――語り・舞ひ・奏で―― 折口信夫「死者の書」より
彼の人の眠りは、徐かに覚めていった
真っ黒い夜の中に
更に冷え圧するものの澱んでいるなかに
眼のあいて来るのを、覚えたのである
した した した ――
した した した ――
耳に伝うように来るのは、水の垂れる音か
ただ凍りつくような暗闇の中で
おのずと睫と睫とが離れて来る
膝が、肱が
徐ろに埋れていた感覚を取り戻して来るらしく――
全身に強ばった筋が、微かな響きを立てて
掌、足の裏に到るまで
引攣れを起しかけているのだ
―― そうして、なお深い闇
ぽっちりと眼を開いて見廻す瞳に
まず圧しかかる黒い巌の天井を意識した
次いで、氷になった岩床
両脇に垂れ下がる荒石の壁
―― したしたと、岩伝う雫の音
-今月の購入本-2017年05月
◇安藤優一郎「西郷隆盛の明治」 歴史新書.洋泉社
◇国立新美術館「ミュシャ展」求龍堂
◇佐藤彰一.他「世界の歴史 <10> 西ヨーロッパ世界の形成」中央公論社
◇伊藤公一朗「データ分析の力 因果関係に迫る思考法」 光文社新書
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