たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

2008年『フェルメール展』より-「ディアナとニンフたち」

2020年12月26日 17時31分07秒 | 美術館めぐり
ヨハネス・フェルメール《ディアナとニンフたち》
1655-1656年頃 
マウリッツハイス王立美術館、油彩、カンヴァス

(公式カタログより)

「ディアナがニンフを従えて森の外れの岩に座っている。彼女が女神ディアナであることは、わずかに帯状の髪飾りについた三日月によって特定できる。この抑制の効いた控えめな絵画には狩りの女神としての持物、つまりしばしば彼女とともに描かれてきた弓や筒に入った矢も、死んだ獲物も、何も含まれていない。ニンフが一人、ひざまずいて小さなスポンジでディアナの足を洗う。一方、もう一人のニンフは両脚を交差させ、一方の足を自分の手で持つ。他の二人のニンフは後ろに静かにたたずむ。雰囲気は実に重苦しく瞑想的である。

 フェルメールの若年期の頃には、ディアナと侍女のニンフという主題は、宮廷関係の依頼主の間で人気をとっていた。(略)

《ディアナとニンフたち》はフェルメールによる唯一の神話画である。ただし、1761年に作成されたデルフトのウィレム・ファン・ベルケルの財産目録にはフェルメールによる失われた絵画、《ユピテルとウェヌスとメルクリウス》が記載されている。ディアナは夜と月の女神であるだけではなく、貞節の女神でもある。だから、この場面の焦点が儀式的な浄化の行為であるのは理にかなっている。確かに、侍女のニンフは、前景にこれみよがしに置かれた真鍮のボウルと白い布を使ってディアナの足を洗う。このテーマは、自分の涙でキリストの足をぬぐったマグダラのマリア、あるいは最後の晩餐の折にひざまずいて弟子たちの足を洗ったキリストのような、キリスト教の重苦しい宗教的主題の方にむしろ容易に関連づけられてきた。真鍮のボウルと布は、いばらの冠を連想させるアザミのすぐかたわらに置かれているが、哀悼や十字架降下のようなキリスト教絵画の前景にも見受けられる。左下に描かれているアザミも、神話よりむしろキリスト教的な象徴をすぐに連想させる。現世の苦労や悲しみ(創世記3:17-18)を示すモティーフだが、なかでもオランダの結婚にかかわる絵画では、自制や抑制をも意味した。(略)

 本作品には、19世紀半ばにハーグのネフィル・ダーフィソン・ホールドスミット・コレクションにあった頃、装飾的なモノグラムがあったが、それはレンブラントの弟子ニコラス・マースのものと思われていた。1892年にその署名がマウリッツハイス王立美術館で調査され、そのイニシャル「N.M.」が「JVMeer」なる署名の上に塗り重ねられていたことが判明した。本作品はマースの様式では描かれていない。しかし、中央の人物が1654年にレンブラントが描いた《パテシバ》(パリ、ルーブル美術館)に負っていることはずいぶん前から指摘されてきている。パテシバは、貞淑なディアナがしっかり衣服を身に着けているのに対し、裸身だが、同じように横向きに座り、ひざまずく侍女が足を洗うに任せている。こうしたレンブラント的な着想を伝えたのはカレル・ファブリティウスだったと示唆されたこともあった。というのも、彼はデルフトに移る前にアムステルダムでレンブラントに学んでおり、シュヴェリンにある彼の《歩哨》と外見的に類似した静寂の雰囲気を漂わせるからである。とはいえ、フェルメールをファブリティウスにつなげる証拠は何もない。(略)

 悩ましいほどに瞑想的で、哀愁さえ帯びた雰囲気が本作品に漂う理由は定かではない。それは、オランダの画家、あるいは他のどんな画家であろうと、彼らが通常描くディアナとニンフと非常に異なる側面を見せる。ただし、アザミに象徴性が込められているとはいえ、1654年10月12日にデルフトを広範囲にわたり破壊した火薬庫爆発の記憶が、本作品の構想の背後にあると主張するのは行き過ぎであろう。われわれは、こうした特異なやり方でフェルメールをこの主題に向かわせたのが何なのか、その理由を知らない。しかしながら、ディアナの主題の奇抜な解釈の中に、後に世俗的な風俗主題で女性たちのプライベートな暮らしに焦点を当てていくことになるフェルメールが先取りされている。

 1999年から2000年に本作品は洗浄され、右上の青空が後の重ね塗りと判明した。この構図が、元来は、おそらく12センチほど右に延びていたこともわかっている。重ね塗り部分を取り除き、この絵画はさらに薄暗くなった。想像するに、右側でひざまずく少女の全身が含まれていたであろう元々の構図は、よりピラミッド型を強調するものであったろう。」








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