【社説】:出生数最少 生活不安、まず解消せよ/06.29
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:出生数最少 生活不安、まず解消せよ/06.29
2020年生まれの赤ちゃんの数(出生数)は84万832人で、1899年の統計開始以来最少となったことが、厚生労働省の人口動態統計(概数)で明らかになった。初めて90万人を割って「86万ショック」といわれた19年からさらに2万人以上減った。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」も1・34と下落傾向で、少子化は加速している。
新型コロナウイルス感染拡大のあおりから、不安はもちろん、若い世代が雇用情勢悪化で解雇や賃金カットなどの影響を受けていることが響いているようだ。婚姻件数も前年より7万組以上減って戦後最少だった。
先が見えない中で、結婚や出産をためらう人が増えるのは当然のことだろう。妊娠期間を考えれば、コロナの影響が出生数に本格的に表れるのはこれからである。21年は国の推計より10年早く70万人台になるとの厳しい予測もある。
少子化の背景には、子育てにかかる経済的な負担や、仕事と妊娠・出産、育児を両立しづらい状況が、かねて指摘されてきた。子どもを産むかどうかの判断はカップルの自由だが、望む人が結婚や出産を諦めなくてはいけない社会であってはならない。政府はコロナ下での緊急支援と併せ、中長期での対策に取り組み、若い世代の生活不安を解消する必要がある。
総務省が先週発表した国勢調査の速報値では、5年前に続いて人口減少が明らかになった。加藤勝信官房長官は記者会見で、その要因を「少子化の進展」だと指摘し、「最優先で取り組むべき課題として具体的な対策を構築する」と強調していた。
政府はこれまでも少子化を「国難」「最優先の課題」と言い続けてきた。しかし若者に不安定な非正規雇用を強いている上、保育施設の拡充や現金給付などの取り組みが功を奏しているとは言い難い。その責任をどう考えているのだろう。
菅義偉首相は「こども庁」を創設し、子育て施策を推進したい考えである。だが、先日決定した「骨太方針」にも、新組織の創設に「早急に検討に着手する」とするにとどまり、具体策は見えてこない。
内閣府が昨年10月から今年1月にかけ、日本とフランス、ドイツ、スウェーデンの20~40歳代を対象に行った国際意識調査では、日本の回答者の6割が、日本は「子どもを産み育てにくい国」と感じていたことが判明した。逆に「産み育てやすい」と答えた人の割合は約38%で、97%を超えるスウェーデンをはじめ、欧州各国とは大きな開きがあった。
政府は、このまま少子化が進めば働き手が減り、経済成長が停滞すると危機感を募らせ、少子化社会対策大綱に、若い世代が希望通りの人数の子どもを持てる「希望出生率1・8」の実現を掲げる。ならば若い世代が「産み育てやすい」と思える環境整備こそ急がねばなるまい。
調査では必要とする支援策も尋ねていた。「教育費の支援、軽減」が最も多く、「子育ての経済的負担を軽減するための手当の充実や税制上の措置」「雇用の安定」と続いた。
政府はこうした課題に真摯(しんし)に向き合うべきではないか。看板を掲げるだけではなく、「最優先」での取り組みが急がれる。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年06月29日 06:51:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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