路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

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【日本一詳しい北朝鮮分析】:「金与正の遠吠え」が日米韓を走らせた!

2024-02-23 08:04:10 | 【北朝鮮・朝鮮半島・拉致問題・独裁】

【日本一詳しい北朝鮮分析】:「金与正の遠吠え」が日米韓を走らせた!

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【日本一詳しい北朝鮮分析】:「金与正の遠吠え」が日米韓を走らせた!

 朝鮮中央通信は2月15日午後8時に「金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会副部長の談話」を報じた。「談話」は、岸田文雄首相の2月9日の衆院予算委員会での「日朝間の現在の状況を大胆に変えるべき必要性を強く感じる」、「自分自身が朝鮮民主主義人民共和国国務委員長と主動的に関係を結ぶことが極めて重要であり、現在多様な経路を通じて引き続き努力している」との発言に対する反応であった。特に岸田首相が「大胆に変えるべき必要性」を強調したことが注目された。

 金与正党副部長の「談話」は「岸田首相の今回の発言が、過去の束縛から大胆に脱して朝日関係を前進させようとする真意に端を発したものであるなら肯定的なものと評価することができない理由はないと考える」と岸田首相の発言を肯定的に評価した。

 さらに「条件」を付けた上で「両国が近くなることができない理由などないであろうし、首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得る」と岸田首相の平壌訪問の可能性にまで言及するというサービスぶりを見せて注目を集めた。問題は「条件」であった。

 ◆談話の主体も、対価もレベルアップ

 北朝鮮は、岸田首相が昨年5月27日に「全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会」で行った「首脳会談早期実現のため、私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」という発言に対し、2日後の同29日に朴(パク)サンギル外務次官が「関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由はない」という談話を発表して驚かせた。

Photo by gettyimages© 現代ビジネス

 今回の金与正談話は、談話を出した主体を外務次官から党副部長に、談話の内容も「両国が会えない理由がない」から「首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得る」とレベルアップしたものだ。日本政府に、より魅力的な「成果」を見せつけたと言ってよい。

 金与正氏は単なる「党副部長」というよりは、「最高指導者の妹」である。さらに、金与正党副部長はこれまで対南(韓国)問題や対米問題で談話を発表してきたが、対日問題での公開的な発言はこれが初めてであり、活動領域を日朝関係まで広げた点でも注目された。

 北朝鮮は昨年5月に外務次官の談話を出し、そして、今年1月には、能登半島地震への金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の慰労電を岸田首相に送った。北朝鮮の最高指導者が日本の災害で日本の首相に慰労電を送ることは異例であり、岸田首相を「閣下」と呼称したことも異例であった。

 今回、それに続く金与正談話は、明らかに一定の意図を持って対日攻勢を掛けているとみられた。そのレベルが金正恩党総書記の妹という政権中枢から発されたことには意味があるように見えた。

 ◆「拉致問題は解決済み」、「核・ミサイル容認」が前提条件

 しかし、「平壌訪問」には大きな障壁があるようだ。「談話」は、「すでにすべて解決した拉致問題や、朝日関係改善とは何の縁もない核・ミサイル問題」を持ち出さないことを平壌訪問の前提条件にしており、これでは、日本政府が交渉を進められるはずがない。

 「談話」は「これまで日本が、すでにすべて解決した拉致問題や、朝日関係改善とは何の縁もない核・ミサイル問題を前提として持ち出し続けてきたことによって両国関係が数十年にわたり悪化の一途をたどることとなったということは、誰もが認める事実である」とした。その上で「日本がわが方の正当防衛権に対して不当に食って掛かる悪習を振り払い、すでに解決した拉致問題を両国関係展望の障害物として置くことさえしなければ両国が近くなることができない理由などないであろうし、首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得るであろう」とし、正当防衛権の発動として行ったという核・ミサイル開発に文句を言わず、拉致問題を関係改善の障害物にしなければ、岸田首相の平壌訪問も可能であるとした。

