じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

暴君ぶりに我慢はできず、でも情にはほだされ。

2005-07-31 23:57:54 | ブラックたまの毒吐き
「今まで、お世話になりました。荷物の引き取りと、ケアマネへの仕事の引継ぎには後日うかがいます。
 ご信頼頂けない以上、介護はお引き受けできません。伯父上にご相談ください。ありがとうございました」


土曜から日曜へ日付が変わった午前一時、
じいたんに置手紙をして、祖父母宅を後にした。
ばあたんのせん妄が落ち着き、目が覚めないのを確認して。


*************************


じいたんとの諍いのもとは、30日(土)朝に
余所のヘルパーさんが室内に置いていったメモだった。

 朝五時ごろに、エレベーターに乗って迷っていた祖母を保護して、
 フロントで居室を確認し、部屋まで連れ帰り、
 水分補給とトイレ介助をして寝るまでそばにいてくれたとのこと。
 祖父は安眠していたので、起こさないで、
 代わりにメモを置いていってくれたようだ。

 うちが雇っている方ではなく、よそでお仕事されている方が
 善意でそこまで、お世話してくださったのだ。



だが。
じいたんはそれを、嘘だと思ったらしい。

「お前さん、こんなおかしいことがあるかね?
 おじいさんは、ちゃんと紐でドア左上のアームを
 くくって、出られないようにしてあるんだよ」

しかしフロントに確認したら、やはりそのメモは正しかった。

だいいち、その前日(金曜未明)は、私が未明から朝まで
祖母のそばにいたのだから、そんなことはあるはずがない。
そして、7/30(土)付のこんなメモ、
前の晩に私がいたときには、部屋の何処にもなかった。



じいたんは多分、紐でドアのアームを縛らなかったのだ。
正直それでもいいと私は思っていた。

なぜなら

ばあたんが徘徊しても、元来怖がりな上、老人専用マンションなので
結構夜中でも見回りやらなにやら沢山あるからだ。

よそのおうちのドアを開ける程度で済む徘徊なんかより、
玄関のドアが夜中、開かなくなったことで

ばあたんが、日に日にためているストレスで、
認知が低下していっていることの方が、よほど気になる。

このままでは、外へ出ようとしてベランダの方へ出てしまいかねない。

あと、金曜未明のSOSの時、到着時に私が中に入れず
大変な思いをしたというのもある。



そのことを、じいたんに言った。すると…


お前さんを、金曜の未明に呼び出したりなどしていない
 そんな事実はない。」


…一瞬、あっけにとられた。
じいたんの「まだらボケ」まで、ここまできているのだろうか?
それとも先日の騒ぎ(1)(2)に続いての、この「徘徊騒動」に、
消化不良を起こしているのか。


気を取り直して、言ってみる。
「何で?おばあちゃんが畳に粗相した跡だって残っているし
 私が買ってきた消臭グッズだって確認したばかりでしょう?」

でも、じいたんは頑として
「わしは嘘は言っとらん。お前さんの頭が"おかしい"んだ
と言って聞かない。


…多分無駄だろうなと思いつつ、試しに言ってみる。

「ねえじいたん、わたし、おばあちゃん本人にだって、
 嘘はつかずにやってきているの、見てきているでしょう?
 それに、わたしが嘘をついても、何の特にもならないわ。
 よく思い出してみて」


…すると、じいたんはとうとう、こんなことを言いだした。


「おまえさんがわしを陥れようとしているんじゃないのか?」



この一言で、私は、
今まで決して言うことのなかった「一言」を言うことに決めた。


たま「私を信頼して頂けないのでしたら、介護はお引き受けできません。

じい「ああ、いいさね、お前さん、来なければいいじゃないか

たま「そうですか。それならお二人で、施設に入ることになるでしょう。
   伯父さんに、”わたし介護辞めます”と電話入れますね」

じい「いいさ、施設に入ったって。望むところだ



…あーあ。やるっていったらやるのに、私。
 やりたいことを、やる主義だって言ってるのに。


じいたんの目の前で、伯父に電話を入れた。
ひととおり、コトの流れを話し、施設を探してほしいと頼む。

「たま、疲れているんだよ。
 明日は休め。俺が親父に電話入れるから」

伯父は言う。
いや、あのね、そういう問題じゃなくて。
もしこれが本当に「まだらボケ」の症状だったら、物理的に無理…

電話を入れているあいだに、じいたんは書斎へ逃げ込んだ。
頭に来たが、放っておくことにする。
ここで追いかけてもろくなことにならないのは、学習ずみだ。


*****************************


もそもそ起きてきたばあたんが、再びいびきをかきだしたのが
午前一時前。
まだ書斎にいるじいたんに、
「ばあたん、やっと寝ました。メモ、見といてください」
とだけ言い残し、部屋を後にした。

