じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

素朴な疑問、そしてごく当然の答え。

2006-01-31 16:35:57 | 介護の周辺
今日は、行きつけのクリーニング屋さんが、
一年で一番お安くお仕事してくれる日@最終日♪
というわけで、
外は雨だけれど、スーツやワンピース、コートなど、
自宅で洗えないものを出しにいく。

それだけでやめておけばよかったのだけれども。

ふと、魔が差して
お部屋の大改造をする気になったわたし。


「住環境から生まれ変わるのよ!」


をコンセプトに
まだ残る微熱も吹き飛ばして、朝から張り切っているのだが。


ふと、ある理不尽な循環を発見し、
疑問を呈してみる。



 片付けようとすればするほど
      散らかってゆくのは何故だろう…













答えは簡単





 今頃になって
   この部屋へ越してきた頃の荷物
     開けているから…






いままで、
そのつど必要なものを
箱から漁っては出し、生活していましたorz


白状して、ここに懺悔します…。・゜・(ノД`)・゜・。




追伸:
じいたんは今日、
マンションの囲碁大会の表彰式(優勝しました^^)

夜まで碁会所から帰ってこない予感…^^;

◆お知らせ◆コメント返信状況について

2006-01-30 09:13:59 | お知らせ
お心のこもったコメントを、いつも、ありがとうございます。

去年の不調以来、コメント返信が大幅に遅れておりました。

ひとつひとつ大切に、読ませていただいておりました。
何度も何度も、拝見させていただいて…。

やっと今頃になって、コメント返信を
まとめて再開することができるようになりました。
現在の進捗状況は以下の通りです。

12月31日掲載『天国からのラブレター』より後の記事、
及び
12月06日掲載『林檎に託された想い。』より前の記事は、
全てレスを付けさせていただきました。
(見落としがないか、慎重に探したいと思いますが、
 もしお気づきのものがございましたら、
 ご一報いただけますと幸いに存じます)

今、自分が、なんとか書ける範囲ということで、
コメントの内容はいささか拙いものになっておりますが、
感謝の気持ちだけでも、少しでもお伝えできれば、
これ以上嬉しいことはありません。


なお、以下の記事については、追って…ということでお許しください。

12月07日掲載『告白』
12月08日掲載『駅は目の前。なのに』
12月12日掲載『冬の朝の散歩』

どのような形でのレスにするか思案しています。
しばしお時間くださいますよう、お願い申し上げます。

最後に、
辛抱強く待っていてくださった読者の皆さまへ
改めて、ありがとうございます。心より厚く御礼申し上げます。


たま。

近況報告です。

2006-01-29 16:49:25 | お知らせ
せっかくブログに復帰できたというのに、
風邪を引いてしまい早一週間とちょっと…

今年の風邪は、なんだかしつこい感じがします。
それでも、幸いインフルエンザではなさそうなので、有難いです。

胃が痛い&薬の飲みすぎが心配なので、
生活環境やら食事やらでなんとか、風邪が抜けるのを待っています。
こういうとき、一人暮らしはちょっと淋しい…
うん、そう、わたし、お恥ずかしいのだけれど
ちょっと淋しくなってしまって、それで編集画面に向かっています。


じいたんにも、電話でしか連絡を取らないので、
ずいぶん淋しい思いをさせています
例年、二月三月は「お年寄りの"魔の季節"」なので
とにかく風邪を移さないようにしないと後が怖い…

(幸い、じいたんは風邪もひかず、元気でやっています。
 とはいえ、先日、公園の散歩道で転んだようなので、…)


  それから…
  じいたんと、あまり会わないようにしているのは、
  風邪のせいばかりじゃない、ということも、
  正直に告白しておかなければならないですね。

  今のわたしには、キャパシティがない。ガス欠状態。
  無理に笑うと、わたしにひびが入ってしまうから、です。

  じいたんが、頑張ってくれるところは、頑張ってもらおう。
  心の葛藤をじいたんにぶつけるより、
  頑張ってもらえるという事実に感謝しながら、心の栄養補給をしよう。

