【社説①】:袴田さん再審 早期の決着が何よりも重要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:袴田さん再審 早期の決着が何よりも重要だ
87歳の被告は、長期に及ぶ拘束の影響で意思疎通が困難になり、出廷できなかった。この先も、延々と裁判を続けることがあってはならない。
1966年に静岡県で一家4人が殺害された強盗殺人事件で、死刑が確定した袴田巌被告の再審公判が静岡地裁で始まった。再審は、被告を無罪とすべき明らかな証拠が新たに見つかった場合、裁判をやり直す手続きだ。
袴田さんは今回、心神喪失の状態にあると判断され、公判への出廷を免除された。罪状認否では、姉のひで子さんが「巌に真の自由を与えてください」と述べて無罪を求めた。一方、検察側は袴田さんが犯人だと改めて主張した。
検察と弁護側の双方が提出した証拠は多数に上り、今後は審理を十数回重ねるという。来年3月に予定されている結審が延びる可能性もあるとみられている。
事件の発生から、すでに57年が経過している。これ以上、裁判を長期化させることは許されない。双方が立証の要点を絞り、審理を迅速に行う必要がある。
焦点は、事件の約1年後に、現場近くのみそ工場のタンクから発見されたシャツなどが、犯行時の着衣かどうかだ。衣類には血痕の赤みが残り、最初に死刑を言い渡した1審判決は、袴田さんが事件当時に着ていたと認定した。
これに対し、再審開始を決定した東京高裁は、実験の結果などから、1年以上みそに漬けると赤みは消えるはずだと指摘した。衣類は不自然で、捜査機関が 捏造 した可能性もあると述べた。
検察側は再審公判で、血痕の赤みについて、専門家の鑑定結果などを基に反証するという。ただ、この論点は過去の裁判で入念に審理された。これまでの蒸し返しにならないよう、有罪の明白な証拠を示すことが不可欠だ。
これまでの道のりは、あまりに長いと言わざるを得ない。
袴田さんは1981年に再審を申し立てた。2014年に静岡地裁が再審開始を決定し、死刑執行が停止されて釈放された。
その後も、再審開始の是非を巡る裁判が9年も続き、裁判所の判断も二転三転した。死刑になるかどうかの瀬戸際で、司法に 翻弄 され続けたと言うべきだろう。
再審制度のあり方を考え直すべきではないか。再審開始決定が出たら速やかに再審を開始し、公開の法廷で検察側と弁護側が主張を尽くす形にしてはどうか。半世紀を超えて裁判が続くような事態を繰り返してはなるまい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年10月28日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。