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 つまり、「談話」は、北朝鮮は、拉致問題は解決済みであり、再交渉の対象ではないとし、核・ミサイル開発は北朝鮮の自衛権の問題であり、日朝関係改善とは関係がないと主張している。拉致問題についてこれ以上、言及せず、北朝鮮が核兵器やミサイルを持つことを認めた上で、日朝関係を改善するために平壌へ来るのなら受け入れることもできるという、これまで以上に従来の北朝鮮の原則的な立場に変化がないことを示した。

 「談話」は「首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得る」と、何か、北朝鮮側が大きく譲歩でもしたかのような印象を与えながら、そこへたどり着くためには大きな「障壁」があることを明確にしたといえるもので、北朝鮮の「譲歩」にはほど遠い。巧みな宣伝扇動のテクニックだ。

 ◆韓国はすでに疑心暗鬼

 金与正談話の内実は上記のように厳しいものだが、「日本の首相の平壌訪問」というアドバルーンに、韓国では早速、日朝接近だという疑心暗鬼が生まれている。

 韓国紙「中央日報」は2月15日付で「米国・日本に向けた北朝鮮の直接取引の動き…韓国が疎外されてはいけない」という社説を掲載し、「しかし、(韓国)政府はこの過程で韓国が疎外されたり、見通しが立たなくなったりする状況を管理するために積極的に取り組まなければいけない」と、日朝接近で韓国が疎外されてはならないと警戒心を露わにした。同社説は「日帝強制支配(植民地支配)や韓国戦争(朝鮮戦争)など韓国の意志とは関係なく苦痛に耐えなければならなかった教訓を忘れるべきでない。北朝鮮の非核化交渉は米国が行い、経済的補償などは韓国が負担するジュネーブ合意(1994年)や9・19共同声明(2005年)を繰り返してはならない」と主張した。だが、今回の談話を前述の歴史的事案や非核化交渉の過去の事案と比較するのは論理の飛躍であり、冷静な判断とは思えない。日朝はまだ接触すら十分に出来ていない中で、こういう反応が出ること自体が、北朝鮮の思うつぼである。

 「朝鮮日報」も同日、「岸田首相の訪朝とトランプ再選に期待する北朝鮮…韓米日協力に揺さぶり攻勢」と題した記事を掲載し「北朝鮮は日本の岸田文雄首相の平壌訪問というカードを利用し、韓米日三角協力の構図に揺さぶりをかける意図を隠そうとしない」と指摘した。

 これに対し、韓国外務省当局者は、日朝の接触について「北の非核化と韓(朝鮮)半島の平和・安定に助けになる方向で行われなくてはならない」とし「韓国政府は日朝接触を含め北の核や北韓問題について日本側と緊密に意思疎通を行っている」と語り、日朝接触は北朝鮮の非核化に寄与する方向で行わなければならないとした。韓国政府は日朝交渉への評価に言及することを避けながら、日朝交渉は北朝鮮の「非核化」や「半島の平和・安定」に寄与するものでなければならないと注文を付けた。

 韓国の反応は日朝の動きに猜疑心を抱いているように映った。

 ◆米「北朝鮮とのあらゆる外交や対話を支持する」

 米国は韓国と異なった反応を示した。米国務省のジュン・パク副次官補は2月15日、一部の外国メディアとの懇談会で、金与正党副部長の談話に関連し、日朝対話が実現すれば支持する姿勢を示した。記者団に「北朝鮮とのあらゆる外交や対話を支持する。今後を見守るべきだが、拉致問題解決に向けた日本政府の努力を強力に支援する」と語った。

 ジュン・パク副次官補は「何か起きるかもしれないと言うには早過ぎる」とした上で「北朝鮮はこの間、ロシア、中国を除いた他の国との対話・外交に関心がなかった」と指摘した。

 米国家安全保障会議(NSC)のラップフーバー・インド太平洋部長も2月15日のセミナーで「米国だけでなく、同盟国の北朝鮮関与を支持する」と述べ、日朝の接触を支持する姿勢を見せた。