  今は、そんな気持ちです。



去年は、今頃くらいの時期から、
じいたんもばあたんも具合を悪くして、
春が来るまで、ずっと泊り込みをしていました。

(一昨年は、去年ほどじゃなかったけれど
  仕事を休んで数日は泊り込みました)

あの頃はまだブログを始めていなかったので、
手書きの記録かわずかばかり残っているのみなのですが、
思い出しながら少しずつ、記事にしてみようかな、と思っています。

せっかく、じいたんとばあたんが、わたしにくれた
貴重な体験と情報
それを残していかなきゃ、と思います。
専門家とは違った立場から…


追伸:
リアルタイムのお話も、書きたいです。
そろそろ、コメント返信も。
(まとめレスになるかもしれないのですが、お許しを…orz)
そして、他のブログにも、そろそろ、遊びに伺えればと思っています。

閉じこもっていても何も始まらないものね。

「中村屋」で腹の底から笑う。

2006-01-27 00:11:33 | きゅうけい
※追記・改変あります。よろしければ再読くださいませ^^

…ここんとこ、シリアス系記事が続いてしまったので
という反省を込めて、少し毛色の違うものを。

この一月に観たフラッシュの中で
個人的に、一番おもしろかったものをご紹介。
もともとは、SNS内での友人の日記に載っていたものです。

腹の皮と腹巻がよじれるほど笑いました。
とにかくごらんあれ。


『中村屋』フラッシュ


グループ魂の「大江戸コール&レスポンス」が
どなたかの手によってFlashに加工(?)されている。

ホント、勘三郎さんのモノマネ、絶妙。うますぎ。
一瞬ご本人かしらと思ったくらい。


わたしがドツボにはまっている間にも、
ネットの向こう側では、
こんなに楽しい作品をつくって
無償で皆さんに「笑い」を提供している人がいてはるんや。

そう思うと、
思わず襟を正す気持ちにもなり、

そして、ずっと放置しっぱなしだった
このブログへ帰ってくる気力をもらったのでした。

腹の底から笑いました。久しぶりに。
感謝をこめてご紹介いたします。


1/30追記:
この「中村屋」フラッシュの製作者さまのサイトを以下にご案内しておきます。


『スチール』


すばらしい出来の、爆笑flashが満載!
見所たくさん、とってもクールなサイトです。
アクセス数も100万超えているとのことで、ご存知の方もおいでかも。

結婚式旅行記(5)帰りの道中。

2006-01-25 23:12:53 | じいたんばあたん
新幹線乗り場で、母が、あなご飯を持たせてくれた。


東京方面へと滑りだしたのぞみの車中で、
がつがつと穴子飯を掻き込む。

人目もはばからずぽろぽろ出てくる涙にも、
今だけはお構いなしで。

食べおわったら、…新横浜へついたら、また怒濤の日々。

母の姿や、妹の花嫁姿を思い出して、
存分に感慨にひたれるのも、この、今だけ。

新横浜へついたら、まっすぐ、じいたんのところへ向かおう。
ひとりぼっちで、ただひたすらあたしの帰りを待っていてくれる、
年老いた、いとしい家族―じいたんのところへ。