人の気配が消えた帰り道、怖い思いをしながら、
私の今までの苦労は、なんだったんだろうなって思った。
こんなくだらないことで涙なんか出ないけど、
私が最初から、係わらなかった方が、良かったんじゃないだろうか…

そんなことを思うと、なんだか、どっと疲れた。
気を取り直して、仕事を探そう。


*****************************


翌朝。

日曜、8時半過ぎ。
じいたんから、電話が入った。憔悴しきった声。


「たま、ゆうべはおじいさん、頑固になって、すまなかった
 だからまた、来ておくれ。
 荷物を引き取るなんて、言わないでおくれ。」


…他にも何か言っていたがあまり聞いていなかった。

はあ…orz
なんとなく、そう来ると思ってたのよね。
あれだけ立派に啖呵切っておいて、全部なかったことかい。

あーあ、賢いなぁ年寄りって。損だなぁ介護者って(泣き笑い)


それでも、二つ返事で

「よろしいのよ、じいたんのお気持ちも、わかるのだけれど、
 わたくしの立場や言い分も、一度きちんと解って頂きたかったの。
 それだけですの。だから、お気になさらないでね」

と、情にほだされてあっさり、態度を軟化させてしまった私も私だ。
もういやだ、こんな自分…orz


まあでも、仕方ない。
そういえば、ばあたんが昔、言ってたっけ。

「腹が立った時は、穏やかな方法でお伝えなさい。
 そして、相手が謝ってきたら、すぐに赦してあげること。
 それが大切よ」


…電話が鳴るまで、引き継ぎ書類を作り、求人ページを見ていたこと、
じいたんには黙っておこう。

コメント返信の遅れについて

2005-07-30 11:45:48 | Weblog
 昨日は帰ってきてから、私がダウンしました。
 今日は、これから、ばうばうに連れて行かれて、病院その他です。
 じいたんばあたんは、今日はデイケア。
 病院に連れて行ってもらった後は、
 上手くいけば映画、見れるかな?無理でも喫茶店くらいは行けるよね。

 コメント返信遅れております。
 今夜当たり、是非と思っています。
 大変申し訳ないのですが、もう少し、もう少しおまちください。
 そして、どうぞどうぞ遠慮なく、コメントつけてくださいませ。
コメントのお返事を書くこと、私にとってとても楽しい作業なので。
 必ずお返事しますので…

 ではちょっくら、行って来ます~(^^)/

服を着替えて待つ、じいたん(後編)

2005-07-30 11:42:58 | じいたんばあたん
玄関にへばりつくばあたんに、ひたすら付き合うこと一時間。
何とかばあたんを、部屋の中へ誘導することに成功。

「上田(ばあたんの出身地)の桃を、手に入れたのよ。
  ↑これは、捏造です(笑)
 すごく高かったけど、ばあたんに食べて欲しくて、
 たまちゃん、おこづかいで買って来たんだよ。
 ばあたんが食べないなら、わたしも、食べたいけど、我慢する」

この一言が効いた。

ばあたんは私にへばりついたまま中に、入ってきた。

ばあたんを、私の腰につかまらせておいて、
桃を剥き、食べやすい大きさに切る。
切った桃を、横からつまみ食いして(以前は決してこんなことはなかった)
「おいしいわね」とにこにこ顔のばあたん。

内心「よっしゃぁ~!!」と叫びつつ、おくびにも出さないで
「ほら、おじいちゃんとおばあちゃんの分、持っていこうか」

ぱくぱく食べるばあたんを見ていて、涙が出た。
…殆ど今日一日何も食べなかったのだ。ほっとした。


その後もずっと、ばあたんの話を聞き、優しく着替えをして
髪や顔、入れ歯の手入れ、トイレ介助などをさせてもらい、
気がつけば9時。ばあたんは、眠そう。
今日一日、これだけ暴れた(不安な気持ちで過ごした)から、
安心したら急に疲れが出たのだろう。

チャンスなので睡眠薬を飲んでもらい、そのままベッドへ。
15分もそばについていたら、いびきをかき始めた。


***************************


ああ、しまった、と私は思った。
これなら、介助犬ばうに、頼む必要はなかった。
じいたんを早く床に入れられるし、
私も早く出て、少しでもばうばうをねぎらうことができる。


