瓢簞舟の「ちょっと頭に浮かぶ」

こちらでは小説をhttps://kakuyomu.jp/works/16816700427846884378

短歌 5

2015-06-30 05:32:05 | 随想
彼女の心の中は不安な脅えがやや情緒的に醗酵して寂しさの微醺(ほろよい)のようなものになって、精神を活溌にしていた。

年々にわが悲しみは深くして
  いよよ華やぐいのちなりけり


岡本かの子「老妓抄」より


醗酵と腐敗は現象としては同じものだけれど、ようするに人にとって役立てば醗酵で役に立たなければ腐敗である。
不安や脅えは大抵の場合、腐敗につながる。人を駄目にする。それを腐敗ではなく醗酵させることができれば不安や脅えも悪くない。醗酵したものの味わいは玄妙である。

ここでは「微醺」と表現されている。酒を飲めない私は醗酵と言えば乳酸醗酵を思い浮かべるけれど、多くの人はやはりアルコール醗酵になるらしい。不安や脅えをほろ酔いに転ずることができるのは老境に達したゆえか。老いるとはこのような力、醗酵力とでも呼ぶべき力を獲得することなのだろう。腐敗させるのは誰にでもできることだから。

醗酵力を獲得できれば、年老いてこそ「いよよ華やぐいのち」となる。
かくありたいものである。
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