あ、という言葉から全ては産まれたあっという間になにもかもあいしていると呟いたのはそこに居たのがあなただったからあなた自身はかそけく震えてようやくこみ上げてきた衝動にあやうく世界は構築された(危うい毎日は性懲りも無く怪しげな魅力にとり憑かれている)綾を織り成して幾重にもかかる雲の如くに言葉は揺蕩(たゆた)うなんの確証もないあやふやに心を託してあなたは「あ」と囁(ささや)いたそれがなにもかもだと誤解し . . . 本文を読む
夜の双子は朝が来たりて片方は消えてもう片方は姿を変えたもうすでにいないものとして街にとけ込み夜はじっと見つめル日の当たる場所音楽にうかれて歌を唄えば鬼はただ真っ直ぐに双子を分かつ分かれた双子はヒトリになって火を取り暗闇を否定した明るい世界に鬼は怯えて暗いクライ夜をいつまでも探し求めている誰も気がつかないままのかくれんぼ始まりと終わりの区別もつかずに鬼さんこちら手の鳴る方へ双子は分かれてひとりになっ . . . 本文を読む
ようやく抜け出してたどり着いた朝にあなたは悔しくて涙を流したわたしは代わりに俯いて生まれ落ちた罪を懺悔する生まれてきてごめんなさいと誰も望んでいないその言の葉の本質は誰もが受け継いできた透明な檻のなか鍵では開かぬ扉の鍵を携えたままその鍵を求めて青い鳥は悠々(ゆうゆう)と空を飛ぶ愚かなひとに捕まらぬようにと空と同じ色に染められた青色の翼は人々を魅了してその内側に囚われた困ったものだと神様も何度も始ま . . . 本文を読む
大きな傘の舟をこしらえた大切なものを守りたいという思いからそれなのに全ては見放され独り善がりだと罵声を浴びた大きな傘の舟でわたしはひとりただのひとりで彷徨(さまよ)っている忌み嫌われたこの身体から生きる意味を問うも返答はなし傘は翻(ひるがえ)ることなくわたしを運ぶいのちを放棄することは許されなくて雨は悔しさと悲しみを空から落としてわたしの涙と同化したもう誰を救うものかと男は誓うその傘は誰を救うため . . . 本文を読む
その町には雨が降っても傘をさすという習慣がなかった。大雨であれ小雨であれ、空から降りてくる雨を弾いて防ぐという思考をそもそも持たずに、植物の如く石仏の如く、雨が降れば晒(さら)される。そんな毎日を過ごしていた。そこにひとりの男がやってきた。彼の住む大きな街では当然のように雨が降れば皆一様に傘をさし、晴れている日には日傘で日を塞ぐ。晴れの日も雨の日も、彼の街には色とりどりの傘が咲いていた。そんな景色 . . . 本文を読む
わたしは目を閉じて音楽を聴いている何も見えない目の前の何にもない景色はなくなった音楽の力に心は揺れる前後左右には飽き足らず1000年前から明々後日まで時を隔てず身体を隔ててわたしとあなたは重なったあなたの性格の悪さにリズムを刻みわたしは腹黒い翼を広げた空にあるのはただの空の色そこにあなたの掴みそこなった言葉はとろけてあなたの音楽はあなた自身になり変わる目にはうつらぬ色とりどりの翼は行き交う空も飛べ . . . 本文を読む
言葉を手繰(たぐ)る汗をかきじっと少しずつそうして口から吐(たぐ)れるものに言葉を合わせてあなたを探した声は出でることなく音を発してセイレンの歌声に何もかも忘れたい人々は酔いしれるそのまやかしの喉の奥からたぐり寄せたのは罪の意識と愛に満ちた眼差しは憎悪を燃やしたその感情に名前なく言葉では言い表せない思いの全てに言葉を手繰る何も掴みとることの出来ないこの手を握りしめながら何の役にも立たない痛みや苦し . . . 本文を読む
