瓢簞舟の「ちょっと頭に浮かぶ」

こちらでは小説をhttps://kakuyomu.jp/works/16816700427846884378

読書メモ(岩城けい)

2024-06-30 10:28:55 | 本の話
岩城けい「さようなら、オレンジ」(ちくま文庫 2015年)

夫と息子二人とともにオーストラリアに流れてきたアフリカ難民のサリマ。彼女ともう一人日本人女性である「ハリネズミ」の物語。「ハリネズミ」こと私は言語学者である夫とについて渡豪。裏表紙には「人間としての尊厳と〈言葉〉を取り戻し異郷で逞しく生きる主人公の姿を描」くと内容を紹介してあります。

興味深く読みましたが未消化でして、感想らしい感想も書けません。もう一度読まないと、どこが興味深いんだかも指摘できない。だったら再読して感想がまとまってから書けよって話ですが、数日前に読んだ別の本の箇所とからめたくなりまして。
で、感想らしい感想は書けないので、文庫解説の小野正嗣の言葉を借りて思ったことを少々。

小野正嗣は書きます。「ヒト、モノ、カネが国境を越えて大量に移動するグローバル化の時代において、『移民』や『難民』はますます文学における重要な主題となっている。(中略)とはいえ、日本の現代小説を見る限りでは、そのような感覚はまだ一般化していない印象を受ける。」
文庫は2015年ですが単行本は2013年。現在2024年で10年経ちましたが小野が書いているような「まだ一般化していない印象」は変わったんでしょうか。あたくしは最近の小説を知りません。10年経った現在、日本の現代小説でも「移民」や「難民」をテーマにするようになっているのかしら。

「よく考えれば、文化や言語の差異があろうがなかろうが、自己と他者の距離は絶対的なものだ。(中略)だが、『違う』からこそ、あなたを知りたいと思う。(中略)距離があるからこそ、人は他者に歩み寄ることが、手を差し出する(原文ママ)ことができる。そうやって束の間であれ、(中略)他者のなにがしかを摑み、しかし奪うことはなく、ただ摑んだという記憶を抱えたまま再び自己に戻る。(中略)自分とは異なる存在の生をくぐり抜け、新しい自分になること。小説を読むこともまたそのような行為のはずだ。」

中略ばかりで文意がどこまで正確に伝わっているかは心もとないですが、小説を読む醍醐味とはまさしくこういうことで、読んだのち「新しい自分」を感じられるのがいい小説なんだろうと思います。
しかし実生活において「新しい自分」に到達するのはなかなかに困難で、つまり「自分とは異なる存在」をくぐり抜けることができず、ただただその存在が立ちはだかる壁でしかないという場合が多いようにも思います。


ここから冒頭に書いた「数日前に読んだ絡めたい別の本」である藤原正彦のエッセイの話に移りますが、長くなったので今回はこれにて。
つづきはまた次回。
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