ビールで自分にお疲れさま、と乾杯。

新横浜に戻るまで、束の間の、羽休め。


*********


新横浜へ到着したのは、午後六時すこし前。

のぞみの車中では、せっかく座れたというのに
ほとんど眠ることができず、ようやくまどろみ始めたころ。

重い頭を振って、肩を叩く。
一歩、ひらり、とホームへと降り立ったら凍みこむ空気。
じいたんの顔が、たまらなく見たくなった。

そのまま、タクシー乗り場へ。

タクシーを拾うと、まもなく携帯に着信。
じいたんからだった。


「お前さん、無事着いたかい?
 今日はおじいさんのところには寄らなくて良いから、
 まっすぐ、部屋へお帰りなさい」

…本当はすぐにでも飛んできて欲しいくせに。

この二日間、電話連絡こそ怠らなかったけれど、
淋しく心細く過ごしていたにちがいない、じいたん。

そんなじいたんの心遣いに、涙が出た。


じいたん、あのね

そんなじいたんだから、あたしは、まっすぐ
あなたの懐へ向かって、走って帰るんだよ。

お土産、あれもこれもって、いっぱい、買っちゃったから、
今から一緒に、ふたりでのんびり、いただこうね。

待っていてくれて、ありがとう。


タクシーの車窓を流れる、夜景を目一杯吸い込み、

わたしは、ぱちん、と
「たま」から「介護猫たま」へ、シフトチェンジした。


結婚式旅行記(4)宴のあと、そして辞去の朝。

2006-01-24 23:32:38 | 介護の周辺
披露宴が終わって、母の家に一旦戻った。
結婚式に出られなかった母方の祖母に、着物姿を見せるために。

そしてそのまま、着替えたら横浜へと、戻るつもりだった。
風邪気味のじいたんが、わたしを待ちわびている。

ところが、ふと気づくと、母の様子がおかしい。
家へ到着してから、ずっと、彼女は洗面所でぼんやりしている。
目を洗っては鏡を覗き込んで、不安げな様子。

聞くと、

「片目に、スモークが流れているみたいなの、おかしいわねぇ」

こういうとき。
彼女は、よほどのことでない限りじっと我慢するほうだ。
わたしが中学生の頃、
父の病が再発して看病が大変だった頃も、
我慢に我慢を重ねて、ついに自宅で倒れたのだった。


その場で、今夜横浜に戻るのは諦めようと決め、
母にはそしらぬ顔をして、二階へ。
自室に引き上げていた、母の夫をたたき起こす。

「ごめんなさい。母の様子が変なんです」

母の夫は飛び起きて、母に問診をして(彼は腕のいい内科医だ)、
すぐに、救急で眼科医のいるところを探し出し、
彼女を病院に連れて行った。

結果としては幸い、大したことではなかった。
目の老化によるもので、突然始まる症状なのだそうだ。
(但し、網膜はく離を起こす場合があるので、
 今回かかっておいて良かったらしい)

ここのところずっと、無理を重ねていたから、
妹の結婚式が無事終わったところで、疲れがどっと出たのだろう。

母に、伴侶が付いていてくれることの有り難みを痛感した。


*************


翌日の朝のこと。

彼女は、すこぶる上機嫌でわたしを起こした。

食堂に引っ張り出して、あれもこれも食べろと促したかと思えば
今度はウォーク・イン・クローゼットにわたしを引っ張り込んで

…ずいぶんとはしゃいでいる。

わたしは、内心、帰る時間を気にし始めていた。
―じいたんのことが気にかかって仕方がなかったからだ―
けれど、昨夜のこともあったので、
しばらく彼女の着せ替え人形になりながら、様子を伺っていた。

ひとしきりそうやって過ごして、満足したのか、
そのうち彼女は、「ちょっと」と、風呂場へ消えていった。

彼女の夫は、せっかくの晴れだから、と洗車に出かけていた。

家の中では、
年老いてすっかり暴君になった母方の祖母の声が、
きんきんと響き渡って、ひどく耳障りだ。

身体に自由が聞かない分、口が達者になるのは仕方ない。
それにしても、この人は、前からこんなに傍若無人な女性だったろうか?
母の夫でなくとも逃げ出したくなる。


…ちょっと気分転換しよう、と思い、
母方の祖父に声をかけた。

シガレットケースを持って、ダッフルコートを羽織り、
(家の中は禁煙なのだ)

