だいずせんせいの持続性学入門

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鳥羽市の観光について

2024-07-03 13:56:07 | Weblog

 三重県鳥羽市を訪問、学生たちとフィールドワークを行った。鳥羽市は三重県南部、伊勢湾に面した海の街だ。市域の多くは伊勢志摩国立公園に指定されており、リアス式海岸の景色が美しい風光明媚なところである。四つの離島もある。主な産業は水産業と観光業だ。

 観光業が盛んになったのにはお隣のまちに伊勢神宮があることがベースにある。伊勢神宮は江戸時代から続く日本最大の観光地と言って良い。ただ周辺には泊まる場所は少ないため、戦後はお伊勢参りをした客は鳥羽で宿泊するのが定番となった。

 主な宿泊地は鳥羽市の市街地周辺の海に面した半島部分と南に数十キロ離れた海辺の町の相差(おうさつ)の二つである。市街地周辺は大規模な旅館やホテルが多く立地しており、1980年代のバブル期にどんどん建てられたものと思う。一方相差は小さな民宿が軒を連ねており対照的だ。いずれも新型コロナ感染症で大きな打撃を受けたが、客足は次第に戻りつつある。

 鳥羽市の観光統計を見ると、ここ15年くらい宿泊客は日本人の個人家族グループが年間150万人程度、一般団体客は20万人程度で、コロナ期を除けばそれほど減っているわけではない。それにしては、市街地が衰退しているのが目に付く。商店街は空き家・空き地だらけで、市街地中心部で旅館や土産物屋が廃業して放置され廃墟となっているものがある。人口減少も深刻で、ここ40年ほどで約3万人が約1万6千人と半減ちかくまで減っている。

 バブルの頃は年間300万人の宿泊があったというから、やはりその当時に設備投資をしたところがバブル崩壊とともに経営が厳しくなり、長期にわたって少しずつ衰退してきたということだろうか。それでも今でも年間に人口の100倍以上の人が宿泊している町で、なぜ地域がかくも衰退しているのか。何か構造的な問題があるに違いない。

 第2次鳥羽市観光基本計画では、観光のあり方として特に目新しいものはなかった。風景、歴史、食という従来型の観光資源を中心としたものだ。計画には外国人観光客の誘致が8つある基本戦略のうちの一つとして述べられているが、実績は宿泊数で言うとコロナ前でやっと5万人程度、全体の3%程度に過ぎず、街を歩いていても外国人観光客の姿はほとんど見ない。

 鳥羽市にはエコツーリズム推進協議会があり、われわれの界隈では有名な海島遊民倶楽部が牽引して、着地型・体験型のプログラムが実施されている、これは鳥羽の観光のユニークな特徴と私は思うのであるが、観光基本計画には一言も言及されていない。統計を見てもここ十年それほど広がってはいないようだ。

 今回私たちが宿泊したのは市街地周辺の安楽島(あらしま)地区にあるもとはリゾートホテルだったものと思う。全室オーシャンビューで、ツインベッドに和室がついた広い部屋だった。きちんと改修されていてとても快適な部屋だ。そこに一人で泊まった。ところがサービスは最小限で、夕食の提供はなく、朝食はお弁当をフロントで受け取り部屋で食べるという、今まで私が経験したこのない省力サービスだった。そのおかげで宿泊料は部屋のランクから言えば考えられないくらい安かった。せっかくの設備や景色なのにもったいない気がした。しっかりしたサービスを提供すれば外国人の富裕層が泊まるようなホテルになれるのにと思った。

 今後の鳥羽市の観光の発展を考えたときの私の所感を述べてみたい。

 大規模ホテルに観光バスで乗り付けて夜は大宴会というような団体旅行のニーズはこれから減っていくものと思う。そういうスタイルを担っていたのは団塊の世代だったであろう。その世代が流石に動けなくなっていくのであれば、ニーズは減少せざるを得ない。

