雨の日にはJAZZを聴きながら

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Vince Mendoza 『 Vince Mendoza 』

2007年10月20日 06時33分24秒 | Large Jazz Ensemble
音楽シーンへの貢献度の割に、一般音楽ファンへの知名度が意外に浸透しないミュージシャンが少なからずいるものです。Vince Mendoza (ヴィンス・メンドーサ or ヴィンス・メンドゥーサ)もそんな一人ではないでしょうか。

80年代後半にピーター・アースキンの秘蔵っ子として颯爽と登場した彼は、89年に満を持してデビュー作『 Vince Mendoza 』を発表します。本作は全8曲で、≪ You Must Believe In Spring ≫ を除く7曲がすべて彼のオリジナルという力作で、85年から88年の間に録音された音源が集められています。ピーター・アースキンの伝手で集められたビッグバンドのメンバーはマイケル・ブレッカーをはじめ、ボブ・ミュンツァー、ボブ・マラック、マーヴィン・スタム、ドン・グロルニック、ジム・マクニーリー、マイク・スターン、チャック・ローブ、ウィル・リー、リンカーン・ゴーイング、etc。もちろんピーター・アースキンも叩いています。

今、CDのクレジットをみると、そのメンバーの豪華さにあらためて驚きます。今や押しも押されぬトップ・ミュージシャン達が名を連ねているわけで、よくも新人無名のヴィンスのもとに、しかも録音時点ではCD化も予定もなかったのにもかかわらず、これだけのメンバーが集結したものです。

こんな豪華メンバーに恵まれたせいもあり、本作の完成度は尋常ではありません。通常、これだけキャラの立ったビッグ・ネームが共演すると、お互いに相殺しあい、結局破綻し、良い結果が生まれないことも多いのですが、本作はそんなピットホールに陥ることもなく、素晴らしい出来栄えです。これもやはりヴィンスの完璧なるスコアの成せる技でしょうか。

このCDを手に入れた89年は、僕は、エリントンやベイシーにやや食傷気味になっていた時期でした。ジョージ・ラッセルやギル・エヴァンスなども聴いてはいましたが、その作為的な編曲や理屈っぽさが鼻につき、今一つ好きになれず、ビッグバンド・ジャズから遠ざかっていました。そんな時期に本作を聴き、衝撃を受けたのです。比喩的な表現ではなく、本当に身震いしたのです。こんなビッグバンド・サウンドもあったのか!こいつはホント、天才だ~!と、ひとり興奮していたのを今でも鮮明に覚えています。

個人的にはピンク・フロイドの『 原子心母 』、ニュー・トロルスの『 Concerto Grosso 』、イエスの『 海洋地形学の物語 』などを初めて聴いた時のような、壮大なヴィジュアル・イメージを想起させる作品だったのです。組曲ではないのですが、連続する物語を紐解いていくようなワクワク感が最後まで持続するのです。色鮮やかな景色が連続変化して、聴き手自身が主役になって進行するアドヴェンチャー映画のようでもあります。まさに仮想サウンド・トラック的な作品なのです。

つまるところ、いかに多くのヴィジュアル・イメージを聴き手の脳内に投影できるか、ということが大切だと思うわけです。その点において、まさに本作はビッグバンド史上、軽く10本の指に入る傑作だと、言いたい。

ラテンの血脈を受け継ぐヴィンスが、その血筆で記した扇動的な重層美旋律。その複雑で時に変態的ですらあるスコアを、嬉々として演奏するマイケル・ブレッカーやマイク・スターン。まさに至福のひと時をもたらす極上の一枚です。

彼は本作の後、『 Start Here 』(90年)、『 Instruction Inside 』(91年)、『 Jazzpana 』(92年)、『 Sketch 』(93年)と毎年、精力的に作品を発表。しばらく置いて、99年にはロンドン・シンフォニーとの共演盤『 Epiphany 』をリリースしていますが、その後はリーダー作を制作していないのが残念です。

近年では、ジョニ・ミッチェル、ジェーン・モンハイト、ビヨークなどの作品でアレンジャー(残念ながらストリングス・アレンジのみのことが多いのですが)として参加し、商業的にも成功しているようです。現在までに15回ものグラミー賞ノミネートを果たし、昨年の49回グラミーでは、ランディー・ブレッカーの『 Some Skunk Funk 』で「 Best Large Jazz ensemble Album 」部門で3回目のグラミー賞を受賞しています。

いずれにして、このような名盤が、今迄全然話題にならないことが、僕は、残念でたまりません。ぜひ、御一聴を。

P.S. マイケル・ブレッカーは晩年、ビッグバンドに興味を抱いていたと言われます。03年の『 Wide Angles 』が14人編成の変則 Large Ensemble でしたが、ビッグバンド・ジャズとは言い難い作品でした。マイケルのリーダー作はもちろん、膨大な彼の参加作品群の中にも、ほとんどビッグバンド作品は存在しません。そのような意味でも、本作 『 Vince Mendoza 』は、マイケルのビッグバンド・ソリストとしての演奏を記録した貴重な作品だと思います。

Vince Mendoza 『 Vince Mendoza 』1989年 Fun House 32GD-7022

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