[東京 20日 ロイター] 米サブプライムローン(信用度が低い借手向け住宅ローン)問題に端を発した世界の金融市場の動揺が東京市場にも飛び火し、日銀では予想以上の混乱の広がりに戸惑いを隠せない。
8月の利上げを視野に入れていた日銀は、株安/円高が進行する金融市場の状況や実体経済への影響について分析の見直しを迫られており、利上げを見送る公算が大きくなった。米連邦準備理事会(FRB)は17日午前(日本時間同日夜)、公定歩合の緊急利下げを発表し、これを受けて欧米株は反発した。ただ、FRBは声明で「成長の下振れリスクがかなり高まった」と指摘しており、日銀は想定していた米国経済のソフトランディングシナリオの変更を迫られる可能性も出てきた。
<最終投資家にまで懸念広がり、市場の警戒感根強く>
17日の東京市場は、日経平均株価<.N225>が前日終値比で800円を超す下落となり、わずか2日間で1200円を超す大幅安となった。為替市場でドル/円<JPY=>が一時111円台に急落するなど、円高が大きく進行。国債市場でも長期金利が1.6%を割り込んだ。
ただ、FRBが日本時間17日夜、公定歩合を0.5%引き下げ、年5.75%にすると発表すると、欧米株は急反発。17日米ダウ工業株30種平均<.DJI>は前日終値比233.30ドル(1.82%)高の1万3079.08ドルまで回復し、ドル/円も114円台に戻した。不安心理の連鎖にひとまず歯止めがかかった格好だが、信用収縮に対する市場の警戒感は根強く、これで沈静化すると見る向きは少ない。
日銀内には、株価下落の背景について「クレジット市場を中心とした格付けへの不信感に加え、最終投資家の実体経済への疑問が膨らみ始めたことによる換金売りがあるのではないか」(複数の幹部)といった見方があり、20日以降についても「プラインシング見直しの過程で再び問題が生じる可能性も否定できない」(複数の幹部)と懸念する声が出ている。
もっとも国内の流動性問題については、短期金融市場での金利上昇がそれほど大きくないことから「収束に向かっている」(多くの幹部)との見方でほぼ一致している。サブプライム問題の所在は欧米にあり、日銀としては基本的に欧米中銀の対応を静観するしかないが、流動性懸念に伴って翌日物金利が上昇する局面では、引き続き資金供給オペで対応を続ける方針だ。
<米経済のソフトランディングシナリオに黄信号>
こうした中で日銀が懸念するのは、米国の個人消費や企業活動への影響だ。日銀は現在、米国経済についてソフトランディング(軟着陸)をメーンシナリオに据えており、米国経済が多少減速しても、中国を初めとした新興国の高成長が世界経済をけん引していく構造になっており「世界経済の成長シナリオを変える必要はない」(多くの幹部)とみている。
ただ、米国経済が住宅市場の調整にとどまらず、株価下落などを通じて、消費や企業活動に影響を与えるようだと、そのシナリオが崩れる可能性がある。
実際、米国内では「足元の市場の混乱が経済に下押し圧力として働き、2008年の米経済の成長率は、潜在成長率を下回る2%台に低迷する可能性があるとの見方が出始めている」(邦銀関係者)という。
住宅価格や株価下落による逆資産効果を通じて米国の個人消費が落ち込めば、日本の輸出への影響は避けられない。金融・資本市場への資金供給が細ってくれば、企業の資金調達にも影響が出てくる。実際、大型のM&A(企業の合併・買収)が延期されるケースも出始めた。
<円高継続すれば、企業収益にも影響>
日銀は、現段階では実体経済への影響は少ないとみており、日本経済についても「展望リポートで示したシナリオ通りに進んでいる」(多くの幹部)として2%成長の持続に自信を深めている。
しかし、FRBが米経済の下振れリスクに言及したことで、金融政策運営上の「第2の柱」(リスク点検)の観点から慎重に見極める必要が出てきた。
株価下落や円高が実体経済に与える影響も懸念される。日本企業の今期想定レートはドル/円で114円(日銀短観調査)を超える円高が続けば、企業収益に影響が出る可能性があり、株価の下落が長引けば、個人投資家の資産効果もはく落しかねない。
政策委員は8月22─23日に開かれる金融政策決定会合の当日まで、金融市場の動向を見極める構えだが、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)金利が織り込む8月利上げの確率は17日時点で10%程度まで下がり、9月会合の織り込みも30%程度まで低下した。日銀内には「市場が落ち着きを取り戻せば、展望リポートのシナリオに沿って、徐々に金利調整を行うべき」(複数の幹部)といった意見も根強いものの、FRBが公定歩合引き下げという緊急措置をとった直後だけに、国際的な政策協調の面からも利上げは難しい情勢になっている。
(ロイター日本語ニュース 志田 義寧)
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