草いきれ、という日本語がある。「草熱れ」と書き、草地からあふれる熱気という意味だ。今回、私が名古屋大学で担当しているセミナー「地球環境塾」の学生たちと行った愛知県北設楽郡豊根村は草いきれでむんむんしていた。豊根村は愛知県の北東の角、長野県、静岡県と県境を接する山間の村である。中部山岳地帯の深く刻まれた谷筋に沿って集落が点在する。
豊根村に入る峠を下ると、植物のパワーに圧倒される。山の木は人間 . . . 本文を読む
中国に2週間ほどの調査に行ったのは冬だった。約2億年前、化石に残るような生き物のほとんどが死滅した大量絶滅事件を記録している地層を求めて、四川省のあちこちを車で走り回った。
北京の朝は強烈に冷え込んでいた。車の排気ガスと暖房用の石炭の煙で空は鈍色に曇っている。中国にいる間、結局一度も青空をみなかった。大気汚染は北京だけでなくどこでも深刻だ。
四川省は巨大な盆地である。それほど高くないが山 . . . 本文を読む
ナミビアと聞いてどこかすぐ分かる日本人は少ないだろう。アフリカ最南端の南アフリカのひとつ北、大西洋に面した砂漠とステップの国だ。砂丘が美しいナミブ砂漠の名を聞くことがある。国の歴史は新しく、1980年代に南アフリカから独立した。経済開発をすすめて貧困を克服するという点では政情不安がなくアフリカの中の優等生と呼ばれる。
私たちはここでは今から7億年前の地球の記録を保存している石灰岩の調査と採集 . . . 本文を読む
毎年夏至の頃になると、かれこれ10年ほど前に調査で訪れたカナダのいなか町、イエローナイフのことを思い出す。私たちは「全地球史解読」という研究プロジェクトの一環で、今から20億年前とか28億年前の地球の記録を残している堆積岩の調査と試料採取のためにこの町に一ヶ月ほど滞在した。
イエローナイフはカナダ北西準州の州都で、北極圏への入り口である。私たちが到着したのはちょうど夏至の頃であった。ダウンタ . . . 本文を読む