【社説②】:元徴用工訴訟 外交解決しか道はない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:元徴用工訴訟 外交解決しか道はない
司法の場で、歴史に関する問題を扱うことがいかに難しいか。それを示した判決といえよう。
戦時中に過酷な労働を強いられたとして元徴用工や遺族が日本企業に損害賠償を求めた訴訟が却下された。三年前の韓国大法院(最高裁)とは反対の判断である。
今後、韓国司法が最終的な結論を出すまで、相当な時間がかかるだろう。司法判断だけに頼るのではなく、外交交渉によって高齢化した原告の救済を急ぐべきだ。
訴訟は日本企業十六社を相手にした大規模なもので、一九六五年に結ばれた日韓請求権協定の解釈が最大の争点となっていた。
大法院は二〇一八年、政府間の協定があっても請求権は行使できるとして、日本企業に元徴用工への賠償を命じる新しい判断を下した。人権優先の内容だったが、日本政府の反発を招き、日韓関係は急速に悪化した。
これに対し、今回のソウル中央地裁の判決は、請求権協定でも請求権は残っているが、「訴訟で行使することは制限される」と、国際法を重視する立場を示した。
さらにこの判決は、原告の請求を認めて賠償に向けた強制執行が行われた場合、「権利の乱用」に当たるなどと踏み込んだため、日本の主張に近い判決だと、韓国内で反発が起きているという。
これとは別に、元慰安婦訴訟でも、国家が外国の裁判権に服するか否かを巡り、韓国で正反対の判決が下されたため、混乱が続いている。
歴史問題を巡る訴訟に関し、文在寅(ムンジェイン)大統領はこれまで具体策を示してこなかったが、司法判断が大きく割れてしまった現実を、重く受け止めるべきではないか。
元徴用工についてはすでに、韓国政府が賠償を肩代わりするなど複数の案が出ている。
元慰安婦問題を巡っては、日韓両政府間で一五年、合意に至ったが、事実上放置されている。
文大統領の任期は残り一年を切った。既存の合意を発展させるなど、自ら指導力を発揮して日本側と対応を協議してほしい。
日本政府は、すべて韓国側に責任があるとして、受け入れ可能な解決案を出すよう求めてきた。ただ、このような一方的な姿勢では問題をこじらせるだけだ。
未来志向の日韓関係を築くには双方が対話に応じ、外交的な解決策をともに探るべきである。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年06月09日 08:15:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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