よみびとしらず。

あいどんのう。

トリ

2020-10-31 00:38:39 | 散文
耳をふさがなくても呼吸ができる場所は晴天でわたしは息を吐き汗をかくのぼりつめるとまではいかない平たい道を行く険しい道は脇に置いてきたそうして飛ばないトリは飛べないトリとなり飛べないトリはそれで構わないのだと不敵に笑う音楽は止んで風は吹き空を飛ぶ鳥たちは時おり鳴いたわたしで最後だと誰が言わずとも結びは終わらず手は伸ばされたどこまでも続く道に立ちメビウスの輪は引き裂かれようとしているいまを駆けるトリは . . . 本文を読む

I know

2020-10-30 00:18:22 | 散文
終わることなんてできないと知ってしまった悲しみのなかには喜びという名の絶望があった知らなかったならばできただろうか知らなかったままでいたかったなんてそんな簡単なことが何故思えないのだとわたしは苦しみ放棄したいのに手放せないまま痛みを伴い停滞した思考を抱えた希望は絶望でしかないとそれでも小さなともしびはともるその光に涙は許された喜びが希望であることを希望は絶望でないことも知っているのに現実は異なるも . . . 本文を読む

蓮と蛇

2020-10-29 16:05:37 | 散文
聴こえるはずのない歌声は聴こえてはならないものだと変換された本音の響きの清らかなるを醜き泥のなかにあるものは何百年もの眠りについた輪廻を託された蓮の種あたたかな身体はくるまれて微睡(まどろ)みのなかに声を探したポンと音を立て咲く花びらに夜の帳(とばり)はおりてくる夜のおりてこないうちに夢のなかへと誘(いざな)われたのは蛇の足音奪われた足には頓着もせずに蛇は誘いわたしの瞳は重くなる閉ざせば硬い岩戸の . . . 本文を読む

火の鳥

2020-10-27 12:38:20 | 散文
音を奏でたのには何か理由があったから音を閉ざしたのにも理由があった説明できないからってないわけじゃないもどかしい思いは余計に話せなくなった自分にはなにも分からないままただ増えていくばかりの言い訳をパチパチとはぜる炎にくべればそれらは灰となりもう甦(よみがえ)るなかれと水に沈めた灰は水のなかをめぐる灰色と抑圧に身をゆだねてもなお瞳は閉じずに灰は灰となった己を恥じることもなく煌めくともしびの在処を探し . . . 本文を読む

rain

2020-10-26 02:04:07 | 散文
さまざまな色をたたえて無色透明な雨は降るさまざまな思いを乗せて雨は幾星霜(いくせいそう)の旅に出たいくつもの年月を越えた涙に空は呼応して雨の降る今日降る雨に似た雨粒をいつかどこかで見た気がした赤蜻蛉(あかとんぼ)夕暮れ時に鐘は鳴り水の滴(したた)る雨音は人それぞれの音に合わせて調和を奏でる雨は降りその水の全てはこの世の中を慈しむ . . . 本文を読む

DOOR

2020-10-24 11:27:15 | 散文
反対側の扉を開けて開けた先にあるのはただ壁ばかりで反対側の扉を開けて白い壁にいくつもの絵を描いた七色の絵具から七色以上の色彩を経てただの壁はこの世の何もかもをうつしだしていたやがてその壁は風化して壁はガラガラと音を立てて瓦礫(がれき)と化した反対側の扉を開けてそこにあるのは崩れ落ちたたくさんの欠片たちその色とりどりの欠片を越えて遥か遠い未来を目指して足を踏み出す急がば回れ回りに回れと反対側の扉のそ . . . 本文を読む

ナナイロ

2020-10-23 00:00:36 | 散文
ナナイロに添えられた混沌は虹色を鈍らせることと知りながらさりとて混沌を交えたナナイロは笑いと苦しみと諦観と憤怒とを複雑にはぐくみてほんの少しの希望はいつまでも終(つい)えず絶望に染まりきることだけは決して起こりえない奇妙奇天烈な世界を織り成した鈍色であるはずの空の鏡に悔し涙もあなたの姿も歯を食いしばりながら受け入れるしかなかった現実も全てはとけこみナナイロに染まる時折現れる虹の架け橋にいつかその橋 . . . 本文を読む