そう思い、書斎へ行くと、
「ばうちゃんは、まだかね?」と満面の笑みのじいたん。


しかも、ふと見ると、

さっきまでの下着姿ではなくて、
ちゃんとシャツとズボンを着用している。


「じいたん、寝巻きに着替えといて。
 夜遅い訪問だから、そのほうが、ばうばうも安心するし」
わたしが言うと、じいたん、

「いや、こんな年寄りを訪ねてくれる気持ちがうれしいんだよ。
 わしの好きにさせてくれ
いや、いつもアンタ好きなようにしてるやん…orz
突っ込んでみたいのをぐっと押さえ、
仕方なく引き下がり、ばうばうにメール。

「ごめん。ばあたんは予想に反して、落ち着いて寝てくれたけれど、
 じいたんが、ばうばうをお待ちかねなの。ごめん。」

すぐ返信が来た。
「たま、いいじゃない。
 おじいちゃんお疲れ様、のお茶会すれば」

携帯の画面がにじんで読めない。


*****************************


ばうばうが到着すると、じいたん、満面の笑顔で出迎える。
私に、「早くお茶とお菓子を出してあげなさい」とせかす。

本当に本当に嬉しそうだ。
ばうばうも、丁寧に話し相手をしている。


話しながら、じいたんは、ふとうたたねする。

そして、はっとして「くわっ」と目を開け、話の続きをする。

ばうばうは、見なかったふりで、話し相手をする。

じいたんは、まるで
「がんばって起きているから、
 もう少しだけ、この楽しい気分を味わわせて」
と眠い目をこする、ちいさな子供のようだ。


そんなじいたんが、それでも眠気に持ちこたえられなくなったところで、
祖父母宅を辞去する。
いつまでもばうばうに手を振るじいたんの、姿が
なんだかせつなかった。



そして、手を振り続けてくれる、ばうばうの優しさに

わたしは

いちにちの疲れを優しくぬぐってもらうのだ。

服を着替えて待つ、じいたん(前編)

2005-07-30 11:16:17 | じいたんばあたん
昨日の未明から、夜中まで、せん妄が激しく大荒れだったばあたん。
なかなか感慨深い体験でした。


夕方、食事から帰ってきても、
玄関に張り付いて動こうとしないばあたん。
ドアのノブについて何か、気にかかることがあるらしい。
食堂から半ば、むりやり連れて帰ってきたじいたんに
腹を立てている様子。


「これじゃ、私でもじいたんでも、寝付いてくれないかもしれない」
そう思った私は、
私の彼氏=介助犬ばうに応援要請メールをした。

ほどなく、ばうばうから返信。
「到着予定時刻10時前になるよ。今日仕事遅いから」
悪いなと思いつつ、再度頼む。


*********************


昨日、未明のSOSに、祖父母宅へ自転車を走らせた。
帰宅したのが午前様だったのだが、まあこんなもんだ。
夕べなかなか寝付かなかったばあたんに、ちょっと嫌な予感がしていた私。
このまま泊まればよかった…。でも後悔しても始まらない。

到着してみると、ばあたんは、。家のあちこちに失禁しまくっていた。
そしてびしょびしょのパジャマ。

じいたんが目覚めたときは、ゴミ箱の中にしたおしっこを持ち歩いて
うろうろしていたらしい。
リハビリパンツにも、おしっこのあとはあるけれど、
彼女はどうやら、脱いで、家中におしっこしたらしい。
パジャマもおしっこまみれだった。

そしてひどいせん妄状態。

このままでもとにかく布団に放り込み、
次に目が覚めて落ち着いたときにシャワーで洗うか。
それとも、先にやはり身体を洗うか。
前者の判断の方が多分、正しい。それはわかりきっていた。
でも、それではじいたんが、眠れない。
じいたんだって、私にとっては、同じだけ大事なじいたんなのだ。


とりあえず風呂場へばあたんを引っ張っていく。
腕の抜けそうなくらいの、ものすごい力でばあたんは抵抗する。

「ぬれたままの服じゃ、眠れないよ」
何を言ってなだめても、動かざること岩の如しである。

言いたくなかったけど、とりあえず論理的な説明をしてみる
「おばあちゃん。その濡れているのは、おしっこなんだよ」

案の定ばあたん、
「わたし、おしっこなんかしてない。証拠を見せて」
…いや、その服も、体中から匂うアンモニア臭も全部証拠だから…orz
じいたんと、ばあたんの、おしっこの匂いは、
区別ついちゃうから…orz


ほとんど引きずり込むように風呂場へ入れ、全裸にして、
私もブラとパンティだけの格好で、ばあたんを洗う。

「お願いやから、頼むから、辛抱してや」
と声かけしながら洗う。
「このままにしてたら、かぶれるから」
泡だてた石鹸をばあたんの全身にまぶす。


ばあたんは激しく抵抗する。
「たまちゃん、なんで、こんなことするの」
「おばあちゃんは、たまちゃんの言うことはなんでも聞かないとだめなの!?」
「あたしは、おしっこなんてもらしてない。
 そんなことしたらもう、生きていけないじゃない」
「外へだしてよぉ。おじいちゃん助けてよぉ。
 たまちゃんがいじめるんだよぉ!」