 北朝鮮がこの間、あまりにミサイル開発に邁進し、対話や外交に背を向けていたために、米国自身でなくとも同盟国と対話姿勢を示すのは歓迎すべきだという姿勢であった。

 米国のこの対応は賢明な対応であった。北朝鮮の対日攻勢は日米韓3国連携への牽制であり、くさびと見られる中で、米国が公開的に日本に批判的な、もしくは懐疑的な姿勢を示すことは、日米韓連携にマイナスになり、北朝鮮の思うつぼだ。

 日本の北村滋内閣情報官は2018年7月にベトナムでキム・ソンヘ統一戦線策略室長と秘密接触をしたが、この事実を明らかにしたのは米国のワシントン・ポストであった。これは日本政府が事前に米国に伝えず北朝鮮と秘密接触をしていたことを米国が不快に思い、米メディアに情報をリークしたとされた。

 今回の対応はこうした対応と異なり、日本の拉致問題の特殊性を理解し、日朝交渉を支持する姿勢を見せるとともに、日米韓の連携に影響を与えないように対応したとみられた。不満があれば、日米は水面下でやりとりすれば良いことで、公開的にやり合うことにメリットはない。

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 ◆韓国・キューバ国交樹立の外交打撃を取り繕う効果も

 一方、韓国外務省は2月14日夜(日本時間)、韓国とキューバの国連代表部が米ニューヨークで書簡を交わし、両国が国交を樹立したと発表した。北朝鮮にとってキューバは伝統的な友好国であり、大きな打撃であることは言うまでもない。

 北朝鮮が翌日の2月15日夜に金与正談話を発表したが、このタイミングでの談話発表は、韓国とキューバの国交樹立の外交的打撃を「日本カード」を出して、取り繕うとする意図が反映したものであろう。キューバが韓国との国交樹立で北朝鮮を裏切ったことで、北朝鮮が「背信感」を抱いたことは間違いない。金正恩党総書記は、昨年末の党中央委第8期第9回全員会議(総会)拡大会議でで、「社会主義国の政権党との関係発展に力を入れながら」、「米国と西側の覇権戦略に反旗を翻す反帝・自主的な国々との関係をより一層発展させて、わが国家の支持・連帯の基盤をさらに固めて国際的規模で反帝共同行動、共同闘争を果敢に展開していく」とした。しかし「社会主義国の政権党」であり、「米国と西側の覇権戦略に反旗を翻す反帝・自主的な国々」の中核メンバーであるキューバが経済的な実利のために韓国との国交を結んだのだから、金正恩党総書記の党中央委総会で示した方針に大打撃となるしかない。

 朝鮮中央通信は2月14日に、金正日総書記の誕生日(同16日)を迎え、平壌駐在外交団が同13日に花かごや祝賀書簡を北朝鮮側に伝えたと報じた。朝鮮中央通信はこの行事にロシア大使、ベトナム大使、シリア大使が参加したことを伝えたが、キューバについては言及しなかった。また、朝鮮労働党中央委員会は2月14日に平壌駐在外交団のための宴会を催したが、ここでも外交団長であるロシア大使の発言だけが報じられ、キューバへの言及はなかった。北朝鮮メディアがキューバへの言及を避けているのはキューバが韓国と国交を樹立したことへの不快感の表明とみられた。

 しかし、北朝鮮が急接近しているロシアも、経済的な結びつきの強い中国もすでに韓国との国交を持っており、キューバが韓国と国交を結んだとしても、北朝鮮側がキューバとの国交を断絶するような事態は起きないとの見方が有力だ。しかし、一時的には、キューバとの緊張関係が続くであろう。

 ◆金与正は「個人の見解」を強調したが

 金与正党副部長の「談話」は最後に「今後、岸田首相の内心を見守らなければならないであろう」とした上で「これはあくまでも、私個人の見解であって、私は公式に朝日関係を評価する立場ではない」と付け加えた。

