いろんなものがそこにはあってありすぎて
どれも選べずに僕のそこにはなにもない
たくさんのものがつまっていたそれらを
バクがすべて食べてしまい
あとには夢だけが残った
ドーナツのわっかみたいな場所に僕はいる
飛ぶトリのみる景色は
穴のつまったドーナツ型で
なにもないことなどあるはずもないのに
夢のありかは夢まぼろしか
目の前に広がる街に転がった石ころは見た
夢と現実は重なりあう
平凡で月並みな世 . . . 本文を読む
会いたいあなたはどこにも居らず
けれども気配はすぐそばに
左回りは許されず
旋回の外側でわたしは踊る
はらはらと舞い散り
髪は乱れてはらはらと
わたしの涙ははらはらこぼれ
あなたの瞳ははらはらと
わたしを憂えてなお見守った
あなたの思いはただ真っ直ぐで
そんな思いに癒されて
太陽は少しだけ顔をだす
無理にこじ開ける者もなく
空に広がるたくさんの雲は
光と海と大地を包みこむ
弾劾の声も空まで . . . 本文を読む
雨は降りさかさまの空に
種子ひとつこぼしたらハナひらき
孤独な太陽は雲にかくれた
雷鳴のなかに咲く閃光の
天地(あまつち)の道は通れども誰も渡らず
ハナは誰に見られることもなく
めくるめく時に身をゆだねただ時を待つ
虫のこえ耳すますひとの目に
触れずとも咲き誇る一輪のハナ
やがてハナは枯れ散り舞う風の
行方は誰も知らずとも
踊りおえたハナは無事もとの地へかえり
水にとけ虹の根となり空を渡る
. . . 本文を読む
月が木にかかった
小さなわたしでは取ることができずに
ただ手をのばすだけ
まわりを見ても誰もいなくて
お月様がわたしに問いかけた
「私の生きた証はどこにあるのだろうか?」
「分からない」とわたしはこたえた
「分かるまでここにいる」と月はいった
やがて月と木は通じあい
木にはたくさんの大小さまざまな月が成った
しかし夜空に月がないのは困ると
かみなり様が木に雷を落とした
木は消し炭となり . . . 本文を読む
海のない場所で海を思う
夕凪に泣く子の声を海はひろい
波音は絶えず世界へと広がり
その声を見知らぬ誰かの元まではこぶ
波音を耳にした誰かもまた涙をながし
またちがう誰かが朝焼けと夕焼けの海をみる
海のない場所でみる海は
コバルトブルーと白い砂浜
或いは闇夜に沈む海の姿なく
ただ繰り返される波の音
悲しみにくれた思いも喜びに満ちた笑顔も
すべては水に包まれて
今日もまた誰かが海をみる
誰かが . . . 本文を読む
女神はほほえみ、私の体は上手に動かない
そこにない泥濘(ぬかるみ)に足をとられ
吹く風は感じられず無風をあるく
輝く太陽の先にあるものが私をにらむ
私の両目はふさがれて
よく見えない世界は砂漠となりて
幼子の砂のうえ遊ぶ
黒髪のゆれて夜更けはさらに包まれた
月も知らないこの夜の
閉ざされた瞳にささる
ひとひらの影に
真昼の太陽を託した、女神のほほえみ
海の女神に守られた場所で
私はあなた . . . 本文を読む
かつての故郷は夢のなか
カモやスズメの導きに
かみなり様へ会いに行く
カラスにくらむ身体は水のにおいに包まれて
泳ごうともがけどもこの身は大地にはばまれる
せめて空でも飛べればと
雲かかる空を仰げども
大地立つ身体に太陽は遠く
誰がわたしたちの翼を奪った?
