Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

道具概念vs.道具概念(9)

2023年05月14日 06時30分00秒 | Weblog
 「自己という難物を克服できればーー私の視点で言えば、それは自己の神経的基盤を理解することにほかならないがーー現象的に密接に関係しあう、しかし内容のひどく異なるつぎの三つの生物学的作用、すなわち「ある情動」、「その情動の感情」、そして「その情動の感情をもっていることを認識すること」を、理解できるようになるかもしれなかった。また同じぐらい重要なことだが、自己と言う難物を克服すれば、意識全般の神経的基盤も明らかにできるかもしれなかった。」(p17)
 「第三の、そしてたぶんもっとも意味深い事実は、意識と情動は分離「できない」ということ。・・・
 第四の事実は、少なくとも人間において意識は一枚岩ではないということ。・・・私が「中核意識」[core consciousness]と呼ぶもっとも単純な種類の意識は、有機体に一つの瞬間「いま」と一つの場所「ここ」についての自己の感覚を授けている。中核意識の作用範囲は「いま・ここ」である。・・・
 他方、私が「拡張された意識」[extended consciousness。以下「拡張意識」と表記]と呼んでいる多くのレベルと段階からなる複雑な種類の意識は、有機体に精巧な自己の感覚ーーまさに「あなた」、「私」というアイデンティティと人格ーーを授け、また、生きてきた過去と予期された未来を十分に自覚し、また外界を強く認識しながら、その人格を個人史的な時間の一点に据えている。」(p27~28)
 「対象を処理する有機体のプロセスによって有機体自身の状態がどう影響されるかについて、脳の表象装置がイメージ的、非言語的説明を生成し、かつ、このプロセスによって原因的対象(有機体の状態に影響を及ぼす対象)のイメージが強化され、時間的、空間的に顕著になると、中核意識が生じる。」(p226)。
 「要するに、脳が、ある対象・・・のイメージを形成し、その対象のイメージが有機体の状態に「影響を及ぼす」と、別のレベルの脳構造が、対象と有機体の相互作用によって活性化したさまざまな脳領域でいま起きている事象について、素早く、非言語的な説明をする。対象と関連する結果のマッピングは、原自己と対象を表象する一次のニューラル・マップに生じ、対象と有機体の「因果的関係」に対する説明は、唯一、二次のニューラル・マップに取り込まれる。・・・<さかんに別のものを表象しているときに、みずからの変化の状態を表象しているさなかに捕まった有機体の話>ということになるかもしれない。」(p228)
 
 アントニオ・ダマシオは「ソマティック・マーカー仮説」の提唱者として有名であるが、彼によれば、対象(養老先生風に言えば「外界の『変化』)に対する有機体の反応は、まず「情動」から始まる。
 「情動」とは、「身体状態の「変化」」に対する脳の反応であり、それは身体という”劇場”において実現される(p16、p380ほか)。
 次に、「情動」によって実現された身体状態の変化は、神経的経路(電気信号)と化学的経路(ホルモン、ペプチド)を通じて脳に伝えられ、「感情」が生じる(p50~、「デカルトの誤り」p227~の方が分かりやすい)。
 最後に、「情動」と「感情」を有する有機体(の脳)によって、「感情」の状態が認識され、「意識」が表出する。
 「意識」は、「情動」と同じように有機体の生存を目的とし、「情動」と同じように身体の表象に根ざしている(p52~53)。
 ダマシオの仮説で非常に重要なのは、「自己」と「意識」の関係及び「自己」の構造である。
 「自己」は、身体に基盤を持つ「原自己」(われわれはこれを「意識」していない)→ある対象が「原自己」を修正すると生じる、二次の非言語的説明の中にある「中核自己」(ここで「意識」が生じる)→「自伝的記憶」(われわれは身体的にはどういう人間で、行動的にはどういう人間で、将来どのような人間になろうとしているか、という一連の傾性的記録)を基盤として成立する「自伝的自己」という、三層の構造を成しており、しかも、「自伝的記憶」は、非意識的な「原自己」とも、意識的な「中核自己」とも、構造的につながっているということである(p231~233)。
 

 

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