 日本人の家族、グループでの旅行が鳥羽の観光客の主力であるが、大規模ホテルの定型的なサービスではなかなかニーズを満たせなくなっているのではないか。相差の民宿が元気なのは、心のこもった料理や顔の見えるもてなしが人気なのではないかと推測する。

 安楽島には海に向かう斜面に大規模なホテルが林立している。ホテルから見れば全室オーシャンビューで素晴らしいが、逆から見るととても良い景観には思われない。せっかく山と海と島がいいバランスで景観を形作っているのに、それを大規模な人工物で台無しにしているように私には感じられる。これも一種の「共有地の悲劇」なのだと思う。

 大分県の由布院はバブル期に外部資本が大規模なホテルを作ろうとしたのを町の条例で防いだ。由布院らしさは静かな環境と雄大な風景ということで、これを壊すようなものは認めず、新しくできたものも風景に溶け込むような施設だった。それで人気を博して有名観光地になった。それと対照的にバブル期に大規模なホテルができたり、既存の旅館も大規模に増築したりした観光地は日光の鬼怒川温泉、愛知県蒲郡などなどたくさんある。その中には経営が行き詰まって廃墟のようになっているものがある。鳥羽もその例だ。海に面したいくつかの施設は廃墟となっている。

 蒲郡で聞いた話では、バブル期に旅行会社も銀行もこぞって大規模な投資を勧めたという。バブルが崩壊し、その後リーマショックがあり、そして今回のコロナ禍でトドメを刺された施設がある。生き残っている施設でも経営上の身動きが取れず、施設は老朽化が進み、従業員は高齢化しているが、十分な投資ができずに設備もサービスも劣化している。このままではいずれ行き詰まるだろう。

 相差で興味深かったのは、小さな民宿群は元気に営業しているようだったが、一軒だけ高層のホテルがあり、それは廃墟になっていた。バブル期に過大な投資をしたかどうかで明暗が分かれたものと思われる。

 今後の鳥羽市の観光の発展を考えた時に、まずは観光地の中に散見される廃墟化した施設を片付けなければ何事も進まないだろう。そういう物件はたいてい権利関係が複雑でにっちもさっちも行かないという状況だろうから、行政が思い切って行政代執行で解体する他ないのではないか。経費を回収することはよほど難しいかもしれないが、市の未来への先行投資として考えるべきだろう。

 海沿いに立つ大規模ホテルは、老朽化したものから解体して、小規模で風景に溶けこむようなもの変えていくべきだろう。それには大きな投資が必要となるが、新しい施設は外国人富裕層向けとして単価を高く設定できるようにすれば良い。風景や食について、鳥羽市は世界の高級リゾートに引けを取らないポテンシャルがあると思う。養殖真珠発祥の地というのは富裕層を受け入れるステータスとして申し分ない。大規模施設を抱えて身動きの取れないまま苦しい経営を続けるよりは、よほどイノベーティブな経営ができると思う。

 外国人の個人、家族やグループ客向けには、民宿群のアップデートが望まれる。まずは欧米系の外国人をターゲットに、その対応をしっかりすれば、ニーズは十分あると思う。外国人対応というのは言葉だけでなく健康志向の食の提供もある。肉は食べないが魚は食べるというペスコ・ベジタリアンやポーヨ・ベジタリアンにとっては天国のような場所だ。民宿の特徴である顔の見える心のこもったサービスこそ、欧米系外国人観光客の望んでいるものだ。

 そのニーズに、体験型のプログラムを結びつけたい。海女小屋を訪ねて現役海女と触れ合うとか、漁船に乗って漁の体験、養殖場の体験など、水産業の6次産業化の一環として進めることができる。離島の暮らしのありのままを見聞するプログラムも魅力的だ。

 これら今後の鳥羽の観光の目指すべきと私が思うところは、一言で言えばサステナブルツーリズムということだ。第2次観光基本計画にこの言葉はなく、全く時代について行っていないと言える。新しい計画にはぜひサステナブルツーリズムを前面に掲げて市全体でこの実現に取り組んでもらいたいところである。

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