よみびとしらず。

あいどんのう。

いの音

2017-10-10 12:36:39 | 散文(ぶん)
−−−亡き人の「きいさいきいさい」という声のする

亡き人は「生きいさい生きいさい」言うなれども
残された人に生(い)の音は届かず
「きいさいきいさい」と耳に聞く−−−

すると人の耳に届かぬいの音は怒りに怒り
いがぐりとなって残された人の頭に落ちてきた

「いたいいたい」と声をあげると
落ちたいがぐりは鯛になった
驚いた人は鯛を手にとり、煮付けて美味しく平らげた

またも無視されたいの音は泣きに泣き
亡き人の遺影をいたちのしょんべんでずぶ濡れにした
怒った人はその場でいたちを切り殺し、干物にして美味しくいただいた

それをみていた亡き人は
自分は何も言わずとも
残された人はたくましく生きていくなと納得し
そのまま静かに成仏した

「きいさいきいさい」の声もなくなり、遺影にしょんべんをかけられた残された人は
「あんまりだあんまりだ」と泣き暮らしている

さんざん無視されたいの音はそれをみて
助けるべきか否か、いやたとえ助けたところでまた食べられるだけではないかと
あれやこれやと迷いつつ
彼女のそばに、ずっといる

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