ひよこ造船工房

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TA-DA7000ESパワーアンプ化 実は現状不利な"フルデジタルAVアンプ"編

2010年04月26日 | オーディオ

 このところ続けている"DA7000ESパワーアンプ化"連載ですが、ご覧になっている方はフルデジタルアンプへアナログ入力をしてるだなんて「ひよこバカだなぁ」と思われていることでしょう… 一見するとフルデジタルアンプにアナログ信号を入れるなんて不合理にも感じますが、この接続は無駄ではないどころか、現仕様の"S-Master PRO"の弱点を克服する可能性も秘めています。 一体どういうことなのか、解説を始めます。

 

 

 

■ 『デジタルアンプ』とは

 

 デジタルアンプと一口にいっても、"フルなデジタルアンプ"と"ただのデジタルアンプ"とがあります。 双方が同じなのは、スピーカー駆動信号に1bit信号(PWMまたはPDMと呼称)を使っている点です。

 

 デジタルアンプが最終段(スピーカー出力)から出力するデジタル信号はPCMのような演算信号(数値)ではなく、1bitの0と1(電圧の有り無し)の出現状態が楽曲の進行通りの時間軸に沿っている、アナログ的な意味を持たせられる信号です。(例えば1が多ければ波形は上方へ、0が多ければ波形は下方へ) なぜこんな1と0・ON/OFFでスピーカーを動かせるのかというと、数百kHzから数MHzという高速でON/OFFを行うため、スピーカーのような反応の鈍い重い磁性体にとっては"エネルギーの総量として"アナログ波形を受けたのと同義となるためです。 これが『デジタルアンプ』の駆動方式の基本的仕組みです。

 

* 上記を基本理念に、オーディオ用大出力デジタルアンプではプッシュプル方式を採用しています。 これになぞらえると、【1=プラス素子ON/マイナス素子OFF、0=プラス素子OFF/マイナス素子ON】となります。

 

 

 

■ 広義の『デジタルアンプ』の利点/弱点

 

 利点は、アンプ部が非常に高速なON/OFFという動作しかしないので、過度な熱・余剰電力が発生しにくく、これによってデリケートな増幅素子から発生する歪(ひずみ)が低減、入力された信号と遜色のない出力波形を出力できる点です。

 

 "アナログアンプ"の方が『アナログ信号』に対して忠実・滑らかのように思えますが、実際の出力は滑らかさを作り出すための波形加工の工程で『電気的・排熱的な出力制限』・『熱歪』が、さらにプッシュプル方式では『クロスオーバー歪』があり、"理論上"はなめらかな連続信号のようでも、現実の出力波形は正確な再現・増幅からは程遠いものとなっています。

 

 逆に不利な点。 現在でもほとんどの音源(CDなどのこと)は、アナログオーディオでの試聴によって"音決め"・"音質調整"をしています。 このアナログアンプとの聴こえの相違から「デジタルアンプには音質に違和感がある」という感想や評価を受けやすく、これが最も大きな弱点となっています^^;

 

 

 

■ 『フル デジタルアンプ』の定義と利点

 

 スピーカーを駆動する方法はフルデジタル・デジタル双方とも一緒。 どの部分が違うのかというと…。

 

 "フル"の定義は、簡単に言うと、PCM・DSDというデジタル入力を受けるところから1bit信号を生成までをプログラムで制御された1チップで行っているものを指します。 つまり、一旦入ったデジタル信号(PCM)は、高度な演算による管理のもと、ロス無く1bit信号(PWM波)へと変換されるという仕組みです。

 

 利点は何といっても、PCM・DSDから高精度なスピーカー駆動用1bit信号をストレートに生成する合理的仕組みです。 そのシンプルな構造から、『スピーカーを駆動できる1bitDAC/演算器』ともいわれます。 その他にも、デジタルアンプとしての利点である、消費電力の低減や、接続スピーカーの電気特性に左右されないドライブ力も併せ持ちます。

 

 今後、オーディオ音源において高規格PCMが発展していくと仮定すると、他方式に比べて「理論上は」格段に優位な仕組みではないかと思われます。

 

 

 

■ フルではない『デジタルアンプ』とは… 

 

 スピーカー駆動用1bit信号を生成するのは同じですが、増幅段が演算ではなく機械的動作で1bit信号を生成していたり、増幅段の前にDACを持ち、そのアナログ信号をさらに別途1bit信号変換器に経由させるという、理論上はロス・ノイズ・ジッターを発生させやすい複雑な経路を持つアンプのこと。 こういった余計な構造を持つものは"フルデジタルアンプ"とは呼びません。

