華氏451度

我々は自らの感性と思想の砦である言葉を権力に奪われ続けている。言葉を奪い返そう!! コメント・TB大歓迎。

「看板」だけ替えて誤魔化すんじゃない!――安倍辞任劇

2007-09-12 23:48:24 | ムルのコーナー

 ようやく涼しくなってきた水曜の夜更け。古ぼけたマンションのベランダの隅で、野良猫のムルと、その弟分・トマシーナ(トマ)が喋っている。

(こいつら、何者だ?という方は、このエントリの最後のところを御覧下され)

ムル:やぁ、トマ。しばらくぶりだな。痩せたんじゃねぇか? 夏バテかよ。

トマ:うーん。ここんとこ2か月ぐらい、華氏の奴があんまり家にいなくてさぁ……2日ぐらいなんも食べてなかったり。ときどき華氏の友達ってのがご飯くれに来たりしたけど、それもアテにならなくてさぁ。

ムル:むっせきにんだなー。後足で砂かけて、家出しちゃえよ。どうせ住み心地のいい家じゃねぇんだしさ。

トマ:でもねー。一宿一飯以上の義理があるから、黙って消えちゃうのも悪いしね~。第一、これからだんだん寒い季節に向かうし……。春になってから考える。

ムル:ちぇっ、だらしねぇ野郎だな……。

トマ:そうそう、無責任って言えばさぁ、首相が辞めるんだってね。夕方、外を歩いているオジサンオバサンが、「無責任だよな」みたいな話してた。

ムル:大恥かいたって感じはあるよなぁ。参院選で負けて、それでも「辞めない」って大見得切って、所信表明演説だか何だかまでやって、いきなり「ボク、もうやってらんない」だからさ。誰だって「何だ、あいつ」と思うよな。

トマ:ねえ兄貴、安倍首相が辞めるっていうのは、いいことなんだろうか。

ムル:な、何だよ、いきなり「ムチャクチャ素朴な」質問するなよなー。

トマ:安倍首相ってさ、美しい国だとか戦後レジームからの脱却とか、聞いてる方がシラケるようなヘンテコなことばっかり言う人だったじゃん? 憲法改定にイノチ賭けるみたいなこと言ったりしてさ、自分はこの国のゆくえを決められる立場にあるんだみたいな勘違いしてる人間だったよね。だから辞めるって聞いて、一瞬、「あ、よかったじゃん」と思ったんだけど……でもよく考えてみたら、あのヒトが辞めたらそれで世の中OK、なわけじゃないんだよね。

ムル:そうそうそう。安倍晋三っていうグランパ・コンの坊ちゃんは、確かに問題多い政治家だとおいらも思うぜ。たださ、安倍だけがロクデモナイ奴、というわけじゃあない。前の小泉もそうだったけど、安倍にしても、おいらは「出てくるべくして出て来た政治家」だと思うんだよな。自民党の鬼っ子だったわけじゃあねぇ。

トマ:次の首相は誰か、とか賑やかだけれど、誰がなっても同じってところはあるよね。

ムル:むろん少しずつは違うだろうけど、所詮は「赤トラ猫」と「黒トラ猫」の違いぐらいだよな。でも、目先が変わると、つい「あ、世の中変わるかも」「あ、今度はいいかも」ってすぐ期待しちゃったりもする。

トマ:期待しちゃったりするって……誰がよ?

ムル:誰ってこたぁないさ。誰でもそういうところがあるっていう話。

トマ:そう言えば、安倍首相は辞任表明の記者会見で、「現政権の路線を推し進めるためには、自分が首相であることが障害になる。新しい首相のもとで継続してもらうべきだと思った」みたいなこと言ったんだってね。

ムル:看板だけ替えようってわけだな。魅力がなくて客にそっぽ向かれてる店が、品揃えどころか内装も替えないで、店の看板だけ目新しくしたり、店の前に置くマスコット人形だけ新しくしようっていうのと同じ。姑息なんだよな~。

トマ:それでも、期待する人が出てくるわけ?

ムル:多分、な。次の首相は、安倍政権の「過ち」とやらを――わかりやすくて、実はちっちゃなことだけ取り上げてさ、「安倍首相はこういうところがよくなかった。ワタクシはそういう過ちは繰り返さないように気持ちを引き締めて……」とか言うだろうさ。でも「路線そのものは間違ってませんでした」ってね。

トマ:変なの……。おかしいのは「路線」そのものなのにさぁ。

ムル:路線、なんてぇのはわかりにくいからね。たとえばだよ、「子供というのは家畜と一緒で、飼い馴らすべきである」という方針を持った学校があるとするだろ。で、生徒を殴ったり脅し上げたりして教育して、さすがに問題になって校長が辞任したとするだろ。次の校長はぐーんとソフトなイメージで、「体罰などは絶対許されることではありません」と言ったりする。でも「飼い馴らし」の方針は全く一緒で、殴ったりする代わりに、巧妙な洗脳教育を始めた……。おまえ、どう思う?

トマ:相変わらず、兄貴のたとえ話ってわかりにくいし、何となくピントもはずれてる気がするけど……ま、いいや。要するに「表面だけ変わったって、モトが同じなら一緒じゃん」って言いたいわけだネ。

ムル:なーんか、ヤな奴だな、おまえって……。

トマ:へへへ。兄貴が変なたとえばっかりするからだよーん。

ムル:もうひとつ、怖いのはな。「安倍さん、カワイソウ」ムードが出てくることだよな。

トマ:えっ??? そんなもん、出てくるの?

ムル:知らんよ、そんなもん。おいら予言者でも政治評論家でもねーもん。ただ、出て来たっておかしくはねぇ。日本人の特性……かどうかは知らねぇけど、すごすごと尻尾巻く相手を、何処までも追及できないんだよな。すぐ「カワイソウ」「そんなに責めなくても」になっちまう。そりゃさぁ、惻隠の情ってのはすごく大事だよ。おいらも好きさ。でも、誰に対してもズルズル惻隠の情をかけちゃうのがいいことだとは、おいらは思わねぇ。特に公的立場にある人間に対しては、とことん厳しくしないとダメだと思うんだよな。

トマ:惻隠の情、かぁ。「死者に鞭打たない」なんてのも、それと関係あるよね。

ムル:むやみに鞭打つのがいいとは言わねぇけどさ、打つ時、打つ相手に対しては、容赦をしちゃあいけないのさ。その辺を「ま、すんだことだし」って言ってると、いつまでもいつまでも同じことが繰り返されるとおいらは思うんだ。

◇◇◇

ムル=都の東北を縄張りとするボス猫。  トマ=華氏宅の居候で、ムルの腰巾着。

このコンビの思いつくままの対話は、「ムルのコーナー」の中におさめております。

 

 

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