だいずせんせいの持続性学入門

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【宮本常一との対話9 新しい観光】 

2024-06-26 16:12:48 | Weblog

「限られた島の生産力の上から見て、島の生産を飛躍的にのばすことはむずかしく・・・多くの島では野心的な意欲はほとんど消えて来ている。島がいたずらに年をとり若い者がいなくなったからである。そのためにも生産とは関係のない形で島の利用を考えるとすれば観光が大きくクローズアップされる。それも今までのように団体をつれて来て名所古蹟の案内をするのを観光と心得るならば、それの通用する島はごく少ない。大半の島には人をひきつけるような歴史もないし風景もない。それでいて島には魅力がある。隔絶せられた社会だからである。憩いの場として、海を利用したスポーツ、保養の場として利用するならば、利用の道は多いし、それなら島民もともに参加することができる。そういうことについての検討もしなければならぬ。そしてそこに人びとが安んじて住むことのできるような環境ならば、他所者もまた喜んでやって来るのではなかろうか。」 宮本常一著作集5 「離島の現状」p.13、初出は1970年。 

 宮本は戦前から戦後にかけて日本の離島をほぼすべて訪ね歩き、その貧しいこと、過酷な労働、交通の不便、教育体制の遅れなどについて強い問題意識をもった。戦後制定された離島振興法の実現にも貢献し、その実効性のある施策に心を尽くした。彼はすでに民俗学の範囲を超えて、地域振興のアドバイザー、カウンセラーとして地域住民に寄り添い、行政との橋渡し役なども努めている。 

 上の文章の「島」を「山村」と言い換え、「海」を「川と山」と言い換えれば、今私たちが直面している課題や目指している観光の姿とまったく同じと言える。宮本がこの文章を書いたのは実に半世紀前。宮本の先見とも言えるが、社会が動くにはそれぐらいの時間がかかるとも言える。 

 動きそうになっているのは、ここに来て日本が外国人観光客にとって魅力的な訪問先として人気が出て来たという背景がある。日本人にとって隔絶された田舎は「遅れたところ」という認識が一般的で、酔狂な人を除いてはそれほど関心を引かなかったものと思われる。外国人観光客ももちろんまずは東京、大阪、奈良、京都など有名観光地を訪問するのであるが、特に奈良、京都などはオーバーツーリズムでひどい状況になってしまった。それでも日本が好きで何度でも訪問している人も出てきており、そういう人たちはもっとディープでリアルな日本の姿を知りたいと思うようになっている。 

 岐阜県東濃地方で言うと、中山道を歩く外国人の姿がめっきり増えた。岐阜県御嶽宿から長野県奈良井宿まで一週間ほどかけて歩き通すガイドツアーも人気だという。有名になっている妻籠、馬籠などはすでにオーバーツーリズム気味である。中山道も毎年のようにくるお客さんがいて、もう歩いたところはいいので、中山道から少し横にそれたルートはないかというニーズがあるという。 

 私たちは風景だけでなく、そこで営まれている田舎の普通の暮らしと文化に触れてもらいたいと思い、そのような体験型ツアーの造成を目指している。昨年度は岐阜県中津川市加子母地区と恵那市笠置町で日本在住の外国人を招待してモニターツアーを実施した。いずれも参加者はたいへん満足してくださり、私たちは大いに手応えを感じた。 

 特に食事については田舎の伝統的な家庭料理には大きな可能性があることを感じた。私たちがターゲットとしているヨーロッパ系の人たちは、ベジタリアンが多い。2割くらいはいるという。卵や牛乳もダメというビーガンの人も多い。日本に来たこれらの観光客が食事に苦労することもあるようだ。食事をとった後に肉の成分(カツオだしなど)が入っていたことが発覚してクレームになるなどのトラブルがあるらしい。日本の伝統的な家庭料理は野菜中心で、だしさえコンブとシイタケにすればビーガン対応するのは簡単だ。恵那市のモニターツアーでは参加者にビーガンの方がいて、私たちは色々検討して対応する料理を開発して提供した。ビーガンの方からとても美味しいと言う評価をいただいただけでなく、それ以外の参加者からも好評だった。 

 ただ、田舎の人たちは、奈良、京都のオーバーツーリズム問題として、ルールやモラルを守らない観光客の姿を報道で知っていて、外国人観光客というと悪い印象を持ち、警戒感をもつ人もいる。私たちはガイド付きの少人数グループでのツアーを考えており、そういう心配はずいぶん少ないと思われるが、それでも地域ぐるみで取り組みを進め、理解を得ながらことを進めていく必要がある。「そこに人びとが安んじて住むことのできるような環境ならば、他所者もまた喜んでやって来る」という宮本の提示する理念を踏み外さずやっていきたいと思う。 

 

 

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