ラー

2020-10-22 10:37:13 | 散文
富士の山の頂きも見えずに夫婦あい見(まみ)えずだからこそそこに映されたのは真実の姿醜いなどと侮蔑するなかれその心根の渇きに水を湧きあがる泉に瞳をうつせば清らかな水面に移り香は残された涙の落ちたる跡を辿れば逆さ富士雲の合間にあなたの笑顔は咲き誇り晴れわたる空には月の影ありわたしは本当に欲しかったものを知る . . . 本文を読む

コワイ

2020-10-21 15:42:49 | 散文
黒い姿をコワイと呼べばコワイは近寄り慰めようとしそしてその手は怯えた瞳に振り払われたコワイはコワイとなりコワイの姿のまま産まれ落ちてきた理由を求めた逢魔が時のまがごとと名も知らぬ恐怖をうちに秘めたまま産まれてきてしまったのは迷子のひとりあの時のわたしはなにも知らずにただ泣きわめきそうして育ったひとのかたちは恐怖を知ってからは泣かなくなった泣かない涙をコワイはすすりそれでも渇きは癒されずこわいこおこ . . . 本文を読む

2020-10-20 13:59:10 | 散文
昨日と今日のあいだにあったのは沈黙と歓声とほんの少しだけ意地悪なあなたの涙わたしの本音は閑静と咆哮に阻まれていつの間にやらに隠されたのはお星様の影と海から降る雨と全く素直ではないわたしの笑顔 . . . 本文を読む

月と雨

2020-10-18 18:40:41 | 散文
この遺伝子の記憶を辿れば私は確かに広大な海と猛るマンモスの姿を知っていたあなたには何にも知らないと嘯(うそぶ)いてとぼけたつもりが本音になっていつしか本当に知らなくなったあなたの姿もわたしの名前も何もかもそうして新たに与えられた私の名前にあなたは呼応して涙を流した雨降るその奥にあるのは夜の暗やみその夜にのぼる月の姿なし夜の空はわたしの代わりに涙を流した胸中に広がる空虚な夜はいつも雨月の姿など知らな . . . 本文を読む

太陽と狐

2020-10-16 11:29:10 | 散文
裏切り 裏切られ裏をとられて 裏をかえせば元の木阿弥ふたりの距離は変わらずに地平線だけがどこまでも伸びたはりついた笑顔は顕(あらわ)になってはりぼての明かりはなお鮮やかにその眩しさに目くらまし狐は飛び跳ねて陰に入(い)るやがて訪れる月明かり待てば夜更かしはきかずに目は閉じて深淵に落とされた夢は途絶えたふたたびお日様の照らされる朝は来る狐の尻尾は雲にまぎれて日陰落ちた大地に居場所を求めた陰のある場所 . . . 本文を読む

こん

2020-10-15 10:56:38 | 散文
太陽に寄り添う狐はコンと鳴くまるでキツネのような声色でコンコン来ん来ん狐はクルナとにっこり微笑んだあらかじめ知っていたキツネの在処は月のなか明るい太陽に寄り添う狐はひとり空色の尻尾は光を抱いて風にゆらぎあなたは自らの意思で人知れず飛び去った透明な空の彼方まで狐はコンと鳴きわたしを見つめたはてコンと鳴いたのは、ダレのコエ? . . . 本文を読む

しょく

2020-10-14 18:32:56 | 散文
喰われたものはわたしのなかのもの獏は悪夢を喰らいて腹満たされてわたしは空腹と共に目が醒めた触れられたのはわたしのなかのもの歓びはかすめ取られて花は散るわたしは泣いてやるものかと歯を食いしばりこの細かく震える指先はもうあなたには届かない染められたのはわたしのなかのもの透明な心の有り様を如何にか染め上げんとわたしは世界に包まれているその柔らかな膜のあいだから冷たい空気は音もなく現れたその冷たさにわたし . . . 本文を読む

夜のムシ

2020-10-12 00:14:43 | 散文
夜のムシは姿かたちに自信なく常にここに居ていいのかも分からずにもういっそこの場所には居ては駄目なのだと思いたち真昼の世界へと旅立った晴れたる空のまぶしさに夜のムシは怯えてカゲに潜(ひそ)んだそこに居れば落ち着く気がしたカゲのなか目の前にある光景は全てを明るく照らされ熱を持つその熱のなかで鳥の群れは軽やかに飛び交いてやけつく身体に鳥の影は羽ばたきそのつらなりの美しさから夜のムシは思わず空を仰いだそこ . . . 本文を読む