じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

本気で叱ってくれたこと、覚えてる。

2005-09-16 03:42:51 | 友人
3年前、左足にひどい捻挫をした。

はるか昔、会社の内定式の朝、
地下鉄の階段でてっぺんから転がり落ち、
両足の靱帯を損傷した。

(骨が丈夫すぎて、靱帯がやられたらしい(笑)
  でも当然、内定式には出た私^^;)

そういうわけで、もともとあまりいい状態ではない、私の足。


きっちり副木を装着され、
松葉杖がないと歩けない状態だった。
医者には「副木が取れるまでは安静にね」といわれていた。


だが、わたしはじっとしていることが出来なかった。

普段なら、こんなときには誘わないはずの叔母が、
「たまちゃん、長いお休みくらい、うちで過ごしなさいよ」
としきりに勧めてくれる、その様子に、
ちょっとした違和感を覚えた…何か、嫌な予感がしたからだ。

それで、多少の無理をして、
当時住んでいた場所から、今の住まいの近くへ
新幹線で、訪れた。
友人の制止も無視して。


祖母の発病に気づいたのは、この来訪がきっかけだった。
(だから、やっぱり少し無理をして良かったと、今でも思ってはいるけれど)


帰路へ着く頃には、私の左足は
ひどい痛みがぶり返し、パンパンに腫れ上がっていた。


そのとき、私のわがままなSOSに、
文句ひとつ言わず
新幹線乗り場まで迎えに来てくれた友人。
彼が、本気で私を叱咤した言葉を
いまでも、宝物のように、覚えている。



「お前は自分をサイボーグか何かだと思ってるのか?
 ちがうぞ。お前は、生身の人間なんだぞ。
 ちゃんと自覚を持てよ。
 
 この足の"替え"は、世界のどこにもないんだぞ。
 もっと大事にしてくれ、頼むから」


目からうろこが落ちるような思いだった。

本当は「思い上がるな!」と怒鳴りたかったであろう彼の、
肩を震わせながらの、ひとこと。

普段は言葉少なく物静かな、彼。

本当に申し訳なく思い、
頭を下げて謝ったのを覚えている。




先日、歩いていて、突然、サンダルが壊れた。


祖母を入院させてからというもの、
本当は調子が悪いのに
ごまかしごまかし、走ることを止められない自分に、
遠くから、彼が、「だめだよ」と言ってくれた気がした。

最近、彼とは疎遠になっているのだけれど、
ここにせめて残しておきたい、感謝の気持ち。

ありがとう、君よ。

君の真剣なあのひとことが、
今のわたしを、護ってくれている。

君はいまどうしているだろう?
どうか、元気で、幸せで、いてほしい。

嵐の後に月を見る。

2005-09-11 18:54:36 | 友人
ばあたんが入院して、二人きりで過ごすことが多くなった、
ある日の夕方。

ベランダで、祖父と二人、月を見た。

「お前さん、ああいうのはな、
  研鎌(とがま)の月というんだよ」

なるほど、確かに、
研ぎ澄まされた鎌のように

鋭く美しい。


でも、この日は、その少し上に、
あかるいあかるい星がひとつ、光っていた。

寄り添う星の姿を祖父と二人、喜んだ。

あれは宵の明星かしら、
それとも
人が造った星かしら。


********************

祖父母宅を辞去した後、
ネットの上で、友人たちにこの話をした。


そしたら、

 こんなひとときのことを、心から喜んでくれたり、

 これは「金星」で間違いないよ、と教えてくれたり、

 三日月をつくる工場のお話を、読ませてくれたり、

 アストロアーツの情報を送ってくれたり、

 歌を、詠んでくれたり。


みんなの気持ちが嬉しくて、涙が出た。


お礼をこめて、歌を詠んでみた。
へたくそだけど、心だけはこめて、詠んでみた。


  月を見る 翁の傍に 猫一匹
     猫のこころに 住む友と共に

親友からのメール、未明に。

2005-08-22 05:37:25 | 友人
メールボックスを今、ふとみたら、
「にゃぼ」からのメールが。

うわ。うれしい。
読むと、何かのプレゼント?を、送ってくれるとのこと。
さっそく、祖父母宅の住所を知らせる。


・・・でもね、にゃぼ。
何よりあたしがね、うれしかったのは、
アンタのメールの最後の一行。


>キタナイ部屋でも、生きててくれれば私は良いです。


いつも黙って、そっと見守る。
それがどれだけ辛いことか

耐えてくれて、ありがとう。
10年以上になる付き合いの、にゃぼ。

アンタ元気でおってな。生きててな。頼むから。
元気で、そして幸せで、おってな。

それはアタシの「希望」やねん。
アンタが幸せやっていうことが、胸をあたたかくするねんで。
元気でおって。おねがいやから。

あの時、点ててもらったお抹茶。

2005-06-01 15:15:45 | 友人
昔、11年の闘病の末、父が帰天した直後
…大学受験の試験まっただ中だった、そんな時期のこと。

のんちゃんが家に呼んでくれた。

大丈夫なん?こんな時期に遊びに行って、
おかあさんとか怒らへんかしら
と心配していたら、
案内してくれたのは、台所。
とまどう私をテーブルに着かせ、
彼女が取り出したのは、茶せんと器。

それまで、
お茶のお免状を持っているのにもかかわらず
決してお手前をしてくれようとしなかった彼女が

家の台所で、カジュアルに点ててくれた、お抹茶。
ふんわり漂う、良い香り。

「さあ、どうぞ」
彼女は何気なく、それを私に供した。

あの時のお抹茶が、
…そして
何も言わずお茶を点ててくれた彼女の横顔が
忘れられない。



彼女は今、関西にいて、
新しく家族を持ち幸せに暮らしている。
お互いに会うチャンスはおろか
電話で話せる機会すらなかなかもてない。

だけど。

「永久に失った痛み」に「ただ驚き続けていた」あの時期に、
あんな『幸福な思い出』を残してくれた彼女は、

会えなくても、共にあると信じることが出来る、
まぎれもなく、私の無二の親友として
生涯、こころのなかに在る。

もし年老いて、ひとりぼっちになっても、

あの『幸福な思い出』は
最後の瞬間までわたしを幸せな気持ちで満たしてくれるだろう。

命の泉に注がれた飲み物。
あれほど美味しかった飲み物を、私はまだ知らない。

TBのテーマとは多少、ずれるかもしれないけど、
一生の中で一番、美味しかったあのお茶のことを
どうしても書きたかった。

読んでくださってありがとうございます。