B-winds(ブレイスの風)

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あるお父さんの生涯

2008-06-08 10:23:19 | Weblog
 友人のAさんのお勧めで参加させて頂いたセミナー。
講師に立たれたS氏のお話に、私は不覚にも涙しました。

 S氏は北海道網走のご出身。お父さんは酪農をやりながら、二人の息子さんを育てておられましたが、二人が高校生になった時、学資を捻出する為、酪農を廃業する事を決意されました。
 私は学生時代、北海道の牧場で働いた経験があるのでよくわかるのですが、酪農家の方々の馬や牛、豚といった家畜への思いは非常に強いものがあり、土地もサイロも含めて、すべてを手放す決心をされた時のお父さんのお気持ちは、察するに余りあるものがあります。

 しかし、そのおかげで、S氏とS氏のお兄さんは、それぞれ東京と北海道の大学に進学する事ができました。その時、お父さんは50歳になっておられましたが、友人を頼って、お母さんと共に石川県の紡績工場で1工員として働くことになりました。その後65才の定年まで、紡績工場で働いたあと、この後、今度は東北のある町で清掃係として81歳まで働かれたという事です。

 どちらの職場におられた時も、お父さんの口癖は「今の仕事はいいぞ。素晴らしい仕事だ。しかし、誰もやりたがらない。だから私がやっている。」という言葉だったそうです。

 ある時、大会社の局長室を清掃していた時、たまたまお父さんの手伝いをしていたS氏の目の前で、局長が足でゴミ箱を押し出してお父さんに渡すという事件がありました。S氏は激昂しましたが、お父さんはS氏をなだめ、「人は人。自分に課せられた職務を全うすることが私の務めだ。」とおっしゃったそうです。

 御自身の仕事に終生誇りを持ち、高潔で、誠実で、職場の方から惜しまれながら81歳で職場を去られたS氏のお父さん。お亡くなりになったあとには、30年間月々少しづつ預金されたお母さん名義の預金通帳が残っていたそうです。

 S氏のお父さんから、人間にとって本当に大切なもの、大切なことは何なのかを教えられた思いがしました。