彼女の心の中は不安な脅えがやや情緒的に醗酵して寂しさの微醺(ほろよい)のようなものになって、精神を活溌にしていた。
年々にわが悲しみは深くして
いよよ華やぐいのちなりけり
岡本かの子「老妓抄」より
醗酵と腐敗は現象としては同じものだけれど、ようするに人にとって役立てば醗酵で役に立たなければ腐敗である。
不安や脅えは大抵の場合、腐敗につながる。人を駄目にする。それを腐敗ではなく醗酵させ . . . 本文を読む
私はテレビを見ない。騒々しいのが嫌いである。だからそもそも受信機を持ち合わせていない。私の日々はいたって平穏である。
世の多くの人はテレビを見る。今ならテレビよりネットかもしれない。私には自ら平穏を手放しているように思える。つまり、そういうものを見るのが好きな人は平穏が嫌いなのであろう。あるいは退屈が嫌いなのかもしれない。
人間というのは困ったもので、平穏を嫌い、退屈をまぎらわしたく、何かと事 . . . 本文を読む
行く末を知っている
そんな気もするのだが
忘れてしまった
来し方を知らない
知らないのではなく
ただ忘れただけか
今とは現在のことか
いや実は未来のことではないのか
それとも過去のことか
すべては
すでに起きた
あるいは
なにも起きてはいないのか
いま、ここに在る
これはいったい……
在る
とは、そも
なにが在るのか . . . 本文を読む
通りすがりに少年野球の練習風景を見る。上手な子と下手な子は一目瞭然。何が違うか。形である。上手な子はフォームがきれい。体の動線が美しいのである。
私はスポーツの指導をしたことがない。指導どころか、そもそも私自身、体育の授業以外スポーツをしたことがない。そのような素人の考え方が理にかなっているのかどうかは甚だ怪しいが、ま、素人ゆえに無責任なことを書く。
上達するには体を動かして練習するのはもちろ . . . 本文を読む
我々は神から遠ざかり過ぎたのかもしれない。神という言い方が現代的でないなら五感を超えた存在と言い換えてもいい。あるいは科学的機器では計測できない何か。
あらゆることを人間に引け寄せ過ぎた。人間レベルに貶めた。崇高な存在を抹殺した。世界を人間だけのものにした。
世界が我々の一部なのではない。我々が世界の一部である。
世界と我々の関係性を見誤ったとき、我々は人間という形で存在できなくなるのではない . . . 本文を読む
随分前にネットで読んだ記事から。
ストレス耐性が高い人の10の考え方
1 何事も「まあ、いいか」と思う
2 「自分は自分」とマイペースを保つ
3 「人生は思い通りにならないもの」と思う
4 「タイミングが悪かった」と考える
5 「相手にも事情がある」と想像する
6 「これもいい経験になる」ととらえる
7 自分のストレスを分析してみる
8 周りを頼ることができる
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「(前略)――おい天気が少々剣呑になって来たぜ」
「なに、大丈夫だ。天祐があるんだから」
「どこに」
「どこにでもあるさ。意思のある所には天祐がごろごろしているものだ」
夏目漱石「二百十日」
あたしも圭さんに倣って天祐派である。
で、ラストシーン。
「(前略)――あの下女は単純で気に入ったんだもの。華族や金持ちより尊敬すべき資格がある」
「そら出た。華族や金持ちの出ない日はないね」
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なにかしてふつと涙のうかみいづスウヰトピイをつまむとせしに
竹久夢二
竹久夢二の絵にはとくに何も感じないけれど、歌は好い。
齢をとって私は涙もろくなったが、本当になんでもない些細なことに涙する。だけどそれは、我、老いたり、という感じなのではなく、いよいよ存在の不可思議が増し、その妙味に感じ入っているのである。
【註】
上記の歌は「日本文学電子図書館」の「小夜曲(せれなあど)」より。
で . . . 本文を読む