玄関を出ようとした、そのとき。


母が、風呂場から、バスタオル一枚で飛び出してきた。



「たまちゃん、どうしたの?…帰っちゃうの?」


まるで母親においていかれる子供のような、
狼狽した、そして必死の表情。

いったい何をどう考えたらそういう結論に行き着くのか
(挨拶もしないで帰るほどわたしは無礼ではない)
と思う一方

そんな風に、何かを悟って、怯えている彼女を
心底、哀れだと思った。

「ママ、あたしちょっと一服してくるだけよ。
 挨拶もせずに、ママを置いていくわけないでしょ」

と、笑顔で答えてやると、
彼女は、露骨に安心した表情をして、

「置いていかないでね、送っていくんだから。
 玄関横のテラスに椅子があるから、使ってちょうだい」

と言いのこし、風呂場へと戻っていった。
その後姿には、
かつての母のあの美しかった裸体の面影は薄く、
抜けるような白い肌の上に、老いの陰が忍び寄っていた。


外へ出て、不意に、

顔を上にしか向けていられなくなった。
一滴も、こぼしてはならない、そう思った。


母がどうあろうと、
わたしの母への愛情は変わらないのに、
多分そのことに、母は一生、気づくことはないのだろう。

でもわたしには、どうしてやることもできない。

なんてかわいそうなんだろう、
と思う自分がいる

それでも、だからこそ、せめて
彼女を哀れんだりしてはいけない、と思う。
彼女の尊厳を傷つけてはならない、と思う。



こんな状態の母を、置いて、広島を出る。
あなご飯も、じいたんへの土産も、新幹線代も全部…母の用意だ。


彼女を置いて、
わたしは、また、
この土地から、出て行くのだ。

母が決して口にしない、心の痛み、願い、
その気持ちを、その腕を振り切って。


一服したあと、いつも携帯している便箋を取り出す。

母の夫に、手紙を書いて、
(このブログのように、推敲もなしだ)
彼しか開かない引き出しへそっと、しまった。

わたしにできるのは、これくらいのことしかないのだ。
 
 

パパへ、内緒の手紙。(結婚式旅行記・番外編)

2006-01-23 18:16:18 | 介護の周辺
ねえ、「パパ」、
あの子の結婚式、そして披露宴、見ていてくださった?


パパが、いつも心配していた、あの子。

あの子は、無事、
健やかな女性に成長して

先日、わたしの誕生日に、嫁いでいきました。
 


あの子はね、
あなたの四十九日を送ってからは
一度も、

あなたのことで、涙を見せるようなことは、なかったのよ。

わたしにさえ。



でも、披露宴で、
彼女がママへの手紙を読み上げていたとき、


あなたを喪ったときのことを、言葉にしようとして




一瞬、喉を詰まらせ、泣き崩れたの。




それでも、夫となった人に支えられて、
最後までお礼の手紙を、きちんと読み上げたわ。


ごらんになっていらした?
…どんな気持ちで、見守っていらした?




パパの一番の教え子が、パパの代わりに
ママの傍に寄り添い、「父の務め」を果たしてくれたのよ。


スポットライトに照らされながら
彼ら―あなたの妻と教え子―は、

もういないあなたへと
こころのなかで しずかに 祈りを捧げて
あの場に 立っておいででしたわ。


なんて有難いことなのでしょうね、パパ。

これ以上の、「佳き日のかたち」はなかった―
わたくし、心からそう、思いましたのよ。


おめでとう、パパ。



******************************


そうね、

・・・ここまでの文章には、
ほんの少しだけ、「偽り」が、ございました。


そのことを、あたくし
ここにだけは、こっそり、打ち明けておきたい。

あの子が嫁いでから、ずいぶん日も経ちましたし
・・・もう、わたくしひとりで抱えることも、ありませんわよね?


