おじいさんは、日暮れになるとやおら立ち上がり、タクシーを拾って去っていきます。
降りるのは狭い路地の入り口で、その先は歩いて行かなければなりません。
おじいさんが路地を抜けて行くときは、とぼとぼと淋しそうに見えたり、うきうきと楽しそうにも見えたりします。
その後ろ姿の変わり方をしばらく眺めていると、いらないと言われた釣り銭が、いくらだったのかも思い出せなくなります。
30分ほど経って、ネットで呼ばれたタクシーが、ちょっと遠いけれどという条件に喜んで行ってみると、そこは、さっきおじいさんを降ろした路地の反対側でした。
乗ってきた客は、アーサー・ハリソンのスーツをピシッと着込んだ紳士です。
見たことのあるようなその顔は、路地の向こう側で降りた、あのおじいさんそっくりなのでした。
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