じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

服を着替えて待つ、じいたん(後編)

2005-07-30 11:42:58 | じいたんばあたん
玄関にへばりつくばあたんに、ひたすら付き合うこと一時間。
何とかばあたんを、部屋の中へ誘導することに成功。

「上田(ばあたんの出身地)の桃を、手に入れたのよ。
  ↑これは、捏造です(笑)
 すごく高かったけど、ばあたんに食べて欲しくて、
 たまちゃん、おこづかいで買って来たんだよ。
 ばあたんが食べないなら、わたしも、食べたいけど、我慢する」

この一言が効いた。

ばあたんは私にへばりついたまま中に、入ってきた。

ばあたんを、私の腰につかまらせておいて、
桃を剥き、食べやすい大きさに切る。
切った桃を、横からつまみ食いして(以前は決してこんなことはなかった)
「おいしいわね」とにこにこ顔のばあたん。

内心「よっしゃぁ~!!」と叫びつつ、おくびにも出さないで
「ほら、おじいちゃんとおばあちゃんの分、持っていこうか」

ぱくぱく食べるばあたんを見ていて、涙が出た。
…殆ど今日一日何も食べなかったのだ。ほっとした。


その後もずっと、ばあたんの話を聞き、優しく着替えをして
髪や顔、入れ歯の手入れ、トイレ介助などをさせてもらい、
気がつけば9時。ばあたんは、眠そう。
今日一日、これだけ暴れた(不安な気持ちで過ごした)から、
安心したら急に疲れが出たのだろう。

チャンスなので睡眠薬を飲んでもらい、そのままベッドへ。
15分もそばについていたら、いびきをかき始めた。


***************************


ああ、しまった、と私は思った。
これなら、介助犬ばうに、頼む必要はなかった。
じいたんを早く床に入れられるし、
私も早く出て、少しでもばうばうをねぎらうことができる。


そう思い、書斎へ行くと、
「ばうちゃんは、まだかね?」と満面の笑みのじいたん。


しかも、ふと見ると、

さっきまでの下着姿ではなくて、
ちゃんとシャツとズボンを着用している。


「じいたん、寝巻きに着替えといて。
 夜遅い訪問だから、そのほうが、ばうばうも安心するし」
わたしが言うと、じいたん、

「いや、こんな年寄りを訪ねてくれる気持ちがうれしいんだよ。
 わしの好きにさせてくれ
いや、いつもアンタ好きなようにしてるやん…orz
突っ込んでみたいのをぐっと押さえ、
仕方なく引き下がり、ばうばうにメール。

「ごめん。ばあたんは予想に反して、落ち着いて寝てくれたけれど、
 じいたんが、ばうばうをお待ちかねなの。ごめん。」

すぐ返信が来た。
「たま、いいじゃない。
 おじいちゃんお疲れ様、のお茶会すれば」

携帯の画面がにじんで読めない。


*****************************


ばうばうが到着すると、じいたん、満面の笑顔で出迎える。
私に、「早くお茶とお菓子を出してあげなさい」とせかす。

本当に本当に嬉しそうだ。
ばうばうも、丁寧に話し相手をしている。


話しながら、じいたんは、ふとうたたねする。

そして、はっとして「くわっ」と目を開け、話の続きをする。

ばうばうは、見なかったふりで、話し相手をする。

じいたんは、まるで
「がんばって起きているから、
 もう少しだけ、この楽しい気分を味わわせて」
と眠い目をこする、ちいさな子供のようだ。


そんなじいたんが、それでも眠気に持ちこたえられなくなったところで、
祖父母宅を辞去する。
いつまでもばうばうに手を振るじいたんの、姿が
なんだかせつなかった。



そして、手を振り続けてくれる、ばうばうの優しさに

わたしは

いちにちの疲れを優しくぬぐってもらうのだ。

最新の画像もっと見る