ドアを思いっきりひっぱりながら
(私が足でストッパーかけているから開かない)
私の頭を、肩を、ぽかぽか叩く。泣き叫ぶ。

「たまちゃんは、いつもこんな風にするじゃないのぉ!」

…私自身の名誉のために言っておくが、
私は一度たりとも、こんな強引な方法でばあたんに接したことはない。
多分、じいたんと私のバトルが記憶にのこっているのだろう。
ばあたんに詫びたい気持ちと、なんでこういうときだけ、私なのかな、
という思いが交錯する。


それでもこのまま置いておくわけにはいかない。
ショックを受けてたって問題の解決にはならない。

「おばあちゃん、私を信じてくれへんと、何もでけへんよ」
「○○ちゃん(叔母の名前)に、会いにいけないよ?」
「おばあちゃんが嫌がることでも、しないと駄目なことは、駄目なのよ」

ばあたんが言う
「学校へ行けないじゃないの。子供たちが待っているわ」

…洗い終わった途端脱走しようとするばあたんを捕まえで、
ぼかぼか殴られながら、何とか身体を拭く。
でも、服を着せる段階で、激しく抵抗されたので、
じいたんを呼ぶ。

じいたんは起きてきてくれた。
そして、ばあたんの両手を捕まえて、支えてくれているすきに、
服を着せる。

「おばあさんに自分で、着させればいいだろう」
そういうじいたんに、
「いや、服をあげたらそれを、投げたり、振り回たりで…」
とわたし。

「また、根も葉もないことを言って」
ばあたんが、わたしを蹴飛ばす。
「さっきはこんなに、優しくなかったじゃないの」
事実ではない。
「おじいちゃんの前では優しいなんて」
…涙も出ない。認知症のせいだもの。
ばあたんが、再度私に体当たりして、蹴飛ばす。

じいたんが、
「おばあさん。たまを蹴るなんて、なんてことをするんだ。
 たまは、おばあさんのために、頑張っていてくれるんだよ。
 たまの言うことは、ちゃんと聞きなさい」
と、強い口調でばあたんを、いさめる。

そしたらばあたん、泣き叫んだ。
とても、とても悲しそうな、声。

認知症を生きるということは、これほどに辛いことなのか。

抱きしめてやりたいと思ったが、
まずは安全が先。
それに、じいたんをねかせてやらなければならない。
泣いている間にささささっと服を着せてしまう。


着せてしまい、居間に戻り、座らせて、りんごジュースを出す。
「これは、目を開けて飲んでもいいの?」
そういったことを、細かく細かく訊ねるばあたんに、
「うん、いいんだよ」
いちいち答えながら、ジュースを飲み終わったころ、

そっと、身体を抱きながら、
強引に身体を洗ったことを改めて、ばあたんに謝ったけれど、
ばあたんはもうすっかり、忘れていた。

…なんとか先にじいたんを寝かせ、ばあたんの不穏に延々と付き合う。
さっき私を罵倒したことなどすっかり忘れ、
「たまちゃん、置いていかないで」
そればかりを、繰り返す。
話し続けてからからの唇を、冷たい水を含ませた脱脂綿で、拭いてやる。

「ああ、気持ちいいわね」

朝五時、ばあたんは、やっと、深い眠りについた…


************************

日中はヘルパーさんに任せ、夕方、祖父母宅に向かう。
それで、冒頭の状態。

じいたんと私では、介護拒否の激しい抵抗にあう可能性がある。
私はかまわないが、じいたんが持たない。

それで、介助犬ばうに、やむなく連絡した。

(続きます)

三ヶ月が過ぎました。御礼申し上げます。

2005-07-28 16:28:09 | ブログ運営のこと
ふと今気づいたのですが、ブログを綴るようになって、今日で丸三ヶ月。
あっという間でございました。

もとはといえば、介助犬ばうの勧めで始めた、このブログ。
「続くかな?」
そう思っていたのに、
気づいたら、ここまで来てしまいました。

今ではすっかり、生活の一部です。

「ブロガーとしての私」というアイデンティティを新たに獲得することで、
介護者として、一人の生活者として
より豊かな啓示と原動力を得る機会に恵まれたことは、
わたくしにとって、大変ありがたく、そして幸運なことでした。


じいたん、ばあたん
介助犬ばう
愛すべき友人たち(親戚含む)

