【筆洗】:資源に恵まれない島国の宿命だろう。「生命線」が海のむこうにある。
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:資源に恵まれない島国の宿命だろう。「生命線」が海のむこうにある。
振り返れば、何度かその言葉が、国の危急存亡のときに語られてきた▼「満蒙(まんもう)は日本の生命線」。満州事変前夜に広まった。重要な権益が大陸で脅かされていると、政治家が危機感をあおる際に語った。連合国の日本包囲網の時も使われた。英首相チャーチルは「日本は一挙に石油補給の命綱をたたれた」と述べたという。断たれた日本は、太平洋戦争に突入する▼日本への原油の大半が通過するというホルムズ海峡の近くで、日本の海運会社が運航するタンカーが攻撃を受けた。「日本の生命線」でと報じる記事に胸騒ぎを感じる▼今回は命綱が断たれたわけではない。エネルギー供給にも影響はないという。とはいえ、われわれの生命線がかくも遠く、平和とは到底言えない海にあることをあらためて思わされる。黒煙と炎を上げる船の映像は衝撃である▼攻撃の狙いが判然としない。米国とイランの対立をあおりたい勢力の仕業であろうか。安倍首相がイランを訪問中に起きた事態だが、引き続き緊張緩和に向けた働き掛けが、必要だろう▼ここに生命線があるのは日本ばかりではない。湾岸地域の軍事的な急所にして、原油輸出というイランの生命線が、通っている場所でもあろう。国の命綱を脅かされるという危機感が、偶発的な衝突を招くのが怖い。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】 2019年06月15日 06:10:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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