よみびとしらず。

あいどんのう。

水と月

2022-03-30 11:32:51 | 散文
水を避け水に酔い日はあたたかな場所を探した微睡みもせずに見る夢は先へ後へと航路は揺れる水のにおいも無いこの場所で見ずに隔てた水の在処はかつて確かに此処にあった彼処のえにし酒匂うては迷いの生ずる       水の香りにあなたの影は逃げ出したひとつふたつと水のしたたりの静けさに目をやれば芽吹いた春に水を遣るあなたは美しく酔いしれた魚は水を忘れて空に昇れば月に怯んでわたしは水の無い居場所に憧れたそれでも . . . 本文を読む

おにごっこ

2022-03-29 08:15:12 | 散文
微睡む間もなく光は追いかけて夜に嫌われた真昼の空はそんなやるせない明かりに満ちていると語りかける夜は光を追いかけてどこまでも手は届かずにいる立ち止まることさえままならぬままわたしのなかに住む憧憬(しょうけい)と猜疑(さいぎ)とほんのすこしの真心と追いかけて捕まらず捕われないよう駆り立てた衝動を囲い平生を保つ祈りは祈りのまま(願いは叶わず)         & . . . 本文を読む

one day

2022-03-28 17:07:18 | 散文
一つなくなって手元に残った一つどころでは無いわたしの涙その歓びを糧とした夜の明ける音は掌に乗る何もない空と同じ色をしたわたしの内側に水は溜まりてあなたは傘をさす嬉しそうにはいた真新しい長靴で泥だらけの道を歩めば迷うこともなしその足跡から伸びる明日に光さす一つなくなって何も残らずそれでもこの掌は知っている時々泣いて悲しんだ日の悔しいくらいに晴れわたる空 . . . 本文を読む

過不足

2022-03-24 13:06:49 | 散文
足りていないのは時間か感情か足りていないのか余りあるのかどこまで行っても蛇の足は大地を求めて過去に置いてきたのはあれやこれ今後の予定はどちら様まで足りていないのだともがいては余計なものばかりで埋まる空の色は青それはわたしの嫌いな鳥の色だった . . . 本文を読む

River

2022-03-23 13:56:17 | 散文
穏やかな水の春に触れ風は迷うことなくあなたに会いに行く時間切れの間際にそれはいつも冷たくあたたかな日の 水面は光を反射して此方には来るなと鼻であしらうあなたの笑い声は響いた白い花の咲く一方通行の時間の果てにメビウスの輪をどうかもてなして水は流れて空に戻った赤青緑の光は踊る最果ての無いこの地は巡りて月を追うあゝうさぎ恋しや亀の背に乗りあなたの言葉はわたしの影を踏むその素足から水はたゆたい円をなす赤い . . . 本文を読む

ソメイヨシノ

2022-03-22 10:57:32 | 散文
この胸の内側に受けいれて酔いしれた夜の香はあなたに染まる約束を違えて探す声の色から枝と葉に託したそれぞれの思いをわたしは姿を隠して宿世(すくせ)に倣うあの花の行方はいまもなお同じ目を見つめた春の風に舞う花のない花 . . . 本文を読む

明烏

2022-03-20 13:58:49 | 散文
生きていてくれてありがとうそんなあなたにとって残酷な言葉しか残らない夜は明ける希望という名の絶望と歓びという名の後悔をいつまで経っても終わることのない懺悔は続いてわたしは星を待つゆうべに眺めた海の音から人魚に成り果てぬまま歌をうたい恋しいあなたの面影は暗む夜の色にとてもよく似た翼を添えて光は飛び出したイカロスにとっての悲しみと共にその目はただ強く前を向きて朝を迎えるいまわたしの願い事が叶うならばと . . . 本文を読む

アイ色

2022-03-19 12:58:14 | 散文
藍にただれて火傷を負ったこの胸の痛みもなにもかもそのあおの深さに触れたくて私はあわずにいることの理は待つほうき星の流れる夜にそのアイの色を知りたくて深みにハマったら終(しま)いよと 哀しみをたたえて海は波打つ笑い声に似た歌声に耳をすませば落ちていくあおのその色はアイにも似つかぬ透明な空だった . . . 本文を読む