そして

コメントをくださる皆様、
不肖のわたくしに、色々とご教示くださる巡回先のブロガー様各位、
それから、そっとRomして下さっているあなたに、

心から御礼申し上げます。
いつも、ありがとうございます。


これから、この「リアルタイム物語」がどのように展開していくのか
予測はつかないけれど、

「みなさまと、ともにある」という幸せを胸に、
介護者・観察者として生きるこの「人生の冒険」を
(そして、このささやかなブログを)
続けていけたらと思っております。

今後ともどうぞ、宜しくお付き合いくださいませ。

代償

2005-07-27 04:49:33 | 禁無断転載
今まさに人生の終焉に向かいつつある彼らを、
観察し続ける立場にある、
その、わが身の光栄を思うとき

見合うだけの代償を差し出さなければならないのは、自明の理だ。
そう思う。


死神が、いつ彼らを刈り取るか
そんな
彼らの、一秒一秒の生を維持する援けを
みずから望んで、引き受けた自分を振り返るとき、

真剣に酔狂をやるのだから、
痛みくらいで済まないのは当たり前だ。
そう思う。


畏れおののくわが身を自覚しながら、夜明け前に祈る。


かみさま
何処にいるのか分からない、かみさま、

どうか、わたしに
無私の心を

ただ愛することのよろこびを
ありのままに君を映す瞳を
見えないラブレターをつづり続ける勇気を

どうか、わたしに
お与えください

どうか、わたしに
お恵みください


**************


午後11時、祖父母宅の外へ出たら
私の希望に反して
外は無風、雨もなく
自転車を漕いで自宅へと向かいました。

曇天の夜空を仰ぎ見て、思ったことを、書き残しておきます。

消化不良。

2005-07-27 02:39:17 | じいたんばあたん
「とうとう、この日が来たか」

ある程度、覚悟はしていた。けれど。
いつだって、覚悟なんてものは、
現実に直面した瞬間には、何の役にも立ちはしない。


今夜、じいたんの書斎に少し、ばあたんを預けた。
彼女の相手をしながらでは、
新たに処方された薬の仕分けや、デイケア連絡帳への記入など、
事務作業ができなかったからだ。


途中、病院の領収書を受け取りに、書斎に入った私に、
とうとう、ばあたんは、訊ねた。

「あなたは、だあれ?」


私は、ただ精一杯、微笑み返すことしかできなかった。




*****************


午前中のこと。
雨の中、微熱のあるばあたんを伴って、
じいたんは郵便局へお金を下ろしに行った。

お金を下ろす必要はなかった。私は知っていた。
やんわりと制止してみるが、
いつものことながら、そんなものは一蹴される。


じいたんの、金銭感覚は既にかなりあやうい。
だが、「お金」は、
じいたんが、自分の権力だと信じている、最後の砦だ。
お金に関して彼が決めた行動予定を覆すことは、介護拒否につながる。

彼の認知の低下が著しいのは、そこだけじゃない。
時系列を追っての、総合的な判断をする力が、もう、彼にはない。

昨夜のばあたんの混乱、そして風邪気味の身体は、
彼の「気の向いた」ときに発揮される、
「おばあさんは、いつでも一緒だ」という彼の「思い」だけで
あっさりと無視される。


やむなく、好きなようにしていただいた。


そして午後1時。

ヘルパーさんから電話を受け、祖父母宅へ行くと。
やはり、ばあたんは発熱していた。

37.7℃。
顔が、ぼんやりしている。
発熱は、せん妄をより、激しくする。


「毎日の努力を無駄にしやがって」、と
じいたんに怒鳴りつけたい気持ちが一瞬湧いた。

だが、
彼らは夫婦であり、私は、猫である。
そこに私が立ち入る隙はない。

じいたんは、それを分かっていて、
良くも悪くも最大限、私を介護者として使っているのだ。

それに、
この発熱がもとで、ばあたんに何かがあったとしたところで、
じいたんは、多分何も意に介さないだろう。
何故なら彼にとって、彼は彼女であり、彼女は彼だからだ。


**********************


午後三時半、病院に連れて行き、診察を受ける。
最後に私が診察を受けるときだけ、彼らに外で待ってもらったのだが、
私にしがみつく彼女の手は、私の二の腕にくっきりと爪あとを残した。

薬局で、私が、薬の説明を受けている間も
似たようなことで、じいたんを困らせていた。



そして。
自宅へ戻り夕食を摂った後、私と二人きりになった瞬間、
彼女は爆発した。

それまで「外出先」であるということだけは認識して
懸命に耐えていた何かが、一気に噴き出す。


「私、何か悪いことしたかしら。」
「たまちゃんが、怒ってるわ。」
「おじいちゃんは、どこ?」
「○○ちゃん(叔母の名前)、私を置いていくんでしょう」
「他の家族をどこに、隠したの?」

