だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

総選挙に向けた逆マニフェスト

2009-08-01 21:50:18 | Weblog
 今回の総選挙は私が有権者として経験した中でははじめて、本格的に政権としての政策が問われる選挙という意味ではやはり歴史的なものだと思う。まずそのことを歓迎したい。

 自民党の支持基盤は単純に言うと「いなか」であった。かつては農家。食糧管理制度が行われていたときは、政府が決定する毎年の生産者米価が農家の最大の政治的関心事であり、その利害の追求のために自民党を支持し、自民党もそれに応えた。しかし高度経済成長の中で農業の地位は低下、食糧管理制度の終了と同時に農家は経済的な力を失い、農村は過疎化して自民党の支持基盤としての力を失っていった。
 その後、いなかの地域経済を支えたのは土建業である。70年代以降、地方議会の議員は地元土建業界のボスでしめられた。そしてボスの中のボスが自民党議員として国政に送りこまれ、「中央との太いパイプ」の役割を期待された。つまり、国の公共事業を地元に持ってくるということである。しかしながら、これも財政破綻と新自由主義に基づく小泉構造改革路線によって、公共事業費は減少の一途をたどるようになり、地方の土建業界の経済的な力は衰退してしまった。自民党は自らの支持基盤を自らの政策で衰退させてしまったといえよう。

 いなかから人がいなくなり、その経済的・政治的な力が衰える一方で、都市の大企業の労働者やサラリーマンの利益を代弁するのが現在の民主党であろう。都市住民からすれば、税金の無駄遣いとしか見えない地方での公共事業など、これまでの自民党の中心政策はほとんど理解不能なものであった。いまや人口の多くが住む都市の住民の利害に直接応える政策をもつ政党が政権をとるのは時代の流れなのかもしれない。

 各党からはマニフェストや政権公約が出つつある。私は単にそれらを選ぶというよりは、有権者の一人として、この際、政党や候補者にこのような政策に取り組んでほしいという要求を掲げてみたい。いわば逆マニフェスト?である。

1)現在の世代ではなく将来の世代の利益を守る
 これまでの選挙公約は、整備新幹線であっても高速道路無料化にしても、とにかく有権者の現在の利益に訴えるものであった。現在の日本はさまざまな問題を抱えているとはいえ、全体としてみたときに、世界最高の生活水準、また歴史的にみても史上最高の生活水準の社会である。資源や環境の限界によって、将来の世代はこのような生活はできないのは確実と思われる。現在の世代の利益と将来の世代の利益は対立しているものがたくさんある。もう現在の世代の利益を優先することによって将来の世代の利益を損なうようなことはやめようではないか。政策の基本原則をここに置くべきだと思う。

2)財政を立て直す道筋を示す
 政府の政策とは、一言で言えば、国民から集めた税金の使い道を決定することである、というのが普通の政府についての記述とすれば、現在の日本政府にはあてはまらない。現在の日本政府について言えば、国民から集めた税金と将来の世代からの前借りである国債で集めたお金の使い道を決定することである、と言わなければならない。平成21年度予算では一般会計の歳入88兆円のうち、税収46兆円に対して国債による歳入が33兆円である。国立大学教員としての私の給料の約4割は国債による借金で支払われている勘定である。少なくとも33兆円分は将来世代のための政策に使うのでなければ、申し開きができないのではないだろうか。国債の償還は最長10年であるが、現実には借換債(国債の借金を返すための国債)を発行してしのいでいる。今年発行した国債による借金は、何十年も、場合によっては100年という単位での返済になるのである。この異常な状態をどう収束させていくのか。各党にはその道筋をきちんと示してほしい。

3)まともな(体系的な)環境政策をもつ
 ということは、つまり、持続可能な社会をめざしてすべての分野で社会の仕組みを作り替えることと、それを担う人を育てるということにつきる。民主党のマニフェストは環境面で意欲的な内容を含んでいると思うけれども、二酸化炭素排出量を減らすと言いつつ、高速道路無料化というのは理解に苦しむ。再生可能エネルギーを推進すると言いつつ、原子力を推進するというのは成り立たない話である。ちぐはぐである。日々壊滅に向かっている内湾や沿岸域の生態系への問題意識は見受けられない。
 必要とされているのは総合的・体系的な環境政策であり、具体的な政策をつくるには、場当たり的な政策を小出しにするよりは、国民的な議論が必要だと思う。今はその議論を呼びかけそのための場や仕組みをつくる段階であろう。例えば総合的な税制改革の柱として環境税を導入するという政策を掲げて国民的な議論を喚起してはどうだろうか。高速道路料金は無料にしてもよいけれども、それに代わる環境税としての通行税を課し、その分鉄道や船舶会社の法人税を減税するというような。また将来のエネルギーとして原子力をとるのか、自然エネルギーをとるのか、国民が選択をする道筋を示すべきだろう。