パパ、


本当は、こんな
報告のお手紙なんて、書くまでもないこと、
わたくし、気づいております。
こんなことは、茶番だわ。


だって、わたくし存じ上げておりましたもの。


あの佳き日、
あの祝福の空間に

確かにあなたがいらしたこと

式場の空気の中へ、分子のなかへ、
こっそりと、溶け込んでいらしたこと

あなたが

あの子とその伴侶を

そしてあの一対の「夫婦」―ママと彼―を
ふんわりと抱きしめていらしたこと


・・・わたくし、ちゃんと存じあげておりましたの。

他の方々がお気づきにならなくても、わたくしだけは。


ですから、
安心なさっていらしてね。

いつでも、そうでしたもの。パパ、あなたは。


**************************


  あらゆる不条理を内包したまま
  それでも、いのちは、連鎖していく。

  生ける人々の営みは、途絶えることなく続いていく。

  ベクトルの向きが、未来へと定められた
  「時の流れ」というエネルギーの、

  ある意味残酷で、そして
  限りなく慈悲深いありように抱かれながら。


  ―それが、この世の成り立ちの、真理。


あなたの姿は、あらゆるところに、遍在している。
そのことに、わたしは、気づいているから

・・・と、

文字にして、ここに書き残しておくことを、

どうか、お許しくださいませ。


結婚式旅行記(3)三三九度の前に。

2006-01-22 18:13:28 | 介護の周辺
妹が挙式するホテルの美容院で、
髪を結い上げてもらい、薄桃色の無地の訪問着に着替えた。

廊下へ出たら、
新郎も羽織袴で、椅子に腰掛けていた。


 彼は多分、妹を待っているのだろう。

緊張した、初々しい面持ち。
このひとが、今日から妹を支えていくのだ。


「本日は誠におめでとうございます。
 妹を、どうか、幸せにしてやってください。
 たった一人の妹なんです。どうか、よろしくお願いします。」

わたしは新郎に深々と一礼した。
式の前に、務めをひとつ、果たしたような気がした。



ほどなく、

白無垢のうえに打ち掛けを羽織った妹が、
介添えの女性に手を取られて現れた。



・・・息を呑むほど、美しかった。

 (結婚式場で大学時代ずっとアルバイトしてきたが、
  こんなに美しい白無垢姿の30代をわたしは見たことがなかった)

そして、

わたしに、ほんの一瞬、
はにかんだような、極上の笑顔を見せ、お辞儀をした。


わたしは、ただただ、胸がつまってしまい

妹に、新郎に、深々と礼をするのが精一杯だった。




新郎に手を取られ
控え室へと向かう妹の後ろ姿を見送りながら、


ひとり


終わったばかりの化粧が剥げないように
ハンカチで目頭を押さえたけれど、間に合わなかった。

気がつくと、美容師さんが、傍らに、そっと立っていらした。
そして、わたしにそっとガーゼを差し出した。

彼女の肩に抱かれながら、嗚咽が止まらなかった。


 あの子がどれだけ苦労してきたか、堪え忍んで生きてきたか
 どれだけかわいい、かわいい妹だったか。


   たった二人で過ごした、高校生のクリスマス、
   あの子にチキンを買ってやりたくて、
   小遣いで、ケンタッキーに並んでいたら、
   それを察したあの子が、店まで私を探しに来て、
   二人、手をつないで行列に並んだこと。


   父が亡くなって、喪が明ける前、二人そろって受験生で。
   ふたりぼっちでも、炬燵の中、肩を寄せ合って
   クリスマス・ソングを歌いまくって、笑い転げたこと。


   あの子が19歳の夏休み、門限を過ぎて帰ってきたあの子を
   うんと叱った。そのとき、あの子が
   「何で姉ちゃんなの。何で姉ちゃんばかり!
   看病と勉強でくたくたなのに(当時母方の祖母が倒れた直後だった)、
   どうして、ご飯も食べないであたしを待ってるの!!」
   と、目にいっぱい涙をためて、叫んだこと。