そして、文脈も成り立っていない、いくつかの単語の羅列。


一つ一つの問いかけに、なるべく簡潔に、
そして、出来る限り誠実に説明するのだけど、
私の言葉は、彼女の耳に触れた途端、むなしく蒸発してしまう。

「おじいちゃんは、お金の計算をしているよ。
 だから、もう少しだけ、そっとしておいてあげようね。」
そんな説明は、数秒で無効になる。


そっと、抱きしめてみる。
頬を、なででみる。けれど。

非言語的コミュニケーションも、無残に断絶されている。


**************************


気分を変えてもらおうと、洗面所に連れて行く。


顔を洗ってもらうために、声がけをしてから時計を外す。
「時計を返して」と彼女は叫ぶ。
声がけが、もう、耳の手前で「ただの音」になっているのだろう。

少し強引にパジャマの袖をめくり、顔をすすがせ、
洗顔フォームを手のひらに置いたら、
ばあたんはそれを泡立てた後、カランに塗りつけた。


入れ歯の手入れは諦め、何とか髪だけはセットさせてもらい、
「おじいさんは?」と、詰め寄る彼女を、やむなく
会計をしている、じいたんの書斎に連れて行く。


「ごめん、じいたん。
 今夜はどうやら、私ではだめみたい。
 じいたんの顔が見れると安心するから、少し傍にいさせてあげて」


じいたんは快く「おお、おばあさん、おいで」と手を広げる。
だが、ここでばあたんは、足がすくんでいる。
しがみつかれた私の、手の甲にまた、爪あと。
じいたんが、私の手からばあたんの手をひきちぎって、
ようやく私は再度、薬作りに向かう。


*********************


別の部屋にいても聞こえてしまう、彼らの会話。

じいたんが、ばあたんに言い聞かせていた。


「おばあさん、いいかい。
 たまを、怒らせたら、
 ぼくたちはもうここで、生活できなくなるんだよ」


本音なのか、ばあたんを納得させるための言葉なのか、
どちらかは知らない。


心の中に、泣いている誰かがいるのを感じた。

だが、現実の私は、顔色一つ変えず
薬を、一回分ずつ、切った紙に貼り付けていく。

人生と折り合いをつける、とは多分、こういうことだ。


**********************


そんな過程を経ての、冒頭の、ばあたんの言葉。

私はいつものように、「たまちゃんだよ」と言えなかった。
声が出なかった。
ただ、微笑み返すことしか出来なかった。


「…たまちゃん?」

少し間をおいて、
ばあたんが、少し笑いかけるような、すがるような表情で
私に問いかける。


「うん」

引きつった笑みで答えるのが、精一杯だった。

私はゆっくり後ずさって、書斎のドアを閉めた。


「どうして、さっさと死んだのよ?…お父さん」
誰かが呟くのが聞こえる。


********************


服薬と点眼の時間が来て、もう一度書斎へ向かう。


ばあたんは、疲れたような、けだるい様子で、
じいたんの隣の椅子に腰かけていた。
足に上着を着せられ、珍妙な動作を繰り返しながら。

全てを発散し切ったといった感じの表情。
そして、

「たまちゃん。どこに行っていたの?」

全てを忘れてそこに在る、いつものばあたん。


優しく、できる限り優しく彼女を促して、連れ去る。
点眼と服薬、トイレの介助をし、何とかベッドに彼女を横たえた。

ばあたんも、もう「おじいさんは?」とは言わなかった。


布団をかけてやりながら、せいいっぱい、心を伝えてみる。


「ばあたん、ごめんね。
 一番悲しいのは、ばあたんだよね。

 そばにいるからね。
 横で、薬を作っているからね。
 眠れなかったら、話していいからね。」


いつものように、頬ずりをして、唇に軟膏を塗る。


子供のような瞳が一瞬、あどけなく私をとらえる。

そして程なく、寝息を立て始めた。


大荒れのばあたんを寝かしつける、ばうの横顔。

2005-07-26 05:08:15 | じいたんばあたん
今夜のばあたんは、ひどく情緒が不安定だった。
理由はわからない。
天候のせいかもしれないし、先日の地震のせいかもしれない。

私が顔を出した時、ばあたんは、すねるように
「どうして 行っている の?」と言った。

それでも、眼は、わたしと合わせようとはしない。
彼女は、腹を立てているのだ。
彼女を少しでも置き去りにしていた私に。

そして、彼女の唇から紡がれる言葉は、文脈が混乱している。

「おばあさんは、最近とても気弱になられたようだ。
 デイケアでも、おじいさんを捕まえて、離そうとなさらないんだよ」
じいたんは少し、困ったような顔で言う。
「おじいさんがいないと、
 たまちゃんはどこ?って、デイケアの人に訊ね回るんだよ」


