山頭火つれづれ-四方館日記

放浪の俳人山頭火をひとり語りで演じる林田鉄の日々徒然記

世に捨てられた自分をみつめている……

2018-12-22 22:27:57 | 文化・芸術


<殺.掠.姦>―1937年12月―
南京を占領した大日本帝国軍は暴虐のかぎりを尽した――
<南京大虐殺事件>を、中国人知識人の視点から手記のかたちで綴った、
堀田善衛―1955年初版刊行―渾身の問題作―「時間」を読了。

1945年5月、武田泰淳とともに南京に旅した堀田善衛は、
夕陽をあびて紫や金色に照り映える紫金山をのぞみつつ、
<到底筆にも口にも出来ない蛮行―南京大虐殺>―
「いつかはコレを書かねばならないであろうという、不吉な予感にとらわれた……」と、
自身あとがきで記している。



それにしても「時間」というタイトル……
断絶された過去の川と、現在の川を結ぶこと――「悪夢に包囲された世界=南京にも、人間の世界全部に通ずる時間が存在していたのだ」と、堀田は言う。
或いは「人間の時間、歴史の時間が濃度を増し、流れを速めて、他の国の異質な時間が侵入衝突してきて、瞬時に愛する者たちとの永訣を強いる……」とも。
とまれ、「古代ギリシアでは、過去と現在が前方にあるものであり、したがって見ることができるものであり、
見ることのできない未来は、背後にあるものである、と考えられていた」――という。
ホメロスの「オディッセイ」の訳注を指して、「これをもう少し敷衍すれば、われわれはすべて背中から未来へ入っていく、ということになるだろう」――と。
然れば、
未来は背後=過去にあるのだから、可視的過去と現在の実相を見抜いてこそ、不可視の未来のイメージを掴むことができる――という訳だ。

―今月の購入本―2015年01月

◇ドストエフスキー「地下室の手記」 新潮文庫
◇李 英和「朝鮮総連と収容所共和国」 小学館文庫