無音

2022-03-17 17:28:48 | 散文
安寧を願って手に入るものは違うもの失って崩れてガタガタになりながら持ち堪えているのは美しい涙のひとしずく奪われて壊されて何が正義だと喚き散らして何も出来ないこの両手を切り落とす勇気もなくただ抱きしめるためだけにいまはある震えて躊躇(ためら)って小さく吐き出されたのはごめんなさいと誰か助けて誰の耳にも届かないその声をただわたしだけは知っていたいまここにある場所はやがて崩れ落ちて元の木阿弥光はただ輝き . . . 本文を読む

宵の海

2022-03-16 10:49:50 | 散文
宵に必要な青色を夜は盗んで自らに染め上げた水の在処を見失う海辺に波打つ音の色をみてここに水は無いと言った目のみえぬわたしたちに月明かりさす月は青色ではなく白色を地上に与えてわたしたちは泣いたその涙の色から昇る朝日はまたちがう青をたたえて空を知る泣いてばかりの海の青さよ . . . 本文を読む

かぜはやむ

2022-03-15 14:00:36 | 散文
かぜはやみかぜのやむ手のひらはいうことを聞かずにくるくると舌打ちまじりに熱をもつのは醒めた眼差しがお得意のあなた本当は知りたくて本当の答えを泣き喚いて産まれたわけがないことをそんなわけないと否定し続けていつも探した青い鳥美しい景色と名前を忘れたあなたの笑顔と本当に嘘が嫌いなわたしの本音を影に隠して日は沈むそして影と同じ色した夜を迎えに夜はわたしの影を掻っ攫(かっさら)い本音を無くして忘れたわたしに . . . 本文を読む

pure

2022-03-14 16:57:01 | 散文
夜を包み込んだあたたかい身体と美しさを求めて枯渇したわたしの心をなにと引き換えに迎えに行こうか今宵の月の明るさの何処にでも差し込む理不尽な声をあなたの歌声は澄んでいたのに涙に反転した海の泡沫(うたかた)苦しさと憎しみの錯綜する夜にその濁った感情は偽りばかりの本当の名前を忘れた寂しがり屋は「なんて可哀想なこの世の中か」といつも間違った答えを握りしめていたそれを手放して足元にある空を踏みつける誰も痛い . . . 本文を読む

春眠

2022-03-13 16:08:26 | 散文
ぐいっと押された眠気は誘(いざ)なう夢とは違う場所現実に重なり心は揺らぐ波のまにまにみえているものはとても不確かな今ここにいるわたしと重なるわたしではないわたしの本当と嘘は共に飲み込んだ大きな波にさらわれてがくんと落ちれば消える景色の不安だけがとり残されて身体は震えたあたたかな風の吹く春に美しい桜を食むわたしとわたし . . . 本文を読む

ーワラフ

2022-03-11 11:51:36 | 散文
そう泣き叫ぶわたしにかつての祈りは届かずにいる 新しい毎日に祝福をあなたの命に日は昇るわたしの願いは受け入れられることもなくまた違う誰かがこの世界の美しさを歌う誰かが誰かを罵ってわたしは大笑いしてもろ手を叩いたあなたが悲しみに暮れる頃誤って床に水をこぼしたのは誰の姿かどこかで花の枯れる音がした . . . 本文を読む

水合わせ

2022-03-10 11:35:22 | 散文
水を合わせることもなく駆け出した毎日は泡沫となりて隣に寄り添う水の匂いに酔いながらわたしはさながら臥して夢に入(い)る水に包まれて渇きを覚えた喉元にある熱はささやかな徴(しるし)この熱は癒しを乞うて風に孕む本当の願いは水面に揺れて日は沈みいつまで経ってもあなたには許されることのない夜は来る . . . 本文を読む