じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

代償

2005-07-27 04:49:33 | 禁無断転載
今まさに人生の終焉に向かいつつある彼らを、
観察し続ける立場にある、
その、わが身の光栄を思うとき

見合うだけの代償を差し出さなければならないのは、自明の理だ。
そう思う。


死神が、いつ彼らを刈り取るか
そんな
彼らの、一秒一秒の生を維持する援けを
みずから望んで、引き受けた自分を振り返るとき、

真剣に酔狂をやるのだから、
痛みくらいで済まないのは当たり前だ。
そう思う。


畏れおののくわが身を自覚しながら、夜明け前に祈る。


かみさま
何処にいるのか分からない、かみさま、

どうか、わたしに
無私の心を

ただ愛することのよろこびを
ありのままに君を映す瞳を
見えないラブレターをつづり続ける勇気を

どうか、わたしに
お与えください

どうか、わたしに
お恵みください


**************


午後11時、祖父母宅の外へ出たら
私の希望に反して
外は無風、雨もなく
自転車を漕いで自宅へと向かいました。

曇天の夜空を仰ぎ見て、思ったことを、書き残しておきます。

安らぎのうた

2005-07-20 04:11:42 | 禁無断転載
宇宙から 大いなるところから 
そっと 眺めてみれば

わたしの生は とても ささやか


そのささやかな わたしの生は
もがいてみたり あばれてみたり
うれし涙を流してみたり
なんだか結構 いそがしい

そうして いつか
わたしは わたしの形を失い
もとの姿 分子へと還ってゆく

それは
なんて素敵なことなのでしょう

自我を超えて 宇宙の一部であるわたし
宇宙のなかで「命」という見えないものを
与えられていることを思うとき

わたしは とても 幸せな気持ちになる

全ては現象 化学反応のように美しい 現象

自分という存在が いずれ
宇宙へ溶けていくのなら

どこにいようが どんな風に生きようが
それがひたむきでありさえすれば
静かな自信が 身体の中に満ちてくるのだ


感謝を 報恩を 夜空へ

愛を 人へ

感謝と 報恩を 大地へ

私を懐く 大いなる存在の 君へ


悠久の歴史のなかの一瞬、
わたしの命がまばたきする機会をくれた
父と母へ
友へ

ありがとう ありがとう ありがとう

祈り。

2005-05-21 23:59:32 | 禁無断転載
かみさま、
何処にいるか分からない、かみさま。
どうか あたしに ちからをください。
あいするひとたちの
こころを
尊厳を
お別れの朝まで
まもりぬく ちからを。

わたしが
もっている武器といえば 
この からだと
この こころ
そして 
人様が恵んでくださる、愛。

ほかには なにもない
すっぱだかのまま いざ 勝負。

介護は、負け戦。
死に向かう大事な人に何もできない
そんな自分と戦い
そして、求めうる限り類まれなラスト
「いつかくるお別れの朝」
を目指して、
負けを受容して闘う、
そこに稀有な光を生み出すことを誓って。

かみさま、どうか私にちからを。

**********************

まだ若かったころ、
お金を稼ぐことなんて
そんな大事なことじゃないって
ずっと思っていた。
ささやかでも静かで安寧な生活と、
口を糊するお金があれば
それで十分だと思っていた。

でも、それは間違いだった。
護りたい人が出来たとき、
ほんとうに彼らに、安らぎを与えたければ
愛情だけじゃだめなんだ。

かみさま、あたしは今、
若いころあれほど憎んでいた
権力というものを切望します。
お金を作り出す力を、渇望します。

愛するひとたちに、無償の愛を捧げたい。
それができなければ、あたしにとって
人生は何の意味ももたなくなってしまう。

馬車馬みたいに働く。
力を、手にしてみせる。

いずれやってくる幕切れを
この上なく幸福なものにするために
かみさま
何処にいるのか分からないかみさま
そっと見守っていてください

※また書き直すかもだけど、とりあえず。

あと何回

2005-05-07 01:43:22 | 禁無断転載
あと何回、
ありがとうって言えるかな。
じいたんばあたん、二人の笑顔を見れるかな。

あと何回、
三人で大声で笑えるかな。
だって
命なんて簡単に、消えちゃうんだもの。
ねえ、みんな、本当なんだよ。
この世では、どんな酷いことだって起こるの。

思い出すのは
あの雪の日の朝
覚悟していたのに受け止められなかった、
父の消えた、朝。

これ以上ないほどクリアな青空と
これ以上ないほど眩しい雪が
マグリッドの「呪い」とシンクロした
あの日。


あれから何と遠くへ来てしまったことだろう。

息子の倍以上の寿命をすでに生きている、
二人のこんな姿を見ようとは。

もう死んでしまいたいと嘆きながら
すさまじい力で生にしがみつく男と、
死んだ息子の存在さえもう思い出せず、
その娘に「おかあさん」と
屈託のない笑顔を向ける女。

彼らをどうして愛さずにいられるものか。

あれだけの呪いを受けながら
今まで生きていてくれた彼らを
長い孤独を耐え、忍びがたきを忍び
生き永らえてくれた、かれらを。

ねえみんな、
まだ間に合ううちに、

愛して。
彼らを無視しないで。
触れて、確かめて。

生きてるの。
まだ、生きてるの。
今、まだ、ここにいるの。