 国営の朝鮮中央通信が「朝鮮労働党中央委員会副部長」の「談話」を伝えたのに、その「談話」の内容が「私個人の見解」であるはずがない。

 金与正党副部長の談話は時々「委任により」という言葉が挿入されることがある。これは金正恩党総書記の「委任」を受けて発表しているという意味だ。「委任により」がない場合は自らの責任で発表したということだが、これも公式のメディアで発表される場合は金正恩党総書記の同意を取っているのは間違いない。

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 今回はそういうスタイルの上にわざわざ「私は公式に朝日関係を評価する立場ではない」とし「私個人の見解」とした。金与正氏はこれまで対米、対南(韓国)に関する談話を発表したが、対日問題で発言をするのは初めてだ。

 北朝鮮の対日外交はこれまでいくつものルートがあった。第一は外務省ルートだ。これも外務省とその傘下団体の対外連絡協会や朝日交流協会、第二は党統一戦線部や、この傘下団体のアジア太平洋委員会だ。第三は公安機関である国家保衛省を通じたラインだ。

 金与正氏は現在、党宣伝扇動部の副部長とみられている。党宣伝扇動部の副部長が対日問題に言及するのは権限外のことであろう。しかし、対南や対米についても、本来は金与正氏の職務権限外である。しかし、金与正氏は対米、対南で談話を出すなどその政策決定に強く関与してきた。現在、党書記局には国際担当書記、対南担当書記がおらず空席だ。これは金与正党副部長の活動を制約しないための措置とも見える。

 かつて、小泉純一郎首相と金正日総書記の首脳会談のために、田中均外務省アジア大洋州局長とミスターXこと、柳京(リュ・ギョン)国家保衛部(当時)副部長が両国の最高指導者に直結する人物として小泉首相の訪朝を準備した。しかし、現在の北朝鮮には対日政策のコントロールタワーとなる責任者が不在の状況だ。北朝鮮が本気で対日交渉を動かそうとすれば、「ミスターX」のような存在が必要になるが、北朝鮮はまだそのような状況ではないと判断しているようだ。金与正氏は今回談話を出したが、そういう対日責任者ではないことを確認したといえる。

 金与正氏の談話は朝鮮中央通信では報じられたが、一般人民が接することのできる党機関紙「労働新聞」や内閣と最高人民会議の機関紙「民主朝鮮」、朝鮮中央放送(ラジオ)、や朝鮮中央テレビでは報道されなかった。

 ◆日本政府は、「留意」するが、拉致問題は解決済みではない

 こうした中で、日本政府はどう対応したのか。林芳正官房長官は2月16日の記者会見で「留意している。評価を含めてそれ以上の詳細は交渉に影響を及ぼす恐れがあるため差し控える」と述べた。だが、北朝鮮が拉致問題を「解決済み」などとしたことに対しては「解決されたとの主張は全く受け入れられない。日朝平壌宣言に基づき拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決する方針に変わりはない」と金与正党副部長の談話内容を批判した。北朝鮮側の狙いを問われたが、コメントを差し控えた。

 拉致は解決済みという北朝鮮を非難すれば、対話への道が途絶えかねない。かといって、「平壌訪問も可能」という誘いに乗れば、拉致問題や核・ミサイル問題への対応が非難される。日本政府としても対応に苦慮するしかない。

 岸田首相は2月9日の衆院予算委員会で、日朝間の秘密接触の有無などには言及せず、日朝首脳会談実現への環境整備について「私が自ら必要な判断を行う。具体的にさまざまな働きかけを行っている。そういった現状だ」と強調した。岸田首相は「具体的にさまざまな働きかけ」が何であるかは明らかにしなかった。しかし、金与正党副部長の「談話」は「現在までわが国家指導部は朝日関係改善のためのいかなる構想も持っておらず、接触にも何の関心もないと知っている」とし、北朝鮮指導部が日朝関係改善の青写真もなく、接触に関心がないとした。これを見ると、日本政府の「さまざまな働きかけ」とは、接触を求めているが、北朝鮮側が応じていないということのように見える。