奪われた悲しみも忘れ去り
旅立ちを放棄した羽のないカラス
本物の烏は飛び立ちて
鳴る羽の音は
漕ぎ出でた舟とおなじ音
ばらばらに巣立っ . . . 本文を読む
会ったこともないあなたに願うのは
どうか忘れないでくださいと
顔も見知らぬあなたであれども
あなたはわたしを知っているから
「いつかまたお会いできる日を」
木陰は風にゆれ
それにあわせてわたしもまた姿かたちを変えていく
音の響きも常にはあらず
太陽の引力すら忘れて
わたしたちはいまを生きる
「とても楽しみにしています」
夜に住む月は海に触れ
けれども真昼の空は月の輝きを知らず
海は空の青さ . . . 本文を読む
ここにだけかかった雨雲の理由は
ここにだけ降る小さな雨
ななめに斬り込まれた空は
昨日とはさかさまに現れてまた沈む
ここにだけかかった雨雲は全体へとおし広がり
心には一切の青空なくも
身をひそめてなお主張する
ここにあると
やがて雨雲は流れてここにだけ留まり
わずかな青空が彼方に光った
ここにだけ降る雨が教えてくれた
小さな勇気 . . . 本文を読む
一番長いわたしが切られました
この身に刃をあてがわれ
あなたは躊躇う(ためらう)こともなく
青いそらと強い陽射しは
わたしをよりいっそう強くして
この世界はきれいなみどりに包まれます
わたしはあなたに切られました
切られたわたしは他の様々なわたしと共に
まっかな炎にくべられて
あの青いそらへとかえります
母なるお山が見えたとき
わたしは何色にもそまらずに
姿かたちも解放されて
かつての . . . 本文を読む
さかさまの炎は元のヒと合わさり
またさかさまの水となる
水は落ちてまた昇り
豊潤な緑となり闇夜を照らす
仮宿を離れたトリの止まり木は朽ち
トリは再び空に舞う
うたかたの調べは誰の耳にも届かずに
ただ思いだけが海に残った
「かえっておいで」
「おかえりなさい」
水にとろけたうたかたの思いは
空気とからまり
生物は終えるまで呼吸を繰り返す
空を舞うトリは
また新たな止まり木を目指した
. . . 本文を読む
二つに割れた片割れが元の場所へと戻ってきた
もう片方は迷子のままで
かえってきた片割れは
もうそこはかつての場所ではないことを
まったく気が付くそぶりもみせずに
迷子の貴方を待ちわびる
本当の迷子はどなたであるかを
夜の月だけが尋ねるも
くるりとまわった迷子の夜は
賑やかな色彩をあとにして
次第に視界は手離され
逆さまの海では青い魚が泳いでいる
夢の入口に立つ迷子
鳴る雷(かみなり)のお . . . 本文を読む
流れゆく街並みに風はなく
自転車を漕ぐこどもたちだけが風をうけていた
雨の降りそうな空を見上げる者は誰もなく
俯き(うつむき)さえせずにそれぞれの道を行く
目の前にある扉を開けることもなく
限界は宇宙の彼方へと置いてきた
走ることを忘れて感覚を鈍らせ
ただ手足を動かし日々を追う
立ち止まらずに
愚痴や弱音にまみれても
そこに在ることだけはやめることなく
それだけは諦めずにここに立つ
瞳の . . . 本文を読む
砂漠に星がひとつ落ちて、落ちた星をヘビが食べた。
星を食べたヘビは虹色になった。虹色になったヘビはそのからだをみんなに自慢したが、みんなは口々に「虹色のからだなんて気持ち悪いよ」と非難して、ヘビの友だちはひとりまたひとりと離れていった。虹色のヘビはひとりぼっちになった。
ヘビは自分の虹色のからだを、そんなに悪いものだとは思わなかったけれど、そばに誰もいないのはさみしくて悲しかった。
しばらく . . . 本文を読む
眠たげな朝に
バスはどんどん西へと走る
わたしの世界はまだ夢のなかにあり
ひがしほりこしが
いましぼりもちに聞こえる
バスのメロディー
信号待ちに
運転士の指は
軽やかにリズムをとりハンドルの上を踊る
それをうつす窓の鏡
いましぼられた餅は
舟をこぐ海にはなたれて
兎は海に出たけれど
取り囲まれた餅に食われて
兎は餅の一部となる
わたしは餅にまみれた兎に誘われ
目的地まで歩いていく
. . . 本文を読む