火と水のあいだから顔をだした魚は世の中に怯えているおずおずとどうしてもそこから離れることは能わずに満月と新月の夜にだけ魚はその場所から世界に顔をのぞかせていた新月の夜には白色の瞳で満月の夜には黒色の瞳でやがてその瞳からみえていた景色はあなたのものとは全くちがうと知ったときあなたの世界が知りたくて魚はその場所から旅立つことにした魚を手放したくない火と水はそれぞれに魚にまとわりついて魚のからだは赤色に . . . 本文を読む
当たり前に生きていくことを当たり前でなくともつなげてきたいのちべつに僕でなくても良かったかもしれないことをそれでも僕が選んできたことを奇跡のバトンはつながれていったつながっていく僕自身もまたその手をつかむ僕がつなげていくものはありふれたひとつのただの奇跡 . . . 本文を読む
痛みのモト、みたいだったものがぺろんと剥がれおちました音もなく 清らかにおちて消えゆくものだとは思ってもいなかったわたしは空白をかかえてじっとその傷口をながめるも痛みのモトのとれたその場所はただの平凡なわたしの身体の一部となりました痛みがなくなって良かったねとはどうしても単純に思えないわたしは首を傾げてかすかにわらうなくて良かったものなのになくなって良かったはずなのにその歓びには満足にひたれないわ . . . 本文を読む
大丈夫だから
あなたがひとりでそんなに恨む必要はないと
あらわれた光にくるまれてぼくは眠る
安らかな場所とはかけ離れようとも
どこまでも追いかけてくる
あなたは光
まどろみのなかですらつかめずに
追いかけてきたあなたを追い求める私に翼ははえて
雷(いかずち)のさなかに私はあなたの影をみた
ぼくの影さがすぼくの姿に
出会いたいぼくはあなたの夢をみる . . . 本文を読む
あなたは涙を置き去りにして燃え尽きることのない翼で空を舞うイカロスにならうも落ちること能(あた)わず燃え尽きることのない苦しみはつづく手放して手にいれた代償に歓びは尽きぬものだと思い違った水の源からは遠く離れた羽ばたいたこの身に太陽は揺れる . . . 本文を読む
痛みをかえりみることもせず
熱のあつさにもフタをした
おどけて笑う毎日に
清らかな水は枯渇していき
砂漠と化したからだに蟻の這う
かんたんにつぶしてしまえる生命は
どこまでも軽やかに歩みをとめず
噛みつくこともなくわたしに挑む
わたしをわたしとも認識せずに
敵も味方もあるかなしかのこの世の中を
ただ本能のまま西へ東へ
懸命ないのちの在り方を
からだ這う蟻に示された
外は夏の日射しに陽炎(かげろ . . . 本文を読む
空の青さを反射する水辺は空を見上げてうらめしそうにこう言いました「ふん、ほんとうに反射しているのは、一体どっちの方なんだい」空のかなたの青色はそんな思いなど気にもとめずにその一方で空を流れる白雲は自らの思いでは降りていけない地上を見下ろしきらきらと輝く水辺に見惚れてああ、あの場所にかえりたいと思うのでした . . . 本文を読む
言葉もなく雨はふる
言葉はなくとも水たまる
言葉に満ちた空は晴れ
思いは風にのりあなたの元へ
そうして生まれた言葉とともに
新しい朝はくりかえす
言葉をもたない世界のなかで
わずかな言葉は熱をもち
ふるえた思いに音は鳴る . . . 本文を読む
祈りのかたちをトリに託した自分のなかにある希望の証確かなかたちなくともおそれるなかれ祈りは届いてそら晴れわたる本当に晴れた青空の向こう側もう会うことのないあなたに会いにいこう悲しみも歓びも引き連れて知っている世界の外側へむかえ 青い鳥 . . . 本文を読む
あなたはだあれと尋ねる吐息は
水のなかから森のおくへとこだまして
本当の正体をかくしたわたしは
目をつむりあなたから逃げ出した
知らしめるなかれ
知らしめすなかれ
森のあるじはそうつぶやいた
誰もいなくなった森はさやさやと
逃げ出した少女の安息をねがう
ねがいは風にのり海へと辿(たど)る
青海原に大空は反射して
磐石(ばんじゃく)の苔むした岩肌は
大海も大空も知らぬまま齢を重ねる
ひっそりと . . . 本文を読む
愛が大切だと繰り返されるたびに
ひびく心と跳ね返す条件反射
受け入れることに怯える振りをした
足らぬ覚悟に雨は降りつもる
地は固まって
頑なになる心に芽吹く感情
一方の雨は海となり
思いやりをたたえた海のなか
海面は反射して見たくもないものをうつしだす
愛はすべてをつつみこみ
すべてはそれを享受せずに愛を乞う
いつわりの偏愛に本物を見出ださんとする
その愚かささえも許容され
愛はすべてだと説かれ . . . 本文を読む
たからものを探しに潜った海のなか
しずかな青色の暗やみで
わたしはシワだらけの怪物と出会った
目をつり上げてたけるこの怪物は
とても怯えていると思ったわたしは
手をさしのべることすらためらって
触れられる怖さを知っているわたしは
この手のひらの価値も分からない
勇ましく飛びこんだ海のなか
たける怪物はわたしを喰らうことなく
でも目の前からもはなれずに
いっそ喰ろうてくれたなら
もう思い悩むことも . . . 本文を読む