意味で私にとって大きな学びとなった。

 

 

 


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