じいたんが席を外すと、ばあたんの症状はいっそう激しさを増す。
 (患者が、「介護者であると認識している者」の前で
  一番はっきりと、病理が開花するのが、この病の特徴である)

『作話』のレベルを遥かに超えている。
統合失調症の友人の、症状が激しいときにみられる
「言葉のサラダ」(注1)という症状を、ふと思い出す。

助詞・助動詞・接続詞が正しく使われない。
主体と客体が入れ替わる。
意味のない言葉(彼女の記憶に残っている出来事や言葉)の、順不同な羅列。
わたしの腕にしがみついたまま、彼女は、溶け合わない言葉を紡ぎ続ける。

ばあたんが、どれほどの不安にさらされているかが、分かる。
そして、こんなに言語能力が障害されることは、つい最近まで、なかった。
何が、いけなかったんだろう?何が、彼女の病を進行させたのか。

**********

途方に暮れた私が、苦肉の策で、取り出したのは、携帯。
そこには、介助犬ばうが、
ばあたんのために送ってくれた動画が記録されている。

「おばあちゃん、お元気ですか?
 早く、風邪、治してくださいね。
 また、遊びに行きます。ばう~!」

これが、効果てきめんだった。
ばあたんは、すうっとこちらの世界に帰ってきた。
だが、「ばうちゃんはこれから来る」と思い込んでしまった。

仕方なく、介護が終わったら、デートするつもりでいた、
介助犬ばうに、連絡する。
「悪いけど、祖父母宅に立ち寄って欲しいの。
 今夜は、大荒れ。ごめん。」

ばうは、二つ返事でOKしてくれた
深夜の焼肉デートがご破算になったことなど、そ知らぬ振りで
そして、私のために日用品の買い物を済ませて、
祖父母宅に来てくれた。

********************

だが。
あれほど「何時来るの?」と喜んでいた当のばあたんは、
また、落ち着かなくなってきた。

じいたんとばうばうの会話についていけない苛立ちをあらわにする。
わたしがお茶を入れようと席を立つと、追いかけてくる。
いつもなら大喜びで、笑いながら愉しむはずの、
ばうばうとの指相撲にも、
戦意剥き出し、凶暴にさえ見える表情で挑みかかる。

眠る時間になったので、睡眠薬と熱さましを投与した。
だが、それを飲むという作業がまた、彼女の不穏を引き出した。
「これ(お水)、全部飲まなくてはだめなの?」
薬を二粒渡したのを、決して口に入れようとしない。
「ばあたん、お薬、一粒ずつ飲もうか」
声をかけたら、ものすごい力で薬を握り、手を離さない。

それでも何とか薬を飲ませた。
少し眠そうになったところで、ベッドへ。
でも、今夜は寝付かない。30分そばについていても駄目。
眠ったなと思ってそばを離れると、「たまちゃん?」。
これでは、明日のためのメモさえ書けない。

そこへ、ばうばうが、来た。
ばうばうは、ばあたんの手をそっと、さすった。
「たまちゃん、任せておいて」

最初は抵抗したばあたん。
でも、ばうばうは、穏やかな表情でばあたんの話を聴き続ける。
仕事で明日も早いのに、11時近くなっても全然焦りを見せない。


じいたんが、向かいのベッドに座って、じっとばうばうの表情を見ている。
私も、そっとじいたんの横に座る。
じいたんと手をつないで、じいたんの肩に頭を乗せる。


そのとき見えた、ばうばうの横顔は
これ以上ないほど、穏やかで優しかった。

「この人は、美しい」


気がつけば、ばあたんの話す勢いも緩まり、
表情もおだやかになってきている。
ばうばうの顔を、薄く開けた目で見つめている。

じいたんがふと立ち上がり、
「おばあさん、おじいさんと二人で眠ろう」
と、声をかけた。
ばあたんは、うなずいた。

じいたんは、「君たちはもう、お帰り」と目で促す。


ばあたんの手をとって、話しかけているじいたんに
そっと手を振り、二人で玄関の戸締りをして、外へ出た。


申し訳ない気持ちでいっぱいの私に、
何事もなかった顔で、ばうばうは言った。

「たまちゃん、お疲れ。すいか買ってきたよ」



注1)
「言葉のサラダ」については、リンク先HPにある以下の記事を
お読み頂ければ、より具体的にご理解いただけると思います。
 (ページ内を「言葉のサラダ」で検索ください)
■統合失調症とともに(15) 森実恵(寄稿連載)
 2004/04/18 大阪読売朝刊 くらし健康・医療面
 ◆必死の叫び 「言葉のサラダ」に

