【社説②】:衆院予算委員会 減税の効果と影響を吟味せよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:衆院予算委員会 減税の効果と影響を吟味せよ
一時的な減税や給付は経済や財政にどれほどの影響を及ぼすのか、政府の答弁では判然としなかった。岸田首相は、国民の疑問に丁寧に答えなければならない。
衆院予算委員会で質疑が始まり、政府が近く取りまとめる経済対策が論点になった。
自民党の萩生田政調会長が減税の理由を 質 したのに対し、首相は「国民に物価高の中で頑張ってもらうために、所得税、住民税という形でお返しする」と述べた。
政府は、所得税と住民税について、1人あたり4万円の定額減税を行う方針だ。住民税非課税世帯には、1世帯あたり7万円を給付することを検討している。
物価高で国民の負担感は増しており、低所得者を支援する狙いは理解できる。だが、税収が増えたからといって減税をしていたら、1000兆円超もの国の借金はいつまでたっても減るまい。
立憲民主党の長妻政調会長は「個人の減税と世帯への給付が混在し、不公平だ」と指摘した。
今の制度設計では、減税は扶養家族も含むため、例えば4人家族なら16万円が減税されるが、給付は世帯あたりのため、家族が何人いても7万円になる見通しだ。
首相は「不公平が生じないような取り組みを指示している」と述べ、制度の見直しを示唆した。
こうしたわかりにくさが生じているのは、首相の「減税ありき」の姿勢が原因ではないか。増税に関する自らへの批判を気にして焦っているようにしか見えない。
岸田内閣はこれまで、防衛力強化や少子化対策に取り組み、そのための財源を確保しようとしてきた。ところが減税論議が盛り上がったために、少子化対策など、それ自体の議論が停滞している。
防衛力強化も少子化対策も、待ったなしの課題だ。負担のあり方を含めて、具体的な内容を詰めなければならないのに、その議論が深まらないのは残念だ。
予算委では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者救済策も議論となった。被害者への賠償を逃れるため、教団が資産を海外や別の団体に移しているのではないか、と指摘されている。
立民と日本維新の会は、宗教法人への解散命令請求が出た段階で、裁判所が財産の保全を命令できるようにする法案を提出した。与党も実務者協議を始めた。
憲法が保障する「信教の自由」や財産権との関係を踏まえ、被害者救済のために何ができるのか、真剣に検討すべきだ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年10月28日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。