よみびとしらず。

あいどんのう。

2018-06-30 14:14:26 | 散文
その苦しみも悲しみも 当事者でなければ知り得ないことの悔しさを その悔しさを 悔しさを 自らの掌には何のちからもないことを どんなに握りしめても無力でしかなく 何ひとつ救えぬ ただの掌 たなごころ 心に染みたかすかな傷を その掌であたためたなら この掌で触れたなら この掌にちからはなくとも あなたの傷口は熱をもち あたたかな血潮はあなたの大地を駆けめぐる この掌にちからはなくとも . . . 本文を読む

コダマ

2018-06-27 17:51:54 | 散文
人を好きになってしまいました 触れることさえ能わぬこの身の上で 口づけひとつ交わせずに 思いの丈だけどこまでも 後の世の再会を願うにも 後の世は限りなく果てにあり あなたの転生は幾たびも ワタシはただそれを見つめて幾年月か あなたに伝わる夜の戯言(たわごと) また夜が明けて朝となり すべては消えるうたかたの言霊 . . . 本文を読む

雨と島

2018-06-24 11:22:10 | 散文
雨風は雲隠れしたる社の島の 白幕はおりたち目眩まし 目廻りかこまれ海のうえ 亀は竜宮の里を思い出し 望郷の思いを雨結ぶ 風はおさまり雨なお強く 水はすべてを垂れ籠める 島はすべてを隠されて まるではじめからなかったかのような ぐるりはおぼろげな霧たちて 背中からくる未来に 舟すすむ 波音は雨音にかきけされ 鳥は羽重たくしてなお空に飛ぶ 許されぬ雨宿りに仮宿を また青き空へ . . . 本文を読む

流転

2018-06-21 17:13:45 | 散文
嵐立つ 赤い点滅 三つ角の 前より他に進む道なし 道わかれ 黄はとまらずに 駆けゆきて かみは祓いの川越えて だらりと落ちる水待つと ぐらりと誰かがささやくは 「うちに籠もるをどうか逃がして」 水のしたたる口先に 背をむく貴方に伝えるは 「決して見てはなりません」 手をふる貴方の答えるは 常世後の世現世(げんせい)に 君の涙の流れるを 冴えたる海はとこしえに なつかしき姿ぞ . . . 本文を読む

アイズ

2018-06-18 20:50:32 | 散文
月は日となり雲隠れせず 日は雲隠れして雨の降る 移りゆく時は雲におおわれカゴのなか うちにこもる熱はさらに加速する 慈雨のしみこむ土のした 眠りからさめるのは夢か現か 茜色さえ藍に染まり 目にうつる世界は 誰も見ることのできない感覚へとおちていく 灯台のもとは暗くとも もといた場所へと帰る道を 本当はみんな知っている 眩しくて目を閉じた向こう側 誰かが全力を尽くして見つけた月明かり . . . 本文を読む

2018-06-15 13:46:01 | 散文
雲の流れて散りゆくは 空のしじまにうろこ雲 大きな龍のかたちして たなびくすその尾は西をさし また現れては東みる 大きな龍の雲のした 誰も気づかない龍の目に ひらひら宿る かつての蝶々 青い雲間に鳥は飛び 光さす大地を子が走る 誰も気づかないかつての蝶の 夢は世界を駆け巡る 夜の空にはむらさきの 雲に隠れた お月様 (巡り尽き果てた蝶々の羽根に 夜のしじまは同化して . . . 本文を読む

夢見

2018-06-12 15:06:27 | 散文
眠りのなかにみた鳥は もの言わぬ蛇に巻きつかれ 鳥は脱皮し蝶となり 風葬のなかで蛇は泣く 守るものをなくした蛇の目に 飛んでいく蝶々は頼りなく またつかもうとする蛇の身に つぶされた蝶々の儚さよ 眠りからさめた蛇の目に うつるは麗しきかの鳥の 寄らばつぶすとみた夢に 怯えて寄らずに蛇は去る 「貴方は、私を、蝶にしてくれるはずだったのに」 去る蛇の背をみたかの鳥は 蛇は寄らずに去ることを . . . 本文を読む

白猫

2018-06-09 15:15:14 | 散文
白猫はレンゲソウ 薄紫にゆれる子守唄に抱かれて 月の都を求むれば 雲隠れしたる太陽の 白い姿ぞ月に似て 道を違えて日の国へ 日の国のトリは背をむけて そこに重なるヘビは不動の 生きているかも分からずに 微動だにせず白墨の事情 薄雲は流れて雨となり 草花も虫も水にぬれる 雨宿りを夢みる雨に誘われて 白猫は軒下に向かえども 軒にはじかれ泣く雨の 落ちた場所傘をさす童女に 白猫はすり . . . 本文を読む

2018-06-06 16:56:18 | 散文
雨の降り積もる雲のうえ 絶えることもなく日はさして 傘をさす雲のした日はなくとも 光満ちたこの世界は日中(ひなか)となる 雨の間に間にうかぶもの 水の思い出 かつての記憶 姿かたちは変われども それでも忘れることはない (できれば忘れていたかった) 水に流した思いのすべて 抱いてめぐる水のくに いつまでも猫は鳴き どこまでも雨は降る つかの間の雨宿り やがて影はのびて 夜きたる 猫は闇にとけ . . . 本文を読む

はずれ

2018-06-03 12:00:11 | 散文
かみ、かむ、あわせのつかぬ間に みづは離れて宙に舞い ひは放たれて亀(き)をくべる 空飛ぶ兎は羽をすて 龍となり火を裂き地におつる 兎のその身は焼きただれ やさしき方のおとづれを 待つ身のあわぬ トキのずれ トリの鳴き声に耳をすませば 風のなか すてられた羽の舞い散るを ひとり眺むる 夜明けの望月 . . . 本文を読む