4)いなかをもり立てる方策を示す
 このままではいなかは疲弊していく一方である。それにつれて森林や農地などの生態系も劣化していく。いなかが持続可能にならなければ都市の持続可能性はありえない。そういう観点では、民主党のマニフェストにある販売農家への戸別所得補償制度は評価できる。都市近郊の専業農家では、昨今の資材費の高騰によってその経営は青息吐息である。この制度によって後継者を育てることができるように経営基盤が安定することを期待したい。
 ただ問題は中山間地である。すでにかつて生産者米価をめぐって政治力を発揮した世代は高齢化した。彼らは今やほとんどは自給的な農家であり、戸別所得補償制度の対象にはならないか、なってもその効果は限定的だろう。
 一方、日本の中山間地には世界に冠たるすばらしい生態系資源がある。それを活かすためには、新しい発想で生業としての農林業・自然エネルギー産業・自然サービス産業を立ち上げていく人を新たに育てることが必要である。お金をばらまけばなんとかなるという話ではない。「戸別」ではなく、コミュニティ(自然と人間を含む)を再生するための政策が必要だ。ここに腰のすわった政策を打ち出してほしい。

5)すべては人を育てるということ
 政府の政策として予算を出すことは、何らかの形で人を育てるということにつながるべきである。それが新しい時代を迎えようとする政府のやることだと思う。いくらよい制度があり技術や資金があっても、それを活用する人がいなければ実現しない。そして、そこがまさに今もっとも欠けているところである。
 これまでは成長型社会をつくり前進させるための人材育成の体制としてすべての教育システムが構築されてきた。それは一度解体されなければならない。そして生涯にわたって、持続可能な社会をめざすための知識と知恵を体得する機会が国民に安価に(基本的に無料で)提供されなければならないと思う。教育政策の分野だけでなく、経済政策、地域政策、福祉、医療など内政に関するあらゆる分野がその意思をもつ必要がある。

6)世界の平和に貢献すること
 外交面ではこれに尽きる。今、世界は残った地下資源をめぐって紛争が引き起こされる時代に突入した。石油についてはすでに湾岸戦争、イラク戦争という二つの戦争が起きてしまった。今後さらに、天然ガスやレアメタル、肥料原料などをめぐってきな臭い国際情勢が続くだろう。日本は冷戦が終わって「核の傘」の下にいる必要がなくなっても、地下資源の確保のためにアメリカに追随する道を選んでいるようにみえる。そうではなく、地下資源に頼らない持続可能な社会づくりのお手本を示すことで、世界に対して紛争を回避する道筋を示すべきであるし、そのことが可能なのが日本という国と思う。


 以上、きれい事を並べたにすぎない、政治的な現実感がない、という批評の声が聞こえてきそうである。政治とはさまざまな利害得失の妥協の産物であるし、清濁併せのむ面があるのは重々承知の上である。ただ私は政治家ではないのでそういう面を考慮する必要はない。あくまで一人の有権者としての所信を表明したい。
 政策が問われるはじめての国政選挙と言ってよい今回の選挙以降、政治家や政党は政策を構想し立案する能力が試されることになる。今はそれが十分でなくてもしかたないところだ。多くの有権者がそれぞれに「逆マニフェスト」を提起し、政治家はそれらをくみ取りながら自らの政策立案に活かしてもらうようにすれば、自ずとよい政策が生まれていくものと思う。
 
コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 持続可能な地域デザインのた... | トップ | 里山で盛り上がる »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
逆マニフェストの内容賛成です。 (funabashi)
2009-08-03 05:15:27
これ以上の経済成長を目標とするとか家庭の所得が100万円増やせるというような時代ではありません。
所得の分配が不公平なために必要以上に富が一部の人たちに集中しているのが今の日本です。新自由主義といわれる経済主義の考えによる企業よりと富裕者よりの片寄った税制が原因です。

持続可能な民主主義社会には賢い市民、勇気ある市民、健康な市民が必要です、そのための施策が十分な政党を選びたいです。
医療費、教育費が限りなく国民平等であること。そうすれば誇りと自信に満ちた健康で権力を恐れない市民が多数誕生します。

だいずせんせいの逆マニフェスト大賛成です。
返信する
Unknown (Unknown)
2009-08-03 07:01:15
よくぞ、言って頂きました。

環境税は大賛成。
でも、その前にあらゆる物の自給率を上げる事。
特に衣食住。

つまり、輸入を減らすことになる。

そうすれば、他の国の環境も壊さず、日本の持続可能な未来も守っていける。
安い物を買ったときは、どこかの環境を壊し、巡りめぐって自分の首を絞める事に今はなっている。

最低限、生きて行く為に必要な物が、近くの資源でつくれ、手に入る安心感が欲しい。

豊かって、その上にあるんだと思う。

自ずと、温暖化防止になる。
低炭素じゃなくて、脱化石資源。

自給を考えると、少子化も悪くない。だって、日本の資源で賄える人間の数も地球の資源にも限りがあるんだから、仕方がない。

今の消して費やす者が一番偉い、
外貨を稼いでくる業種が優先される、
多数を占める有権者にフォーカスされる政策、
そこにこの国の未来はないと感じてしまう。

子孫が安心して暮らせる持続可能な未来の為には、今、農林水産物の価格を上げ、真っ当な流通で第一次生産者が生活していける基盤を作るのが唯一、政治家に出来るだと思うのですが…。

それをやらずに所得保証をするだけでは 借金を増やすだけ。

間伐に補助金をだすだけでは、間伐が進んでいかないのと同じで…

返信する
Unknown (0zeki)
2009-08-08 08:25:50
 ご無沙汰しています。

 このたび職場が異動になり、名古屋でやっていたような仕事を再び担当することになりました。

 ただいま、ブランクを埋めるべく勉強中ではありますが、ほんと、総選挙でどうなるかで大きく変わりそうです。

 機会があれば先生のところにもお伺いしたいと思います。
返信する

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事