 ◆「日米韓」で、「日本」が当面の揺さぶり対象

 金正恩党総書記は、昨年末の党中央委総会でも、「わが共和国(北朝鮮)に対する敵視政策を実現する上で最も忠実な手先、『忠犬』となっている南朝鮮の連中と日本の連中をより執拗に引き入れて両者、3者協力の拡大を謀り、反朝鮮共助体制を構築するための米国の策動は安保不安を抱えている南朝鮮の連中の利害関係とマッチして、今年に入って一層ひどく拡大された」と日米韓3者の連携、日韓、米韓の連携を強く非難した。

 米国のバイデン米大統領、日本の岸田首相、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、昨年8月に米ワシントン近郊の米大統領山荘キャンプデービッドで日米韓3カ国首脳会談を行い、北朝鮮だけでなく、中国に対しても連携を強化するとした。この「キャンプデービッド原則」は、3カ国で政権交代があってもよいように枠組みを提示したといえる。

 北朝鮮はこの「キャンプデービット原則」で示された日米韓3国連携に強い反発を示し、これに対抗しようとしている。北朝鮮にとって韓国は「交戦中の敵国」であり、米国はこの3カ国連携の主導者であると認識している。そうなると当然、日米韓の連携を揺さぶろうとすれば、そのターゲットは日本ということだ。

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 北朝鮮の昨年5月の外務次官談話、今年1月の能登半島地震の見舞い電報、今回の金与正談話という波状的な対日アプローチは日朝関係をめぐる外交攻防であると同時に、日米韓3カ国連携に対する揺さぶりでもあろう。こうしたアプローチは今後も続くとみられる。

 一方、日朝関係については、北朝鮮は昨年5月の外務次官談話で「日本は言葉ではなく、実践行動で問題解決の意志を示さなければならない」と日本へ要求したが、岸田政権は日米韓の軍事的な協力関係強化を図ったが、日朝関係改善への具体的な動きは見せなかった。岸田首相は今年2月9日の衆院予算委員会で「私が自ら必要な判断を行う」、「昨今の日朝関係の現状に照らし、大胆に現状を変えなければならない必要性を強く感じる」と踏み込んだ発言をしたが、何を「大胆に変えなければならない」のかは不明だ。 北朝鮮側は「日朝間の接触に関心がない」としている。接触をしたいのであれば、日本政府の対北朝鮮政策の姿勢が変わったということを「実践行動」で示せということのようだ。

 ◆「希望」掲げ、受け入れられない「条件」提示

 金与正談話は、「私自身が主体的に動いて、トップ同士の関係を構築する」と言う岸田首相に「平壌訪問も可能」という「希望」を提示した。しかし、その「希望」を実現するためには拉致問題や核・ミサイル問題は問題にしないという、日本側としては到底、受け入れ難い「条件」を付けた。

 しかし、日本側としては、北朝鮮が設定した枠組みの抜け穴を探さなくてはならない。あり得るとすれば「前提条件を付けず、あらゆる関心事を協議する」という合意下で首脳会談を行い、結果として日本側は最大の関心事である拉致問題や核・ミサイル問題にも言及するという形になるしかないように見える。当然、北朝鮮側は制裁解除や国交正常化、過去の清算などを持ち出してくるだろう。これに対する何らかの対応も必要になるだろう。

 しかし、現在は、日朝間の水面下の接触も切れた状態だ。敵対国同士であれ、相手が何を考えているかを知る必要がある。日朝は公開的であれ、水面下であれ、何らかの対話ルートを早急に構築するべきだ。その中で、何らかの「抜け穴」を見つけなければならない。

 北朝鮮の金与正党副部長の日朝関係に対する「個人の見解」なる談話が、日本だけでなく、韓国や米国にも波紋を呼んでいる。わずかA4用紙1枚の「個人の見解」がこれほど論議の対象になるのだから、北朝鮮の宣伝扇動技術はたいしたものである。

 ■PERSON

 1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。

 元稿:現代ビジネス 主要ニュース 政治 【政策・外交・北朝鮮・担当:平井 久志 ジャーナリスト】  2024年02月22日  08:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 


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