 

 ただし、定評のある有名メーカーDACを積むことにより、コストを安く抑えられたり、音質を調整しやすい利点が、フルではないデジアンにはあります。 また、現在のデジタルアンプの大半が"フル"では無いこの方式を採用しています。

 

 

 

■ "S-Master PRO"は…

 

 私のお気に入りのS-Master PROも『フルデジタルアンプ』の仲間ですね。

 

 S-Master PROにも上述のようなフルデジタルの恩恵がしっかりあります。 が、各種機能の実装段階で少々不便・不都合な点も多々あります。 上では"理論上"のフルデジタルアンプの利点を挙げましたが、次項からは、現実にある"S-Master PRO"の他の部分を含めた実際の働きに言及していきます。

 

 

 

■ DSP性能の制限

 

 高規格のPCM信号やDSD信号を受け取った際には、格段の性能(低ロス・音源情報に対する高再現性)を発揮するフルデジタルアンプS-Master PROですが、実のところ現存する機体においては、DSPの性能制限のため、イコライザーや音場補正プログラムを掛けると48kHz/24bitのPCMへと変換されてしまう問題があります。

 

 ステレオ再生と違って、多数のスピーカーを設置しつつ足並み(音並み)をそろえる必要のある"ホームシアター"や"マルチ再生"の環境においては、スピーカーの各種補正の必要があるため、たとえば192kHz/24bitなど高規格なPCMを受け取ったとしても、DSPのせいで演算しやすい44.1kHzや48kHzに変換され、その音源がもともと持っていた情報量や実力が発揮されません。

 

 

 

■ アナログ信号が入力された場合

 

 音声のデジタル化は進みましたが、それは記録・保存・再現性の利点であり、アナログアンプで増幅したりスピーカーを鳴らすためにはアナログ信号(or 1bit信号)でなければなりません。 その流れで、いまだプレーヤーが搭載するDACの音質決定の役割は大きく、オーディオ愛好家の間では(単体機含めた)DACでの音質変化も大きな関心事になっています。

 

 「アナログ信号」をS-Master PRO(ほかフルデジタルアンプ)に入力した場合、デジタル入力したときとは逆に、ADC(アナログ信号をデジタル信号(主にPCM)に変換する回路)に余計な経由をすることになり、優位点である"理論上シンプルな信号経路"の図式が崩れます。

 

 S-Master PRO機のアナログ信号の変換には、A/DSD変換が使われており、PCMより高精細な信号のDSDを用いてなるべく信号劣化が少ない方式が選ばれています。 が、もしここでDSP機能を掛けてしまうと、DSD変換は行われず、上述のように一律48kHz/24bit PCMに変換される経路に向かってしまいます。 各種補正はマルチ再生以外でもオーディオで重要な役割を持っているので、48kHzへの"規格劣化"は無視できません。 (必ずしも"音質劣化"ではありませんが)

 

 

 

■ 高忠実度であることの足かせ?

 

 S-Master PROは(もしくはSONYオーディオでは)音源に対して高忠実度を徹底させているためか、他機では一般的である『アップサンプリング(オーバーサンプリング)』・『ビット拡張(マルチビット)』をする働きが弱くなっている(or無い)ように聴こえます。

 

 ある意味音源を変形させてしまうこの種の機能ですが、そもそもCDレベルのPCM自体が実音の"サンプリング"(細切れ)であり、間引きされた変形物とも言えるため、ある程度の補正は必要。 また、制作される音源も当然既存のDACを経由することを想定してつくられているので重要な働きです。

 

 従来から、線が細くキンキンな"CD音質"(?)の間引かれた部分を類推して補完、厚みを持たせたり滑らかにする機能が様々なメーカーの再生機に搭載され、高精度になった現在はリスナーからも概ね良好な評価を得られています。 (「アップ(オーバー)サンプリング」・「アップスケーリング」・「帯域拡張」などの名称がつけられています)

 

 この点も含め、S-Master PROが目指しているであろう"高忠実度"のせいで、特にCDやそれと同程度のPCMを直入力した場合、明らかなCD音質、ザラザラ・キンキン・冷たい音質になる可能性が高くなります。

 

 

 

■ S-Master PROの性能を活かす接続

 

