じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

ばあたん、たまを子守りする。

2005-07-06 09:06:22 | じいたんばあたん
昨日は、じいたんばあたんの、かかりつけ医受診日だった。
私も朝から夜中までフル稼働、中抜けなしで頑張らねばの日だった。

だが、そこは久しぶりのせいか、体調がいまいちのせいか、

診察を終えて、
マクドナルドで三人、お昼を食べ
(↑じいたんのリクエスト)

バス停で彼ら二人を、マンション前に停まるバスに乗せ、
私一人だけでかかりつけ薬局に向かい、
蒸し暑い中をとぼとぼと歩いて、

祖父母宅へ戻ったときは、ひどい頭痛とめまいでダウン寸前だった。

さらにまずいことに、
昨日は、午後のヘルパーさんをキャンセルしていた。
病院から、時間までに戻れないと困ると思ったからだ。

薬を飲んで、ばあたんの足許で横になる。
寝転がったままででも、ばあたんを不安にさせないように、
いっぱい話をして…気を紛らわせて…
めまいが少しましになったら、散歩か何か…

ばて気味のわたしを、ばあたんがうちわで扇いでくれる。
「たまちゃん、あついから、しんどいのね。」

ああ、昔、こんなシチュエーション、あったなあ、
なんて思っているうちに、薬が効いてきて、
いつのまにかうとうとしてしまった。



…携帯が鳴った。
はっとして、目が覚めた。
最後に時計を見たときから小一時間経っている。

窓は開けていないはずなのに、涼しくて気持ちいい。


ふと見上げると、

ばあたんが、うちわで、
そっと、扇いでくれていた。
わたしが眠りに引きずり込まれる前とほぼ同じ姿勢で。
穏やかな、表情で。


…もう、どこで用を足すかさえ、認知があやうくなっているというのに。

…自分の名前さえ言えない時があるのに。

…普段なら、何かの用事に私が、気をとられてしまったら、
不安になって、玄関から外へ出て行ってしまうのに。


慈愛に満ちた表情というのは、こういうのを言うのだろうか。
そこに、病気のかげは、かけらもない。

わたしは、思わず
ふざけたふりをして、ごろにゃ~ん!と、
ばあたんの膝の上に頭を乗せる。
…とても、顔を見せられない。

ばあたんの膝に頬をあてながら、思いもかけない言葉が、すべり落ちる。

「なんか、すっごく、幸せだなぁ。」


すると、ばあたんが、歌うように言った。

「おばあちゃんも、とっても、幸せよ。たまちゃん。
 大好きなたまちゃんと、一緒にいるんだもの。
 たまちゃん、とっても、いい気持ち?
          うちわで、やさしく、あおぎましょう」