   短大の卒業式の日。母親と連絡が取れないままだった。
   わたしなりに出来る限りの支度はしたけれど、行き届かない部分もあった。
   …妹が不憫で、思わず俯くわたしに、
   「実の姉ちゃんに、着物も何もかも準備してもらえて、
   こんなに卒業を喜んでもらえているのは、私だけだよ。
   ありがとう、姉ちゃん」
   と、気丈に、笑ってくれたこと。


   あの子の「姉ちゃん」と呼ぶ声。
   あの子の「姉ちゃん」と、呼ぶ声。
   あの子の笑顔。あの子の喜ぶ顔。


  父が夭折したあの真っ青な空の、雪の朝からずっと、

   わたしの幸せを全部売り払ってでも、
   この子にだけは、ごく普通の女性の幸せを手に入れて欲しい

  それがわたしの、何よりの願いだった。

  ・・・あの子がいたからこそ
  あたしは今日のこの日まで頑張って生きてこられたのだ、


家族の誰とも頒かち合えない、思いの丈を
泣きながら、ぽろぽろと、話したような気がする。

美容師さんは、ただただ優しくうなずきながら、
わたしの肩を抱きしめてくださった。

もう二度とお目にかかることもない方の肩
…だったからこそ、
お借りできたのかもしれない。



神さまがくださった、

姉妹二人きりの、無言の、お別れのご挨拶。


結婚式旅行記(2)結婚式前夜~未明。

2006-01-22 15:13:24 | 介護の周辺
広島駅に降り立とうとした瞬間、
足がすくんだ。

ああ、飛び降りよう。飛び降りなくちゃ。
家族以外の人を、待たせている。広島の地に。


*********


式の前日、広島入りしてから、まず、ひめさんと会った。
倉橋由美子つながりで仲良くさせていただいていて、
記事を読んでは何気ないメールをくださる。
広島へ行ったら是非会いましょう、と、結婚式の2ヶ月前には約束していた。

彼女とお茶しているところへ、飛び入りで
*スノー*さんとお嬢さんが駆け付けてくださった。

外の寒さにつりあわぬ、あたたかいひととき。


写真は、スノーさんから頂いた、
オルゴールのネックレスと、メッセージカード。
そっと揺らすと、優しい音色が控えめに広がる。
スノーさん&彼女のお嬢さんとお揃いの品だ。

そして下に敷いてあるハンカチは
ひめさんとお揃いでプレゼントしあった品。
四つ葉のクローバーの刺繍が入っている。


親族たちと会う前に、思いがけないお心遣いを頂き、嬉しかった。
本当に寒かった昨日の夕暮れどきに、
これを届けてくださったお気持ちの、暖かかったこと。

こうやって少しくつろぐ時間を頂いてから、

『家族との夕食会』に向かった。


************


式の未明、母の家のゲストルームから、携帯でこの日記を綴る。

わたしが、敢えて立ち入らないことを選んだ、
母と義父―かつて父の教え子だった―の領域。

初めて上がり込んだ、豪奢な彼らの城。


夕方、母・義父・母方の祖父母・妹、そしてわたし
六人そろって(実に何年ぶりだろう)
広島のとあるホテルにて、フレンチのコースで妹の門出を祝った後、


母方の祖父母も世話になっているその家で、
終始和やかに、にこやかに、式の前日のひとときを過ごした。


だが、夜半、一人になったとたん、激しい背中の痛みに見舞われた。
穴が空いて、そこから何かが逃げてゆく。

ウエッジウッドの上掛けにくるまりながら、
痛みに耐えているうちに眠りにおちたのが一時半頃。

でも、四時過ぎにはもう目が覚めてしまった。

優しい音色を聴きながら、
ひたすら夜明けを、―妹が嫁ぐ朝を、待つことにする。


*********


朝になって、妹を起こしにいく。

枕元には結納の品。
子供の頃と変わらない、あどけなさの残る寝顔。

しばらく、黙って見つめたまま、横に正座していた。


「そろそろ、起きなさい。」

声をかけると

妹がむにゃむにゃ寝ぼけながら、わたしのパジャマの裾をつかむ。
白くてちいさな妹の手には、一枚のレポート用紙。

それは、披露宴の席で読み上げるために、
母にナイショで彼女が用意していた、感謝の手紙の原稿だった。


「…お姉ちゃん、ごめんね。おねがい。
 なんか足りない気がするんよ。
 ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、手、入れて!」

