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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第2章−2 神導書アポロノミカン

2019-07-08 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 一同に緊張が走る。
 アポロノミカンと聞いて平静でいられる神などいないが、アポロンの血を引くものたちにとっては殊更の意味があった。
(暗黒星団来襲の折り、太陽と合体して我らを救ったアポロン様がたわむれに書いたとも、我が兄アスクレピオスが人類目覚めの時に備えて残したとも言われる生命の神秘を解き明かす神導書でございますな)アポロニアが伝えた。
(アポロノミカンを解読したものは、人の誕生、成長、進化、遺伝、老化の秘密のすべてを知る。それが早過ぎるか、来るべき時が来たのかは誰にもわからぬ。だが、もはや決定はなされた。お主の息子たちのうち、誰をマーメイドの娘の援軍に差し向けるがよいか?)
(難しい選択です。プルートゥ様は、おそらくマクミラを送り込むと思われます)
(最高位の神官をか?)
(プルートゥ様なら、最もかわいいものの苦しむ姿こそ見たいはず)アポロニアが確信を込めた思念を伝えた。
(まわりくどい言い方をせずとも、ユピテル様のお考えは決まっておいででは?)思念を送ってきたコーネリアスを皆が見た。
(ほう、お主には儂の考えがわかっておるのか?)
(コーネリアス、無礼ではないか)アポロニアがたしなめる。
(まあ、よい。お主は、儂がどう考えておると言うのだ?)
(ユピテル様が関わる限りは、これはゲームでなく戦争でございましょう)
(その通りじゃ。儂はこれを戦争と考えておった)
 ユピテルは、大胆にして思慮深く、無手勝流のようで用意周到なコーネリアスが気に入っていた。だが、己の考えをここまで読む鋭さに、背筋の寒くなるものも感じていた。
(今日は召集令状を我々にお渡しになるおつもりと承知しております。それならば最高の勝率が期待できるようにすべきでは?)
 さすがは数学の神でもあったコーネリアスであった。
(最高の勝率と言うが、お主はどの程度の勝算があると考えるか?)
(わかりませぬ)
(なんと、お主らしくもない。勝算がないということか?)
(勝算がまったくないというわけではありませぬ。ただ、確率は勘定の内に入らぬほど頼りないものかと存じます。人間の知恵とはしょせん「無知の愚」。救いようがありませぬ)
(「無知の知」ならばソクラテスとか申す愚か者が言ったのを知っているが、「無知の愚」とはなんじゃ?)
(「わたしは、自分がなにも知らないのを知っている」など自己矛盾の至極。せいぜいが出来の悪い冗談。何も知らないと開き直っている者に何を知ることが出来ましょう。まともに考えるなら「わたしには、自分がなにも知らないのがわからない」となるはず。そんな人間との共闘に勝算など成り立つはずがありませぬ。プルートゥ様がおっしゃるように状況はすでに決定的。しかし・・・・・・)
(しかし、何じゃ?)
(我ら四兄弟すべてを人間界に送りこめば、あるいは・・・・・・)
(四人すべてをか?)
(戦争を始めたならば勝つまで続けるのが条理。中途半端はいけませぬ)
(アポロンは中道を説き、「度を過ごすなかれ」と言ったのではなかったか?)
(祖父が口では中道を説きながら、愛に関して誰よりも度を過ごしていたのを知らぬ神は天界にいないはずでは?)
 皆が、アポロンのプレイボーイ振りを受け継いだペルセリアスを見た。
(よかろう、お主たち全員を送りこもうではないか。しかし、ルールは守らねばならぬ。時が来るまで、お主たちの能力は閉じこめる。あくまでお主たちの仕事はよき人間たちを手助けしてガイアを救うこと。お主たちは夜空に輝く星座として時を過ごした後、流れ星として降臨するがよい。星へ困難な道を(Ad astra per aspera.)。四人とも用意はよいか?)
 せっかちなユピテルは別れの機会さえ与えずに、それぞれを一条の光として四方に飛ばしてしまわれた。
 光に変化して宇宙に飛び出していく彼らは一様に、よいか、一度始めた戦は必ず勝たねばならぬ、というユピテルからの思念を受け取ったような気がしていた。

     

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