ものぐさ日記

ひとり遊びが好きな中年童女の日常

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

『インド・色好みの構造』

2011年01月05日 | 

インド・色好みの構造』田中於菟彌著

存在は知っていたけど、タイトルで何となく敬遠して未読だった本。Ⅰはインド説話の中から有名な数編を紹介したもの、Ⅲはインドの文学、文化について、それぞれ1~2ページで紹介した短い随筆集。Ⅱも有名ないくつかの説話のヴァリエーションを紹介したものですが、これがおもしろかった。

一番おもしろかったのは、さまざまな『一角仙人』。一般的な『一角仙人』はこんなお話。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

ある川のほとりに住んでいる修行者がいた。ある日川で、美しい天女のふくらはぎを見て、興奮して思わず射精してしまった。精液は川の水に混じり、その水を飲んだ牝鹿は修行者の子を産んだ。子供は人間の姿をしていたが、ひたいに1本の角を持っていた。子供は「一角」と名付けられ、父と共に森で修行生活を送る。

一角(エーカ・シュリンガ)の修行は一途で、神にまさる神通力を得てしまうのではないかと天界を恐れさせ、地上に長年雨が降らなかった(雨が降らなかった理由には諸説あり)。

困った神々(または王様)は、一角の修行を止めさせるために、美しい娘シャンター(王女など)を遣わした。娘が鞠遊びをすると、衣がはだけてきて、彼女の美しい肉体があらわになった。修行者の父とだけ暮らしてきた一角は、他の人間、ことに女を見たことがなかった。大きな胸や臀、そして自分とは違う股間を見た一角は驚いた。

「その深い傷はどうしたのだ?」

「熊にかみ切られてしまいました」

「薬草を塗ってあげよう」

「薬では効きません。あなたのやわらかい方の角で何度か突いて下さい」

娘のいう通りにした一角は気持ちよくなって射精してしまい、修行を中断してしまう。修行の中断のおかげでめでたく雨が降った。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

この一角仙人の話はかなり有名で、『マハーバーラタ』や『ラーマヤナ』、『パドマ・プラーナ』などにもこの話が含まれているそうです。私もどこで読んだのかはっきり覚えていませんが(^^;)、いくつかのヴァリエーションを読んでいます。一角(エーカ・シュリンガ/エーク・シュリング)の他に、イシシンガ、リシュヤ・シュリンガ(ともに羚羊の角を持つもの)という名前になっていたり、交接の描写を抜きにしていたりすることもありますが、各種『ジャータカ』(仏教説話)に収録され、チベットや中国を経て、日本の『今昔物語』にも収録されているそうです。それから『太平記』や『宝物集』、『太平記』を元に謡曲『一角仙人』や能楽『一角仙人』、さらには「一角仙人」が「鳴神上人」となって、『鳴神』という歌舞伎にもなったとは!さらにさらに曲亭馬琴は『鳴神』を元にして、『雲妙間雨夜月(くものたえまあまよのつき)』という、仇討ちものの読本を作っちゃとか。

エーカ・シュリンガの名前は、だいたい「一角仙人」と意訳ですが、シャンターは、意訳の「寂静」の他、音訳の「扇陀(せんだ)」、「施陀(せんだ)」など。「一角仙人(いっかくせんにん)」→「鳴神上人(なるかみしょうにん)」の歌舞伎では、シャンターも「(絶間姫(たえまひめ)」です。このあたり、「大石内蔵助(おおいしくらのすけ)」→「大星由良助(おおぼしゆらのすけ)」と同じでおもしろい。歌舞伎の絶間姫から、『雲妙間雨夜月』へと発展したのでしょうね。

 

一角仙人の他にも、腹部のセクシーな三本線、トリヴァリーのことなどが詳しく書いてあっておもしろかったです。くびれた腰と豊かな腹部にできるシワだと思っていましたが、それだけでなく、腹部に生える線上の産毛もあるとか!著者の田中於菟彌氏は、エア・インディアのサリー着用のスチュワーデスさんのおなかで確認したそうです。インド美人、けっこう毛深い人が多いけど、なんでそんなところに線上の産毛ができるんでしょう…??

*私はत्रिवली  を「トリヴリィー」と読んでいましたが、vの後には潜在母音aがあるらしく、「トリヴァリー」と読むらしいので、以前の記事もトリヴリィー→トリヴァリーに変更しました(「リィー」と「リー」は音が同じような気がして表記をリーに統一)。

その他バレエのタイトルにもなっている「バヤデール」が、実はポルトガル語の「バイラディラ」(舞妓)から来ているフランス語だとか、初めて知ることがいくつかありました。

 

中学校の国語の先生に、「日本文学を読むなら最低でも『源氏物語』や『古事記』、欧米文学を読むなら『ギリシャ神話』と『聖書』は読んでおかないと、内容が理解できない」と言われましたが、インド文学を読むなら、『マハーバーラタ』と『ラーマヤナ』の細かい逸話なども素養として頭にたたき込んでおかなくちゃいけないのね~。त्रिवलीが出てきたヒンディー語の小説は、1990年代以降に書かれたものなんですけど、現代でも、インド人なら誰でも知っていることなんでしょうね。

 

ジャンル:
ウェブログ
コメント (4)   この記事についてブログを書く
« 25周年 | トップ | 土曜の出来事 »
最近の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
桃太郎 (笹団子)
2011-01-06 22:07:18
詳しくは知らないのですが、・・・

ラーマヤナ
 ↓
西遊記
 ↓
桃太郎

と東へ向かうにつれて話が変わったというのは聞いたことがありますが、それ以外にもインドから間接的にわが国に伝わったお話があるんですね。
Unknown (とーこ)
2011-01-06 23:07:17
笹団子さん

ラーマヤナ→桃太郎の話はよく聞きますね。しかし、一角仙人の話が仇討ちものになるとは…!私も忠臣蔵ファンですが、やっぱり日本人が好きなタイプの話ってあるんでしょうね。
鳴神上人 (ROCKY 江藤)
2011-01-12 23:17:56
おおそうか、「鳴神」の原型はインドにあったのか!
たしかに「鳴神」は、日照りをもたらして人々を苦しめていた鳴神を、美女が誘惑して堕落させて雨を降らせる話ですからね。
絶間姫は、恋人に会いに行くため裾をまくって川をざぶざぶ渡った昔話をゼスチャー混じりにして、鳴神に美脚を見せ付けて堕とすのです。
インド豆知識 (とーこ)
2011-01-13 22:25:46
ROCKY 江藤さん

インドのお話を読んでいると、「白いふくらはぎ」にくらくら…という描写がよく出てきますが、そういうもんなんですかね~。ぴったりと体の線を目立たせる水に濡れた衣類というのもセクシーらしいけど。

ROCKY 江藤さんに教えていただいた、オッペンハイマーが引用したバガヴァッド・ギータのような「インド豆知識」が増えました。

コメントを投稿

関連するみんなの記事