そこには茶目っ気たっぷりの妹の顔。
今はまだ、わたしの、妹。


 「…こんなものがあるなら、夕べのうちに相談なさいよ。」

いつもと変わらぬ妹の様子に、
ちょっと呆れながら、原稿に目をざっと通す。


 「言い回しを直したほうがいい箇所が、ここと、ここと、…ここと、…。
 それから呼吸の位地に読点を入れないと、本番で朗読しづらいと思うわ。
 ・・・貸して。15分で直すわ。プロの仕事だから高くつくわよ」

悪態をつきながら、
自動的に頭を仕事モードに切り替えて、ざくざく手を入れる。

彼女が書いたものよりも、より彼女らしく。
そして、聴く人全てに素直な感動を呼び起こすよう
…妹へ愛情をずっと注いでもらえるよう、願いをこめて。


結婚式のために、
妹を手伝ってやれることがあって、幸運だった。


・・・このためだけにでも、やっぱり、来て、正解だった。



結婚式旅行記(1)のぞみの車窓から。

2006-01-22 13:16:55 | 介護の周辺
当日、やはり風邪気味で鼻声のじいたんの姿に
後ろ髪を引かれるわたし。


それでも、気丈に

『お前さん、おじいさんの分も祝ってきてやっておくれ』

と笑顔で送り出してくれた、じいたんのおかげで
なんとか11時過ぎの『のぞみ』に飛び乗った。

六年ぶりの広島まで、四時間。
思い出深く、そして、今まで遠ざけていた土地へ。


米原あたりで、雪のため徐行運転とのこと。

関東ではこの冬、一度も雪が積もっていないので、
雪を眺められるのが少しだけ楽しみ(*^_^*)


心のなかに、じいたんばあたんを連れて、めいっぱい味わって旅しよう。


***********



名古屋駅に着くと、車窓から駅西が見えた。
かつて住んでいた土地。なつかしさがこみあげる。

 当時の教え子達は今、どうしているだろう。

そんなことを思いながら窓辺に頬を寄せる。


*************



名古屋を出ると、ほどなく一面の雪化粧。

集落と平原、山々と樹々がめまぐるしく交差していく。

鋭くあかるい日差しがきらめいたと思った次の瞬間、
細雪が、流星群のような激しさで降り注ぐ。

車窓に映る風景を、舞台の上で舞う一人の雪女のようだ、と感じる。


美しい。ただただ美しい。

「わたしは、日本人だ」とふと、強烈に意識させられる、そんな情景。

書いているうちに、京都に着いた。

やわらかい日差しと細雪が
和服の裾からこぼれる、仄かで慎ましやかな色気を思わせる。


************

京都を出ると、徐々に
細胞に刻み込まれた愛着がよみがえる。



懐かしい、大阪。

14になったばかりの頃、

一人で家を飛び出したわたしを、柔らに受け入れてくれた街。

わたしの、強ばった肩を、時にはやんやりとたしなめ、
時には優しく抱き締めてくれた街。


友に恵まれ、師に恵まれ、
見知らぬひとと、束の間交わされた優しさに救われて。

この場所こそが、あたしの母胎、あたしの原点。

ああ、お願いよ。
帰りたい。帰りたい。…帰りたい。

幼子のようにただ、車窓からひたすら恋い慕う。
また、いつか、ここへ降り立つ、その日を希いながら。


そしてわたしは、カオスの地へ
―広島駅へと降り立った。