 では、講釈はここまでとし、個人的なオススメ接続法をご紹介しましょう。

 

 

○ デジタル入力(SPDIF) コアキシャル・光では…

 

 ・ DVD、ブルーレイに収録された96kHz/24bit以上の音声をかける

 ・ 音声ビットマッピングを設定したPS3とデジタル接続

 ・ アップサンプリング・ビット拡張機能付きDDCを経由

 

 S-Master PROは入力されたPCMをそのままスピーカー駆動用1bit信号に変換します。 その際問題になるのは、補正能力が弱いために、CDや低規格PCM入力時に特有の『キンキンさ』や『ざわざわ感』、『音やせ感』が出やすいことです。 これらの多くはマスタリング技術の低い(?)CDに多い量子化雑音と思われる症状。 そういう音源を再生する場合は、上記のような"アップサンプリング機能"を持つプレーヤー(DAC)と接続させると改善することがあります。

 

 元から高い数値を持つPCMはこれらの問題が起こる可能性は低くなりますのでデジタル接続でもやや安心。 ブルーレイの音声ほどのPCM規格なら、光・同軸で送るのも良いです。 ブルーレイ他、昨今ダウンロードで入手できる主にPCで再生するための高規格PCM音源も、デジタル接続が良。

 

 

○ アナログ入力では…

 

 ・ オーディオ用の再生機器を接続

 ・ アップサンプリング型DAC搭載プレーヤー(または独立したDAC機器)を用いる

 ・ 音場補正、サウンドフィールドの設定の解除

 

 "フルデジタルアンプ"に対しては意外ですが…、S-Master PROにアナログ信号を入力するのが現状最も聞きやすい出音を可能にする方法です。 DA7000ES、DA9100ESにはA/DSD変換機能があり、入力されたアナログ信号をDSDという、PCM以上に情報量のあるデジタル信号へと変換し音質ロスも低減できるためです。

 

 それでも、再生機器は安くてもいいのでオーディオ用のプレーヤーを接続したほうが良。 再生機のDACが高精度&アップサンプリング型なら、アンプでのA/DSD回路での変換結果もさらに良好になります。

 

 注意点は、再生時『アナログマルチチャンネル』以外の2chアナログ端子接続時に音場補正・サウンドフィールドを掛けないこと。 サウンドフィールドは必ず[A.F.D.]か[2ch]へ。 これ以外の設定ではA/DSD変換機能は働かず、A/PCM(48kHz/24bit)変換となります。 こうなってもただちに音質劣化とはなりませんが、再生側・S-Master PRO側双方の"豊富な情報量"が活かせなくなります。

 

 

○ i-LINK接続では…

 

 ・ 掛けるのは基本的にSACD、DVDオーディオ

 ・ CDのPCMを再生するのは避ける

 

 今となっては全く見なくなったi-LINKですが…、HDMIが出る以前はオーディオで唯一の民生用双方向通信デジタルインターフェイスでした。 従来デジタル伝送とは違う双方向通信により、音源データのフロー制御も可能になったことで、ジッター軽減に大きく貢献しました。

 

 フロー制御以外は理屈上従来のデジタル接続と同じ考え方でOKです。 CDなどの低規格PCMはS-Master PRO機に直入力せずにアナログ変換-入力させるのが私的にはオススメです。

 

 ちなみに、S-Master PRO機でダイレクトなSACDのデータ(DSD)を聴けるのは、同社製同士ではアンプのDA7000ES・DA9100ESのいずれかと、プレーヤーXA9000ES・NS9100ESのいずれかとの組み合わせのみとなります。

 

 

 

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 以上、一部、手持ち外の機種は試聴しただけで類推した部分もありますが、i-LINKを活かせない今となっては"フルデジタルアンプ"であるDA7000ESであってもアナログ接続がベストという私的結論です。 といっても現在私の再生機であるPS3にはアナログマルチ端子がありません。 …ということで、今回、PS3とDA7000ESの間にプリアンプとしてDA5400ESを噛ませたという訳でございます、ハイ。

 

 ちなみに、ここでいうS-Master PRO搭載機はTA-DA7000ES、TA-DA9100ESを指しています。 後年発売のTA-FA1200ESやTA-F501は、信号経路がここで説明したものとやや違っている可能性が高いです。

 

 そんなこんなでDA7000ESパワーアンプ化記事は続きます。

 

 

 

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