【社説①・03.30】:金融正常化の1年 弊害直視し、かじ取り丁寧に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.30】:金融正常化の1年 弊害直視し、かじ取り丁寧に
「金利のある世界」の歩みはそろりそろり。長年の「劇薬」依存から抜け出すかじ取りの難しさを示していよう。
日銀がマイナス金利政策を解除し、「異次元」の大幅緩和から金融政策の正常化へ踏み出し1年たった。
続けて昨年7月と今年1月に追加利上げを行い、政策金利は0・5%とリーマン・ショック直後の2008年以来、約17年ぶりの水準となった。
政策転換を託されて就任2年を迎える植田和男総裁は今月の会見で、「(今後も)政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していく」とし、さらなる利上げを探る姿勢を強調した。
念頭には、物価上昇率を考慮すると、実質金利は依然として大幅なマイナスで、主要先進国で突出して低いことがあろう。
より早く米欧はインフレ抑制への利上げを重ねたのに対し、相対的に金利の低い円が売られる構図は変わっていない。
米国ではインフレの鈍化を受けて昨年9月、4年半ぶりの利下げに転換。景気を支えるため3回連続で緩和した。だが、日米の金利差はなお大きく、為替相場の円安基調が続いて日本経済の足かせとなっている。
輸入品値上がりなど円安インフレで、物価上昇率は日銀の安定目標2%を大幅に上回っている。今春闘も大企業中心に高い賃上げが広がるが、物価上振れによる暮らし圧迫を警戒する。
悩ましいのは、利上げは消費を冷やし、景気の腰折れを招くリスクを伴うことだ。長期金利は急ピッチで上昇し、指標となる新発10年物国債の利回りは今月、1・575%と16年5カ月ぶりの高水準に達した。
相次ぎ各金融機関は住宅ローン金利を引き上げ、現役世代らの返済負担が増している。企業向け融資の金利上昇は中小企業ほど負荷が大きい。
日銀が次の利上げで目指す「0・75%」は、約30年にわたり日本経済が経験していない。より精緻な状況の見極めと、影響への十分な備えが不可欠だ。
これら政策転換の難路は、11年に及んだ異次元緩和の副作用の大きさを物語る。大量の資金供給による円安・株高でデフレ脱却を図ったが、「禁じ手」を重ねても達成できなかった。
植田日銀は昨年末、過去25年の金融政策の検証結果で「想定したほどの効果は発揮しなかった」と認めた。国債の大規模買い入れで市場取引が減る影響に一部触れたが、問題点の分析は踏み込み不足が目立つ。
事実上の円安誘導に加え、財政規律を緩ませ国の借金財政を悪化させた。上場投資信託(ETF)購入で株価形成をひずませ、資産圧縮は手つかずだ。
金融政策の限界を踏まえ、アベノミクスがゆがめた日本経済と財政の弊害を直視することが、トランプ米政権の保護主義政策で不透明さが増す経済環境でのかじ取りの前提だろう。