ようやく夜に包まれた言葉の姿は露(あら)わになってこれはあなただけの秘め事と目隠しはついぞ外されないまま無明の追いかけっこは始まった花の香りを追いかけてたどり着いた場所に大木(たいぼく)ひとつその木の下にあるのは眠ったままの目を醒ますことのないわたしの本能その眠る姿に突き動かされてあなたは無意識のうちに火をつけた大木は燃えていかに花の散るらむ火花の福音にあなたは笑う花の香はさらに強まりわたしを求め . . . 本文を読む
いつ忘れられてもいいようにできていて欲しかったのに願いは叶わないのが定石とばかりに朝日は昇りやがて夜の帳は降りてくるわたしの望みは叶えられることもなくみんなわたしを忘れていった努力が足りぬと責め立てられて足枷は外されることなく自由の身となるわたしの祈りはいつの世も変わらず聞き届けられた試しなしどうかわたしのことは忘れてください誰ひとり欠けることのない理に透明な檻は常闇のあなたを迎えいるせめて夢のな . . . 本文を読む
氷解には痛みを伴うと誰も教えてくれなかった道理に触れた痛みを痛みと知らぬままいつしか無痛も苦しみとなる解(ほど)けた氷の溜まりのうえを少しずつ歩けば日に当たる場所涙の跡(あと)は後からやってきた痛みの持ち主は未だ不明の鈍感になって心を守った誰かさんだから冷えつづけた足先にあたたかな布をくるり纏(まと)えば春の足音は抱かれてその音の端(は)に桜色の蕾は開かれる . . . 本文を読む
仮面にマスクを重ね合わせてそりゃもう苦しいでしょうとあなたは笑った何がおかしいと憤るわたしにあなたは新たな仮面をかぶせようとするもうやめてくれと思わず飛び出たわたしの本音にあなたは食らいつき全てを喰らうおいしい涙をご馳走さまと微笑むあなたの詳(つまび)らかな本音は仮面の下にその欠片でも手に入れたくてわたしは幾重にも重なる仮面を剥(は)いだわたしと同じ顔した仮面を剥いで剥がされ最後に現れたのは素顔に . . . 本文を読む
海に出会ったのはあなたの影とよく似たかたちの異なる有り様大笑いして明日を迎えたその朝にわたしは頭を抱えて瞳を閉じたあなたはいないその移ろいに心は移ろわず取り残されたまま異常は速やかに検知され削除して新しきメモリーに置き換わるすぐに忘れた夢のあとわたしは別の顔して大いに笑うあなたのいない毎日にやがてあなたの面影を探すこともなく日常は滞りなく繰り返されるわたしにはひび割れた景色の記憶すらなくあんなにも . . . 本文を読む
飲み込み難き毎日の唾を飲み込み溜飲は下がらず下がるはずもない明日を見つめた天に唾吐き鴉は濡れたそれを見て笑う人々に罰は当たらず唾を吐いたわたしでさえも許されるそんな現実に嫌気がさして拳は握られまるで開かずに恨みつらみの澱(おど)みは重なりみんな汚れて美しさなんか何処にもない世界を睨んだわたしは全てを嫌いになった「何がそんなに苦しいの?」あなたはまるで天使のような微笑みで穢れを知らぬその瞳にも鴉の濡 . . . 本文を読む
色眼鏡に惑わされ現実の色味も忘れた彼女は色眼鏡を外して世界を見つめた美しいだけではないこの世の中の泥濘は彼女を飲み込み満ち足りた救いたかったはずの亡骸はまだその内側に炎を宿すあなたの涙に触れた思いの世界は歪んで色は滲(にじ)んだ本当の色味の如何(いか)なるものかを色眼鏡は色を偽り姿をとらえる本来の姿に似つかぬ色を重ね合わせて心を守った何から何まで敵ばかりだとあなたは笑って色眼鏡を空へと放つ色眼鏡は . . . 本文を読む
眩しさに目は眩(くら)み色眼鏡を忘れてわたしは危険に晒される色を変えて身を守るすべをカメレオンに教わりカメレオンにはなりきれずわたしはわたしの姿のままで明るく危うい世界と対峙したどんな色味もわたしを守ってくれない毎日に花の香はかすかに明日をさらうどんな色にも染まれずに色は色を合わせて美しさを追い求めていくわたしの中にある輝きにどうか気づいてとわたしは誰かのこの手を差し伸べた色を重ねて色は濁(にご) . . . 本文を読む