その苦しみも悲しみも
当事者でなければ知り得ないことの悔しさを
その悔しさを 悔しさを
自らの掌には何のちからもないことを
どんなに握りしめても無力でしかなく
何ひとつ救えぬ ただの掌
たなごころ
心に染みたかすかな傷を
その掌であたためたなら
この掌で触れたなら
この掌にちからはなくとも
あなたの傷口は熱をもち
あたたかな血潮はあなたの大地を駆けめぐる
この掌にちからはなくとも
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人を好きになってしまいました
触れることさえ能わぬこの身の上で
口づけひとつ交わせずに
思いの丈だけどこまでも
後の世の再会を願うにも
後の世は限りなく果てにあり
あなたの転生は幾たびも
ワタシはただそれを見つめて幾年月か
あなたに伝わる夜の戯言(たわごと)
また夜が明けて朝となり
すべては消えるうたかたの言霊 . . . 本文を読む
雨風は雲隠れしたる社の島の
白幕はおりたち目眩まし
目廻りかこまれ海のうえ
亀は竜宮の里を思い出し
望郷の思いを雨結ぶ
風はおさまり雨なお強く
水はすべてを垂れ籠める
島はすべてを隠されて
まるではじめからなかったかのような
ぐるりはおぼろげな霧たちて
背中からくる未来に
舟すすむ
波音は雨音にかきけされ
鳥は羽重たくしてなお空に飛ぶ
許されぬ雨宿りに仮宿を
また青き空へ . . . 本文を読む
嵐立つ
赤い点滅
三つ角の
前より他に進む道なし
道わかれ
黄はとまらずに
駆けゆきて
かみは祓いの川越えて
だらりと落ちる水待つと
ぐらりと誰かがささやくは
「うちに籠もるをどうか逃がして」
水のしたたる口先に
背をむく貴方に伝えるは
「決して見てはなりません」
手をふる貴方の答えるは
常世後の世現世(げんせい)に
君の涙の流れるを
冴えたる海はとこしえに
なつかしき姿ぞ . . . 本文を読む
月は日となり雲隠れせず
日は雲隠れして雨の降る
移りゆく時は雲におおわれカゴのなか
うちにこもる熱はさらに加速する
慈雨のしみこむ土のした
眠りからさめるのは夢か現か
茜色さえ藍に染まり
目にうつる世界は
誰も見ることのできない感覚へとおちていく
灯台のもとは暗くとも
もといた場所へと帰る道を
本当はみんな知っている
眩しくて目を閉じた向こう側
誰かが全力を尽くして見つけた月明かり
. . . 本文を読む
雲の流れて散りゆくは
空のしじまにうろこ雲
大きな龍のかたちして
たなびくすその尾は西をさし
また現れては東みる
大きな龍の雲のした
誰も気づかない龍の目に
ひらひら宿る かつての蝶々
青い雲間に鳥は飛び
光さす大地を子が走る
誰も気づかないかつての蝶の
夢は世界を駆け巡る
夜の空にはむらさきの
雲に隠れた お月様
(巡り尽き果てた蝶々の羽根に
夜のしじまは同化して
. . . 本文を読む
眠りのなかにみた鳥は
もの言わぬ蛇に巻きつかれ
鳥は脱皮し蝶となり
風葬のなかで蛇は泣く
守るものをなくした蛇の目に
飛んでいく蝶々は頼りなく
またつかもうとする蛇の身に
つぶされた蝶々の儚さよ
眠りからさめた蛇の目に
うつるは麗しきかの鳥の
寄らばつぶすとみた夢に
怯えて寄らずに蛇は去る
「貴方は、私を、蝶にしてくれるはずだったのに」
去る蛇の背をみたかの鳥は
蛇は寄らずに去ることを . . . 本文を読む
白猫はレンゲソウ
薄紫にゆれる子守唄に抱かれて
月の都を求むれば
雲隠れしたる太陽の
白い姿ぞ月に似て
道を違えて日の国へ
日の国のトリは背をむけて
そこに重なるヘビは不動の
生きているかも分からずに
微動だにせず白墨の事情
薄雲は流れて雨となり
草花も虫も水にぬれる
雨宿りを夢みる雨に誘われて
白猫は軒下に向かえども
軒にはじかれ泣く雨の
落ちた場所傘をさす童女に
白猫はすり . . . 本文を読む
雨の降り積もる雲のうえ
絶えることもなく日はさして
傘をさす雲のした日はなくとも
光満ちたこの世界は日中(ひなか)となる
雨の間に間にうかぶもの
水の思い出 かつての記憶
姿かたちは変われども
それでも忘れることはない
(できれば忘れていたかった)
水に流した思いのすべて
抱いてめぐる水のくに
いつまでも猫は鳴き
どこまでも雨は降る
つかの間の雨宿り
やがて影はのびて 夜きたる
猫は闇にとけ . . . 本文を読む
かみ、かむ、あわせのつかぬ間に
みづは離れて宙に舞い
ひは放たれて亀(き)をくべる
空飛ぶ兎は羽をすて
龍となり火を裂き地におつる
兎のその身は焼きただれ
やさしき方のおとづれを
待つ身のあわぬ トキのずれ
トリの鳴き声に耳をすませば 風のなか
すてられた羽の舞い散るを
ひとり眺むる 夜明けの望月 . . . 本文を読む