※統合失調症についてのより詳細な情報は、「Dr.林のこころと脳の相談室」を参照ください。

たまの、アホ妄想。

2005-07-25 17:12:45 | 介護の周辺
もしも叶うなら、身体が五つ欲しいなって最近、思う。
「時間」じゃなくて、「身体」が、欲しいです。

つまり、「忙しい」ということでは決して、ないんです。
「同時進行」で、やりたいんです(汗)

介護も、もちろんやりたくてやっているのですが、
帰ってきたらもう、気力切れ。
介護以外のことはどうしても後回しになりがち…。

それは、あの、私が基本的に、怠け者だからなんですが。
そんな自分が恨めしい(笑)

で、ですね。
五つ身体をもし、持てたら、こんな感じで、割り振るのです。

◎「介護猫たま」
  介護と、そのための勉強やトレーニングに
  専念するための身体。
◎「活動家たま」
  母方の祖父母や妹、友人たち、ブロガーの皆様との時間を
  大事にする身体。
◎「趣味どっぷりたま」
  ブログを書いたり絵を描いたり、ピアノを弾いたり本を読んだり
  楽しみをしっかり味わう身体。
◎「仕事人たま」
  夢をかたちにするために、
  ばりばり働き、学ぶ(もう一回大学行きたい)身体。
◎「人間たま」
  自分自身の生活をきちんと整え(今、壊滅状態に近い(苦笑))
  きちんとだらだら休み、そして
  ばうばうとの時間を大切に過ごす
  ある意味「基本」となるはずであるはずの身体。

ああ、素敵。うっとり…(←アホか!!)

脳は基本的に、ホストが一つ。
んで、無線Lanのように各々の脳が繋がっていて、情報共有。
 (↑ちょっと具体的過ぎますかね)
身体が、五つ欲しい。もっとあってもいい(おぃ!)
もし叶ったら素敵なのになぁ…
うっとり…

と、処理能力の限界を弁えず、つまらない妄想で喜んでいる私。
アホですわ(笑)
昔、足に大怪我をしても、がしがし活動していた私に
「あんたね、あんたの足は、サイボーグじゃないんだよ。
 替えはきかないんだよ。ちゃんと考えなよ」
と友人に怒られたことを、ふと思い出しました…orz

いやあの、解ってます、無理です。
子供じみた欲求だって(汗)

でもね、上に割り振った身体への役割は、
全部、緊急案件のような気がするんですよね。
なんかせつないな~



さっき、じいたんばあたん、デイケアから帰ってきました。
ばあたん、風邪、本格的に引いた様子。
ああ、主治医は夏休みに入っちゃってるのに…orz

先にご飯を済ませてから、医者連れて行くか考えよう。
明日にするか、今日のうちに連れて行くか。
土砂降り来ちゃったな~。連れて行くなら、明日かな。

薬作りでへたる。

2005-07-23 02:07:05 | 介護の周辺
先ほど、日付変わってから帰宅しました。


今日のばあたんの精神安定度は◎、じいたんの精神安定度も◎。
でも、予想以上に「一息つく間もない」一日でした(^^;

主治医のところへ行って、
ばあたんの夜間せん妄に対して、抗精神病薬と睡眠導入剤を出してもらえて、
めっちゃラッキー♪
それから、先生(凄く素敵な女医さんです)にお貸しする約束をしていた、
「生きて死ぬ智慧」と「介護入門」持参できて、ほっ…。
じいたんの咳も、のどの炎症だとわかり安心。

薬の削除と追加があって、処方箋にタイプミスがあったりもして、…
ばたばたしてしまいました。

そして、ばあたんの相手と、
一日分の薬のセットを作る(+セットの構造を変更する)作業に追われ、
なんか今日は、それで一日つぶれてしまいました…。
会計の仕事なんて、やり遂げられないままだ(泣)

一部、一包化されている、じいたんの薬メニューは、
まだそれほどややこしくない。
じいたんにわかるように作れば済むのだから。

でも、ばあたんのは違う。
じいたんはもちろん、ヘルパーさんでも、親戚でもわかる状態に
作っておかなければならない。
自発的に服薬することが不可能だからだ。

各食前、あるいは食間に飲む、漢方5包に
アリセプト、夕食後の抗精神病薬、睡眠導入剤、
そして今だけは風邪薬…

投薬が頻回に及ぶ、ばあたんの薬の準備には、本当にてこずった。
何とか一週間分セットしたところでギブアップ。
デイケア連絡帳に、薬の変更とお礼を書き、
明日の朝のじいたんのための、「行動予定&メモ」を書き上げ、


だめだ。ギブ。

今夜は寝る。寝ちゃう。すみません…