山頭火つれづれ-四方館日記

放浪の俳人山頭火をひとり語りで演じる林田鉄の日々徒然記

予感と徴候、余韻と索引

2018-12-06 23:59:31 | 文化・芸術


古い舞台写真と古いBlogより――

<表象の森>-予感と徴候、余韻と索引-2006.05.03記

生きるということは
「予感」と「徴候」から「余韻」に流れ去り「索引」に収まる、ある流れに身を浸すことだ
と、精神科医.中井久夫は、その著「徴候・記憶・外傷」の
「世界における索引と徴候について」という小論のなかで語っている。

「予感」と「徴候」は、ともにいまだ来たらぬ近-未来に関係している。
それは一つの世界を開く鍵であるが、どのような世界であるかまだわかっていない。
思春期における身体的変化は、少年少女たちにとって単なる「記号」ではない。
それは未知の世界の兆しであり予告である。
しかし、はっきりと何かを「徴候」しているわけでもない。
思春期の少年少女たちは身体全体が「予感」化する。
「予感」は「徴候」よりも少しばかり自分自身の側に属しているのだ。

「余韻」と「索引」にも同様の関係がある。
「索引」は一つの世界を開く鍵である。
しかし、「余韻」は一つの世界であって、それをもたらしたものは、
一度は経過したもの、すなわち過去に属するものである。
が、しかし、主体にとってはもはや二義的なものでもある。

 「予感」と「余韻」は、ともに共通感覚であり、ともに身体に近く、雰囲気的なものである。
これに対して「徴候」と「索引」はより対象的であり、吟味するべき分節性とディテールをもっている。



「予感」と「徴候」とは、すぐれて差異性によって認知される。
したがって些細な新奇さ、もっとも微かな変化が鋭敏な「徴候」であり、
もっとも名状しがたい雰囲気的な変化が「予感」である。
「予感」と「徴候」とに生きる時、人は、現在よりも少し前方に生きている、ということである。
これに反して、「索引」は過去の集成への入り口である。
「余韻」は、過ぎ去ったものの総体が残す雰囲気的なものである。
「余韻」と「索引」とに生きる時、人は、現在よりも少し後れて生きている。

前者を「メタ世界A」、後者を「メタ世界B」と名付けたとして、
AとBはまったく別個のものではない。
「予感」が「余韻」に変容することは経験的事実だし、たとえは登山の前後を比較すればよいだろう。
「索引」が歴史家にとっては「徴候」である、といったことも言い得る。
予感と徴候、余韻と索引、これら四者のあいだには、さらに微妙なさまざまな移行があるだろう。

―――参照-中井久夫「徴候・記憶・外傷」みすず書房

<今月の購入本>-2013年11&12月



◇若杉 冽「原発ホワイトアウト」講談社
◇清水 潔「桶川ストーカー殺人事件―遺言」新潮文庫
◇梶井基次郎.他「全集 現代文学の発見-存在の探求 <上>」學藝書林
◇ベルトルト・ブレヒト「ガリレイの生涯」岩波文庫
◇チャールズ・ダーウィン「種の起源 <上>」光文社古典新訳文庫
◇チャールズ・ダーウィン「種の起源 <下>」光文社古典新訳文庫
◇ニール・シューピン「ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト」早川文庫
◇VHS「瞼の母」東映ビデオ

<July>と<August>=シーザーとオクタヴィアヌス

2018-12-06 00:12:55 | 文化・芸術
今日は水曜日-
いつものように九条にやってきた岸本おじさんと
いつものように共に2時間ほどを過ごしたが
近頃些か眼につく彼の衰弱ぶりが、気にかかる……



<July>と<August>=シーザーとオクタヴィアヌス -2005.11.02記
 シーザーことユリウス・カエサル-Juliuss Caesar-が暦のJulyにその名を止めたのはつとに知られたことだが、そのカエサルが制定した太陽暦としてのユリウス暦は、ローマで紀元前45年から採用され、以後、より誤差の少ないグレゴリオ暦が制定される16世紀までの長い期間、ヨーロッパ世界に普及していたことになるから、彼の誕生月にその名を残しているのも肯けようというもの。
もう一人、カエサルの後継者でローマ帝国の初代皇帝となったオクタヴィアヌスことアウグストゥス-Augustus Caesar,-もAugust=8月にその名を止めるが、そこに面白いエピソードが一つ挿入されていた。
それまで8月は小の月で30日だったのを、7月と同じ大の月として31日に変えさせたのだという。理由は勿論、カエサルの7月より自分の月が一日少ないのを嫌ったからで、他の月を一日削って調整したらしい。
カエサルの場合は決して自分から望んで名を残したのではなく、彼の死後、贈られたものだが、後塵を拝する権力者というものはその偉大さを競うあまり在世のうちにそれを欲したがる。
同じような歴史的事象にも表と裏ほどに実相は異なることに気づかされるのは愉しいことだ。



<今月の購入本>-2013年10月
◇大岡 昇平「レイテ戦記 <上巻>」中公文庫
◇大岡 昇平「レイテ戦記 <中巻>」中公文庫
◇大岡 昇平「レイテ戦記 <下巻>」中公文庫
◇日本戦没学生記念会「第二集 きけわだつみのこえ」岩波文庫ワイド版
◇広渡 常敏「夜の空を翔ける―広渡常敏戯曲集」三一書房
◇太宰 治「走れメロス」Kindle版