【社説②】:職場でワクチン 不公平が生じないよう
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:職場でワクチン 不公平が生じないよう
政府が新型コロナワクチンの職場接種に向けて、各企業からの申請受け付けを始めた。地域医療機関の負担軽減にも直結する取り組みとして評価したい。ただ実施に課題を抱える企業も多く、政府による手厚い支援が欠かせない。
政府が専用サイトで申請を受け付けている職場接種は大企業が先行することになる。ワクチン(米モデルナ製)や保管に必要な冷凍庫、注射器を、政府が対象企業に配る段取りだ。
今回、職場接種が可能となるのは、大手企業の中でも自前で医師や看護師らワクチンの打ち手や会場を確保できる企業に限られる。
企業によっては会場は確保できるが産業医ら医療従事者が足りない、あるいはその逆のケースもあるはずだ。
配られるワクチンの量や時期、具体的な保管方法、余った場合の対処など接種に必要となる情報も多い。急激な副反応など救急医療が必要な状況も起こり得る。
政府は対象企業に必要な情報を素早く正確に伝達した上で、実際の接種に際しても、打ち手の派遣や会場のあっせんなど、柔軟できめ細かい配慮をすべきだ。
大企業での接種を軌道に乗せる一方で、中小企業での実施も可能な限り進めてほしい。
多くの中小企業は産業医がいないなど接種の条件を満たしていないはずだ。その場合、余力が生じた大手が中小を支援する枠組みを政府主導で構築する手もあるだろう。
企業規模に加え、雇用形態を巡る課題についても指摘したい。
企業では正規、非正規に関係なく労働者が生産活動を行い、利潤を目指しているが、職場接種を巡って無用な線引きが生じないとも限らない。
命に直結するワクチン接種を巡り、勤め先の企業規模や雇用の契約内容によって大きな格差や不公平が生じるような事態を見過ごすわけにはいかない。政府は、職場接種の公平性を担保するための指針を示すべきだ。
さまざまな理由でワクチンを受けない人への配慮も必要となる。接種を望まない人にまで強制するような事態は避けるべきだ。
各企業には個人の意思や事情を重視した丁寧な対応を求めるとともに、政府も企業任せにせず、責任を持って公平な職場接種を推進するよう念押ししておきたい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年06月10日 07:23:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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